「これがロリロリの実だ」   作:神谷涼

3 / 14
「これは……その事情があってよ……!!」

「ハッ……ゆ、夢か!」

 

 べったりと脂汗をにじませながら、ジャンゴは跳び起きた。

 知っている天井。

 変わりない船室。

 安心感ある寝台。

 海賊船の中とはいえ……いつもと同じ日常。

 

「ハーッ……ハーッ……はは、はっはっは……悪い夢だ。途中で気づいたぜ。キャプテン・クロがあんな変態のはずがねェ」

 

 まだ体の震えが止まらない。

 胃が痛い。

 まるであの夢が事実だったように、胃が痛む。

 気のせいに違いないと、己に言い聞かせる。

 

「貧相なオッサンが、絵にかいたような美少女に変わるなんてありえねェ……あっちゃいけねェんだ……」

 

 掌で顔を押さえながら、呼吸を整える。

 

「しかし……夢に見るとは、あれが俺の好みかァ? 確かにかわいかったが、俺の好みはもっと出るトコ出た女だろうがよ」

 

 未だ記憶にはっきりと残る、ネズミ耳美少女を思い出しながら。

 ようやく軽口を叩ける精神状態になった。

 と。

 扉がノックされる。

 

「ジャンゴ、俺だ」

「お、おう、起きてるぜ」

 

 目を擦りながら、反射的に答えていた。

 しかし、悪夢の衝撃から覚めきっていないのだろう。

 いつものサングラスも付け忘れたまま、寝台から起き上がろうとする。

 それより早く、扉が開いた。

 

「寝とけ。補給できねェからって妙なモンでも食ったのか? 急に腹ァ押さえて倒れやがって」

「す、すまねェ」

「起きなくていい。まァ、最近は野郎どもの手綱もお前に任せっきりだ……無理させすぎたかもしれねェ。しっかり休め」

 

 多少なりと知恵が回れば。

 C・クロはこんなことを言う人間ではないと、即座に気づいたろう。

 だが、ジャンゴは己自身の催眠術にもかかってしまう程度に単純な人間。

 

「あァ、休んだ分は働いてみせる……」

「とにかく今は、体を持ち直せ。船倉の奥にあったワインだ。飲み過ぎんなよ」

「お、おう……って、俺が隠してたワインじゃねーか!!」

「副船長がコソコソしたマネするんじゃねェ」

 

 ギロリと冷酷な目が向けられる。

 

「……あ……いや!! これは……その事情があってよ……!!」

「まァいい……説教は回復後だ。コックも心配してたぜ……生ハムをフルーツに乗せてきた。ワインに合うらしいな」

「おォ! うまそうじゃねェか!」

 

 ワインのコルクを噛み、引き抜いて。

 瓶から直接飲みながら、生ハムフルーツを手づかみで食う。

 荒れた胃には、しみいる味だ。

 

「ははは、慌てて喉つまらすんじゃねェぞ」

「うめェ! なんだこりゃァ! こんなうめェフルーツ、食ったことねェ!」

「大げさな野郎だ」

 

 C・クロが苦笑する。

 いや……ニヤニヤと笑っているが。

 ジャンゴは気づかない。

 

「すげェ、食うだけで腹の痛みも治って、活力がわいて……あれ? 手が……?」

 

 指の長いゴツゴツした――海賊ジャンゴの手ではない。

 白い、すべすべとした柔らかく美しい手。

 

「計画ってのは慎重に、時間をかけてじっくりやるのが俺の性分だ」

「は? なんだって? え? C・クロ、背が伸びてねェか?」

 

 目の前にいるC・クロの背がひどく高くなったように思う。

 いや、それ以外にも違和感がある。

 この声は、ジャンゴ自身の声ではない。

 

「だが、本当に頭のいいヤツってのは、拙速と巧遅を使い分けるモンだ。俺の計画も今は、拙速が大事なタイミングなのさ」

「え……俺の声? 喉がおかしくなったのか……ん? なんか体が……」

 

 C・クロの言葉もろくに耳に入らない。

 

「ジャンゴ、お前は大事な人材(コマ)だ。催眠術の使い手なんざ、そう簡単に見つかりゃしねェ」

「C・クロ……今、俺が食ったフルーツってのは……まさか……」

 

 既に目の前の船長の顔に浮かぶ、歪んだ笑み。

 己の胸についた、ありえない柔らかな二つの果実。

 

「お前が食ったのは“ビッチビッチの実”。男の欲望をそそる美女に変わる実だ……俺にとっちゃ大ハズレだが、お前にゃ悪くねェ体だろ?」

「ッ!!!!」

 

 飛び起き、C・クロを押しのける。

 2メートル以上あった身長が……明らかに縮んでいる。

 いつものシャツは大きすぎ、ズボンも下着も起きるだけでずり落ちた。

 

「おいおい、はしゃぐなよ」

 

 押しのけられても、C・クロはニヤニヤと笑いながら許した。

 元ダンサーのジャンゴにとって、全身を映す姿見は必須家具。

 そこに映るのは……。

 あの顎の突起も、ハート型の目もない。

 大きなぶかぶかのシャツだけをまとった美女の姿。

 

 身長は170程度だろうか。

 白く傷ひとつない、柔らかな肌。

 シャツを持ち上げる大きな乳房。

 シャツをめくりあげる大きな尻。

 やたらと軽く寂しくなった股間。

 腰まで伸びる美しい金髪……。

 

「な……!!!」

「安心しろ、あのネズミ野郎……いや、ナズーリンは実を食った後も、しっかりダウジングができてたんだ。お前の催眠術だって、まず問題ねェ」

 

 美少女と言うよりも美女と呼ぶべき姿になった体は、呆然と見るジャンゴに。

 C・クロは慰めにもならない言葉をかける。

 鏡の中からはキラキラした十字型の光を持つ瞳が見つめ返すのみ。

 

「あ……あ……お、俺の目がシイタケになっちまったァ――!!!!」

「そこかよ」

 

 この世界の一般的美人がレベル1とすればレべル5はありそうな美女が天を仰ぎ、絶叫したのだった。

 




短いけどちょうどいいトコなんで、今回はここまで。
生ハムのっけて食わせるとか、ワンピをどこまで読み返したかバレバレやな……。

TS第二号
ジャンゴ→食蜂操祈(とあるシリーズ)CV.浅倉杏美

能力上、ジャンゴを操祈に変えるのが本作最初に思いついたTSでした。
ただ、単行本派なんでずっとジャンゴ金髪だと思ってたけど、よく調べたら銀髪……?
でもアニメ絵とかだと黄色っぽい時も多いし……どっちなんだ?

操祈をビッチとするのは問題ある気もしますが、それっぽい外見だし……いい呼称が思いつかなかったので……! 外見だけ……外見だけだから!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。