貞操観念逆転世界で彼らが斬る   作:逸環

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第3話:3人目の男

『ジンベア・イリーフュ』という男と、『ナンネンザ・セマッカ』が開始線に立つ。

ジンベアなんて男は原作にはいなかったが、そもそも原作主人公のトールと一緒に、原作に影も形もなかった俺がいるんだから考えるだけ無駄だろう。

そんなジンベアは見たところ、上段に構えてのカウンター狙いといったところか。

それに対し、トールとの試合では一合で負けたセマッカは、先程と構えが変わっている。やや前傾となり、正眼で構えている。

おそらくだが、上段に構えるジンベアの剣線を掻い潜り、胴に当てるつもりだろう。

 

ジンベアは大柄だ。この世界はメートル法ではなくヤード・ポンド法で長さが表記されるが、身長はだいたい6フィートと3インチ(190センチメートル強)程だろう。

この世界ではちょっと背が高い男くらいの俺が5フィート9インチ(175センチメートル)程だから、もうかなりデカイ。

ちなみにトールは5フィート4インチ(162センチメートル)くらいで、この世界の男としては平均くらいだ。

……クッソ、メートル法に慣れたこの身だと、ヤード・ポンド法がまだしっくり来ねえ……。やっぱヤード・ポンド法はクソだな。インチネジは絶対に許さねえ……。

いや、メートル法だとまず地球の長さを計るところから始まるから、それをできない段階で生活に即したスケールとなると、こうなるってのは分かるんだが……。

 

いや、ヤード・ポンド法の愚痴は置いておこう。

今はジンベアの事だ。

俺としては、ジンベアには是非とも勝って欲しい。いや、勝たなくても良いから試験には合格して欲しい。

男が俺とトールだと、それでは2人組でしかない。

人間は3人集まって初めて集団にカウントされるのだ。

今後の騎士団生活を少しでも快適にするためにも、ジンベアには合格してもらいたい。

 

具体的には、男の数が少ないからって「男子トイレは1階にしかないですねー。すいませんね」という事を減らしたいのだ。

男女比1:9のこの世界、どこに行っても女子校みたいなものなので、駅馬車の停留所近くの大きな店や、役所などなど、どこに行っても男子トイレは探すのが大変なくらい少ない。

ウォーリーとどっちが見つけやすいのだろうか?と、何度か考えた事がある。

そんな状態なので、さっきクリスティーナが言っていた騎士団の寮もたぶんそんな感じだろう。

実際のところ、今まで男が使う事はなかった、入る事はなかった空間に男が入って来るので、どこか1つのトイレを急遽男子トイレに変えるんだろうが……え?変えてくれるよね?ちょっと不安になってきた。

まあ、なんにしてもジンベアには頑張ってもらわないといけない。

原作でも印象が殆どないセマッカは、悪いけど正直どうでも良い。

孤児院の借金を肩代わりしてくれるなら話は別だが、そんなことはないのでどうでも良い。

 

「ハアアァァァッッ!!!」

 

おっと、ヤード・ポンド法と男子トイレの少なさを嘆いていたら、試合が始まったらしい。

まずはセマッカから攻撃をするようだ。

思っていた通り、ジンベアの上段構えで開いている胴を、横薙ぎで斬り払おうとしている。

俺なら斬られる前に上から潰すか、前蹴りで止めるかだが……。

 

「セイヤァッ!!」

 

そしてセマッカの渾身の剣がジンベアの胴に迫り……って、嘘だろ!?

 

()()()()()()()()()()()()だと!?

どんな素人でも、少しは防ごうと動くもんだが、それすらなくただ胴の革鎧で受け止めただけだ。

胴鎧が付いていても、衝撃は殺しきれない。

肋骨が折れていてもおかしくは……ないはずだが……あれ?

 

「……フッ!所詮は男ね!何もできないで受けるだけだなん……て……え?」

「……今、何かしたカ?」

 

微動だにしていないだと……!?

セマッカの一撃が、決して弱すぎたわけではないはず。

それなのに、ジンベアはまったくダメージを受けていない。

もしや『防御強化』系の『ギフト』か、もしくは『痛覚遮断』の『ギフト』か……?

 

「ロイヒ、あれって……?」

「予想は付くが、確信は持てない……分からんぞ、あんなの」

 

トールと話している間に、状況は動いていく。

ジンベアの腕の筋肉が隆起し、明確に力を解放する時を待っている。

それを自身の渾身の一撃を、何事もなかったかのように受け止められたセマッカは、剣を当てた時の格好のまま動けないでいる。

そしてジンベアの剣は、その剛力をただただ真下にいるセマッカの頭部へと迫り――――

 

「そこまで!試合終了だ!」

 

――――横からジョセフィーヌの剣によって、木剣を短く切られることで阻まれた。

 

「……え、あ……生きて……る?」

 

セマッカはその場にぺたんと座り込み、放心してしまった。

それを見たクリスティーナが、ジンベアをやや睨みながら問いかける。

 

「イリーフュ、相手を殺してはいけないと言ったはずだったが?」

「殺す気はなイ。気絶させるだけだっタ」

「今の勢いで、か?」

「アア、死にはしなイ。オレの『ギフト』は『回復魔法』ダ」

「なんだと……!?」

 

ジンベアが自身の『ギフト』を明かすが、なるほど。

『回復魔法』だから頭をカチ割っても、死ぬ前に回復させるから大丈夫だったと。

……いや、即死しなければ良いってもんじゃねえだろ。

それにしても、『回復魔法』か……。

この世界にも魔法という能力はあるが、それは大前提として『ギフト』という才能が必要となる。

つまり『○○魔法』の『ギフト』がなければ魔法は使えないし、魔法が使えてもその属性の魔法しか使えない。

『英雄補正』という強力な『ギフト』を持つ俺ですら使うことはできない、特別な才能。

それがこの世界における魔法だ。

 

だが、原作で知っているがこの世界の『回復魔法』は、自身を回復させるのは極めて得意だが、他者を回復させるのはそれなりに不得意だったはずなんだが……?

数値上では、他者を回復させる際には自身を回復させる1/3の数値しか回復しなかったはず……。

え、待ってくれ?あいつシレっと嘘を吐いた?

魔法の使い手の絶対数が少なくて、よく分かっていない事を利用した?

それか自分でもそこら辺はよくは知らないとかか?機会に恵まれなければ、検証する機会もほとんどないだろうしなぁ……。

 

「……分かった。君の言い分を認めよう。君の宿を教えてくれ。試験結果は書面で知らせる。字が読めないそうだが、代読屋に任せると良い」

「オレ、この町に来たばっカ。宿はなイ。金もなイ」

「む……そうなるとどうするか……」

 

どうやらジンベアの試験も丸く終わりそうだが、宿なしらしい。

……まったく、仕方ない。

 

「教官さん、そいつ俺が引き取りますわ。俺、教会併設の孤児院暮らしなんで、まだ部屋はあるんで」

「む、良いのか?すまないが、お言葉に甘えさせてもらおう」

「オォ!アリガトウ!アリガトウ!」

 

俺の手を握り、大袈裟にブンブンと上下に振って喜ぶジンベアだが、正直ちょっと痛い。

あ、痛いといえばだ。

 

「そういえば、胴に打ち込まれて痛くはなかったのか?『回復魔法』でも、痛みは消せないだろ?」

 

『回復魔法』は負傷を治癒させる能力であり、負傷しない能力ではない。

大前提として負傷したら痛いし、胴体に一撃を喰らえば鎧越しでもそれなりに痛むと言うか、痛いで済めば御の字という話のはずなのだが。

それにしたってさっきのこいつは、動じなさ過ぎた。

何かカラクリでもあるのか?

 

「痛かったゾ?だからめっっっっちゃガマンしタ」

「痩せ我慢だったかぁ……」

 

あまりの根性論に、ちょっとだけ目が遠い所を見てしまう。

いや、一発喰らう覚悟を決めれば、ある程度耐えれるのは分かるんだが……!分かるんだが……!

一応この男女比1:9の世界での男って、女に保護されてるか弱い生き物のはずなんだけどなぁ……。

前に見たけど、それこそ縫い物の針がちょっと指に刺さっただけで大騒ぎの奴がいたが……。

ちょっとジンベアは、この世界では突然変異すぎないか?

俺の様に違う世界の経験があるわけではなく。トールの様に主人公と定められたわけでもなく。

 

……よし、考えても答えは出ないから、考えるのはやめて飯に行くか!!

 

「ジンベア、トール。とりあえずこの後飯でも行かないか?」

「オォ、オレは良いゾ。そのくらいの金はあル」

「僕も大丈夫だよ。あ、自己紹介してなかったね。僕は『トルフォデ・エマナ』だよ。トールって呼んでね」

「おっと、俺も自己紹介忘れてたな。『ロイヒ・ウユイエ』だ」

「『ジンベア・イリーフュ』ダ。トールとロイだナ。ヨロシクヨロシク」

「あ、そのロイって良いね!僕もロイヒをロイって呼ぶよ」

「じゃあ、ジンベアはジンだな」

「良いナ、それ!あだ名は初めてダ!」

 

とんとん拍子に飯とあだ名が決まっていくが、何気に俺もあだ名は今生では初めてだ。

孤児院では名前で呼ばれてたし、ちょっと感慨深いな。

しかし俺から誘ったは良いが、どこの店に連れて行くか。

俺の知っている店だと、借金取りが経営してたりしてて微妙にこいつらを連れて行きづらい。

と、なればだ。

 

「トール、お前どこか良い店知ってるか?」

 

自分以外の奴に聞く、という手でいこう。

原作主人公のトールには、町の食堂で働く幼馴染がいたはずだ。

こうして話を向ければ、その店を答えるだろう。

 

「お店?それなら僕の幼馴染の家が、食堂をやってるよ!」

「お、じゃあそことかどうだ?」

「オレは何でも良いゾ」

 

そうして聞いてみれば、思った通り答えが返ってきた。

よしよし、このまま店に行こうか。

 

ジョセフィーヌによる解散の号令の後、俺たちはトールの道案内でその店へ向かう事となった。

 

 

 

 


 

 

 

解散の号令をかけ、去っていく受験者たちの背を見送りながら、私こと『ジョセフィーヌ・カトリエッタ』は悩んでいた。

コネで入団する予定だった『ナンネンザ・セマッカ』は、悩むまでもなく不合格だ。

彼女の親のセマッカ侯爵が煩いだろうが、あまりにも結果が結果なのだ。

「戦地でご息女を死なせても良いのなら、合格という事にします」とでも言っておけば、黙らせられるだろう。

それよりも何よりも、あの男3人組だ。

ただでさえ男騎士なんてものは物語の中の存在であり、我が『アクセス聖騎士団』の歴史においては前例はない。

その前例のない者が、一度に3人も入ろうとしている。それも、文句の付けようのない実力を見せてだ。

こうなれば彼ら全員を合格させないわけにはいかないが、そうすると関係各所が揺れに揺れるだろう。

1人ならば問題はなかった。2人ならばなんとかできた。

だが、3人なのだ。社会においては、3人からは集団となる。集団となれば組織の中では派閥となってしまう。

彼らにその気があろうがなかろうが、実力と影響力を考えると彼らをバラバラにして配置をしたいのが本音だ。

が、しかし。しかしだ。

バラバラに配置した場合、絶対に各派閥での権力闘争に利用されるのも目に見えている。

それならば、まだ彼らを一塊にしてしまった方が、新人の間は管理が楽だろう。

男性3人を分けるのではなく、あくまでも3人でワンセットにしてしまえば、周囲への影響も最小限にできるはずだ。

加えて、寮内でも問題が起きにくいはずだ……と、信じたい。

新人で研修・訓練の期間中に問題を起こされると、その責任は教官である私にも及ぶ。

責任を取るのは仕事でもあるから仕方ないのだが、それでも取りたい責任と取りたくない責任は私にだってある。

そして男女関係のもつれは、取りたくない責任だ。

 

……いっそ男が3人もいるのなら、彼らだけ小さな一軒家に押し込めるか?

寮では2人部屋だが、小さな一軒家で3人なら丁度良いくらいだろう。

いや、いや……しかしそれでは集団生活の中で連帯能力を高めるという目的が果たせなくなる。

男女で分けるとするなら、もっと男が増えてからだ。

とはいえ飢えた女たちの群れに、男を放り込むのも……いや、どうだ?

彼らを一般的な男の範疇に収めて良いものか?

エマナはまだ、世間一般的な男の概念に収まる範囲だが、他2名が確実に逸脱している。

彼らは絶対に問題を起こすだろう。

世間一般の貞淑な男子像からは、あまりにもかけ離れている。

だが……どうせいざ研修が終わり実践となれば、女性たちの中に混ざって野営することもある。

その時になってから、「初めて女とこんな近くで寝るわ」とか言い出されても困る。

となれば、苦渋の決断だが同じ寮に入れるしかあるまい。

 

確か他の部屋に比べてやや広く作ってある倉庫部屋があったはずだから、そこに3人分のベッドと机を運び入れよう。

トイレは男子部屋近くの物を専用化すれば良いだろう。

後は入浴だが、これは欲望を持て余した若い女たちが覗きに行かないように、時間を決めての入浴としよう。

男子が入浴中には、浴室に施錠する事を義務付ければ大丈夫のはずだ。

後は生活必需品を買う売店だが、男性用の衣類や下着も置かなくてはいけないか。

これに関しては仕入れの問題もあるため、急いで関係各所と協議をしなくてはいけない。

 

これから色々と忙しくなるな……。

頼む!私の苦労に免じて、問題を起こさないでくれ新人たちよ……!

 

 

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