Episode DECADE×FOOLS GAME 桜花ルート5034   作:ホシボシ

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第13話 それが僕らの答え

 

 

「!」

 

 

司は困惑していた。

剣崎から逃げ、学校を飛び出したら、そこは宇宙だった。

一体どういうことなのか。

司は前に進んだが、宇宙は無限に広がっている。

 

永遠にたどり着けない気がした。

そこで司は自分がディケイドではなくなっていることに気づいた。

気づかなかったのか、気づけなかったのか。

次に意味を失った。人間は人間だから人間なのだ。

そのプロセスがわからなくなって困惑していると、声が聞こえる。

 

 

「やあ」

 

 

そこにエムがいた。

石神エム。しかし違和感を感じる。

沈黙していると、エムがそうだったと、目の色を赤色から茶色に変更した。

 

 

「キャラメイクが少しだけ違ってた。ごめんごめん」

 

「あ、ああ……」

 

「たまに自分がどんな姿をしていたのか、わからなくなる時がある。最初はちょっと怖かったけど、まあ慣れっこさ」

 

 

司はナルタキと何度か会話をしたことがある。

でも馴染みのあるナルタキの姿ではなく、エムの姿で司の前に現れた。

彼は自分には明確な形がないように言っていたが、きっとエムは、エムなんだろう。

 

 

「まあでも俺だって。みんなそうなんだと思う。結構、わりと」

 

「ん?」

 

「自分が何者なのか。迷ったりするんだよ」

 

 

そういう時、人はやっぱり、そういう状態を解決したいので、いろいろやったりする。

司はそういう時、どんな自分になりたいのかを考えていた。

 

 

「何者でもいいんだよ。結局、だって、そこから始めればいい」

 

「……ああ」

 

 

エムは一度微笑み、そして笑みを消した。

 

 

「なあ、司。一つだけ聞きたいんだけど」

 

「いいよ。なんでも聞いてくれ」

 

「どうして"それ"を選んだんだ?」

 

「胸の中にある」

 

 

いろいろなヒーローに出会った。

だから仮面ライダーはヒーローでなくてもいい。

その役割を捨てたとしても、代わりの誰かが同じことをしてくれるし、あるいはもっと大きな救いを与えてくれるかもしれない。

そしたらやっぱり仮面ライダーはもうそこにいなくていい。

もっと大きな舞台が用意されているのかもしれないし。

 

 

「でも、俺は、仮面ライダーに、そういう存在でいてほしいんだ」

 

「幻の命一つのために、全てを無駄にするバカに?」

 

「ああ」

 

 

即答した。

即答しなければならなかったからだ。

なぜならば、即答するからだ。

 

もしかしたらそれは違っているのかもしれないけど、間違ってはいない筈だった。

司は、無邪気な笑顔を見せた。

 

 

「でもきっと、桜花ちゃんが笑ってくれるんだ!」

 

 

それだけだ。それだけでいいんだ。だからそうしたいんだ。

 

 

「なあ、エム。今度、一緒に、ゲームでもしよう!」

 

「え?」

 

「よくわからないけど、俺は下手かもしれないけど、練習するから。一緒にゲームをして遊ぼう。そしたら、たぶん、きっと、楽しい」

 

「………」

 

 

エムは頷いた。しばらくしてから、もう一度だけ頷いた。

 

 

「ああ、そうだな。楽しいのが一番だ」

 

 

宇宙が晴れた。司の前に雨龍がいた。

そして司の周りには真司がいた。まどかがいた。紘汰がいた。鈴音がいた。

みんなが意味を理解していた。誰に教えられたのか、それはきっとEpisode DECADEに。

 

 

「ディケイドは――、そっちのだな! よし! 後はなんとかしてくれ!」

 

 

雨龍の一撃を受けて、クイズは変身が解除されて転がっていた。

主水は司を確認すると灰色のオーロラを出現させて消えた。

 

 

「龍騎のほうから来てくれるとはちょうどいい」

 

 

雨龍が黄金の銃を蹴って一同の前に置く。

そこで倒れていた手塚も回復したのか起き上がり、ホムラのほうへと駆け寄った。

 

 

「ごめん渡」

 

 

自覚していないだろうが、龍騎は今、煌々と輝くゴールデンサークルの下にいる。

だからこそ彼はイコール、全ての龍騎である。

 

 

「俺はまだ、終われないんだ」

 

 

雨龍は考える。

城戸真司は、ディケイドを殺すことも最初は渋っていた。

しかし最終的には仲間になった。城戸真司とはそういう男だ。

だから今も説得をすれば、と。

 

 

「ナメられたものね」

 

 

しかしそれよりも早く、黄金の銃に剣が突き刺さった。

燃えて、溶けていく。陽炎に揺らめく鈴音は雨龍の向こうにいる大きな何かを睨んでいた。

 

 

「殺すとすればそれは騎士ではないわ。その頂点を刺してこそ、王国の崩壊はそして訪れるものよ」

 

 

誰もが同じ意見であった。

 

 

「まあ、俺なんかは難しいことはよくわからないけど……」

 

 

紘汰は少し自嘲気味に笑うと、外のほうを想う。

 

 

「また聴こえたんだ。助けてって声が。だから必ず助けるって答えた。あの時と同じさ、助けを求める声があれば、必ず駆けつける」

 

 

そして、雨竜を見る。

 

 

「でもそれはアンタだってそうだろ? だからここに来た。そしたら俺たちはなんだかんだ仮面ライダーになる」

 

 

雨龍は大きなため息をつく。

愚かではあるが、理解はできるためだ。

そこでホムラは手塚に支えてもらって立ち上がる。

まどかと目を合わせて頷きあうと、メガネを外して暁美ほむらになった。

 

 

「今も海之は支えてくれたわ」

 

「些細なものです」

 

「それでも、だから私は立ち上がれた」

 

「その役割は鹿目まどかでもできます」

 

「でもそしたら、まどかは他の人を支えることができない」

 

「………」

 

「人の手の数は、どうやら決まっているようだから」

 

 

逆のことも言える。

 

 

「いつか私が、海之を支えることができるじゃない」

 

「馬鹿なことを……」

 

「それを抱えて戦ってきたのが私たちではないの? 貴方たちではないの?」

 

 

ライダーというと、ほむらは龍騎たちしかよく知らない。

しかしそれでも、紘汰をはじめとした他の騎士に少し触れてみて、わかったことがある。

いつか見た憧れのスーパーヒロイン、魔法少女。

ほむらだって知っている。でもなってみて、ちょっと違った。

それはきっと騎士たちも同じはずだ。

 

 

「私たちに共通するもの。それがエゴというものでしょう!?」

 

 

黒い羽が舞い落ちてくる。ほむらの髪に、赤いリボンが現れた。

 

 

「だったら今もそれを貫くだけよ!」【アライブ】

 

 

ほむらの姿が悪魔に変わる。

それを合図にして次々と強化を知らせる電子音が鳴っていった。ライアサバイブ、龍騎サバイブ、まどかアライブ、鈴音アライブ。

鎧武・極アームズ。

ディケイドコンプリートフォーム。

 

それを見て雨龍は剣を消滅させた。

白い光が齎される。一同の前に立っていたのは雨龍フォボスではない。

正真正銘、"紅渡"であった。

 

 

「いいでしょう。せめて残滓は振り切ってください」

 

 

飛んでくるキバットとタツロット。

二体が渡に装着されると、その姿が仮面ライダーキバ・エンペラーフォームへと変わる。

それを見て、真っ先にほむらが走り出した。

ドカドカと豪快に突き進み、肩を回して、そら行くぞとわかりやすいジェスチャーを取る。

 

 

「ガァァアップ!」「トワァアアアアア!」

 

 

ほむらの背後からスーツを着た細身で長身の男・ガープが飛び出してくる。

顔は『ナイトメア』の、大きな口がある被りものとそっくりだった。

素早く情報伝達を行う。ほむらの疑問は、なぜ渡がキバに変身したのかだ。

 

 

『それはお嬢様! ここまでで収集した情報によります、と! どうやらヤツもまた王には反対の立場が故、お嬢様と考えは遠からずと言ったばかり! 悲しかな、仰る通りライダーたる存在、エゴを貫くがあまり一枚岩ではなく! ですので、王! オーマジオウへ! 今ほれと反逆の牙にて噛みついてやらんと考えるものが多いのです! オーマジオウめ! ヤツはライダー第一主義者! お嬢様たち魔法少女を踏み台にしてライダーの存在が上であると証明したいがため、紅渡はあえてキバに変身す――』

 

「ながぁいッ! もうキバがそこよ!」

 

『これは失礼を! ではボティスへとタッチ!』

 

 

ガープが消え、代わりにテンガロンハットを被って、ガンマンの格好をしたコブラ型の悪魔が現れる。

ボティスは両手に持ったガトリングから、無数の炎弾を発射していくが、キバのスピードは全く落ちない。

手をかざすと、蝙蝠型のシールドが張られたのだ。

ほむらは顎を動かす。それを合図に、ボティスは口から巨大な炎弾を主人であるほむらに直撃させた。

 

 

「もォオオオ! えェエエエ! あァアッッ!」

 

「!」

 

 

炎の中からほむらが飛び出してくる。

 

 

「がァアアアアアアアッッ!」

 

 

踏み込み、そして――

 

 

「れェエエーッッッ!!」

 

 

ほむらは轟々と燃える右手を伸ばした。

そして同じく、キバも踏み込み、左の拳を伸ばした。

クロスする拳。互いの頬に、互いの拳が突き刺さる。

 

ディケイドは思わずギョッとした。

ライダーが、見た目にしてみれば生身の女の子の顔面に拳を打ち込んだのだ。

事実、ほむらの美しい顔が歪んでいる。だがほむらは拳が入ったままの状態でニヤリと笑った。

 

背後に、なぎさに似た悪魔・ベルゼブブが浮遊している。

彼女はしきりに口をモグモグと動かしており、見ればキバから放たれる蝙蝠型の魔皇力を奪って食っていた。

だからこそキバが弱体化し、さらにベルゼブブは吸収した魔皇力を魔力に変換して、ほむらに与える。

 

 

「オゥラアアアアアアアアア!」

 

 

拳が爆発した。

キバは凄まじい勢いで吹っ飛んでいく。

転がっていく中で見えた破片。彼の仮面が砕けていく。

 

 

「あの王様(クソジジイ)に会ったら伝えておいて!」

 

 

ほむらは腫れた頬を抑えて笑っていた。それは悪魔のような笑い顔だった。

 

 

「今は望み通りに動いてあげるわ。でも魔法少女をナメると痛い目をみるわよってね!」

 

「……ええ、わかりました」

 

 

キバは壊れかけた仮面を外す。

同時に炎が腕を包み、それが晴れると、手にはザンバットソードが握られていた。

そこで一同は気づく。動けない。足元に広がるキバの紋章が、ディケイドたちを拘束しているのだ。

 

 

『ウェイクアップ!』

 

 

ザンバットバットをスライドさせると刃が研磨され、エネルギーが剣を真っ赤に染める。

次々と飛んでくる飛び道具があるのだが、赤いマントが広がって、キバを守ってみせる。

 

ふと、マントが開く。

 

そこにキバはいない。

キバはディケイドたちの背後に立っていた。

一同は自分に刻まれている赤い線を見た。

 

 

「しかし勝つのは僕です」

 

 

キバはザンバットバットを下した。

ガチンッと、音がして、同時に――

 

 

『トリックベント』

 

 

空間が割れた。

これはキバの予想していなかった事態だ。

振り返ると、ディケイドたちに刻まれていた残痕が消えている。

そして代わりにサバイブの鎧が砕け散って、通常形態に戻ったライアが倒れた。

 

 

「ぐぅぅッ!」

 

 

トリックベント、ターゲットブレイクは、全てのダメージをライアが肩代わりするというものだ。

さらに使用時はライアの防御力が上がる――、のだが、すさまじいエネルギーを前にサバイブが一瞬で解除されてしまった。

しかし、全ては狙い通りである。

このトリックベントは、ライアがダメージを肩代わりするだけで『攻撃を受けた』という事実は消えない。

そしてこの空間はエムの協力により、フールズゲームエボリューションのルールが適応されていた。

 

 

『マギアスライドオン!』

 

 

龍騎の姿がドラグランザーに変わり、二体の龍が、それぞれの鎧武と鈴音の隣につく。

鎧武は無双セイバーと火縄大橙DJ銃を合体させた大剣を、鈴音は刀を振るい、虹色の炎を纏った斬撃を発射する。

X状のエネルギーをキバは片手で受け止めた。

その向こうでは、ディケイドとまどかが構えている。

 

 

「もう一度だけ聞きたい! 貴方は……ッ、桜花ちゃんを、助けないのか!」

 

「ええ、『僕らは』、彼女を切ります」

 

 

一瞬、怯むが、それはやはり一瞬だった。

もうわかってる。

 

 

「同じ意見じゃないから、そこで折れるのか!?」

 

 

鎧武が言った。

 

 

「俺たちの言葉がいつも正しいわけじゃない!」

 

 

龍騎もそう言った

そうだ、そんなのは、あまりにおかしい。

 

 

「そう、そうだ! だったらなおさらだ。他の誰も救おうとしないなら! 彼女を暗闇から引き上げられるのは俺だけだ!」

 

 

そのディケイドの叫びは、宇宙を超えて聞こえていた。

クウガたちのもとへ届いていた。だから彼らは頷き、円の形に並ぶ。

真志も龍騎へ、セイバーも変身を解除してブレイドとなる。

 

 

「俺という存在は、今日のためにあったのだと!」『ファイナルカメンアタックフォームライド』

 

 

クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。

9人の仮面ライダーはポーズを取り、ベルトを光らせた。

炎が溢れる。そしてそれが、ディケイドのベルトへ吸い込まれた。

 

 

「「「「「「「「「「ライダーシンドローム!!」」」」」」」」」」

 

 

叫んだ声が重なる。

 

 

「俺は今日!」

 

 

ディケイドは叫んだ。もっと、もっとだ。もっと強い力をと。

クウガたちは期待に応えた。全ての力を注ぎこむ。そうでなければならない。

Episode DECADEが教えてくれた。

司の狙い。統合化の意味。

だから全てを注がなければならなかった。

 

そしてそれは何も、10人ライダーだけではない。

その傍にいたみんな。離れて戦っていた真由も。

とにかく、全ての力が必要だった。すべてはただ一つの目的のため。

 

それは正直、どういうものか、みんなわかっていなかった。

それぞれに些細な違いがあったからだ。

しかし代表して中心にいた司が叫んでくれたので、心を一つにするのは難しくなかった。

そもそもそれは、特に難しい理由ではなかった。

 

 

「愛と!」

 

 

ディケイドは走り出した。

 

 

「勇気とッ!」

 

 

飛び上がる。同時にまどかが弓の弦を引いた。

 

 

「夢と!」

 

 

ディケイドとキバの間に並んでいくホログラムカード。

今までのようにディケイドのマークじゃない。

クウガ、アギト、龍騎、ファム、ファイズ、デルタ、ブレイド、カリス、響鬼、天鬼、カブト、ガタック、プトティラ、電王、ゼロノス、キバ。そしてディケイド。

17枚のカードが並んでいた。

 

 

「希望とッッ!」

 

 

亀裂が走る音がして、渡(キバ)は思わず息を呑んだ。

そのあまりのエネルギーに、ディケイドライバーが耐えられなくなっているのだ。

中央にある宝石・トリックスターの破片が散っている。

これを今から、受けるのか――、と。

 

 

「感動をォオ!」『ファイナルアタックライド』『カカカカメンライダー!』

 

 

ライダーカードを潜り抜け、放つ"テンライダープラスディメンションキック"。

 

 

「ハァアアアアアアアア!」

 

 

それは、キバのシールドを粉砕すると、その胴体に直撃した。

 

 

「ぐぅぅぅううッ!!」

 

 

足裏が滑る。

が、しかし、キバは踏みとどまった。

エネルギーが強すぎたのだ。だからこそキバに届く前に溢れてしまった。

事実、墜落するように倒れた司。

その傍に、粉々に崩壊したディケイドライバーが落ちた。

 

 

『ファイナルベント』『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

キバは見る。

エビルダイバーに乗って飛んできたライアとほむらを。

そして一瞬で消える。

 

 

「くっ!」

 

 

背後に気配を感じて振り返ると、そこにライアペアがいた。

しかし消える。今度は右を見ると、そこにライアペアが。

消える。左。消える。右。消える。前。消える。左。消える。後ろ。消える。後ろ。前。右。左。右。前。後ろ。右。前。右。左――

 

 

「ハアアアアアア!」

 

 

ほむらの雄たけびが聞こえた。

そして衝撃。キバが浮き上がると、さらに気づく。

いつの間にか全身にカボチャ型の爆弾が張り付けられていた。

複合ファイナルベント・パーフェクトライアー。ほむらはそこで指を鳴らし、爆弾を爆発させた。

 

 

「ぐぅうッ!」

 

 

完全なる崩壊。

キバの変身が解除され、渡は膝をつく。

ほむらは着地を決めると、髪をかき上げた。

 

 

「私たちは……」

 

「ッ」

 

「傷つけあった痛みさえ、絆にして見せるわ」

 

 

渡が何を言おうか迷っていると、そこで灰色のオーロラが生まれる。

 

 

「それがこいつらの答えだ。つまり、提示された自由(エゴ)ってわけだ」

 

「その声は……」

 

「仮面ライダーは人の自由を守る。だろ?」

 

 

門矢(かどや)士(つかさ)は、壊れたディケイドライバーを見て笑っていた。

司と目が合う。両者、言葉はいらなかった。

 

 

「紅渡、チャンスをやったらどうだ。俺のリ・イマジーネションに免じてな」

 

「………」

 

「でなければ俺たちは王には届かない。ヤツの首を取るには他でもない、こいつらの輝きが必要だと――、思うがな?」

 

「……散り際も、ということですか。確かに桜は散る時が美しいと聞きますね」

 

 

渡は立ち上がるとオーロラを生み出す。

 

 

「まあ、いいでしょう」

 

 

そして、消え去った。

士は呆れたようにため息をつくと、"あるドライバー"を司に投げる。

 

 

「使え。それがお前の答えになる」

 

 

・ステージセレクト

 

 

「………」

 

 

そこは、どこでもない海岸だった。

空は曇天で、なんだか紺色のフィルターを通しているかのように暗い。

そこにはただ波の音だけが聞こえてきた。岩に打ち付ける波が白くなって、飛沫(しぶき)を飛ばしている。

 

その時は、少し強く。

だからか、岩場に座っていた秋人の頬が濡れた。

やがてまたすぐに波の音が聞こえる。

秋人は気づいていた。そこに交じって、砂を踏む音が聞こえる。

振り返ると、司と目があった。

 

 

「ここは?」

 

「わからない。だが海だ」

 

「ああ」

 

 

司はそれ以上、近づかなかった。

 

 

「美夜は?」

 

「街を壊してる。魔法少女と戦っているかもしれない」

 

「そうか」

 

 

秋人は立ち上がろうとしたが、やめた。

 

 

「お前たちの拠点の気配が消えた」

 

 

もともと参加者だったからか、ある程度の存在は把握できた。

しかしそれがパタリと消えたのが、疑問だった。

 

 

「僕の時は病院だったが……、たしか――」

 

「学校だ。剣崎一真に壊されちゃったよ。ははは……」

 

「なんだって?」

 

 

秋人は怯む。秋人はブレイドをよく知っている。

そんなことをするような人物ではなかった筈だ。

 

 

「ジョーカー化が進んだせいか?」

 

「いや、まあ、なんていうか……」

 

 

言い淀む司を見て、秋人は怯んだ。

自分から聞いておいてなんだが、今の会話は、少し、変だ。

 

 

「やめよう。不毛な会話だった」

 

「そうか? そうかな? まあ、そうなのかもしれない」

 

「他の連中はどうした?」

 

「俺の中にいる」

 

 

秋人の表情が変わった。

今のセリフが、抽象的なものではないと察したのだ。

記憶の中で生きているだとか、そういうロマンチックな話をしているのではない。正真正銘、司の『中』にいるのだ。

しかしそんなことは、普通に考えればおかしい。

何か、超次元的なものに触れたか、あるいは――

 

 

「お前は、まさか……」

 

「ライダーシンドロームで俺たちは一つになった。すべては桜花ちゃんを守るため、そして――」

 

 

その時、秋人は自分をこの海に連れ去ったオーロラが、聖司が生み出したものであると理解した。

正確には理解したという情報を与えられた。

なぜならば時間をかけてはいられないからだ。

司は倍速で物語を閲覧した。

 

その結果、秋人が、桜花を殺そうとしていることが分かった。

なぜ殺す? 仕方ない。彼女の能力は不安定だ。

今は世界を破壊することに役立っているが、いつそれが反転して我々の邪魔になるかわかったものではない。

もう十分戦略は送り込まれた。このまま様子を見て不要と判断すれば、魔女になる前に殺してしまったほうが面倒も少なくて済む。

そんな会話を、する前に終わらせた。

 

この物語にその尺は必要ない。

少しでも用意するべきは、対話を超えたものだ。

それを生み出すものはもう一つしかない。

そうしなければ俺たちは会話ひとつできない。

なあ、そうだろ?

 

 

「秋人、終わりにするべきだ」

 

「……そうだな。少し、時間を掛けすぎた」

 

 

秋人は立ち上がった。

その時の彼の服装は、今までのものではなかった。

洋服は消え、代わりに、彼の体には不釣り合いなほど大柄なバトルスーツが現れる。

秋人は仮面を被った。

ショッカー怪人・COBRAがそこには立っていた。

もう何度も変身しているにも関わらず、今日もまた、あの時の声が蘇る。

 

おめでとう。

キミは、ショッカーに選ばれた栄光の青年である。

 

 

『記憶(ライダーカード)!』『撮影機(カメラ)!』

 

『相性抜群(ベストマッチ)!』

 

 

司はビルドドライバーにフルボトルをセットした。

一つには自らの成分が入った液体があり、もう一つにあったのは――

行こう真志。ああ。最後に一発、キメてやろうぜ。

意思も、存在も、一つに溶けていく。

 

 

「ディケイドライバーはどうした?」

 

「壊れた」

 

「壊れた? そんな馬鹿な。あれは壊すものであって――」

 

 

そこでCOBRAは何となく理解した。

壊れたとすれば、それはEpisode DECADEの選択だ。

そう物語に記載するからには、そういう道に、司は立ったのだと。

 

 

「……捨てたのか」

 

 

役割の放棄。

ディケイドで無くなるという選択を取ったから、ディケイドライバーが壊れた。

難しい話ではない。単純だ。

主役を降りた者に、主役のベルトは与えられない。

あまりにも当然なのである。

 

 

『覚悟完了(アーユー・レディ)!?』

 

 

司は頷いた。

 

 

「変身」

 

 

見た目はディケイドと同じだったが、それはディケイドではない。

ディケイドライバーは、もうない。

しかしそれでも聖司はディケイドなのである。

 

 

「………」

 

 

無言で歩いた。

 

 

「………」

 

 

無言で走った。

 

 

「!!!」

 

 

波が岩を打つ。

その時、二人の拳が同時に胸に入った。

 

波の音が聞こえる。殴りあう音が聴こえる。

ディケイドがCOBRAを岩に押し付けた。しかしすぐに腕を掴まれ、どれだけ力を込めようともCOBRAに力負けしてしまう。

COBRAはディケイドの両手を開いたところで、頭突きで仮面を打った。

 

ディケイドは大きくよろけ、怯んだところで腹を蹴られ、仰け反ったところで腰に鞭が巻き付いて体が浮いた。

COBRAは頭を大きく振るう。ディケイドは海の中に落ちた。

飛沫が上がり、ディケイドはすぐに体を起こそうとする。

 

しかしそれよりも早くCOBRAがディケイドの首を掴み、水の底へ押し付けた。

ディケイドは砂の中に沈んでいくのを感じる。ゴボゴボと水が動く音が聴こえたが、これは海の音やじゃない。

フルボトルの中に入っている。彼らの音だ。

フルボトルに入っていたのは司と真志だが、今は違った。

ディケイドはレバーを回して、その成分を全身へ供給していく。

 

 

『魔術師(まほうつかい)!』『野獣(ゴリラ)!』『相性最高!』

 

 

椿の魔法で海が割れた。

咲夜のパワーがあるので、逆にCOBRAが押し負ける番だった。

ディケイドはCOBRAを掴むと、砂浜のほうまで軽々と投げ飛ばす。

 

脳内では笑い声が響いていた。

ぎゃははは! やっぱお前はゴリラだってよ!

うるさい! 納得がいかん! が、しかし、そういうお前はなぜ魔法使いなのだ。

たし――、か、に。え? ちょっと待って。

え? 魔法使いって確か30歳まで……。やだ、やだっ! やだぁあああああああああ!

 

 

「葵さん! 先生!」『冷蔵庫! 光(ライト)! 相性最高!』

 

 

COBRAは海に入ったから濡れていた。

なのでディケイドが発射した冷凍波を受けて、完全に凍り付いた。

COBRAの意識が一瞬、消えて、すぐにまた戻る。

ディケイドの中の声が聞こえきた気がする。

 

冷蔵庫だって。ふふ、今まで皆のご飯を作り続けてきた甲斐があったね。

ありがとう葵さん。本当に、助かりました。

どういたしまして。あら、それにしても、翼くんはライトだって。よかったね。

みんなを導ける光になれるといいけれど。

なってますよ、先生は――、もう。

 

 

「!」

 

 

そこでCOBRAは気づいた。

凍っている間に、一撃をもらっていたのだ。

ディケイドの発光する拳を受けて、COBRAは後ろへ下がっていった。

光が、溢れる。ディケイドの拳を伝い、COBRAの全身を侵食する光。それはCOBRAの『無視』の力を発動するために必要な闇をかき消していく。

 

 

(拓真! 友里!)『狼!』『漫画!』『相性最高!』

 

 

ウルフコミック。ディケイドは姿勢を低くして、水をかいた。

水圧の抵抗がいろいろなものに重なる。それでも俺たちは前に進むんだ。

そうだろ? できるよ。僕らはそうやって少しずつ、やってきたんだし。ねえ友里ちゃん。

うん、できる。できるってば。

ありがとう拓真、友里。そうだ。俺は前に進むんだ。

 

跳ね、COBRAにとびかかる。

ここで背景が書き換わる。とあるホールが作画され、そこには無数の『像』が配置された。

これは桜花の世界に実際に存在する場所である。

友里が素人漫画道場っていうサイトに投稿した際にプロからいただいた言葉は、「キミ、背景上手いね」だったっけ?

やめてよ、ちょっと恥ずかしい。

あたしはやっぱりほら、読むほうが得意なんだってわかったからいいの。

 

 

「ガァアアア!」「ハァアアア!」

 

 

ディケイドとCOBRAは蹴りをぶつけ合った。

衝撃で配置されていた像の何体かが崩壊する。

構わないといわんばかりに、二人はホールの中で暴れまわった。殴ろうとして外れた拳が像の一体の顔面に入り、破壊された。

 

COBRAが思い切り振るった足がディケイドを外れて像を落とした。

バリンバリンと壊れる音。

これらは全て、桜花の世界の神を模して造られた、ありがたい像なのである。

 

桜花の世界にいる人間がこの光景を見たら、きっと真っ青になってディケイドたちを止めようとする。

なんて罰当たりなと、卒倒するものもいるかもしれない。

 

ほら、また一つの神らしき『何か』が破壊された。

しかしむしろ司などは、そこに答えを見たようだ。

というのも、これらの像のモデルになった神は司たちの世界にはいないし、もちろん神なる世界にも存在していない。

当然、秋人の世界にも存在しない。

だからこそ、こんな行いができるのだ。

 

 

「ォォォオオオ!」

 

 

COBRAが吠えた。

何かをかき消すような叫びだった。

彼は鞭を取り、大きく振り回す。ディケイドは身を屈めて回避し、代わりに鞭は多くの神を破壊していく。

 

神を――、神聖なものを傷つける。モヤモヤしたもの。

自分の世界で培ってきたもの。

幼いころから教えられたものこそが、今の自分を作っている。

けれど、もしかしたらそれは、何の意味もないことだったのではないだろうか?

だとしたら自分たちが今まで信じていたものは……

 

 

「常識を超え、価値観を超え、概念を超えて、その先に僕らは何を目指す!?」

 

 

COBRAの言葉に答えたのは司であり、亘だった。

もう見つけたんだよ。ボクらはきっと。

 

 

「亘! 里奈ちゃん!」『蝙蝠(バット)!』『竜(ドラゴン)!』『相性最高(ベスト・マッチ)!』

 

 

ザンバットと鞭がぶつかり合い。鞭がバラバラになる。

歩けるようになる。そう言われた時に、私はきっと歩くべきでした。

でも私はそのままの自分を選びました。

たぶん、ううんきっと、それは賢い選択じゃなかったのかもしれない。

だって飛べるようになったんだから、一緒のことでしょ?

でも私は車椅子を選びました。後悔していません。

あなたはどうですか?

 

 

「ぐぉッ!」

 

 

赤い斬撃がCOBRAを吹き飛ばし、ホールの外に移動させる。

しかし着地地点にシュバルツがあった。COBRAはシートに着地すると、アクセルグリップを力の限り回して急加速する。

 

 

『威魔神(モモタロス)』『列車!』『相性最高!』

 

 

デンライナーが加速してシュバルツと正面衝突。

大爆発が巻き起こり、シュバルツもデンライナーも粉々になる。

ねえハナさん。なぁに? 良太郎。

ぼくたちは、きっとゴールデンサークルの外に出るんだよね。

そうね。きっと、たぶん。怖い?

 

ううん。でも、他の野上良太郎ならどうしてたかな、って。

何おかしなこと言ってんだ良太郎。お前は世界中にたった一人、だろうが。

そうだね。ごめんねモモタロス。

ええんやで。

テメェに言ってねぇよクマ! 入ってくんな!

でも一人の女性のために全てを捨てていくだなんて。他の僕(ウラタロス)が聞いたらカッコよすぎて嫉妬しちゃうかもねぇ。

 

でもいつか良太郎、言ってたよね。

 

なぁにリュウタロス。

うん。ちょっと、難しいから忘れちゃったけど。

忘れたのかよ

鳥さん! やって!

うるさいぞお供その一!

ぉぃ! ぁぃっ!

 

なんていうか、さ、ほら、言葉にするのは難しいけど――……、ねえおデブちゃん。

ああ。わかるぞ、リュウタロス。

これは時間の話だ。俺たちの歴史が刻まれてからもうずいぶん時間が経った。

それでも俺たちはここにいる。俺たちはこの選択を取ることが許される。

そう思ってる。思われている。

 

それはきっと俺たちが変わらなかったからだ。

変わってほしくないと、みんなが心の中で思ったからだ。

それはきっと、この先、どれだけ時間が経ったとしても変わらない。

 

きっと、どこの世界に行って、どれほどの時間を旅しても。

そうそう、それそれ! 司もそう思うでしょ?

ああ。そうだな。我夢とアキラも、そう思うよな?

はい。はい。司先輩がそういうものだと、教えてくれましたから。

私たちも、そうなれるといいって、ずっと思ってました。

 

 

『不死鳥! 回転式機関銃! 相性抜群!』

 

 

かっこいいですね。我夢くん。不死鳥だなんて。

どうして私は、こんな物騒な……

ま、まあ、いいと思いますよ。かっこいいし。

 

 

「ぅッオオオオオオオオオオ!」

 

 

ディケイドは近づいてくるCOBRAに無数の火炎弾を打ち当てた。

強引に突き進んできたが、やがて勢いに押し負け、COBRAが離れていく。

このままでは負ける。COBRAはバトルスーツの裏からフルボトルを取り出した。

 

 

『Mist Match』

 

 

電子音とスチーム。ブラッドスタークに変身すると、銃を連射して弾丸をかき消しながら前進してくる。

 

 

『犬! 友情! 相性最高!』

 

 

犬? おれ、犬?

あー、犬っぽいわ。でも。

それって褒められてる?

私は犬派だから最上級なんだけど。ってか友情ってめちゃくちゃかっこよくない?

 

事実、薫の力はすさまじいものだった。

秋人には知りえない力だ。

ディケイドの中にいる彼らの想いが、パワーに変換される。

クロスした拳。ディケイドは立っていたし、スタークはきりもみ状に回転して倒れた。

 

 

「ここまで……! ここまでか!」

 

 

銃を連射してもディケイドは怯まず突っ込んでくる。

回し蹴りで銃を弾くと、殴ってきた拳を受け止め、そして投げ飛ばす。

 

 

「ここまで力の差ができるのか……ッッ!」

 

『戦闘機!』

 

 

鏡治。お前は、どうする?

付き合うに決まってるだろ。ああ、そうさ。俺は、どこまでもな。

でも……、いや、いや、うん。ありがとう。

 

 

『甲虫!』『消去道具!』『相性抜群!』

 

 

俺たちの物語が誰かを救う鍵になる。か。悪くないな真由。

うん……、そう、思う。あなた…も、でしょ……?

そうね。シナリオは、決められた筋書だけど、たまには違う何かに影響を及ぼす。

まあ、そういうものなんだろうと思うよ。なんでもね。

何かが、次の何かを起動させる。違う誰かに刺激を与える。

そうやって世界は、巡っていくのさ。

 

 

「ぐうぅうッッ!」

 

 

急加速したディケイドが、カブトムシの角のエネルギーを纏った足を突き出した。

スタークの腹部に突き刺さる。

そして消去の力が働き、スタークの鎧が消えた。

 

カメラ。スマホ。ベストマッチ。

 

真志と美歩の力で、互いの記憶の中にあるアルバムを覗く。

なんつーかさ。

なんだよ。

真志だけ先に進んでる感じがして、なんかムカツク。

ははは、なんだよそれ。でもお前だってわかっただろ。

んー、まあね。

オレたちははじめから仮面ライダーだったし、お前だってファムになるべくして、なった。

でも、それだけじゃない。

 

Episode DECADEが示したかったのはきっとその先にある。

お前は霧島美穂じゃない。

それでいい。

それが、仮面ライダーだ。

 

 






いつもこういうの→(´・ω・)使ってるんですけど。
これは僕が好きな漫画家さんの真似をして始めました。
言葉だけじゃ刺々しい印象で終わる言葉とかあると思うんで、マイルドにできますよね。

確かに昔、ちょっとそれで失敗してしまって。
そんなつもりはなかったんですけど、メールで怒ってると思われてしまったことがあったんですよね。
まあ考えてみればね

お? ガキが、ナメてると潰すぞ
お? ガキが、ナメてると潰すぞ( ^ω^ )

これだったら、下のほうが、まだ怒ってるとは思われないでしょうしね。
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