僕の名前は『トルフォデ・エマナ』。
親しい人からは、トールって呼ばれている。
男なんだけど、騎士を目指している変わり者だ。
今日はそのために、騎士団の入団試験を受けに来ていて、さっき僕の試験が終わったところ。
無事に試験の試合には勝てたけど、凄いのはあの一瞬だけの試合を見て僕の『スキル』の1つが『活人剣術』(正確にはそのスキルから派生する、『アクセス式活人剣術』だけど)だって見抜いたロイヒだろう。
ロイヒは試験の直前に仲良くなった、僕と同じ男なのに騎士になろうとしている男の子。
そのロイヒが今、試験のために
もう開始の号令は出ているから、構えていないと危ないのに。
ついさっき仲良くなったばかりだけど、僕はもう心配だよ。
……あれ?でもなんだろう?
隙だらけのはずなのに、隙が無く見えるね?
もしかしたら、あれが構えの一種なのかな?
そうこうしていると、クコロさんが木剣を振りかざしてロイヒに向かっていく。
間合いに入り、脳天目掛けて振り下ろされるそれをロイヒは避けようともせず……。
「オラァッ!!」
「ガ……ァッ!?」
って、クコロさんのお腹に前蹴りを入れて、無理矢理距離を開けたぁ!?
彼女が革鎧を身に付けているとはいえ、衝撃を全部殺せるわけじゃないからあれは痛いだろう。
そのまま続けて、地面に刺していた木剣を跳ね上げる様にして斬り上げるけど、これは相手がふらつきながらも木剣で払われる。
が、ロイヒはそれで止まらなかった。剣を構え直すのではなく、払われ弾かれた勢いを殺す事なく、片足を軸に一回転しながら再び斬りつけていく。
「ク……ッ!」
「おっと、止められたか……そらヨッと!」
「うわ……!?」
それを剣を合わせて受け止められると、鍔迫り合いをせずに再び前蹴り。
今度は前蹴りは空を切った。剣が押し込まれる力を利用して、相手が後ろに跳んだからだ。
でも、それはロイヒも想定していたんだろう。今の前蹴りはワザと浅く放たれており、そのまま前進するための踏み込みとなる。
剣の間合いから更に深くに体を潜り込ませ、肩からぶつかり相手を更に後ろへ押し込む。
「ヨッ、ホッ、ソリャッ」
「うわっ、うわっ、うわっ!?痛ッ!?」
そうしてバランスを崩させた隙に、ロイヒが乱雑に木剣で滅多打ちにしていく。
滅茶苦茶な軌道で何度も振りかざされる木剣に、最初は何とか防いでいたけども徐々に防げなくなっていくクコロさん。
だけど、なんて言うか変な剣筋をしているのはなんでだろう?
刃筋が正しくないんだよね。
まるでそう。
僕の先生がそうだったけど、普通は剣は刃筋を正しく振るって相手を斬る事を教える。
それなのに、ロイヒはそうじゃない。
まるで
それなのに剣術とは別の、さっきの蹴りや体当たりの様な体術はやけにスムーズに感じる。
言ってしまえば、先にある程度の体術を修めた人が、後から剣術を使い始めたかの様なチグハグさだ。
そう考えると、もしかしてだけれども。
「手加減をしている……?」
いや、待って?それもあるだろうけど、それだけじゃない気がする……。
ふと、周りを見渡すと、僕を含めて全員の腰に下げられている剣。
それもそうだろう。ここは騎士団の入団試験会場。
………………え?まさかと思うけど、そういう事?
「ロイヒ……剣士じゃないと騎士団に入れないと思ってる?」
まさかとは思ったけど、でもあの妙な剣筋の理由が他にあまり考えられない。
確かに『アクセス聖騎士団』の団員たちの主装備は、基本的には剣だ。
ただ、それは手入れや維持費の問題、団員たちの練度や協調等の理由も合わせた結果の事で、個人個人の主装備が剣である必要はない。
実際僕の先生だって、僕には剣を教えてくれたけど、現役時代の本人が一番使い慣れた、一番強い武器はハルバートだったらしい。
それでも騎士になりたいという僕に剣術を教えたのは、剣術だった。
それは剣ならばどこにでもある、基本にして安定した武器だからだという。
もし戦いで武器が壊れても、剣なら比較的安価ですぐに調達できる。
だから僕に剣術を教えてくれたという事なんだけど、逆に言うとそういうコストの問題をどうにでもできるなら、使う武器は何でも良いというのが『アクセス聖騎士団』というのが彼女の教えだった。
それでもコストの問題は必ずついて回るので、街で見かける大多数の騎士は剣を使うし、物語の英雄譚に出てくるのも大体が聖剣や魔剣だ。
その結果、騎士=剣士のイメージができてしまっているのは、事実だと思う。
ロイヒが無理矢理剣士の真似をしているのも、それが原因で騎士になるためには剣士でないと思い込んでいるからかもしれない。
あと、試合を見る限りロイヒのステータスが僕の思ってたより高そうで、力加減を見誤って撲殺してしまわないように、
先生もよく言っていたけど、凶器を持つと人を簡単に傷つけ殺せる様になると思われるけど、人の持つ理性と傷つけてしまう事へ恐れというブレーキは強く、意外と殺すまでは力を込めれなくなるらしい。
それを敢えて自分で利用して、リミッター代わりにしているのかも……?
「隙あり!」
「うわぁ!?」
そんな事を考えていると、どうやら試合ももう終わるらしい。
ロイヒの足払いでクコロさんが地面に倒される。
後は残心で決着だろう。
「これで俺の勝ちで良いな?」
そう言いながら、倒れたクコロさんの顔のすぐそばの地面を「ぺちん」という軽い音を立てて踏むロイヒ。
試験官さんもそれを見て、
「勝負あり!勝者、『ロイヒ・ウユイエ』!」
と、頷きながら宣言した。
「そら、手を貸すぜ」
「あ、ありがとう……」
地面に倒れていたクコロさんを助け起こし、その背の土汚れを払ってあげるロイヒだけど、やけに自然で手慣れている気がする。
孤児院で育ったらしいし、周りの子を相手にそういうことをやってたのかな?子供はよく転んだりするし。
そのまま二言三言話すと、こっちへ戻って来た。
「おう、勝ってきたぜ」
「お疲れ様。……ちょっと気になったんだけど、良いかな?」
「ん?なんだ?」
「なんかあまり剣を使い慣れてない感じだったけど、もしかして剣士じゃないと騎士になれないって思ってたり……?」
マナー違反な気もするけど、さっき気になった疑問をどうせだから訊ねてみる。
もしそれが当たっていれば、今後危険な任務をするに当たり、使い慣れない武器を使って弱体化するのは避けなければいけない。
どれほど高ステータスの人でも、様々な理由で急所に致命傷を受けて死んでしまうなど、ありふれた話だからだ。
「ああ、それか……」
そんな僕の疑問に、ちょっと恥ずかしそうに頬を掻きながら、微妙に言葉を選んでいる様子で答え始める。
「カーちゃん……俺の住んでる孤児院のシスターがな?本当は騎士団に入るのを、危険だからって許してくれてなくてな……。とりあえず力任せにそこら辺の木を殴り折って見せて、ついでに借金取りの護衛もシメて「こんだけ強いから大丈夫」って無理矢理承諾させたんだが……。騎士団に入るのを許す条件で、「盾代わりでも良いから、必ず剣を使う事」ということで……」
「あー……。ステータスの高さにかまけて無茶をしないように、剣っていう形のある物で釘を刺されたんだね……」
「そういう事になるな……」
素手の方が強いという事は、剣を持つと弱くなる。
弱くなるからより注意をして戦う様になり、結果として危険から離れる事ができる。
なるほど、そういう事なんだね。
「大事にされてるんだね」
「一応な。……なんか恥ずかしいから、この話題もうやめない?」
「あはは、そうだね。それじゃあ……」
そうして残った試合を見ながら、とりとめのない話をする。
好きな食べ物、よく行くお店、友達や家族のこと。
そして気が付けば、最後の試合も終わっていた。
「よし、これで全ての試合……つまりは試験は終了した。結果はそれぞれの自宅に書面で伝えるが、合格者の封筒には我らが『アクセス聖騎士団』入団に当たり、入団後に住む寮や寮生活で必要な物が書かれている。合格者は入団前に、必ず準備を整えておくように!」
「「「「「「「「はい!!!」」」」」」」」
試験官さんの説明が終わり、解散という雰囲気が流れたその時だった。
「オォ!?もう試験終わってたのカ!?待っタ待っタ!オレも受けル!」
「む?」
いつの間にか試験会場の入り口に、1人の大柄な男性が息を切らせながら立っていた。
ボロボロの革鎧と、旅装であろうマント。背には布で巻かれた……たぶん剣が背負われている。
旅先からそのまま来たであろう、汚れの目立つその手に掴んだ紙を見せながら、ズンズンと試験官さんの方へ向かっていく。
「さっきこの紙、読んでもらっタ!オレも騎士団になル!」
「これは……ああ、町に貼っていた、公募の紙か。先程見つけたばかりなのかな?しかし今回の募集での試験は、今終わったところだ。次回の募集を待っていてくれ」
「オレ、待てない!住んでた集落、オークにやられタ!字も読めなイ!書けなイ!仕事なイ!待ってると死ヌ!」
「冒険者ギルドに登録して、仕事を探すと良い」
「もう行っタ!「男に回せる仕事はない」って言われタ!ここなら大丈夫って言われタ!」
彼らの会話を聞いていると、どうやら男の人はオークたちに住んでいた集落を襲われ、逃げた末にこの町へ来たらしい。
生きるために仕事を探しているけど、もうここくらいしかそれがないようだ。
識字率が決して高いわけではないこの国で、住んでいた場所を離れて新たに仕事を得るとなると、それが男となるとなお難しいんだろう。
だからこそ彼は必死になって試験を受けようとするが、厳格な性格なのか試験官さんはそれを受け入れない。
「ロイヒ……」
「……仕方ねえな、行くか」
「うん!」
見かねた僕とロイヒが声をかけようと、動こうとした時だった。
「オレ、こいつらより強イ!」
「……なに?」
彼が、中々の爆弾を爆発させた。
彼が指さしているのは、周囲にいる女性たち。
一般的に、男は女に勝てないとされている。いや、まあ例外が既にここに2人いるわけだけども。
それは置いとくとして、男は女に勝てない。女より弱いという常識の元、彼女たちはプライドを刺激されてしまった。
「なんですって……?」
「男のくせに……」
「生意気なのよ」
などなど、剣呑な空気が流れ始める。
「不味いな……。トール、気を付けとけよ。この女たちが爆発されてこっちに向かわれたら、正直、俺1人でこいつら全員叩き潰せるとしても、殺さない自信まではねえ」
「負けない自信はあるんだ……28対2なのに……」
「そりゃそうだ。じゃなきゃ男なのに借金返済手段で騎士になるとか言わねえよ」
「確かに……」
「まあ、同じ金が原因で騎士になろうって誼だ。さっさとあいつの援護に行くか」
「僕はお金関係じゃないけど、同じ男だし手伝うよ」
2人で剣呑な空気を出す女性陣から彼を守るために、歩き出す。
彼の発言の後、僕たちに刺さる視線も痛いものがあるけど、気にしてなんていられない。
「君の言い分は分かった。なら、こうしよう」
そうして近付いていく僕たちだけど、僕たちが着くより先に試験官さんが口を開く。
「セマッカ、君が彼の試合相手だ。これは一合で終わった君の、再試験を兼ねて行う」
「なっ!?……い、いえ。分かりましたわ」
「オ、試験してくれるのカ!アリガトウ!」
その言葉に、僕たち2人は最前列へ行くだけで足を止める。
彼女が話し始める直前、僕たちにチラリと目を向けていた。
きっとその時に、この決定を考えたのだろう。
僕たち……正確にはロイヒに手を出させず、そしてセマッカさんの再試験を行う合理的な決定を。
正直、僕の試合はあまりにも早く終わり過ぎた。
あれでは僕はともかく、セマッカさんの評価ができなかっただろう。
「試験の前に説明しよう。試験は試合形式で、1対1だ。加えて、こちらで用意した木剣を使ってもらう。後は自由だが、絶対に相手を殺さないように」
「分かっタ」
「最後に、試験の前に君の名前と年齢を確認させてもらおう」
「オレか?オレは『ジンベア・イリーフュ』ダ。歳は……確か今年で18だナ」
「分かった。健闘を祈る」
こうして、3人目の男の試験が決まった。
僕にできることは、後は見守る事だけだ。
頑張って、ジンベアくん。