深夜。
わずかな夜番を除いて、いつもなら寝静まっている時間だが。
今宵の甲板には全ての船員が集まっている。
それは海軍船から奪った物資による宴であり。
先ほど起きたありえぬ出来事を確認するためであり。
また、逆らってはならぬ船長からの命令ゆえでもあった。
そして、そこには。
「何度見ても、あの貧相なオッサンには見えねェ」
「船長の速さでガキと入れ替えて見せたんじゃ……」
「バカ! 海軍船にこんな上玉のガキが乗ってる方がおかしいだろ!」
「そうだぜ。着替えてくる前は確かに海軍将校の服をかぶってたんだ」
ネズミ耳尻尾の美少女が、あらくれ海賊どもに囲まれていた。
「クッ……み、見るな……!」
大佐ネズミ改め、ナズーリンである。
今はサイズの合わない海軍の服でなく。
愛らしい少女趣味の服装に着替えている。
すべてはこの日のために備えられたキャプテン・クロの計画……!
そう、彼自身がロリ化した時のためのコレクション……!
C・クロのこだわりぬいたロリ衣装談議と着せ替えに付き合わされ、ナズーリンの心はさらに折られた。
「クゥ~~、なぜ私がスカートなどぉ……!」
大佐ネズミ改めナズーリンは、足元の寂しさに不安を覚えながら己の身を抱きしめる。
ライトグレーに金縁のケープ。
白いシャツ。
黒いベストとスカート。
スカートの裾に飾り付けのように開いた穴は、月下でも白い足をチラチラと見せる。
靴下は足首の少し上までしかない。覗くのは生足。
しかも服に穴などないため、ネズミ尻尾はスカートの裾から伸びている。
感情に合わせて動く尻尾は、ぴくぴくと跳ねて裾を持ち上げ。
ナズーリンの白い膝裏を露にするのだ。
油断すれば下着に包まれた尻まで露にしかねない。
「尻尾と耳も本物みたいだぜ」
「おお、ネズミの尻尾って感じだな」
「さ、さわるなぁ……!」
涙声が、海賊どもをさらに調子づかせる。
しかも奴らは猫耳だ。
元よりナズーリンは猫が苦手だ。
それがネズミ耳になって以来、猫耳に本能的恐怖すら感じる。
海軍に囚われた女海兵がどんな目に合うか、ナズーリンはよく知っている。目障りな女を陥れ、アーロン一味の餌食にしてやったことだってあるのだ。
今、ネズミ――ナズーリンに己の番が来た。
これからどんな目に合うかと思うと、震えが止まらない。
「へへ、男所帯で一週間以上海の上だ……」
「この際、ガキだってかまわねェ!」
「ヒッ!」
酒の勢いもあり、猫耳海賊どもの手がナズーリンに伸ばされる。
が、その時。
「ぐぉ」
「いてェ!!」
突然、彼らの背後に現れた黒い影が、手を出さんとした海賊を蹴り飛ばす。
「……クロネコ海賊団も落ちたもんだな」
その声を聴き間違える者は、この船にいない。
「キャ、キャプテン・クロ……!」
「幼女に手ェ出してんじゃねェ!!!!」
そう、C・クロである!
船長の怒りを買った者は、この船で死あるのみ!
「YESロリータNOタッチという常識も知らねェのかァ!!」
「ヒッ……」
「……うわ……」
「あう…………」
しかし今。
月光を浴びて仁王立ちする船長に。
彼ら(ナズーリン含む)は別の意味で戦慄していた……!!!!
「「ぎゃああーーーーーーっ!!!!」」
不意をついて見せられた恐ろしいものに、全員が絶叫した。
飲食中で口の中のモノを噴き出す者。
思わず嘔吐する者と。
甲板はまさに地獄絵図である。
「C・クロ、ななな、なんですか、その格好は……!!」
シャムが勇気をふりしぼって質問する。
「知らねェのか……救えんバカどもが!! これはゴスロリドレスだ!!!!」
ドン!と効果音が聞こえんばかりの堂々たる迫力。
才能が有れば覇王色の覇気が発現したかもしれない。
実際、船員には無力化された者も少なくない……!
「い、いや……そうじゃなくて、ですね」
衣装についてはニャーバン兄弟も相当ユニークである。
船長が女装したからと、取り乱したりしない。
だが。
これはただの女装ではない。
「スネ毛くらい、お前も見せてるだろうが」
「いえ、その……」
「ああ、あう……C・クロ……へそが」
震え声でブチも指摘した。
かなり控えめで遠回しな、気遣いのこもった指摘である。
「お前なんざ上半身裸じゃねェか」
「け、けどよ……C・クロ」
「お、おう……だけどよ、C・クロ……サイズが……!!!!」
今、C・クロの体を包むのはレースのついた漆黒のゴスロリドレス!
しかしそのサイズはあくまで名前の通り、ロリ……!
C・クロは細身とはいえ2メートルを超える長身!
その上半身ははちきれんばかりであり!
丈が足りずにへそが見え!
スカートは腰蓑の如く広がり!
スネ毛の生えた長い足が露出され!
下着もつけておらず、見えてはいけないもののシルエットがチラチラと見えていた!
そして当人は真顔である!
「ククク……そのネズミ野郎……ナズーリンの変身を見ただろう」
「そりゃ、見やしたが……」
ナズーリンに視線が集まる。
酷いものを見た後の美少女は、たとえ元おっさんとわかっていても清涼剤であった。
「悪魔の実は服まで変えてくれねェ……俺はこれから同じような悪魔の実を食う」
「は、はぁ……」
なぜと聞くにはC・クロの衣装は本気に過ぎた。
だが、彼がこれから美少女に変わるとして。
その衣装で手下の前に現れる必要があったのだろうか。
少なくともここにいる一同に、同じ姿で人前に姿を見せる度胸のある者はいない。
「こ、このネズミに手は出さねェから……船長室に戻られちゃ……」
「お、おう。“船の番人”として、こいつは守る」
ニャーバン兄弟必死の説得!
これ以上いろんな意味で見たくないのだ!
「きゃ、C・クロ! 俺はもうこのガキに手なんて出しませんから、ゆっくりしてください!」
「俺だって手をださねェよ! C・クロ、どうか!」
「お、俺も!!」
「俺もだ!!」
船員たちも必死である。
どうせなら美少女になってから姿を見せてほしい。
「確かに俺だって人生の一大転機だ。しっかり一人で確認してェ」
ほっ……と全員が安堵の溜息をつく。
しかし。
この船長には人の心がわからないのだ。
「何、そうガッカリするこたねェ。お前たちには俺の生まれ変わる瞬間を特等席で見せてやる!!」
(((見たくねェ~~~~!!!!)))
内心のツッコミを、全員が飲み込んだ。
沈黙が甲板を支配する。
キィ……と扉の開く音がひどく大きく聞こえる。
特徴的な後ろ向きの歩き方で。
身長よりも大きな何かを抱えた人物が出てきた。
「何を期待してやがるてめェら……」
暗がりゆえ、言葉と歩き方で全員がその人物を判断する。
「ジャンゴ副船長!」
「副船長からも何か言ってくださいよ!」
その声や身長の違和感に気づけない。
その人物が、暗がりから月明かりの下に現れる。
「その男のロリコンは真正。俺たちはこの“儀式”から逃れられやしねェんだ」
「おいおい褒めるなよジャンゴ……いや“みさき”って名前にしたんだったか?」
ゴスロリドレスのC・クロが声をかけるのは。
船の誰も……人生の中ですら見たことのない金髪美女。
「「褒めてねェ……って、美女だァーーーー!!!!」」
船長の惨状に馴れつつあった船員らが、鼻血を噴き出す。
男の欲望を体現したような美女である。
しかもその体を包むのは……。
サイズが合わず、ぱつんぱつんになった体操服とブルマであった!
C・クロと同じくへそが見え、ブルマはローライズ状態。
大きな乳房と尻に食い込んで肉がはみ出している。
「てめェら見るんじゃねェ!!」
抱えていた姿見の鏡を、慌てて甲板室の外壁に立てかけ。
ジャンゴ――みさきが体を手で隠す。
そうするだけでも、むちぃ♡みちっ♡と手で押しつぶされた肉がいやらしく形を変え。
服は食い込み、淫肉を強調した。
一挙一動の効果音に「♡」がつくほどのフェロモン。
「マジか……この美女がジャンゴ副船長だと……」
「すげェ! こんなエロい女見たことねェ!」
「副船長やべェよ!」
露骨な欲望の視線。
みさきは、本能的危機感でC・クロの背後に身を隠した。
両者の外見が相殺。
船員たちはスン……と一瞬で欲情を鎮静化させる。
「おい、やっぱ普通の服を無理に着た方がよかったんじゃねェのか!」
「お前が俺の出したコレクションを着たんだろうが。みっともねェ体しやがって」
「「ええぇ……」」
ジャンゴだった時と変わらぬ口調の美女みさき。
その豊乳がC・クロの背中に押し当てられ、むにゅぅ♡と見ているだけで股間に悪い形に押しつぶされているというのに。
当てられている当のC・クロは不快気に眉を寄せるだけだった。
(我らが船長ながら寒気がするロリコンだぜ)
(まったくだ。元がジャンゴ副船長とはいえ、ただの女じゃねェんだぜ……)
ついさっきの海軍戦での戦いと似て非なる評価を囁き合うニャーバン兄弟は、まさに船員たちの総意を代弁していた。
そんな空気を知ってか知らずか。
「まァいい……ジャンゴ――いや、みさき。姿見を置いたなら、離れとけ」
邪険に、みさきを振り払い。
懐からどろりと蜜を垂らす果実を取り出す。
「愚かなクソ野郎の海賊キャプテン・クロは今夜死ぬ」
本当に死なねェかな……と全員考えていたのは間違いない。
「ついに俺は一人の幼女として生まれ変わる……!!!!」
手の中のピンク色の果実。
狂気にメガネを光らせながら。
三日月に照らされる長身の……股間に隠しきれないものをぶらつかせる影が。
ついに口にした!!!!
C・クロのロリ化後について、決めかねたせいで遅くなりました。
しかも今回ではロリ化までいかず!
ジャンゴを「操祈」と名乗らせるのはさすがにアレなので。
ワンピースっぽく、「みさき」と名乗ります。