Episode DECADE×FOOLS GAME 桜花ルート5034   作:ホシボシ

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第11話 最終試練

 

「……ッ、勝手な理想だ! 君の中にある都合のいい願望にしか過ぎない! ライダーはそんなものではない!」

 

 

反論はできない。

自分の中にある力が鮮明になれば、いろいろな……、たぶんそれはリアルなものが見えてくるし、おのずと『優劣』ができる。

何を優先するのか。何ができるのか、何ができないのか。

だからこれはきっと、とても自分勝手な――

 

 

「それでも俺はライダーになる。たとえベルトを失ったとしても俺は、仮面ライダーになれるんだ!」

 

 

あえて、そう言った。

桜花が沈んでいく。背を向けて、湖の中に歩いていく。

少しずつ沈んでいく彼女を追いかけたかった。

そしてその手を掴んで引き上げたかった。そう望んだ人間が何人いる?

引き上げてほしかった人間が何人いる?

 

それは人間がどうとか、命がどうとか。そういうのじゃない。

そんなのは関係がない。

ただ、来てほしいと少しでも願った。来てくれと願った。

だから、そしてそれは、できる。諦めなければ。

司は視た。宇宙の中に瞬く星の数々。そこにある真理(しんり)を。

 

 

「俺はッ、桜花を守るために仮面ライダーになったんだ!」

 

 

司の瞳の中に、黄金の輪が見えた。

その時、記憶が溢れる。

あの日、熱を出した日。朦朧とする意識の中で司は眠りに落ちた。

そうすることができたのは、手を握ってくれた人がいたから。

それは不安に駆られた司のために駆けつけてくれた存在だった。

 

司は見た筈だ。

"仮面ライダー1号"が、うなされていた司の手をガッシリと掴んでくれたのだ。

 

 

「傍にいてくれたんだ!」

 

「嘘だ! そんなのは都合のいい妄想だ! 1号がキミの世界にいる筈がない! キミの世界には平成ライダーしかいなかった! 夢だったんだよきっと!」

 

「でも俺は覚えてる!」

 

「……ッッ」

 

「だから俺の夢はまだ、死んでない!」

 

 

それを全員が聞いていた。

フールズゲームの中にある待機所にいたものや、外にいるもの。

 

 

「………」

 

 

上条は、その言葉を聞いて、確かに動きを止めた。

ヴァイオリンを捨てようと思っていたことを思い出した。しかしまだ捨てていなかったことを思い出した。

母を思い出した。

父を思い出した。

褒められたことを思い出した。

期待しているさやかの眼差しを思い出した。

もしかしたらそれがきっと『1号』を生み出したのかもしれない。

上条はその姿がよくわからないけど、言われてみると、確かに、あのヴァイオリンを捨てようとした腕を掴んだのは――……。

 

 

「僕も、自分が見えず、ずっと弾いてきたヴァイオリンを諦めようとしていました」

 

 

上条はしゃがむ。へたり込んでいるマホと視線を合わせた。

 

 

「でも貴女を見ていてわかる。失礼ですが、その、諦めきれない状態っていうのは、なかなかに見栄えが悪い」

 

「う……」

 

「ずっとやってんでしょう? 引きずりますよ。なかなか」

 

「それは、そう、ですね」

 

「続けましょう。僕も続けます。だから諦めないでください」

 

「……でも。でも、きっと貴方には才能がある。楽器が弾けるんですもの。私なんかより頭がいいんだよ」

 

「才能なんてなくても、とりあえず自分が納得できる場所まではいける筈です。続けていればね」

 

「……続けるのも、苦しいよ?」

 

「でも貴女は耐えられる。僕もきっと、ね」

 

 

マホはやがて、小さく笑った。

 

 

「ゲーム、あのゲームたちね、なんか変なことになったやつ、あるじゃないですか」

 

「はい」

 

「あれって、私が好きな実況者さんが、やってて。えっちなやつも、すごい好きらしくて、だから私もやってみたくて。だって何度もそのネタ擦るから。ふふふ」

 

「はい」

 

「いつかその人のサムネをかけたらいいなって。それで、絵を……。くだらない、ですよね?」

 

「いえ。いや――、そうかもしれません。夢なんて他人から見れば。自分から見ても。でも、それでも、どこかにあるはずです。下らなくないって思ってる部分が」

 

「………」

 

「昔、幼馴染の女の子が、僕の演奏を聴いてすごく大きな拍手をしてくれました。あの時の感情はきっと、楽しいと、心から思えるものだった。今は忘れてしまったけど、その記憶があれば僕はいつか思い出せる」

 

「……学校でうまくいかない時、あの人たちが楽しそうにゲームをしているのを見て、私も、楽しくなりました」

 

 

マホはボロボロ泣いていた。

 

 

「あれは、きっと、希望なんだって……」

 

「それがあればきっと、人間は少しくらい輝けるんだと思います。1000年以上前から」

 

 

上条は立ち上がると、織莉子を見る。

 

 

「力を貸してほしい。この人は"死"なせたくない」

 

「わかりました。貴方の言葉はきっと、届くはずです」

 

 

織莉子は上条の言葉をオラクルに託し、飛ばしていた。

 

 

 

「おれは賛成するよ。司に」

 

ユウスケが一番最初に司の肩を叩いた。

 

 

「司はいつも正しかった。なんだかんださ」

 

 

言葉にはしなかったが、奇妙な一体感があった。

それを感じてゼノンは乾いた笑みを浮かべる。

 

 

「焦ってるだけだ」

 

「かもな」

 

 

真志は自分の掌を見た。

 

 

「できることなら、全員……、救いたかった」

 

 

そこで椿がポツリと声を漏らす。

 

 

「オタクだったと思ってたけど、いつの間にか惰性で見ていたっけな。アニメも、ゲームも」

 

 

失望に近いもの。だが、ニヤリと笑う。

 

 

「桜花を救ってやって、一緒に見るアニメは……、最ッ高に面白いだろうな」

 

 

何かを言うものはいなかったが、沈黙もまた一つの答えだった。

誰も反対しなかった。もともと曖昧な道を歩んできた。

でもやっぱりあるのだ。当たり前のことが。

桜花を見捨てたくないという『青さ』が。

だから誰も司を止めなかった。

 

 

「おれも、賛成だな」

 

 

エムが壁から離れる。

 

 

「それが彼らの選択肢だ。その果てにあるエンディングがどんなものかは、わからないけど……、尊重したいけどね。おれは」

 

 

エムは壁から離れ、司のもとへ歩いていく。

 

 

「門矢士に会ったんだろ? だったらおれのことも聞いてるんじゃない?」

 

「……だいたいは。詳細は知らない」

 

「じゃあ隠しておく意味もないだろ」

 

 

そこでエムにジャミングが走る。

そして一瞬で、彼は『ナルタキ』へと姿を変えた。

 

 

「え!?」

 

 

ナルタキとは、司たちを導いた人間であり、魔女と契約してこの一連の出来事をはじめた人物であるとされていた。

それがエムだった。

 

 

『おれもバグスターだよ。まあ、少し定義は違うのかもしれないけど』

 

 

ナルタキの姿から、別の人間の姿になる。そしてまた別の姿に。

それは子供であり、老人であり、時には女性にもなった。

 

 

『おれは実態を持たない。石神エムというのも、まあ言ってしまえば一つのアバターだよ』

 

 

かつて、アポロンの獏という事件があったらしい。

彼はそこで戦い、勝利した。

そして彼はその後、ある人物と接触して力を貸してほしいと頼まれたのだ。そしてEpisode DECADEを進める登場人物として、『ナルタキ』という姿を選んだ。

そして魔女・フェザリーヌを召喚したのだ。

 

 

「おれは誰にでもなれる。でも創作物の根本。誰が記すか、どう聞くか、他者観測の中で、おれたちは多様な形をつくる。全く同じ物語を読んだ人たちの中で感想が違ってくるようにね」

 

 

ナルタキはエムになる。

後ろを見ると灰色のオーロラが現れ、そこから彼に協力を依頼した青年、『雨龍フォボス』が姿を見せた。

すぐに亘が反応する。BATに襲われている時に助けてくれた人物だ。

 

しかし違和感。

彼は別世界の人間だった。

にも関わらずここにいるのは――、あの灰色のオーロラが原因だろう。

あれが使える人間はごく一部。エムがニヤリと笑った。

 

 

「彼の昔の名前は紅(くれない)渡(わたる)、仮面ライダーキバだよ」

 

 

司はしばらく固まっていた。

もちろん知っている。そして言われてみれば顔つきはそうかもしれない。

しかし髪の色は違うし、髪の長さも、服装だって違うから気づかなかった。

 

 

「ちょっとした実験ですよ。気にしないでください」

 

 

たしかに、声は紅渡のそれだった。

 

 

「でも、あなたが……、どうしてこんな――ッ!」

 

「かつて、仮面ライダーの証にして、そのエネルギー、クロスオブファイアが世界の壁を超えて拡散されました」

 

 

概念ともいえるそのエネルギーが可視化され、さらにそれを与えられた人間は仮面ライダーになる資格を手にすることができる。

さらに壁を超えること。他世界を理解すること。その真の意味を理解した時に訪れるのは究極なる混沌である。

 

だが無秩序なる日々は長くと続かなかった。

なぜならば、ある日、『王』が現れたからだ。

統率するもの。それを可能にしたのは、その頭上に輝く『黄金の輪』だった。

 

 

「ゴールデンサークル」

 

「え?」

 

「僕たちは大ショッカーが勢力を拡大し、神が住む『神なる世界』へたどり着くのを防ぐほかに、その輪を攻略する必要がありました」

 

 

黄金の輪。金色の円。絶対なる円環。

ただの人間がそれに触れれば、ただでは済まない。

しかし大まかな説明はせねばなるまい。

 

たとえばここにいる小野寺ユウスケは、小野寺ユウスケであり、小野寺ユウスケではない。

意味がわかりますか? 雨龍に言われて司は首を横に振る。

しかし、まったく理解できないわけでもない。

当然だ。司はそれに触れたからだ。

 

 

「簡単に言えば、小野寺ユウスケは100人以上います。それを知り、理解すること。そして繋ぐもの。それこそがゴールデンサークルなのです」

 

「えっ!」

 

 

ユウスケは驚いたのか声を出す。しかし雨龍はそれ以上、何も教えてくれなかった。

しかし事実だ。小野寺ユウスケはここで驚き、別の場所では戦っているし、別の場所ではケーキを食べて、別の場所では人を殺してる。

しかしそれらは可能性でしかない。だが、それを鮮明にするゴールデンサークル。

その輪に触れれば、すべてのユウスケを観測できる。

するとそれは確かなものとして存在するようになるのだ。実際に見るのと見ないのでは、証明できる要素が違ってくる。

 

 

「時に、貴方は旅をやめるという。もう一度、確認しますが、それは本心ですか?」

 

「はい。桜花ちゃんを助けるためなら」

 

「では仕方ありません」

 

「ちょっと待った!」

 

 

ゼノンが雨龍に詰め寄る。

 

 

「本気で諦めるつもりかい!? ここまで完成していたのに!」

 

「それが今日、壊れたということです」

 

 

そこでオーロラが現れる。

 

 

「残念ですが、貴方のやろうとしていることを認めるわけにはいきません」

 

 

司がやろうとしていることは、禁忌に近い。

成功するかどうかは関係ない。

ルールを捻じ曲げようとしている行為を、認めるわけにはいかなかった。

 

 

「桜花さんを殺せない気持ちは理解できます」

 

 

しかし魔法少女になってしまった者を元には戻せない。

それがルールというものだ。魔女になってしまう前に、楽にさせてあげるのならまだしも。

まるで司は、彼女を人間に戻すかのようにいう。

それはダメだ。そのほうがいい。郷に入っては郷に従えという言葉があるように。

世界の尊厳を守るために。

 

 

「だから、代わりに僕らが殺します」

 

 

オーロラから何かが飛び出してきた。

それは司の傍、壁に突き刺さった。

トランプのカード。オーロラからサングラスをかけた黒いスーツ姿の男が現れる。

 

 

「実験は失敗だな」

 

 

ブレイバックル。男はそれを取り出し、身に着ける。

 

 

「ここから先は、俺が仮面ライダーとして世界を救う」『ターン・アップ』

 

 

剣崎(けんざき)一真(かずま)は仮面ライダーブレイドへと変身を完了させた。

それは椿が変身するブレイドとは違い、仮面の色合いが全体的に金色に近いものになっていた。

 

 

「ぐあぁあッッ!」

 

 

司――、ディケイドは教室から追い出された。

扉からではない。壁に開けられた穴からだ。

そこからはブレイド・キングフォームが姿を覗かせる。

 

 

「桜花ちゃんは消させません!」

 

 

ブレイドの腰に回る手。キバーラがブレイドの腰にしがみつき、次々に特別クラスのメンバーも加勢していく。

 

 

「行け! 司!」

 

「……っ、すまない!」

 

 

龍騎に促されて、ディケイドは走り去っていった。

 

 

「……愚かな」

 

 

雨竜はため息をついて消え去る。

一方でブレイドの左腿にあるクレストが光った。

すると発動されるマグネットの力。

ブレイドを中心にドーム状のエネルギーオーラが発生し、ライダーたちは全員それに触れてしまう。

するとライダーたちの複眼が青くなった。一方でブレイドの複眼もまた青く光る。

 

 

「うあぁあ!」「きゃぁあ!」「ゥッッ!」

 

 

重なる悲鳴。

超磁力のエネルギーが反発力を生み出し、ライダーたちは一瞬で引きはがされるように後退していく。

バランスを崩して倒れるものも多い中、一部は飛び道具を放って対抗していく。

しかしメタルの紋章が光ると、ブレイドの防御力が上昇してそれらの攻撃を無効化していった。

そして再びマグネットの力が発動される。

エネルギーが拡散し、守輪椿の変身していたブレイドの複眼が赤くなる。

すると一瞬でブレイドのもとへ引き寄せられて、そのまま首を掴まれた。

 

 

「お前が俺のリ・イマジネーションとはな」

 

「不満ってか!? こっちのセリフだぜ! まさか天下の仮面ライダー様が幼女をいじめようとしてる最低野郎とはな!」

 

「なかなか言うじゃないか」

 

 

ブレイドはブレイドを投げ飛ばす。

すると黄金の落雷が天井を貫いて、ブレイドに直撃した。

どうやら普通の電撃ではないようだ。押し付けられる力が働いており、床が壊れてブレイドは下の階へと落ちていく。

そこはゼノンが用意してくれた守輪椿の部屋だった。

崩れた天井がゲームやフィギュアを押しつぶす。

 

 

「ああぁああああああああ! 何してくれてんだテメェはーッ!」

 

 

ブレイドが上を見ると、穴の向こうに立っているブレイドが見えた。

 

 

「もはや、この城はお前たちには必要ないものだ」

 

 

ブレイドの鎧が光る。

すると学校の校舎を囲むようにして巨大なラウズカードのエネルギーが並ぶ。

テン、ジャック、クイーン、キング、エース。キングラウザーを掲げ上げると、光が収束して、リーチが上昇していく。

天井を貫き、空に伸び続ける巨大な光の剣。

 

 

「や、やばい! みんなッ、逃げ――!」

 

 

そこでブレイドは両手で剣を持ち、踏み込み、バットを振るようにして一回転した。

光の剣が校舎を切り裂き、学校は瞬く間に音を立てて崩壊していった。

 

 

 

「え?」

 

ほむらはキョトンとしていた。

さっきまで、まどかたちと一緒に戦っていた筈なのに、気づいたら宇宙の中に立っていた。

下を見ると白い床のようなものがあるが、素材がわからない。そして周囲は星や無数の『地球』に囲まれた宙(そら)が広がっていた。

どういうことなんだ? 困惑していると、灰色のオーロラが見えた。

そこから雨龍フォボスが姿を見せる。

 

 

「あなたは……?」

 

「敵ではありません。城戸真司たちの世界とは違う世界の騎士です」

 

 

雨龍は床に黄金の銃を落とした。それを蹴って、ほむらの前に移動させる。

 

 

「っ、これは?」

 

「銃の形をした世界の分離装置です。それで城戸真司を撃ち殺してください」

 

「えッ!?」

 

 

ほむらは銃を拾おうとしていたが、すぐに手をひっこめた。

 

 

「失礼。言い方が悪いですね。殺すといっても、それは命を奪うわけではありません。概念を、世界を断つことです」

 

「い、意味がわからないわ」

 

「もともと城戸真司たち、騎士がいた世界と、貴女たち魔法少女がいた世界は別のものであるというのは知っていますね?」

 

「なんとなく……、それらしいことは聞いたけれど」

 

「それがお互いの技術を交差させ、結果的にはバッドエンドギアという正史と異なる魔獣を誕生させてしまい、殺人ゲームまで生まれてしまった」

 

 

これは間違いなく、世界が交わってしまったせいだ。

もっと言えば、仮面ライダー龍騎が存在してしまったせいでもある。

 

 

「ですので、その銃で龍騎を殺せば、事実が世界に刻まれます。それだけじゃない。その威力は互いの世界をすぐさま引きはがし、分離させるでしょう」

 

 

外来種に食い荒らされた、まどかたちの世界が、本来の輝きを取り戻すのだ。

もちろんそれは、ほむらにとって純粋なプラスではないだろう。

ほむらは現状、仲間たちと協力もできて、マミのようなかつては失った仲間とも一緒にいられているわけで。

そこに安心感や充実感を見出している部分もあるのだろう。

 

 

「ですが、城戸真司は、騎士はどうですか?」

 

「っ、ッ?」

 

「貴女は手塚海之と一つのプランを立てた。全ての魔法少女と友人になる。それはとても素晴らしいことだと思いますが、そこに騎士がいないのは事実です」

 

 

年齢的な意味もあるし、繋がり的な意味もある。

それはそうだ。ほむらはニコと友人になりえる可能性を大いに秘めているが、かといってパートナーの高見沢とは年齢的な差もあるし、そもそも、そういう繋がりをお互いに求めていない。

そこに、大きなポイントがあると、雨龍は思っている。

 

 

「変わるということ。友を作るということ。それは果たして、魔法少女だけの世界ではなし得られないことなのでしょうか?」

 

「そ、それは、どういう――」

 

「貴女はライダーの力を借りなくても、十分に変われる素質を持っているということです」

 

 

今に騙されてはいけないと雨龍は念を押す。

たとえすべてがうまくいって魔獣を全滅させたとしても、今度は『ライダー側』の悪なる因子が世界を侵食しようとしてくるかもしれない。

そうした時、再び魔法少女たちは危険に晒されるのだ。

 

 

「これは貴女の品位を、プライドを守ることにも繋がります」

 

 

雨龍は目を細め、ほむらを睨んだ。

 

 

「何を丸くなっているのです? 貴女はそんな簡単な人間でしたか?」

 

「え……?」

 

「貴女は長い時間を一人で戦ってきた。結果はどうであれ、その時間が培ってきたものは一つの大きな価値です。貴女はどうやらそれを忘れているようだ」

 

 

ほむらの中に蘇るかつての記憶。

銃が、まどかを撃ち殺した時の記憶をフラッシュバックさせる。

 

 

「貴女の物語には魔法少女だけがいればいい。そこにライダーなどという穢れた異物は必要ありません」

 

「ッッ」

 

「貴女の世界には貴女と同じくらい大きな想いを抱いた少女たちがいる。彼女たちはみんな善悪を超越した己の信念に従い、命を懸けて可能性を追求しました。仮面ライダーは、そんな彼女たちが育んできた可能性を否定する、第二の魔獣になりえます」

 

「そんな、ことはないわ!」

 

「たとえば仮面ライダー王蛇、浅倉威は何人もの命を奪っています。そんな男と鹿目まどかを同じ世界に留まらせるつもりですか? ならば当然、鹿目まどかの生存確率は確実に下がるでしょう」

 

「………」

 

「もう一度、言いますが、貴女が従おうとしている城戸真司は彼を生存させようとしています。許すのですか? 馬鹿な。殺しなさい。貴女はそれをやってきた筈です。それは忘れていいものではない。胸を張るべき、確固たるアイデンティティなのです」

 

 

ドクンと、心臓が波打った感覚があった。

 

 

「暁美ほむらさん。仮面ライダーは一つの呪いです。貴女はそれに取り憑かれただけにしかすぎない」

 

 

超越するべきだと、雨龍は説いた。

当然だ。魔法少女の宿命を真の意味で理解し、賛否を決めることができるのは、同じ立場にいる魔法少女でなければ、物語としての価値が破綻する。

それを真司や手塚が手を加えようなどとはおこまがしい話ではないか。

例えるならば完成した絵画に、横から筆を入れようとするようなもの。

まさに芸術の冒涜である。

 

 

「貴女は鹿目まどかを救うために『悪魔』にもなれた。にも拘わらず、貴女は魔獣に敗北し、あまつさえ鹿目まどかを助けたのは、どう考えても城戸真司です」

 

 

そしてほむらは今、こともあろうに受け入れるばかりか、まどかへの執着を捨てようとして、巴マミをはじめとした他の魔法少女を、まどかと同列に扱おうとしている。

 

 

「それは過去の貴女を否定する以外の何物でもありません。神なる世界においてならその心変わりは許されるかもしれませんが、貴女は所詮、創作物、立場を理解しなさい」

 

 

ほむらは呼吸を荒くして、床に膝をつく。

 

 

「貴女がループを繰り返したのはなぜですか? まどか☆マギカを救うのは城戸真司ではない。貴女なんですよ。暁美ほむらさん」

 

 

ほむらが目指すのは参加者全員が生き残るハッピーエンドではないのだ。

鹿目まどかを助け、鹿目まどかの笑顔を手に入れる。

オンリーワンなエンディングなのだ。

あるいは、そう、答えにたどり着かないこと。

永遠にまどか助るためにもがき続けることこそ、暁美ほむらの美徳であると。

 

 

「もしもこれより先、仮面ライダーの一撃でワルプルギスやギアが死ぬようなことがあれば貴女のやってきたことはなんだったのですか? それこそ愚かにも程がある。ライダーの、騎士の存在が、貴女を道化に変えるのです」

 

 

故に、決着を。

 

 

「歪んだ絆は、断ち切るべきです」

 

「……っっ」

 

「もう一度だけ言います。城戸真司、仮面ライダー龍騎を殺して世界を分離させてください。そうすれば貴女は元に戻ります」

 

 

ほむらは頭を押さえた。様々な記憶が巡っている。

 

 

「廻転こそが貴女の道と知りなさい」

 

 

何も言わなかった。

そしてしばらく時間が経ち、ほむらの呼吸が整った。

彼女は銃を拾い上げた。

 

 

「城戸真司を殺せばいいのね?」

 

「はい、それで世界が分離します」

 

「わかったわ」

 

「正しい判断です。今後は二度と、暁美ほむらたちの品位を落とさぬようにしてください」

 

 

銃声が聞こえた。雨龍が顔を反らしたため、弾丸は頬に掠りもしない。

 

 

「馬鹿にするな!」

 

 

ほむらは赤い眼鏡を身に着ける。

三つ編みのホムラは銃を両手で握り、震える手を押さえて雨龍を睨んだ。

 

 

「そんなことを言うとッ、本気で思ったんですか!?」

 

「………」

 

「た、確かに私は鹿目さんが大切でした! ううんッ、それは今も変わってない! でも違ったんです! そうじゃない! そうじゃなくても良かったんですッ!」

 

「自分を否定するつもりですか?」

 

「その信念を曲げられる価値を見出したからこそ! こうして戦ってきているんです!」

 

「……愚かな」

 

「お、お、愚かなのはそっちでしょう!? 貴女は巴さんが毎朝いれてくれる紅茶の美味しさを知らないからそんなことが言えるんです!」

 

「すみません。意味がわかりません」

 

「巴さんと、美樹さんと……ッ、浅海さんたちと一緒にいる時間はとても楽しくて……貴方には大切なことを教えてくれた人がいないんですか? いるでしょう!? そうやって私たちは学び、変わり、前に進むんです!」

 

「ですから、それは魔法少女だけで完結している話です」

 

「騎士もいます! 手塚さんや城戸さんだって! 私は傍にいてほしい!!」

 

 

確かに表面上には見えないだろう。

しかしその繋がりの中には、確かに彼らの存在もあるのだ。

その大切な仲間である城戸真司が目指したエンディングを応援してあげたい。

叶えてあげたいと思う心こそ、今この胸に宿る唯一無二の願い。

つまり、希望ではないのか?

 

 

「創作物とか……! それが何なんですかっ! 私がゲームの中で培ってきたものも真実です!」【アライブ】

 

 

大きな魔女帽子を被った強化形態に変わる。

盾が先端についた長い杖を振り回し、魔法を発動した。

魔法陣が一つ出現すると、そこから『ほむら』が飛び出してくる。

 

 

「私は私の意志で城戸さんに手を貸しました。それが愚か? 馬鹿にしないでよ!」

 

 

トリックベントを発動する。

チェンジ・ザ・デスティニーにより、『ほむら』と『手塚』の位置が入れ替わった。

どうやら占いによって何かを察していたらしく、手塚は既にライアに変身していた。

ホムラは、ほむらを消滅させると、再び杖を構える。

 

 

「何が起こってる……?」

 

「敵です手塚さん!」

 

 

雨龍はため息をついた。

 

 

「わかって頂けませんか」

 

「前に城戸さんが言ってました。中学生の時よりは少しは大人になれたって!」

 

「だから?」

 

「変わっていくこと。変身していくこと。それが人生でしょう!?」

 

「では仕方ありません。暁美ほむらとして貴女は腐敗しています。僕が戻してあげますよ」

 

「どうやら貴方も騎士みたいですけど残念です! 私は貴方を倒します。他の誰でもない! 私自身のために!」

 

 

一瞬で雨龍の手に剣が現れる。

そこでホムラの杖先にある盾が起動した。

 

 

「ストップ!」

 

「無駄です」

 

「えっ!?」

 

 

時間が止まったのに、雨龍は何のことはなく動いており、鞘から剣を抜いた。

 

 

「僕のコートには魔法耐性の力があります。貴女の魔力では僕の魔力は超えられない!」

 

 

雨龍が剣を振るうと、青白く光る斬撃が発射される。

一撃目はライアが盾で受け止めたが、そこで爆発が起きる。

 

 

(なんて威力だ――ッ!)

 

 

青白い炎に包まれてライアは後退していく。

さらに二発目が飛んできた。ホムラが杖を盾にして受け止めるが、そこで爆発。

なんとか踏みとどまるが、床を滑り、後ろへ下がっていく。

 

 

「クロックア――」

 

 

加速しようとしたとき、ホムラは言葉を止めた。

気づけば、ホムラは巨大な月状のエネルギーの中に閉じ込められていた。

 

 

「なにっ、こ――」

 

 

言い終わる前に風が吹いた。

雨龍が後ろにいる。斬り抜けたのだ。

月はバラバラに砕けて、中にいたホムラの全身から血が噴き出た

一方で雨龍は走っている。その先にいたライアもサバイブに変身すると、弓で剣を受け止めた。

 

 

「お前もライダーなのかッ?」

 

「ライダーを超えました。あれは所詮、旧時代の産物です」

 

 

雨龍が分身して、ライアを囲む。

ライアが反応するよりも早く、分身たちが音速でライアを斬り抜けた。

衝撃でよろけたところに掌を当てる。

すると魔法の衝撃波が発生して、ライアの体が吹き飛んだ。

 

さらに追撃。

光の柱がライアを照らす。

するとライアは強制的に両手が広がり、両足を伸ばし、その『十字架状のエネルギー』に磔にされる。

 

 

「手塚さん! きゃあッ!」

 

 

ホムラは手塚を助けようと走ったが、そこで雨龍の分身たちが剣を掲げてフラッシュを起こす。

腕で目を覆うホムラ。一方で分身たちは光の龍へと変わり、一斉にホムラを噛み砕こうと飛翔する。

 

 

「フォムホームホムフォーム!」

 

 

11個の魔法陣が展開され、龍を受け止め弾いていく。

そこから飛び出したパラレルワールドの暁美たちは、一斉に銃を連射しながら走っていく。

しかしすぐにその足が止まった。

というのも、銃弾が雨龍のコートに触れた途端、意思を持ったように動き出して暁美たちのほうへと反射してきたのだ。

 

 

「うわぁあっと!」「きゃああ!」「わぁぁあ!」

 

 

衝撃で暁美たちが倒れる。

そこでバチバチと電撃が迸った。十字架型のエネルギーが光を放ち、ライアは苦痛の声をあげる。

そしてこれはダメージを与えると共に、能力を吸収する装置でもあった。

 

 

「弾丸が効かないなら直接攻撃っす!」

 

「あるいは刃でコートに傷をつければいけるやもしれぬ!」

 

 

剛拳ほむらと、剣豪ほむらがいち早く立ち上がり、走っていく。

 

 

「うわぁおっと!」

 

 

剛拳ほむらは勢いよく踏み込んで殴りかかったが、拳がすりぬけた。

そのまま勢い余って、前のめりになって大きくよろけてしまう。

 

剣豪ほむらは見た。

刀で雨龍を斬ったが、まるで血が飛ぶようにトランプのカードが舞っている。

ライアの力を吸収して、自分のものに変えているからだ。

 

雨龍が手をかざす。

すると光の鎖が一瞬で剛拳ほむらを縛り、雨龍はそのまま鎖を振って剛拳ほむらを、剣豪ほむらに当てる。

 

 

「これは――ッ!」

 

 

鎖が再び動き、縛り上げていく。

剣豪ほむらと剛拳ほむらは、胸を合わせる形でグルグル巻きにされてしまった。

なんとなしなければ、そう思った時には雨龍に斬られていたところだった。

 

 

「ガァアアッッ!」「うづっ! がぁはっ!」

 

 

二人の体が弾け、粒子となって消滅する。そこで雨龍の胸にワイヤーが突き刺さる。

 

 

「くたばれ!」

 

 

やさぐれほむらが電流を流す。

しかしそれはコートを貫通していない。

雨龍は何のことはなくワイヤーを掴むと、それを引っ張って、やさぐれほむらを引き寄せようとする。

 

 

「ふざけ――ッッ!」

 

 

ワイヤーを切り離すと、やさぐれほむらは両手にマシンガンをもって連射する。

忘れていたわけではないが、コートの防御力は予想以上だ。マシンガンの弾丸すべてを反射して、やさぐれほむらをハチの巣にする。

 

 

「づぉお! くそ……ッ! ッッたれ!」

 

 

やさぐれほむらは倒れると、粒子となって消滅する。

 

 

「退いてみんな! 銃はダメ! 爆弾で行きましょう!」

 

 

ほむ姉の指示に従い、暁美たちは後退しながらグレネードを投擲する。

大爆発が起こった。しかし一瞬で爆炎が雨龍の剣に吸い込まれて消えた。

雨龍が剣を振るうと爆炎が拡散し、暁美たちは悲鳴をあげながら空に打ち上げられて墜落していく。

 

雨が降ってきた。

もちろん、ただの雨じゃない。雨のように見える細いレーザーの群れ。

暁美たちに降りかかり、悲鳴がこだまして次々と粒子となって消え去った。

 

 

「ぅうあぁ!」

 

 

雨が止むと、同時にほむらが立ち上がり、ロケットランチャーを抜く。

しかし雨龍は表情一つ変えはしない。

 

 

「仮面ライダーに拘る必要など、もはやないのです。僕は他世界を巡るなかでライダーを超える多くの技術に触れ、それを手に入れた」

 

 

ほむらがロケットランチャーを撃った。

雨龍が指を鳴らすと、青白い輝きを纏ったドラゴンが現れ、その大きな口でロケット弾を飲み込む。

そしてお返しに青い熱戦を発射し、ほむらに直撃させた。

光に包まれ、ほむらが粒子となる

 

 

「当然、魔法少女もね」

 

 

雨龍が持っていた剣がかつてない輝きを放つ。

踏み込み、払う回転切り。斬撃のエネルギーが拡散してライアとホムラを斬った。

そこで二人の体がトランプのジョーカーに変わり、身代わりとなった。

しかしすぐに二発目が飛んでくる。

衝撃波に巻き込まれ、二人の動きが止まった。

そこで雨龍はもう一度回転切りを行い、三発目の斬撃で二人を吹き飛ばした。

 

 

「ぐッ! ぅおおお!」【ファイナルベント】

 

 

立ち上がるライア。

ファイナルベントを使うが、弓にエネルギーを集める前に雨龍が背後に回っていた。

幾重もの閃光がライアに刻まれ、ライアはそのまま床に倒れて変身が解除された。

 

 

「手塚さ……ッ!」

 

「ぐッッ、逃げろッ、暁美! こいつは桁違いだ!」

 

「逃がしませんよ。貴女はこれで終わりです」

 

 

雨龍は剣を下から上に振るった。

地を這うエネルギーが一瞬でホムラに到達し、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

『HYPER・CLOCK OVER』

 

崩壊した筈の学校が元通りになっている。

教室の中では、ブレイドがハイパーフォームとなったカブトの拳を受け止めていた。

 

 

「く……ッ!」

 

 

双護は思わずニヤリと笑ってしまった。

今まで時間跳躍を使った不意打ちを避けられたことはなかったが、こうして止められている。

それが剣崎の実力であると。

 

 

「!?」

 

 

 

タイムスカラベが光ると、周囲は崩壊した学校になっている。

ブレイドもまた時間を操作したらしい。

それも一度ではない。

 

 

「――ッッ!」

 

 

カブトが気づいた時には、全身から火花が散っていた。

激しい衝撃に息が止まり、動きが止まる。

仕方ない。『カブトがサンダーで攻撃される』という未来まで飛ばされただけだ。

避けることができていれば、こうはならなかった。

 

ブレイドはカブトを蹴る。

キックローカストの力を発動していたため、カブトはすさまじい勢いで吹っ飛んでいった。

 

気づけば、周りには多くの少年少女が倒れていた。

みんな変身が解除されている。ブレイドが使用したマッハのスピードに追い付けず、スラッシュで強化されたキングラウザーを防ぐことができなかったからだ。

その未来が確定しているため、タイムで時間を飛ばした際に、現実に反映されただけである。

 

特別クラスの面々は多くの世界を巡り、力をつけてきた。

しかしそれを凌駕する存在が、ここに、こうして現れただけの話だ。

クロスオブファイアの量であり、経験の差がであり、それらが実力を突き放す。

 

おかしなことではない。

わかりやすく言えばレベル50と、レベル100の戦いでは、どちらが有利かは明白だ。

 

 

「隠し玉は悪くはなかった」

 

 

飛ばした時間の中で視た光景。

龍騎は再びフォーゼのシステムを使い、ブレイドに食い下がった。

悪くはない。が、しかし、結局、リジェクションが起きてしまい、それで終わりだった。それに露悪的な言い方になってしまうが、所詮は『その程度の発想』でしかない。

与えておいてなんだが(掴み取ったともいうが)、ある種、綺麗に並べられた力を獲得していくだけの流れは、筋書き通りが過ぎる。

 

つまり、この少年少女らは、自分たちが仮面ライダーになるということを受け入れた後は、疑うことはなかった。

それは少々この広い世界を見た上での判断とするならば、安易ともいえる。

 

 

「仮面ライダーというレールの上に乗ったとしても、他にも選べる道はあった」

 

 

我夢の脳裏に宿る『妖怪』という存在。

あとはやはり、ムネモシュネと戦った時に出会った未知なる戦士たち。

真志は理解する。そうか、そういうことか。

 

ずっと探していた答えが何なのか、理解してしまった。

剣崎と渡はそこにいる。

もはやライダーを捨てた。いや、超えたのだ。

 

 

「お前らは俺には勝てない。なぜなら答えは簡単だ」

 

 

真志は答えを知っていた。目を閉じた。

 

 

「お前たちが、仮面ライダーだからだ」

 

 






正直、僕もうおじさんなんで、自分より年下のライダーがいっぱい出てきてもうてます。
そういう意味では、平成一期は全員年上なんで、安心しますね。
ええ

でも龍騎当時の真司よりは年上になってしまいました。
ミラーモンスターやライダーと戦うなんて怖いから僕には無理だよ……(´;ω;`)
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