トールとロイと一緒ニ、トールが先生という人から稽古を受けていた河原に来タ。
と言っても、そんなに特別な事はなイ。河原で軽く運動をし、川の水をオレの旅荷物にあった鍋で沸かしては飲んでを何度も繰り返して酒気を抜ク。
そうしたラ、どうせだから自分も友人の家に行ってみたいと言うトールも連れて、ロイの家である孤児院へと3人で向かう事となっタ。
しばらくは厄介になるオレなのデ、道中で菓子折りを買おうと提案すル。
そう言うとロイは、「我が家のチビ助たちは総勢15人。そこに俺とシスターの17人の大所帯なので、そんな大人数分は流石に悪い」と言ってくれたガ、それでも「これから世話になるんだシ」と多少無理をしテ菓子折りを買っていク。
買った菓子折りハ、トールが薦めてくれた店の焼き菓子なんだガ、試食してみるとこれが確かに美味イ。
香るバターが、しっとりと鼻と舌を楽しませてくれル。
これなら子供たちも喜んでくれるはずだナ。
と、いうわけで買い物からしばらく歩いて、ロイの家でありオレのしばらくの宿になる孤児院に到着したわけなのだガ。
「ロイヒ、あなたは私になんと言って家を出ましたか?」
「ちょっと騎士団の試験受けてくる」
「そしてどのくらいに帰って来ると言いましたか?」
「覚えてないな」
「「昼過ぎてしばらくしたくらい」ですよ!このおバカさん!!」
「ぎゃー!!?カーちゃんごめんって!!」
帰宅して数秒の玄関前デ、ロイはめっちゃ怒られていタ。
黒いヴェールで長い金髪を隠した、見るからに教会のシスターという感じの女に怒られていタ。
マア、そりゃ「昼過ぎてしばらくしたくらいに帰る」って言ってた奴ガ、夕方くらいに帰ったらそりゃそうなル。
「あ、あのロイが完全に負けてる……」
「高利貸しの事務所に迷惑かける気満々だった男モ、母親には弱いカ……」
「お前らうるせえよ!?」
「コラ!ロイヒ、お友達にそんな口をきくんじゃありません!」
「分かったよ!!」
滅茶苦茶に怒られているロイを横目ニ、ヒソヒソと話すオレとトール。
出会ってまだ半日程度だけド、ロイがどういうタイプの人間かはなんとなくは分かっタ。
そのロイがこうも母親には弱いというところを見るト、なんダ。あれだナ。
「滅茶苦茶に楽しいナ!!!ギャハハハハッッ!!!」
「ジンー!?気持ちは分かるけど、もうちょっと堪えよう!?」
「お前も気持ちは分かるってなんだトォォォォルッッ!!!??」
怒られているロイを指さして、ゲラゲラと笑い飛ばス。
そんなオレを嗜めるトールだけド、お前も同罪だゼ!
「……しかシ、母ちゃんカ。シスターさんも若いはずなのニ、随分と懐いてるみたいだナ」
「は?何言ってんだお前?」
肘でウリウリとロイを突いてからかうモ、怪訝な顔をされル。
恥ずかしがる素振りも見せないけド、これは……?
「ああ、お友達も勘違いされているみたいですね。自己紹介が遅れました。私は『カーラ・シュライン』。この教会のシスターと、孤児院の管理をしている者です」
「カーラちゃんが短くなって、
アア、なるほどそういうことカ。
母ちゃんじゃなかったのカ。
「いくら母親代わりって言っても、流石に15歳の身で25歳の若い女を母ちゃんとは呼べねえよ」
「私は母ちゃんでも良いと言っているのですが、この子も照れちゃって」
「15歳で成人で、その歳に出産してる奴も多いとはいえ、仮に俺が実子だとしたらカーちゃんが10歳の時の子供になるんだけど?」
腕を組んで顔を顰めるロイと、さっきまでの怒りが嘘のようにニコニコとしているカーラ。
しかもカーラはロイの頭を優しく撫でていテ、ロイは顔を背けながらもそれを特に振り払おうとはしていなイ。
親子であり、姉弟であり、といったところだろうカ?
イヤ、それにしては距離感が近い気もするガ……でも恋人といった雰囲気もなイ。
不思議な距離感な2人だナ。
「……ああ、すいません。お客様をおもてなしもせず。どうぞ、上がってください。時間も時間ですし、ロイヒのご友人ということでしたら、夕飯でも一緒にどうですか?」
「おっと、その事で1つ言い忘れていたことがある」
「あ、僕は家で用意されてるはずなんで、これでお邪魔しますね。友達の家に来てみたかっただけですし」
「おや、それではまた来てくださいね。それで、ロイヒ?何を言い忘れていたんです?」
ここでそそくさト、これ以上いると厄介ごとに巻き込まれる気配を察したのかトールが離脱すル。
あの野郎……オレは逃げられないんだゾ……。
「今日から騎士団の試験結果が届くまで、こっちのデカイ方がウチに泊まるから。部屋は適当に空いてる所に突っ込むぜ」
ロイが俺を親指で指さし、何事も無い様に言ウ。
それを聞いたカーラは、笑顔のままで固まっタ。
こうなった奴ヲ、今まで何度か見てきたガ……これはあれダ。
チャージ時間だナ……。
「………………それならなおさら、早く帰って来なさいこのおバカーーーーーーーーー!!!!!」
周囲に轟ク、カーラの怒号。
……やっぱり、怒りのチャージ時間だったカ…………。
耳を指でふさぎながラ、ちょっと意識を遠くしてそんなことを思ってしまっタ……。
カーちゃんの激怒から2時間程経ち、夕食と風呂を済ませて自室で寛ぐ。
ジンは当初、空いている部屋に泊める予定だったのだが、チビ助たちが一緒に寝ると言ってきかなかったので子供部屋に泊めることになった。
旅荷物には刃物など、子供には危ない物も含まれるので、とりあえず俺の部屋で預かる。
気になるのは布に包まれた剣らしき物だが、持ってみると金属にしては軽かった事だ。
木剣なのかもしれないが、それなら布で包む必要もない。
まあ、その内知る事だろうし、プライバシーだから一旦置いておくことにする。
しかしあいつ、随分と子供の扱いに慣れているのか、デカイ図体の割りにすぐに子供たちが慣れていったのが驚きだ。
菓子折りも喜んでくれてたし、そこは感謝しよう。
……だが、俺がカーちゃんにしこたま説教を受けている最中、逃げる様にチビ助たちの方に挨拶へ行ったのだけは許さん。
野郎、かばうとかも何もなく、俺を見捨てやがったな……。
トールも雲行きが怪しくなった瞬間に帰りやがって……今度会ったらない事ない事言いふらしてやろうか。
「……いや、しかし今考えないといけないのは、これからの事か」
意図的に口に出すことで、思考を切り替える。
おそらくだが、俺たちは全員試験に合格するだろう。
女だとか男だとか関係なく、それだけの実力は見せたはずだ。
となれば、その次はどうなるか。
原作では、
もちろん、班員は奴以外は女で、それぞれが『同期のヒロイン枠』だったが、今はそこは関係ない。
ここで大事になるのは、俺たちが1組にされるのか、それともバラけさせられるかだ。
十中八九では、前例がない上に管理の都合もあるから1組に纏められるだろうが、そうでない場合ももちろん視野に入れるべきだろう。
そうなってもトールは大丈夫だ。あいつはこの世界でバリバリにモテるタイプだ。
班内で奴を巡った
俺はどうかと言うと、嘗められたら力で黙らせるからそれで良い。
高利貸し相手にもその手を使ったが、世の中まずは力ありきだろう。
では、ジンはというとあいつが問題だ。
そもそもジンは、この世界では珍しくはないが読み書きができない。
とはいえ「指令書を読めません」「機密文書が読めないから代読してもらう」では、まず絶対に通じないだろう。
そうなると同じ班の人間に頼るわけだが、そこが一種の弱味になってしまう。
「男だから」でほぼ確実に嘗められるこの世界では、弱味は減らせるだけ減らした方が良い。
「……ってことは、だ」
一度部屋を出て、更に孤児院を出て向かうのは併設されている教会。
その書庫に入り、ある物を探す。
さて、あれは最後に読んだのはいつだったか……。
そう思いながら探すと、思いの外早くにそれは見つかった。
「あったあった。『テイク教』の教典……っと」
古びた紙の束を、紐で綴じただけの簡単な本。
これはこの世界で全世界に広がる、『テイク教』の教典でありその写本だ。
裏表紙には、カーちゃんの字でだが俺の名前が書かれている。
ページをめくってみれば、裏表紙に書かれた名前とは違い、汚い字で教義や神話が書かれている。
……これは子供の頃の、俺の字だ。
この世界の文字を、言葉を理解し覚えるために、教会に置かれていた教典を写本したのだ。
だが、その目的を達成してからは、全くと言っていい程教典を開いた記憶はない。
教会に住んでいるに等しいというのに、不信心な事だと我ながら苦笑するが、それもまあ仕方ないだろう。
とは言え、今必要なのは信仰心ではない。この写本自体だ。
『テイク教』の教典は、誰にでも分かりやすい様にと簡単な言葉で書かれているのが特徴だ。
美文で神の偉業を修飾するのではなく、平易な言葉で万民に伝える。それがこの教典。
つまり、言語習得にはもってこいの教材になる。
だから俺も、これを写本して言葉を覚えたんだ。
ちなみに、この世界にはまだ印刷技術はないため、写本が基本となる。
そして俺が写したオリジナルの教典は、普段は教会で使うため貸し出せない時も多い。
そうなると、いつでもフリーで使えるのは、個人的なこの写本になるというわけだ。
……字が汚いのには、目をつむってもらおう。
元々前世の時点で悪筆だった俺だから、慣れない言語を書くとなおさら汚い字になったのだから。
「まあ、まずは文字を覚えるところからだけどな」
さてさて、勉強に使える時間はそう多くはないだろう。
明日から早速教えないといけないな。
おっと、そうだ。
もう1つ解決しないといけない問題があったな。
これに関しては割と深刻でもないし、結構何とかなるだろうがそれでも問題にはなる。
その問題とは、そう。
「俺が全力で使っても、ブッ壊れない武器を探さないとな……」
一般的に流通する武器を使うと、武器の側が俺の全力について来れないという問題だ。
この問題に気付いたのは、高利貸しの連中が借金の取り立てに来たのを追い返した時の事だった。
ワザワザご丁寧に剣まで持ち出して脅してきたから、1人から剣を奪って他の奴の剣を叩き落とそうと思ったんだが、まさか剣同士をぶつけてどっちも砕けるとは思ってなかった……。ついでに相手の腕の骨も圧し折れてたし……。
剣が刃毀れするとか、折れるとかじゃなくて砕けるってなんだよ……。
試験の時も相手も木剣も壊さない様に手加減するのが、結構大変だったぞ……。
まあ、そういう切っ掛けで気付いたのだが、俺の全力だと市販されている武器だと受け止めきれない。
と、なると
この世界における魔剣とは、『魔法が付与された剣』のことを指す。
魔法関係の『ギフト』を習熟する過程で得られる『スキル』に『○○魔法付与』というのがあるが、それを行使された武器たちが魔剣となる。
強度を増強した魔剣が欲しいところだが、如何せんこれがべらぼうに高い。
そもそも魔法に関する『ギフト』を持っている人間が少ないのだから、流通する魔剣の絶対量が少なくなる。そうすると価格も上がる事は必然。
……でもやっぱり、魔剣欲しいなぁ。
価格的に手が届かないのは分かっているが、それでも欲しい物は欲しい。
一瞬高利貸しに金を出させるかとも考えたが、それは借金の上乗せになるだけなので却下する。
あの女は命と弱味を握って大人しくさせているから、こちらから向こうに弱味を提供したくはない。
仕方ない。
頑張って貯金して買うとしよう。
それか手柄を挙げれば、褒賞とかでもらえるかもしれんし。
ない物ねだりは止めて、明日からのジンに教える勉強の事を考えるとしよう。
ああ、カーちゃんにも相談しようか。
カーちゃんにはまた苦労と迷惑をかけちまうが、代わりに騎士団で頑張って稼いでくるから許して欲しい。
仕送り多めにできる様に頑張るよ、俺。
本当の親子じゃないし、歳もそこそこ近いけれども。
「これでも母親みたいなもんだとは、本当に思っているんだぜ」
……うん?いかんな。実家を離れる事がほぼ確定した事と、写本を引っ張り出したせいか、ちょっとセンチメンタルになっちまったか?
誰もいない、見ていない、聞いていない。
それでも自分が呟いた言葉が少し恥ずかしくなり、1人頬を掻く。
「…………恥っず。こりゃ面と向かっては言えねえわ」
やや顔が赤くなったのを自覚しながら、書庫を後にする。
さてさて、明日からまた頑張らないと、だな。
俺たちの手元に合格通知が届くのは、それから1週間した朝のことだった。