これまでに比べるとマイナーなんで一応。
――とある島の岸壁
半月に近づきつつある三日月の下。
クロネコ海賊団は、ある島の岸壁側に停泊し。
全員で上陸していた。
「なんで海軍基地、襲うのよ。わけわかんないんだけど」
「そ、そうだぞ。せめて海上で船を襲った方がいい……ゼェ、ゼェ」
「メシと武器はあるだろうが、実入りがよォ……」
「それに鍛えられた連中だ、こっちも無傷とはいかねェぞ」
「しかも精鋭部隊だっていうじゃねェか……!」
暗い中、月光を頼りにロッククライミング同然の進軍。
しかもここは町などない、海軍基地だけの島。
海賊団一行は不満たらたらである。
体をろくに鍛えていないナズーリンなど、息もあがってフラフラだ。
「文句言わないでさっさと来なさい。夜の間に登り切らないと、船が巡回に見つかるわ」
小さな影が空中で虚空を蹴り、一気に岸壁を登る。
黒いゴスロリドレスの中、白いアンダーコートが闇にひらめく。
キャプテン・クロ改め、クロネコである。
「うーん“差し足”は一歩か二歩が限度ね。まだまだ先輩みたいにはいかないわ」
「ゼェハァ……それも、例の技なのかい?」
「そうそう。先輩は空中歩いて、敵船に乗りこんだりしてたんだけど……」
「空中でジャンプできるだけですごいわよぉ」
有象無象の手下たちの手前、六式の名は出さない。
政府から念入りに隠すためにも“差し足”という別の名で呼んでいるが。
これは六式の技の一つ。
空中歩行を可能とする“月歩”だ。
幼女の体によって体重が減ったおかげだろう。
基礎知識のみだった“月歩”が、わずかながら可能となった。“剃”と併用すれば、この岸壁を平らな地面のようにも走れる。
「腕試しなら、そのへんの町でいいんじゃねェの」
「基地を潰したりしたら、賞金がヤベェことになるぞ……」
「私は僻地の町で安全に補給しようって言ったのに……」
「せめて補給後にしようよぉ……」
とはいえ、手下どもの不満が治まるわけではない。
ナズーリンやみさきも、海軍基地襲撃など反対だったのだ。
「海軍基地くらいで、そんな気にしなくてもいいじゃない。町と違って、皆殺しにしても気にならないでしょ? バレなきゃ平気よ」
軽犯罪のように言う。
「いや、てごわさが違うっすよ」
「田舎の村や町なら、ピストルだって数人程度しか持ってねェんですから」
「それに写真撮られたり、電伝虫で応援呼ばれたら……!」
元よりクロネコ以外は、喧嘩馴れした程度のごろつきども。
みさき(ジャンゴ)の催眠術で強化できるが、たいした技術はなく、銃弾を避けられるわけでもない。
「ま、安心しなさい。私が全力で“杓死”するから、逃げだしたのを始末してくれたらいいわ」
その一言で、手下どもの空気は一気に弛緩した。
クロ――クロネコの恐るべき戦闘力は、誰もが認めており。その“力”が破れる時など想像できないがゆえに。
「えっ、最初からクロネコちゃん様が出るのか!!!!」
「だったら楽勝だァ!!!!」
「クロネコちゃん様!!」
「クロネコちゃん様!!」
キャプテン呼びを禁止し、ちゃん付けで呼ぶよう強要した結果、今やクロネコの呼称は「ちゃん様」になっていた。
当初こそ悩んだクロネコだが、これはこれでかわいいかと認めている。
「ふふん……って、敵地で大声出すんじゃないわよ!」
そんなクロネコちゃん様コールにドヤ顔を見せつつも、状況を思い出して怒鳴りつける。
「ゼェゼェ……かわいさを褒めておけば、安全なようだね」
「それでも私たちを始末するのに、何の躊躇もしないでしょけどねぇ」
ナズーリンとみさきは、そんなクロネコの反応を冷静に観察していた。
過去の話を聞いた限り、クロネコの戦闘力に過度な依存は禁物だ。
特にこの島には、東の海の英雄と呼ばれる海軍将校がいる。
クロネコが負けた時も想定すべきだし。
クロネコが手下を切り捨てる時も想定すべきだろう。
彼――彼女の最低な目的の踏み台にされるなど、ごめんこうむるのだから。
周囲を断崖に覆われた島唯一の港。
そこにそびえる建物の影。
それこそが精鋭揃いで知られる海軍第77支部。
正義の人と名高い海軍大佐プリンプリンの居城。
数多の海賊を倒してきた精鋭決戦部隊の駐屯地。
プリンプリン決戦要塞こと第77支部。
通称“プリケツ要塞”である。
「ターゲットのプリンプリン大佐はいる?」
「間違いなくいるよ。私の知る範囲の将校たちも出払ってはいないね」
ナズーリンが、ダウジングロッドを構えて言う。
「OK。それだけでも、あなたを拾った甲斐はあったわ」
「死んだ方がよかったなんて思わせないでくれよ」
既に何度か思っているが。
「みさきは裏口を抑えておきなさい。私の体を馴らす目的だから、一気に突っ込むわ」
クロネコの赤い瞳に、凶悪な光が灯る。
「ええ、裏口は任せといて。行くわよみんな」
「おうさ、ママ!」
「任せといてくれ、母ちゃん!」
「私はあんたたちのママじゃない!!」
すっかりママ扱いされるようになった副船長みさきに――というよりその尻と、背後からでも見える乳に従い、ぞろぞろと裏口に回る海賊たち。
非道なロリコンの暴虐に晒されたがゆえ、母性に慰めを求めた末路であった。
「ナズーリンとは休みながら、逃げ出した海兵を索敵。ニャーバン兄弟と組んで始末しておいて」
「私は探すことしかできないから、始末は頼むよ」
「任せとけェ」
「がってんナズ」
ナズーリン付になったニャーバン兄弟が頷く。
そして。
「じゃあ、ドレスを汚さないよう気をつけて行くと――」
“抜き足”により、クロネコの姿が消えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
海軍基地――それも精鋭で名高いこのプリケツ要塞を襲う者など存在しえない。
それゆえだろう。
精鋭部隊とはいえ、夜番は航海時のための訓練扱い。
緊張感はゆるみ、変わらぬ波音の中で自己鍛錬に励んでしまう。
今夜もまた二人の海兵が並び、夜番の時間を活かして。
正門前で競い合うように、スクワットにいそしんでいた。
が。
「いい夜ね? こんな夜は胸が高鳴るというか……血が騒ぐというか……」
突然、目の前に黒いドレスの少女――いや、幼女が現れた!
町などないこの島に、幼女が現れるという不自然!!
この世のものならぬ美しさ! 妖しさ!
赤く光る眼!
思わず中腰で止まってしまう二人の海兵!
「ゆ、幽れ――」
「ひぃ、おば――」
そう叫ぶより早く。
幼女が手を開いて、二人へ伸ばす。
その指先には白刃。
喉が刃で貫かれる。
それだけで声は封じられ。
二つの命が終わる。
「ふふ……幽霊、おばけ、ね。この世のものならぬ美しさだなんて。海兵にしてはわかってるじゃない」
軽く手首をひねり、念入りにトドメを刺しつつ。
幼女――クロネコはにっこりと微笑みかけた。
「だから、痛くないように始末してあげたわ。感謝してね?」
小さな体にアンバランスな……身長ほどもある十の刀がついた手袋。
C・クロの時代から愛用してきた“猫の手”。
手袋部分だけリサイズしたそれ――己の体重より重い武器を、細腕と小さな指が難なく扱っている。
力は変わっていない。
クロネコは上機嫌で、二人の兵の喉から刃を引き抜いた。
「――」
「――」
もはや二人は声をあげもせず。
喉から噴水のように血を噴き出しながら倒れた。
「幼女だから仕方ないけど……喉まで手を届かせるのがたいへんね。“月歩”――いえ“差し足”をもっと気軽に使えるように鍛えるべきかしら」
海兵のベルトから、鍵を奪い。
正門の横にあるドアを開いた。
「でも、悪くない。思っていた以上に動けるわ」
試してみた限り、変わったのはウェイトと間合い。
筋力や耐久力は以前のまま。
スピードと器用さはむしろ上昇している。
股間の余計なものがなくなり、バランスも安定。
視力も格段に上昇して、メガネも不要。
かつて以上の速度で……範囲を調整した“杓死”ができそうだ。
不安も多いが、だからこそ己を目覚めさせるきっかけにできる。
「さあ。敵は名高い英雄。悪魔の実の能力者。私を“覚醒”させてくれると、信じてるわよ?」
わずかな不安を笑みで抑え。
世界を幼女で覆う夢を、小さな胸に抱えて。
その夜。
プリケツ要塞に、一匹の黒猫が忍び込んだ。
不完全な“月歩”が可能に。
全員通常ジャンプしかできない格ゲーで、一人だけ二段~三段ジャンプ(しかも着地までの任意タイミングでできる)を使えるようなもの。対対空アドバンテージは大きい。
海に突き落とされても、脚が使えれば空中を踏み場にしてジャンプで戻れる。
本格的な修行をすればもう少し伸びるかも。
とはいえ地味な強化なんで、そこまで一気に強くなってません。
間合いが短くなった代わり、当たり判定が減ったので今回は当人的に馴らし運転。
そんなピンチの中でこそ“覚醒”するかもという期待で行動してます。
プリンプリン大佐(原作では准将)はアーロンのかませに出た人。
原作3年前ってことで、准将ではなく大佐としました。
精鋭なんだし、能力者にしました。
能力者でも普通にやられる倒され方でしたしね。
アーロンが「新顔」とか言ってたのは詳細不明なんだしスルーします。
プリケツ要塞は当然ながら、オリジナルです。