登場人物と関係ないセリフもタイトルに使い始めます。
――7年前
夜明け。
ある島の町長の屋敷――の寝室。
「なるほど。確かに才能はあるじゃねェか」
フーズ・フーは目の前の光景に瞠目した。
「お褒めに預かり光栄です」
クロの前には、つい先刻まで一行を歓待していた町長――つまり彼の父が血を流し、倒れている。
実の子であるクロが、その手で殺したのだ。
「お前は俺たちみてェに、ガキの頃からそうあれかしと育てられたわけじゃねェ。そこそこ恵まれた生まれ、恵まれた親、恵まれた環境……なのに、俺たちの一言であっさり親を殺しやがった」
「このような辺鄙な島を補給に使われた以上、覚悟しておりました」
窓から見えるは無数の悲鳴と怒声、燃え盛る家々。
早朝、船から出てきた諜報員たちが町を襲った。
彼らはCP9の末端エージェント。
極秘任務に関わる者として……元より補給地を島もろとも消す予定だったのだ。
「ハハハ!! なるほど、船に誘われなきゃ逃げるつもりだったか」
「外の手伝いは不要でしょうか?」
クロは冷たい表情のままだ。
「まさに天然のバケモノだなァ、クロ! だが、表に出るのは止めとけ! お前が船に乗るなんて知らねェ奴も多い。巻き添えで殺されたかァないだろ……?」
「お気遣いありがとうございます」
完璧な執事の所作で、びしりと礼を返す。
「おーおー、出世しそうじゃねェか。さて……今、この島は不幸にも凶悪な海賊に襲われてる。海軍への通報もなぜかうまく通じねェ」
「……屋敷の財産を持ちだして参ります」
「キレイに持ち出すんじゃねェぞ。なるべく荒っぽく、関係ない家具も荒せ」
「承知いたしました」
素早く――フーズ・フーの目にも速く、クロは身を翻し。
音もなく、部屋を去る。
たちまちそこかしこの部屋で次々と家具を壊し、引き出しがぶちまけられ、ナイフがあちこちを抉る音が響く。
「……いくつか六式の素地もできてやがる。なるほど気も回るし、命令にゃ従順。六式が使えるだけのバカより、よほど使えそうじゃねェか」
口笛を吹いて、クロへの評価を高める。
何人かのクセが強すぎる同僚たちを思い浮かべながら……。
「さて、俺もうかうかしてられねェ。いらん気遣いだろうが……先輩なりの手向けだ。息子のいねェ内に、それっぽく仕上げてやらァ『嵐脚』――“乱”!!!!」
フーズ・フーの超高速のキックが無数の斬撃を生む。
窓が割れ、部屋中に刀傷がつき。
死体が切り刻まれる。
部屋中に血がまき散らされるが、フーズ・フーには返り血一つない。
寝室内を軽くチェックがてら荒らして。
部屋を出ると……
「よし、あとは部屋の扉を閉めて外から……もう一発ァ!!」
扉に傷が刻まれ、衝撃派で無理やり内側にめり込むように開く。
その後、フーズ・フーは倒れたドアを持ち上げ。
役に立たなくなったドアの鍵をカチャリとかけた。
「これで閉じこもった町長が、バカで凶悪な海賊団に襲われ殺された現場のできあがりだ。キレイに殺しゃいいってモンじゃねェぞ。わかったな?」
「勉強になります」
トランクを両手に、音もなく戻っていたクロに背を向けたまま。
フーズ・フーは先輩らしく言うのだった。
末端工作員による惨劇もあらかた終わる中。
「おや、クロくん。無事に“洗礼”をクリアしたのかね」
「は、おかげさまで!」
船に待つペドフィリアン副長官に、慇懃無礼と見えぬタイミングで礼をする。
害意を持たぬアピールも忘れない。
面従腹背の復讐者のように誤解されては、クロとて困るのだ。
「いやァ、こいつは有望だぜ。あと5年も若けりゃ、俺やルッチにも並べたろうよ」
「ほう……思わぬ拾い物だ。功徳は積んでおくものだねェ」
フーズ・フーの言葉に、副長官はにちゃぁっと下劣な笑みを浮かべる。
「皆様の一員と認められるよう、どうぞご指導ご鞭撻のほどお願いいたします!」
びしっと礼。
「ハハハ! 航海中に戦い方ってモンを教えてやる。殺しに躊躇のねェお前ならすぐ身に着けるだろうよ!」
「相応の教育を受けているなら、書類仕事もできるね? 任務を終えたら、私の担当するそうした仕事もよろしく頼むとしよう……ロリリリリ!!」
願ってもない。
戦闘力を身につけつつ、世界政府の事務職になれば将来は完全安泰だ。
「無論です! 町長の仕事も大半をこなしておりました! 副長官殿の手は煩わせません!」
明らかな喜悦!
彼が親殺しや故郷の滅亡に何のわだかまりも感じていないと、見てわかる表情!
「ロリリリ! キミが私腹を肥やすような人物でないこと、私はよォく知っているとも。しっかり書類仕事をこなしてくれるなら、愛らしい秘書をダースで置いてあげよう」
「まじすか」
崩れるキャラ!
彼が冷酷一辺倒でなく、副長官が掌握する価値観に則って動く人間という証明!
「私も年だ。書類仕事の合間、彼女たちにしてもらう踏み踏みマッサージがなければすぐ腰を痛めてしまう。ああ、もちろん仰向けでしてもらうんだがね」
「まじすか」
「ん? 仰向けでどうやって腰を……」
クロの目に宿るのは、この上ない羨望!
フーズ・フーの一般人的疑問など、二人は気にも留めない!
船の外では未だ町が燃え、悲鳴が響く。
その中には昨夜、副長官を踏みつけた幼女もいるというのに……。
二人には、もはや関係ないのだ!
「世界貴族の奴隷になることに比べれば、私たちの秘書になれれば幸運さ。彼女たちは感謝を込めて我々に奉仕してくれるとも。かくいう私も給金全てを使って30人の秘書を雇っている」
「30人……!」
「ははは、少なく感じたかね。しかし私は人数より質……質よりシチュエーションを重視するんだ。いいものだよ、クロくん。女子小学校のクラス担任というものは……!!!!」
「女子小学校……!!!!」
親を殺し、故郷を目の前で焼かれても表情一つ変えないクロが。
目を見開いて驚愕している!
(有能だと思ったんだがなァ。こいつもこいつで頭おかしいのか……)
フーズ・フーは天竜人や副長官の護衛として鍛えられた、独自の悟りモードで空気に徹する。
なぜ、こんな無惨な状況でアホみたいな会話をしているのか理解できないが。
このテの連中は理解したら負けだと、それなりにベテランの彼は知っていた。
「小学校はいいぞォ! あの『きりーつ』『れーい』『ちゃくせき』に参加するだけで若返る! 先月は私をどう思っているか作文を書かかせて、みんなの前で声に出して読んでもらったんだ」
「な……!」
クロの目は飛び出さんばかり。
口はあまりに開かれ、顎が外れかけている。
(このツラをさっき見せてたら、そのまま始末してたのになァ)
高評価した未来の同僚だが、始末した方がよかったのでは……と思えてならないフーズ・フー。
「照れながら褒めてくれるのもよかったが……嫌悪感を込めて『気持ち悪い!』って言われるのは本当に嬉しかったねェ!!! そんな彼女たちに、マッサージしてもらうのもさ……ロリリリリリ!!!!」
クロの目には、ペドフィリアンが巨大に膨れ上がり巨人と化したように見えた。
「あ……あ……」
圧倒され……受け身すらとれぬまま、仰向けに倒れてしまうクロ。
「お、おい、大丈夫か! え? 覇王色の覇気?」
倒れた口は泡を吹き、目も半ば白目。
意味不明な現象に、慌ててクロを揺さぶるフーズ・フーだが……。
昏倒したかに見えたクロが意識を取り戻した。
「う、ぁ……まいった……デっケェ」
「は? 何が?」
妙に爽やかでキラキラとした少年の目。
「ロリリリ……キミにもできるさ。出世して権力を握ればね……!!」
「これが世界……これが権力……なんて……」
ペドフィリアンが太陽を背に、倒れたクロを見下ろす。
クロの目には、彼が後光を背負って見えた。
感動の涙がポロポロとあふれる。
(わからねェ……こいつ、なんで泣いてんだ? さっき顔色一つ変えずに父親を殺してただろ)
周囲に響く悲鳴。
燃える町は周囲の林も巻き込み、煙で島中をいぶして生き残りを殺す。
出航時には念入りに毒ガスも使われる予定だ。
そんな中で。
目の前の二人は。
「権力者に……俺はなるッ!!」
「その意気だ! 世界政府は出世と権力がすべてだよ!!」
競争相手を蹴落とすことで有名な副長官の言葉とも思えない。
「いいのかよ、副長官殿。出世株なんざ邪魔だろ」
「ロリリリ……彼は私の後継者たりうると、一目でわかった! 彼ならば私の同志として、たとえ部署を違えても派閥を組めるだろう! それに……」
「それに?」
「男の船出を邪魔する理由がどこにある」
キメ顔で言う副長官だが。
糸目を半開きにした粘着質の笑顔は、あまりに不審人物だった。
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――現代(7年後)
「――そうして私はペドフィリアン副長官から幼女愛好家精神と権力の大事さを学んだの。ついでに、フーズ・フー先輩から六式の基本もね」
「ついでの方が大事じゃないか」
「それで“抜き足”を身に着けたわけねぇ」
それこそが、クロネコの尋常ならざる戦闘力の由来なのだろう。
「それにしてもなぁ……」
「フーズ・フーさん、なんで最後まで面倒見てくれなかったのかしらぁ」
ペドフィリアン副長官中心で語られる過去だが、聞き手の二人としては明らかにフーズ・フーに感情移入していた。
その人がちゃんと世話して、本部とやらまで連れてくか。
せめて真人間に更生してくれれば。
二人は理不尽に美少女化せず、今も小悪党で生きていただろうに。
「しょうがないのよ。私だって世界政府に就職したかったけど……出航して一週間後、海賊に襲われて壊滅したんだから」
「「えっ?」」
クロネコのひどく無機的で、諦観に満ちた目。
「待て待て。そのフーズ・フーって人はキミよりずっと強いんだろ? 海軍船一隻を一人で壊滅させるキミより上がいて、町一つ皆殺しにする兵力も乗ってたんだ。なんで壊滅するんだい。撤退くらいは……」
「人間ってね。私たちが思ってるよりずっと強くなるの」
淡々とした言葉。
「そりゃ、私の催眠術でもびっくりするくらい強くなるけどぉ」
「本当に強い人間は、あんなものじゃないわ」
濁りきった目。
「いやいやいや、魚人ならわかるよ! あいつら家持ち上げたりするし! 人間だろ?」
「魚人? グランドラインじゃ奴隷種族じゃない。そいつらは“強め”かもしれないけど“本当に強い存在”じゃないのよ」
「クロネコちゃん……震えてる?」
小刻みに震える様子が、二人にも伝わる。
「私は……見た。“本物の超人”の戦い……そして、そんな“本物の超人”フーズ・フー先輩がなすすべなく敗れるところ」
「だから、そんな海賊がこの東の海に……あ……」
「ナズーリンは知ってるでしょ。あの時、この海には“赤髪のシャンクス”がいた」
「え? ホントに!?」
みさき――ジャンゴでも知っている名だ。
「だからね。世界政府も、一般市民も、海賊も……どんな立場だろうと、いつか理不尽に全て奪われる日がくる。生き物がいつか死ぬように、いつか理不尽に奪われる」
「まあ、それはわかるよ」
「だから奪う側に回ったのが、私たちじゃない?」
二人でフォローするように言うが。
続く言葉は、また別の方向。
クロネコの目に、諦めではない歪んだ光が宿る。
「けど、奪う側も全てを己の手で奪えるわけじゃない……奪い残しをかすめ取ることはできる……私たちが食べた“裏・悪魔の実”みたいにね」
「食べさせられたんだけどね……」
「食べたくなかったなぁ……」
次回で回想編は終わり。
ロリロリの実を手に入れた経緯、今に至るダイジェストだけ、やります。
フーズ・フーは船長としてそれなりに成功し、部下の扱いも悪く無さげだから、上司や先輩としてはいい人だと思います。
ペドフィリアン副長官、フェイスレス(からくりサーカス)のイメージでもよかったな……。