「ハッ……ゆ、夢か!」
べったりと脂汗をにじませながら、ジャンゴは跳び起きた。
知っている天井。
変わりない船室。
安心感ある寝台。
海賊船の中とはいえ……いつもと同じ日常。
「ハーッ……ハーッ……はは、はっはっは……悪い夢だ。途中で気づいたぜ。キャプテン・クロがあんな変態のはずがねェ」
まだ体の震えが止まらない。
胃が痛い。
まるであの夢が事実だったように、胃が痛む。
気のせいに違いないと、己に言い聞かせる。
「貧相なオッサンが、絵にかいたような美少女に変わるなんてありえねェ……あっちゃいけねェんだ……」
掌で顔を押さえながら、呼吸を整える。
「しかし……夢に見るとは、あれが俺の好みかァ? 確かにかわいかったが、俺の好みはもっと出るトコ出た女だろうがよ」
未だ記憶にはっきりと残る、ネズミ耳美少女を思い出しながら。
ようやく軽口を叩ける精神状態になった。
と。
扉がノックされる。
「ジャンゴ、俺だ」
「お、おう、起きてるぜ」
目を擦りながら、反射的に答えていた。
しかし、悪夢の衝撃から覚めきっていないのだろう。
いつものサングラスも付け忘れたまま、寝台から起き上がろうとする。
それより早く、扉が開いた。
「寝とけ。補給できねェからって妙なモンでも食ったのか? 急に腹ァ押さえて倒れやがって」
「す、すまねェ」
「起きなくていい。まァ、最近は野郎どもの手綱もお前に任せっきりだ……無理させすぎたかもしれねェ。しっかり休め」
多少なりと知恵が回れば。
C・クロはこんなことを言う人間ではないと、即座に気づいたろう。
だが、ジャンゴは己自身の催眠術にもかかってしまう程度に単純な人間。
「あァ、休んだ分は働いてみせる……」
「とにかく今は、体を持ち直せ。船倉の奥にあったワインだ。飲み過ぎんなよ」
「お、おう……って、俺が隠してたワインじゃねーか!!」
「副船長がコソコソしたマネするんじゃねェ」
ギロリと冷酷な目が向けられる。
「……あ……いや!! これは……その事情があってよ……!!」
「まァいい……説教は回復後だ。コックも心配してたぜ……生ハムをフルーツに乗せてきた。ワインに合うらしいな」
「おォ! うまそうじゃねェか!」
ワインのコルクを噛み、引き抜いて。
瓶から直接飲みながら、生ハムフルーツを手づかみで食う。
荒れた胃には、しみいる味だ。
「ははは、慌てて喉つまらすんじゃねェぞ」
「うめェ! なんだこりゃァ! こんなうめェフルーツ、食ったことねェ!」
「大げさな野郎だ」
C・クロが苦笑する。
いや……ニヤニヤと笑っているが。
ジャンゴは気づかない。
「すげェ、食うだけで腹の痛みも治って、活力がわいて……あれ? 手が……?」
指の長いゴツゴツした――海賊ジャンゴの手ではない。
白い、すべすべとした柔らかく美しい手。
「計画ってのは慎重に、時間をかけてじっくりやるのが俺の性分だ」
「は? なんだって? え? C・クロ、背が伸びてねェか?」
目の前にいるC・クロの背がひどく高くなったように思う。
いや、それ以外にも違和感がある。
この声は、ジャンゴ自身の声ではない。
「だが、本当に頭のいいヤツってのは、拙速と巧遅を使い分けるモンだ。俺の計画も今は、拙速が大事なタイミングなのさ」
「え……俺の声? 喉がおかしくなったのか……ん? なんか体が……」
C・クロの言葉もろくに耳に入らない。
「ジャンゴ、お前は大事な
「C・クロ……今、俺が食ったフルーツってのは……まさか……」
既に目の前の船長の顔に浮かぶ、歪んだ笑み。
己の胸についた、ありえない柔らかな二つの果実。
「お前が食ったのは“ビッチビッチの実”。男の欲望をそそる美女に変わる実だ……俺にとっちゃ大ハズレだが、お前にゃ悪くねェ体だろ?」
「ッ!!!!」
飛び起き、C・クロを押しのける。
2メートル以上あった身長が……明らかに縮んでいる。
いつものシャツは大きすぎ、ズボンも下着も起きるだけでずり落ちた。
「おいおい、はしゃぐなよ」
押しのけられても、C・クロはニヤニヤと笑いながら許した。
元ダンサーのジャンゴにとって、全身を映す姿見は必須家具。
そこに映るのは……。
あの顎の突起も、ハート型の目もない。
大きなぶかぶかのシャツだけをまとった美女の姿。
身長は170程度だろうか。
白く傷ひとつない、柔らかな肌。
シャツを持ち上げる大きな乳房。
シャツをめくりあげる大きな尻。
やたらと軽く寂しくなった股間。
腰まで伸びる美しい金髪……。
「な……!!!」
「安心しろ、あのネズミ野郎……いや、ナズーリンは実を食った後も、しっかりダウジングができてたんだ。お前の催眠術だって、まず問題ねェ」
美少女と言うよりも美女と呼ぶべき姿になった体は、呆然と見るジャンゴに。
C・クロは慰めにもならない言葉をかける。
鏡の中からはキラキラした十字型の光を持つ瞳が見つめ返すのみ。
「あ……あ……お、俺の目がシイタケになっちまったァ――!!!!」
「そこかよ」
この世界の一般的美人がレベル1とすればレべル5はありそうな美女が天を仰ぎ、絶叫したのだった。
短いけどちょうどいいトコなんで、今回はここまで。
生ハムのっけて食わせるとか、ワンピをどこまで読み返したかバレバレやな……。
TS第二号
ジャンゴ→食蜂操祈(とあるシリーズ)CV.浅倉杏美
能力上、ジャンゴを操祈に変えるのが本作最初に思いついたTSでした。
ただ、単行本派なんでずっとジャンゴ金髪だと思ってたけど、よく調べたら銀髪……?
でもアニメ絵とかだと黄色っぽい時も多いし……どっちなんだ?
操祈をビッチとするのは問題ある気もしますが、それっぽい外見だし……いい呼称が思いつかなかったので……! 外見だけ……外見だけだから!