既に周囲は瓦礫の山。
プリンプリン大佐の尻が打ち付けられるごと。
次々と破壊される壁が、無数の石弾と化してクロネコに降り注ぐ。
とはいえ、最初の一回以後はほぼ被弾していない。
「…………」
飛び交う瓦礫の中で集中力を高め、“抜き足”で大きな瓦礫へと飛び乗る。
かつての視力では厳しかったが……今の動体視力ならば可能。
虚空を蹴る“月歩”の応用だ。
瓦礫という足場を使う発想さえ出れば。
そのままさらに跳躍し、上空へと逃れる。
瓦礫を足場に、疑似“月歩”で空を駆けて着地する。
「その幼さでたいした体術だ――
「ッ……随分と気前よく、壊すわねッ!!」
着地にタイミングを合わせた突進。
容易に避けられる、が。
また兵舎の壁が粉砕され、瓦礫と化し飛び散る。
息をつく暇もなく、再び瓦礫に跳ぶしかない。
「この要塞の真価は壁ではない……兵たちだ!! 彼らを害したキミを倒すためならば、更地にしてもかまわんッ!!!!」
「理解に苦しむわ。兵なんて指揮官のコマじゃない。あなたの命令通りに動いて、あなたの手柄のために死ぬ。それが海軍の一船の在り方ってものでしょ?」
煽るように言いながらの着地。
「どうやら議論は無駄らしいな!!」
「またッ……!」
再びの突進。
同じ攻防が繰り返される。
体格で見れば体力勝負において、クロネコに勝ち目はない……ように見える。
しかし、クロネコの体力は“キャプテン・クロ”のまま。
最大で半日は“杓死”を続け、街一つを皆殺しにすらできる体力だ。
一見追い詰められているように見える状況も、すべては計画通り。
(……とはいえ、困ったわね)
跳躍にも慣れてきたが。
こんな詰め将棋じみた戦いでは、能力の覚醒などできまい。
目的のためには、もっと死線をくぐる必要がある。
「他の支部の応援が来るまで、粘ってみる? こっちはあなたの相手をやめて、逃げた海兵を追いかけてもいいのよ?」
飛散する瓦礫を避けながら、プリンプリン大佐を頭上から煽ってみる。
月光を背負ったクロネコのスカートの中は、真下からでも見えない!
「見え透いた挑発だな……だが、確かにこれでは埒が明かんらしい」
プリンプリン大佐が睨む。
時間は彼の味方だろうが。
海兵には多数の犠牲者が出ている。
クロネコが大佐を放置して殺戮を優先すれば……スピードの差は致命的だ。
止めることは困難。
プリケツ要塞の海兵すべて皆殺しもありうる。
正義の英雄プリンプリンは、そんな可能性を看過できない。
「体力比べは望まないというわけだ……いいだろう。ケツ着をつけてやる」
「その能力で、体当たり以上の何ができるのかしら?」
体力では不利と誤解を与えつつ。
別の技を見せるよう煽る。
悪魔の実の可能性を知ることは……クロネコにとっても重要だ。
たとえ“裏”であろうと、クロネコ自身もまた能力者に違いないのだから。
「ならば見たまえ――
ぼこり、とプリンプリン大佐の胸が膨らみ。
さらに膨らんで……シャツがはじけ飛ぶ。
その胸元からは豊かな肉の双丘――尻が現れる!
「?」
無意味に思える行動に、首をかしげるクロネコ。
だが次の瞬間。
その尻の上にさらに尻が!
その上にさらに尻!
さらに尻!
尻の上に尻また尻!
クロネコとの間合いが。
次々と生まれる尻が二人の間を埋める!
「体からしか尻は出せんが……尻の上には尻を出せる! この
「――いや、こんなの当たるわけないじゃない」
ぼこんぼこんと連なって迫る尻は、たいした速度ではない。
絶対に触れたくはないし、踏めば足を挟まれそうなので十分に距離をとりながら……あっさりと避けるクロネコ。
自重で半ば垂れつつ、数十の連尻が壁――の根元にぼてんと当たる。
破壊力もない。
「そうかね」
ギラリと、プリンプリン大佐の目が光った。
つながった尻が壁に当たると同時に、彼が走る。
前へ!
「尻は人体で最も弾力に優れた部位!」
そんな尻の弾力が数十も重なり。
足裏を尻に変えての助走の勢いが加わって!
跳躍すれば……!
「尻こそが人を高みへと至らせる!!!」
2メートルを超えるプリンプリン大佐の肉体を、天高く跳ね上がらせるに十分。
そう
飛翔とも呼べる超高度への跳躍を可能とする技!!!!
今、プリンプリン大佐の体は、要塞の壁を遥かに超える!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その姿は月光に照らされて。
「うわッ、なんだいあれは」
「変なのが空に飛び出しやがった!」
「あれが悪魔の実の能力かァ?」
要塞正面を見張っていたナズーリンとニャーバン兄弟の目にも映る。
ぼこぼこと、いびつな玉をつないだような先端に大きな影があった。
なだらかな曲線を見せるプリケツ要塞のシルエットと重なってそれは……。
(((アナルビーズ引っこ抜いたみたいな光景だな……)))
三人に同じ感想を抱かせた。
(とか言ったら、私に使われかねんな)
(とか言ったら、SM趣味がバレちまう)
(とか言ったら、使ってるってバレる……)
口にしなかった理由は三者三様であったが。
「ん? 空で何か……」
次に起きた異変的光景の前には、些細なことだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なるほど。弾力も加えた棒高跳びってわけね。面白い応用だけど……それでどうやって勝つつもり?」
クロネコは冷静に分析していた。
プリンプリン大佐は跳躍と同時に能力を解除。
重量も減らし、点にしか見えぬ高度まで至っている。
「尻だけでその跳躍は確かにびっくりだけど。後は落ちてくるしかないでしょうに」
首をかしげ見上げる。
確かに高所をとれば有利だが。
遠距離攻撃手段もなく、クロネコのスピードに対応できなければ同じこと。
しかし。
点にしか見えなかった上空のプリンプリン大佐が、突然に膨らんだ。
空中で彼の服がすべてはじけ飛ぶ。
「……!?」
さらに膨らむ!
そして膨らみながら落ちてくる!
月光を隠すほどの巨影!
落下によってそれは近づき、詳細が見え始める!
「これは全てを砕く鉄槌! 誰もが目をそらせぬ高ケツなる星!!」
プリンプリン大佐のくぐもった声が響く!
そう、彼は全身から尻を出し、さらに尻を出して。
無数の尻でできた巨大な球体と化していた!!!!
「なによこれ……」
実際の大きさはそれほどでもないのだが。
クロネコの目には訓練場の空を覆わんばかりの尻!
尻! 尻! 尻!
尻が七で空が三!
月が見えない!
あまりに非常識すぎる光景が、クロネコを呆然とさせ!
その足を止めさせた!
「天狼星――
「ぐ!!!!」
天から落ちた
強烈な衝撃で辺りを揺らし!
クレーターを生み出し!
クロネコを吹き飛ばす!
「結局、体当たりじゃな……いいッ!?」
しかし直撃はしていない。
壁に足を付き、ダメージを殺す。
文句を言う余裕もあった。
だが、落下激突した尻は……まだ終わっていない!
尻は弾力ゆえに跳ねるのだ!
「
「くッ!! な、この状態でも……!」
そしてさらに激突!!!!
咄嗟に切り払おうとしたクロネコの“猫の手”が。
無数の尻肉で挟まれ奪われる!
さらに跳ねるそれを避けるには、武器を諦めるしかない!
「
そのまま次々と壁を粉砕!
屋根を粉砕!
地面に激突!
「はぁあああああ!!!!
先刻の体当たりとはケタ違いのスピードと破壊力!
しかも跳ね返るごとに回転も加わり破壊力を増していく!
大砲以上の破壊力を持つ、まさに“肉弾”!!!!
「思った以上に凶悪な能力ね!」
武器を失ったクロネコは、回避に専念するしかない。
幸いにも避けるのは難しくないが。
大佐の激突ごとに足元は瓦礫に覆われ、クレーターが生まれる。
クロネコの“抜き足”は動体視力の限界ゆえ、足場の悪い場所では性能が極端に悪くなる。“猫の手”があれば、先にあるものを切り払いながら移動できるが……。今は両手の武器も失った状態。
足元の確認に意識を割かねばならない!
「っぐ!」
しかも、かするだけでクロネコの体は吹き飛ばされる。
「くぅ!」
瓦礫も降り注ぎ続ける瓦礫も、先の比ではない。
黒いゴスロリドレスは砂塵に汚れ。
そこかしこに瓦礫の散弾を受け。
衝撃により生地も引き裂かれていく!
「どうやら……私も、覚悟が必要みたい、ね」
思いついてはいたが。
その手段を選びたくはなかった。
しかしもはや、余裕はない。
飛び交う尻の塊は、確実にクロネコを追い詰めている!
迷いを捨て。
散らばり降り注ぐ瓦礫に目を走らせる。
「あった!」
クロネコは海兵のものだろう武器を拾い、構える。
「さあ、手を汚す覚悟はしたわ。来なさいな」
巨大な肉弾と化したプリンプリン大佐に聞こえるはずもないが。
呼応するかのように、クロネコの正面から無数の尻が迫る!
「尻で覆えば安全? そんなわけないでしょ」
クロネコは冷たい目でそれを見据え。
武器を構える。
強固な筋肉でも覆われたそれは、たやすく“そこ”を見せないが。
「工夫すれば、どんな山でも切り崩すことはできる……!」
ぐぐぐ、と足元に力を込めて。
目に見えぬ速度で地面を蹴りつけ。
移動ではなく跳躍の“抜き足”。
それも上ではない!
迫る尻に自ら向かう跳躍!!
跳躍中の“月歩”で再跳躍!
さらなる“月歩”での二重加速!
決して目をそらさず!
尻を凝視し!!
迫る尻へと、腰と肩と腕と手首全てを使って一撃を繰り出す!
ただの一撃ではない。
クロネコが拾った武器は槍。
突きに特化した鋭い穂先を持つ棒!
それは尻の中央を狙う!
強固な尻肉に守られた、尻ゆえの弱点!!
プリンプリン大佐が紳士ゆえ使わなかった、尻の重要箇所!!
そこへクロネコの体重×三重加速×全筋力の一撃が叩きこまれる!!!!
「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
汚い悲鳴!
一撃がプリンプリン大佐の“
デリケートポイントを貫いたのだ!!
大佐の能力がダメージにより解除されんとするが。
それより早く。
「ただ止めるための攻撃じゃない!」
ドゥン、と。
槍でそこを貫いたまま、さらなる“月歩”!!!!
「がああああああああああああああああ!!!!」
槍がさらに沈み込む!
体のどこに作られた尻であろうと!
本体の尻である限り、それはつながっている!!
当人の直腸に!!!!
そしてもはや穂先は直腸を超え、胃にも届かんばかり!
幼女の小さく白い清らかな手が、その入り口に触れる!
しかし止まらない!!!!
「私は覚悟をしたの……手を汚す、覚悟を!!!!」
「ぐぼっ! ごぼっ!!」
その細い手首が尻の中に飲み込まれる。
プリンプリン大佐が血を吐きながら、必死に力む。
能力は解除され、増えていた尻は消える。
だがそれでも既に貫かれている!
彼自身の尻が!
強靭な括約筋が、裂かれつつもクロネコの腕をへし折らんとするが。
クロネコは敢えて、さらにねじ込んでいく!
「ぎゃああああああああああああああ!!!!」
絶叫!
ゴスロリドレスの黒い袖に包まれた、幼い愛らしい手がねじ込まれる!
肘までも!
肩はすでに彼の尻肉に押し付けられている状態!
「ぐぉ……ごぼ……お、ごぉ」
ついに穂先は心臓に至り。
イーストブルーの英雄、プリンプリン大佐は絶命した。
「っく……体格差上仕方なかったとはいえ……腕の骨は、どうにか大丈夫そうね」
ずるり……ぬちゅぅ、と。
いやな音を立てながら腸液と血にまみれた手を抜く。
「はぁ……かなりの死闘だったけど。覚醒した実感はなし、か」
深々と溜息をつく。
そして、ふらふらと歩き始める。
「まずは手を洗って……“猫の手”を回収して……」
振り向くことなく。
手の臭いを嗅いだりもせず。
「皆殺し再開、ね」
明けぬ夜の中。
プリケツ要塞における殺戮が再開される。
槍の柄を尻から生やす、全裸の骸を後に残して。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そしてその頃。
みさき(元ジャンゴ)のいる裏口では。
今の死闘以上に恐るべき事態が発生していた。
尻尻って書き続けるこの戦いを、さらに続けるのはイヤだったので。
今回でどうにか終わらせました。
●尻木霊(しりこだま)
尻から尻を生やす。反応の鈍い相手なら、一応遠距離攻撃にもなる。
上空から使ってヒップスタンプも可。
脱力して弾力重視にすれば、超反動でジャンプしたり高速移動したりもできる。
●尻臼(シリウス)
全身から尻を生やし、さらに尻を生やし……と巨大な尻の塊になって落下する。
体当たりだけど範囲攻撃。
●男尻祭(だんじりまつり)
尻臼からのコンボ技。
尻の弾力でスーパーボール状態になって飛び回り、周囲を破壊する。
ただし視界が一切効かないので“杓死”と同じ無差別攻撃。
尻刃取りは鍛錬により、反応速度の範囲内なら反射的にできる。
威力強すぎて海上で使えないし、部下も巻き込んでしまうので禁じ手技。
今回みたいに瓦礫を生み出せる市街地等で、多対一ならクソ強い。