「これがロリロリの実だ」   作:神谷涼

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さらっと書けてしまったので……。
原作開始3年前です。



「何だこのザマはァ!!!!」

 

 三日月だけが照らす夜の海。

 愛らしい黒猫の船首を持つ船に、翻るは海賊旗。

 髑髏の描かれるべき場所にはまた、愛らしい猫の顔。

 

 その船長室で今。

 船長たる“百計のクロ”ことキャプテン・クロの前に。

 副船長ジャンゴが呼び出されていた。

 

「ジャンゴ……お前、この海賊団をどう思う……」

「それなりに名も売れて、あちこち荒らして懐具合も悪かねェ。海軍だって恐れるほどのこたァないんだ。海賊団としちゃ順風満帆じゃねェか?」

 

 その答えに、ギリリッとキャプテン・クロは歯噛みした。

 こめかみに浮かぶ血管に、ジャンゴが身をすくませる。

 なぜ怒っているのか、わからないのだ。

 

「……おい。この海賊団の名前を言ってみろ」

「く、クロネコ海賊団だろ? アンタにちなんだ名前じゃねェか」

 

 震えを抑え、答えるジャンゴ。

 しかし。

 

「バカヤロウ!!!! 俺がくだらねェ自己顕示欲でこんな名前つけたと思ってんのか!?」

「え、えっ、じゃあ敵を油断させるためとか……」

 

 船長室内を吹き荒れんばかりの怒り。

 あるいは“覇気”にも至らんばかりの激情。(至ったとは言っていない)

 

「わからねェのか!! 俺にはな、ガキの頃から誓った夢があった!!!!」

「お、おう」

 

 初耳である。

 

「あの猫ちゃんマークの海賊旗も! かわいい船首も! 船員に義務付けた猫耳も! すべては俺の夢に至る計画のためだ!」

「猫ちゃんて……せ、船長。飲みすぎじゃねェか?」

 

 シラフじゃないと信じたいが。

 この部屋に酒の類などない。そも、彼は頭のキレが鈍ると言って飲酒をしないのだ。

 

「俺ァな。女学校の校長先生……できりゃ女子小学校の校長先生になりたかったんだよ」

「女子……小学校?」

 

 初めて聞く概念である。

 どの島でも……それこそ伝説の女ヶ島でもなければ、小学校は共学だろう。

 

「普通の女子高じゃ、見たくねェ現実を見せられかねねェ。純真無垢な幼女に囲まれて、チヤホヤされたかったんだ」

「お、女ならちと使い古しだが、前の島でさらってきたのが――」

 

 ジャンゴはジャンゴなりの常識に基づいて、船長に受け答えする。

 キャプテン・クロは知識も知性も、自分たちとはレベルが違う。この一見変態のような言葉にも、何か高度な意味があるのかもしれないと思った……思いたかったのだ。

 

「バカが……!!! 誰が女を抱きてェと言ったァ!!」

「ひっ」

「てめェらの連れて来るトウのたった女に用はねェ。俺ァ幼女にチヤホヤされてェんだ。そのために船を手に入れる前は執事喫茶でバイトもした! 教師の真似事もした! 頭もよくなった! 今すぐ船下りたって、てめェらと違って金持ちの執事や家庭教師で食ってける自信はある!!」

「だったら海賊より、孤児院でもやりゃよかったんじゃねェか?」

 

 良くも悪くも、ジャンゴに自制心はない。

 思ったことはすぐ口から出てしまう。

 

「今や大海賊時代。行き場のねェガキどもが海に出て、海賊を名乗るのが当たり前の世の中。年端もいかねェ連中が、自称海賊になって。かつての己と同じような弱者を襲ってる……俺たちみてェにな」

「…………」

「孤児院なんざ、最初の標的だ。カネがあろうがなかろうが、クズどもの食い物にされる。あるいは食い物にされた連中のワリを食って、さらに食い物になる。お前だって心当たりはあるだろうがよ」

「おう……」

 

 それは今、この海賊団にいる喰い詰めたノラ犬連中……行き場のない奴らの誰にも言えることだ。

 センチメンタルな空気……だが。

 

「そんな中で。このかわいいクロネコ海賊団に、不安な幼女が集まると俺ァ計画してた。純真無垢とはいかねェだろうが、お前の催眠術がありゃ、どうとでもなる」

「えっ、そのために俺を船に乗せたのかよ!!」

「当たり前だろうが」

「当たり前かァ!!!?」

 

 ジャンゴとしては催眠術を使えるようになった日以上の衝撃である。

 

「だというのに……何だこのザマはァ!!!! お前に船員選びを任せたのはその催眠術ゆえだ! 誰があんな奴らを乗せろと言ったァ!!!!」

 

 憤怒が豪風の如く、ジャンゴの胃壁を削った。

 

「い、いや、海賊として暴れられる奴らをだな……」

 

 歯の根がかみ合わない。

 ガクガクと震えながら、常識的な返答をするが。

 

「俺があんなむさくるしい男どもに猫耳つけて喜ぶと思ったのかァ!!!!」

「ヒッ、理不尽すぎる!!!!」

 

 C・クロは上司として、まさに暴君だった。

 彼の戦闘に巻き込まれて死んだ船員も一人や二人ではないのだ。

 

「俺の計画は絶対に狂わねェ……幼女が集まらなかった時の策は用意してある」

「お、おう」

 

 じゃあ怒鳴るなよ、との一言はジャンゴも自重した。

 

「7年だ。手段はありながら7年間、俺ァ何度もリスクを計算し、敢えてこの手段を選ばず海賊として死線をくぐってきた。いつか、この海賊団が幼女の楽園になると信じて、な」

 

 遠い目をし、舷窓から三日月を眺めるC・クロ。

 

(いや無理だろ……)

 

 別の意味で、遠い目をするジャンゴ。

 

「だがそれも限界だ。こんなむさくるしい船に乗ってられねェ」

「そ、そうか。その手段ってのは……」

 

 さすがに船員皆殺しとかしねェだろな……と戦々恐々としながら問えば。

 ニヤリと笑ったC・クロが枕元の宝箱を開いた。

 どろりと蜜を滴らせるピンク色のハート形の果実を取り出す。

 

「これが俺の原点でもある……“裏・悪魔の実”だ」

「裏? 表があるってのか?」

「一般の悪魔の実は異様な能力を与える……だが、これは世界貴族どもの秘中の秘ってやつだ。食った人間はまさに理想を体現したような美少女になれる。連中は己で食ったり、奴隷に食わせて楽しむってェわけだ。ゲスのやりそうなことだぜ」

 

 その性質上、少年誌ではなかったことにされるであろう存在。

 そんな果実を見つめるC・クロの目に浮かぶのはまさに狂気。

 

「ま、まて、あんたまさかその実を……」

 

 俺に食わせるつもりじゃ、と。

 かつてない危機感を抱くジャンゴ。

 

「ああ。俺が本当の幼女ってモンを見せてやる……この“裏・悪魔の実”の中でも最強と言われる“ロリロリの実”を食ってなァ!!!!」

 

「あんたがなるのかよォ!!!!」

 

 盛大なツッコミと同時に。

 外が騒がしくなる。

 

「C・クロ!! ジャンゴ副船長!!」

「北の方角から海軍が現れました!!」

「まただ!! この一週間で三度目だぞ!!」

 

――ドゴォン……

 

「うわァッ! 大砲だァ!!」

 

 轟音。振動。騒乱。

 

「クソ……これがせめて幼女の声なら……!!」

「C・クロ、そういう特殊な嗜好はあらかじめ教えといてくれよ……」

 

 ジャンゴは投げやりである。

 正直、このまま海軍に船ごと沈められた方がいいのでは……と思うほどだ。

 

「フン、ちょうどいい実験台が来てくれたな……ジャンゴ。この実に手を出したら、たとえお前でも殺すからな」

「出すかよ……ン? 実験台?」

 

 C・クロが宝箱を閉めつつ。別の実を取り出して懐に入れた。

 同じく蜜を垂らしてはいるがピンク色ではない……青みがかった灰色の小ぶりの果実。

 

(悪魔の実っていや、伝説の宝だが……C・クロはいくつも持ってンのか?)

 

 すぐに宝箱の錠は下ろされる。

 船長室から出るC・クロに慌てて付き従うジャンゴは、一瞬抱いた疑問をすぐに忘れた。

 

 C・クロが持つ“裏・悪魔の実”が3つあり。

 その一つを己が食わされるのだとは知らぬままに。

 





そんな長い話にならない予定です。

これを書くため20年以上ぶりにワンピースの3~5巻を読み返しました。
ジャンゴ、記憶に残ってた以上に極悪人だった。
執事口調イメージだったキャプテン・クロ、普通にヤンキー口調だった。

キャプテン・クロ、原作でも悪魔の実についてちゃんと知ってたんで、本からの知識でもいろいろ知ってる想定です。
なんでそんな変な実を持ってるのかは、また後に。
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