貞操観念逆転世界で彼らが斬る   作:逸環

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第4話:蛇鶏の調べ亭

「ここが僕の幼馴染のお店、『蛇鶏の調べ亭』だよ!」

「蛇鶏ノ……」

「調べ亭……」

 

トールの案内で向かった先。

そこは確かに美味しそうな油の匂いが漂う店なのだが……なんと言うか……店構えがこう……厳つい店だった。

扉の両脇に置かれた、無駄に大きく威嚇的でリアルな、蛇の尾を持つ鶏(コカトリス)の木像。

これが店に入ろうとする客の足を、鋭い眼光で止めてくる。

これ、違法な闇ギルドとかじゃないよな……?

 

「まあまあ、2人とも入って入って!」

「お、おう……」

「行くカ……」

 

トールに背を押されながら、店内へと入る。

入ってみれば意外な事に、店内は一般的なファンタジーらしい安酒場や大衆食堂といった装いで、店の前のコカトリス像による威嚇はなんだったのかと思ってしまう。

試験が終わったのが昼をしばらく過ぎたくらいで、そこから少し歩いてここに来たからか、ピークの時間は過ぎているらしく客入りは落ち着いている。

 

「いらっしゃ……おや、トールじゃないかい!今日は友達も一緒かい?」

「うん!実はさっき騎士団の試験を受けてきて、そこで友達になったんだ」

「おお!そうかいそうかい!トール以外にも、男の騎士さんとは良かったね!」

 

カウンターから見える厨房から声をかけて来たのは、赤い髪にバンダナとエプロン装備の女性。

きっとこの店の店主だろう彼女だが、中華鍋の様な大きな鍋で丸鶏に油をかけながら揚げている。

正直、洒落にならない勢いで腹が減る音と匂いだ。

 

「こっちのお腹が凄い鳴っているのがロイで、こっちの涎が凄いのがジンだよ」

「どうも、『ロイヒ・ウユイエ』。とりあえず丸鶏の揚げたやつ1つ」

「『ジンベア・イリーフュ』ダ。エールを人数分頼ム」

「自己紹介と注文を一辺に済ませちゃったよこの2人……!」

「あっはっは!元気が良いね!アタシは『アイナ・ラライナ』、ここの店主さ!よし!今日はアタシがご馳走しちゃおうか!トールたちの入団祝いだよ!」

「まだ結果出てないよアイナさん!?」

「「ゴチになりまー()!!」」

 

店主のアイナの気遣いに、ありがたくご相伴にあずかる事にする俺たち。

完全に腹からは爆音が轟き、その丸鶏を早く食わせろと訴えてくる。

だが待て、俺の胃袋よ……。まだ、まだだ……。

あの丸鶏は、まだ完璧じゃない……。

 

「あっはっは!おーい、キサラ!トールたちにエールを持ってってやって!3人分だよ!」

「え!?トール来てるの!?は、はーい!今行くね!!」

 

俺が胃袋を説得していると、アイナが厨房奥の階段へ声をかける。

するとすぐにタタタッと駆け下りてくる音と共に、赤い髪の少女が2階からやって来た。

そのまま慣れた様子で樽からビールを3人分注ぐと、こちらへと向かう。

 

「はい、エール3人前どうぞー!」

 

置かれた陶器のグラスだが、微妙にトールのグラスのエールだけ多い気がするのは、気のせいだろうか……?

チラチラとトールの方を意識して見てるし、これはもう確定だな。

ジンも「あ、これって」って顔してるし、察しているだろう。

ちなみに、そのジンがエール。つまりはビール(アルコール)を流れる様に頼んだわけだが、この世界においては15歳以上で成人となるので、俺たちは飲んでもセーフだ。

 

「って言うかトール。昼間からお酒ってどうなの?」

「ち、違うよキサラ!これはジンが……って、そうだそうだ。紹介しないといけないね。2人とも、この子が僕の幼馴染のキサラだよ。アイナさんの娘なんだ」

「『キサラ・ラライナ』よ!よろしくね」

「『ジンベア・イリーフュ』ダ。ジンで良イ。トールとは騎士団の試験会場で会っタ」

「俺は『ロイヒ・ウユイエ』だ。ロイで良いぜ。同じく騎士になる男って事で覚えておいてくれ」

「ジンにロイね。よろしく!トール以外にも、騎士になろうって男の人がいたのね……」

 

握手をしつつ、軽く彼女を観察してみる。

身長はトールより若干低いくらいか。顔つきは母であるアイナと似ているな。

だが、なんというか、その……。

画像投稿サイトで、母親の方が作品数多そうな子だ。

……ああ、待て。そうだ、それで思い出した。

原作にいたヒロインの1人だ、この子。

ルートによっては死亡してしまうパターンもあったが、はてさてこの世界だとどうなるだろうか。

こうして縁を持った以上、俺の方でもそうならない様に動いてあげたいものだ。

 

……いや、この思い出し方は流石に失礼が過ぎたな。

ちょっと反省と謝罪が必要だわ。

 

「ごめんな」

「初対面の人になんか分からないけど謝られたんだけど!?」

「で、2人は幼馴染って事だけど、何繋がりの関係なんだ?」

「何事も無かったかのように話を変えられたんだけど!?」

「キサラは僕の剣術の先生の孫でもあるんだよ」

「ん?なんだ。元騎士って話だったから、てっきり道場でも構えてるのかと思ったら、町酒場の大女将だったのか。お前の先生って」

「いや、それがなんだけどね?」

「アタシのお婆ちゃん、入り嫁なのよ」

 

説明しようとしたトールを遮り、キサラが説明を始める。

まあ、こういうのは身内から聞くのが一番だろう。

 

「お婆ちゃんが若い頃、ここから少し離れた所にある村がコカトリスに襲われたんだって。それを騎士であるお婆ちゃんが討伐したんだけど、その時に村にいたのがお爺ちゃんだったの。コカトリスを倒して村に帰った時、真っ先にその苦労を労って、お婆ちゃんのお世話をしようとしたのがお爺ちゃんだったらしいの。そしたらお婆ちゃん、「貴方のおかげで勝つことができました。この勝利を、貴方に捧げましょう。麗しき村の青年よ」とか格好いい事言っちゃったもんだから、お爺ちゃんもうコロッといっちゃったのよ。後はもう凄いわよ。お婆ちゃんについてこの町に来たお爺ちゃんが酒場を始めて、そこにお婆ちゃんが縁もあって通っている内にゴールインよ。騎士を辞めた時に、そのまま貴族としての地位を妹に渡して入り嫁に入ったらしいわ」

「何それどこの騎士物語?」

「ウチの騎士物語よ。ただし約40年前の実話だけど」

 

いるもんだな、そういう英雄譚をマジでできちゃう人って……。

ああ、でもそうか。

だから『蛇鶏の調べ亭』で、コカトリスの像が飾ってあったわけか。

そういう夫婦の思い出を、店の象徴にしているわけね。

 

「でも、騎士物語といえば最近だとあれじゃない?」

「ああ、最新の英雄がいたな。俺らの遠い遠い上司になる存在な」

「最新の英雄?なんダ、そレ?」

「ああ、ジンは知らないのか。俺たちが入団する『アクセス聖騎士団』だけどな、最高戦力部隊が『ヴァルキュリア』って呼ばれる9人の集まりなんだけど、その序列一位が10年前にこの国を襲ったベヒーモスを、単騎で撃破してるんだよ」

「ハァ?!あの動く山を1人で倒したのカ!?」

「しかも一発で」

「ハァァ!!!?」

 

ジンが驚いているが、無理もない。

この世界のベヒーモスは、ジンも言った通り()()()()()()()と言っても過言ではない。

一応見た目は象なのだが、とにかく巨大なのだ。

巨大すぎてその背には山脈が備わり、一歩の歩みが大地を揺るがし、ただ進むだけで通り道となった国が亡びる大災厄。

だが、ベヒーモスの生息地は本来大陸の中央部にある巨大山脈。そしてこの国は遠く離れた大陸の西外れなので、接触する事はそれまでなかったのだが、何を気紛れを起こしたのか10年前にそいつがこの国に向かって来てしまったのだ。

隣国を踏みつぶし、その足で真っすぐにこの国へ向かって来ていたのだが、途中にある平原でその英雄はベヒーモスに立ちはだかった。

 

「まあ、やったことは単純だ。どこまでも伸びる魔剣で、ベヒーモスの首をズバッとよ」

「力技だナ……」

「実際、その人以外は使いこなせないらしいぜ。伸びれば伸びるほど、剣の重さも増すらしくてな。ベヒーモスをぶった斬るくらいに伸ばすと、もう誰も持てないくらい重いらしいぞ」

「それはもう、人の領域を越えているだロ……」

「人の姿をしたドラゴンとか言われることもあるな」

 

そう言う俺は、人の姿をした熊みたいなもんだが。

実のところ、俺はその最新の英雄の強さの理由を知っている。

彼女もまた、原作のヒロインの1人であったからだ。

その『ギフト』は、作中で唯一彼女のみが持っていたものであり、そしてこの世界においては2つ存在していることが確定している。

そう、そうだ。

()()()()()()()()()()()、どこまでもステータスを叩き上げ続けた果ての存在。

世界最強の大英雄。それが原作最強とされた彼女の強さの理由。

俺も時間をかければその領域に至れるのは、同じ『ギフト』である事が保証はしているが……それでも遠く高い壁だろうな。

 

「ちなみにね、その人私のお母さんの従姉妹よ」

「「は?」」

 

と、ガラにもなく少しばかり弱気になってしまったが、そんな事を考えていたらキサラから爆弾が放り込まれた。

お母さんの従姉妹?

 

「もっと言うと、僕の先生から剣を教わったから、僕と同門って事になるね」

「「はぁぁぁ!!!??」」

 

続けてトールから放り込まれた爆弾に、ジンと一緒になって驚く。

原作にはそんな描写はなかったが、ここでそう繋がって来るのか!?

ってことは、トールの先生ってのは、最強の大英雄の叔母であり師匠!?

え、ちょっと俺も剣技教えてもらえないかな……。

我流剣術の喧嘩殺法過ぎて、流石に問題を感じてはいるんだよ。

 

「でも先生、「あの子には教える事はすぐになくなってしまった。私がしたことは、騎士としての心構えを教えた事だけ」ってよく言ってたね」

「天才っているもんだな……」

「本当ナ……」

 

いくら『ギフト』でステータスが爆速で上がるとしても、『スキル』が身に付くかどうかとかの技能面はまた別の問題のはずなんだけどなぁ。

これは単純に、そもそもとして彼女が英雄となるべき天才だった。ということなのかもしれない。

 

「おっと、みんなしてアタシの従妹ちゃんの事を話してるのかい?そんなことよりも、だ」

 

ちょっと皆して黙った時だった。

アイナが大皿を持ってやって来た。

その大皿の上に乗っている物は、もちろん――――

 

「アタシ特製の、この丸鶏のフライドチキンを熱い内にお食べ!!」

「いただきまーす!!!」

「チッキーン!チッキーン!!」

「うっめエ!!アッツ!!?うっめエ!!!」

 

――――アッツアツジューシーな、丸鶏のフライドチキンだ。

一気に爆上がりする、男3人のテンション。

ジュワジュワという皮の上を爆ぜる油の音も高いが、それ以上に男たちのテンションも高くなる。

我先にと肉を切り取り、脂の滴る肉を喰らい、その脂をエールで流し込む。

 

「……アーッ!うめぇ!!人生このために生きてる気がするわ!!」

「俺の集落でも鶏ではないにしロ、鳥はよく食べていたガ……。こんなに美味いのは初めてだナ……!」

「いつも通り美味しい!アイナさん、ありがとう!!」

「あっはっは!美味けりゃ良いさね!喜んでくれるならなお良いさね!」

「アンタたち、エールのおかわりが必要だったら言いなさい。今日はちょっとだけサービスしてあげるから」

「おい、ジン、トール。ここに神がいたぞ」

「エールの神とか崇めるしかないナ」

「「おぉ!エールの神()!」」

「トール、この2人本当に今日初めて会ったの?」

「一応そうだよ。僕もその自信がなくなってきたところだけど」

 

キサラをエールの神と崇める俺とジンを、ジトーッとした目で見てくる幼馴染コンビだが、酒は命の水なのだ。

そりゃ俺たちの息もぴったりとなるだろうさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、この後はどうするよ?」

 

肉を食い、何杯目かのエールを胃袋に注ぎ込んで落ち着いてきたところで、この後の動きについて相談する。

このままの足でジンを俺の住む孤児院へ連れて行っても良いのだが。

 

「泊まるとなるト、早めに行って挨拶や準備しないとじゃないカ?」

「言っておくけど、2人ともお酒臭いからね。僕もだけど」

「流石に夕方になる前から酒の臭いさせて帰るわけにもいかんし、挨拶させるわけにもいかねえか」

 

しまった。

ついテンションに身を任せてそれなりに飲んじまった。

これが若さ故の過ちというものか。

まあ、美味い酒と肉だったから、仕方ないだろう。

 

あ、ごめんって脳内のカーちゃん!

頭の中に出てきてまで怒らないでくれ!!

 

「仕方ねえ。どっかで酒抜けるまで水がぶ飲みしつつ時間潰すか」

「もう完全に証拠を隠滅してから帰る気じゃん」

「ウチのシスター、怒ると怖いんだよ」

「飲んで遊んで帰って、夫に怒られるのを怖がっている妻みたいだナ」

「そういう関係じゃあないから。親と子みたいなもんだから」

 

などと否定の言葉を並べてはおくが、それにしてもあれだな。

何の案も出てこないな。

いつまでもこの店にいても迷惑だろうし……。

ん?迷惑……?

 

「お、良いとこ思いついた。酒の臭いさせて行って、迷惑をかけても問題ない場所」

「どこどこ?そんな所、この辺にあったっけ?」

「おう、あるぞ」

 

そうそう。

いくらでも迷惑かけて良い場所なら、良い所があったあった。

いやあ、俺って冴えてるな。

 

「高利貸しの事務所行こうぜ!」

「それ迷惑かけても良い所っていうか、嫌がらせしたい所じゃん!!」

「コイツ……一応金を借りている側のハズだったよナ……?」

「知ってるか?金と命を天秤にかけて、金を取れる人間は早々いないんだぜ」

「「とりあえず事務所案は却下ァァ!!」」

「うっす!」

 

まあ、そりゃダメって言うよな。

分かってた。

 

その後の話し合いでは最終的に、トールが先生との練習で使っていた河原で、軽く運動しながら時間を潰すことになった。

なお、その話し合いの最中に「お願いだから、騎士になった後汚職したりしないでね?」とトールに言われ、ジンがそれを聞いて爆笑していたので、2人ともシメると固く心に誓ったのは秘密だ。

 

 

 

 

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