Episode DECADE×FOOLS GAME 桜花ルート5034 作:ホシボシ
「羨ましいよ。僕は、キミらが」
秋人は疲れた顔をしていた。
「城戸真司に葛葉紘汰。剣崎一真。紅渡。門矢、士」
事実、彼は酷く、疲れていた。
「僕の時には来てくれなかった」
「………」
「あんなに好きだったのに。来て、くれなかったんだ……」
秋人の目から、一筋、涙が零れた。
「ごめん。本当に、ごめん……」
これは謝罪である。お前から目を逸らし、終わらせることの謝罪。
「決着はつかないんだろ? だってお前は、『降りる』んだもの」
「……ああ。だからこれが、俺たちの最後のライダーごっこなんだ」
「それでいいさ。お前らより早く諦めた僕が何かを言えるわけがない」
「だろうね。だから、ここから先は本当の続きだ」
最後の声は司ではなかった。
秋人は声がした方向を見た。
そこにはゼノンが立っていた。
何か、少し、変だ。その違和感の一つは、腰にあるドライバーがダブルのではなくビルドのものだということだ。
今、ディケイドが巻いているビルドドライバーは門矢士から受け取ったものだ。
ではゼノンの腰にあるのは何か?
「簡単だよ。ビルドになるべきだったのはボクらだ。それを彼が急かした」
困ったね。
そうだ。本当の意味で向き合うのはボクらのほうなんだ。
いずれなると思っていた。
そういうものだ。そういう役割。筋書だと予想される。
そしてそうだった。だから時間を少し進めるだけさ。
「待たせたね、秋人」
ゾッとした。理由は、まだわからないが。
それでも秋人は逃げなければ、と。
「どうして? キミが望んだことだろ!」
「違う!」
「違わない! 仮面ライダーの! 登場を!」
「違う!」
「駆けつけてほしかった! そう言った!」
「だったとしても!」
どこに逃げればいいのか。秋人は立ち止まる。
「だったとしても……! 僕は、彼女を独りにはできない――ッ!」
「ナメないでほしいね。わかってるさそれくらい」
「え……?」
どうして海だったのか。
理由はただ一つ、彼女が海が見たいと言ったからだ。
「きれいね! ゼノン!」
デートをしましょう。
それが終われば海が見えるレストランまで行って食事をしましょう。
それが終わったら何をする? ふふふ、なんでもいいわ。
だって貴方と一緒なんだもん。これに勝る幸福がどこにあるというのかしら。
うふふふ!
なんだったら今ここで『えっち』な描写をして、通報祭りでBANしてやって、存在を永遠にだってできちゃうんだから!
なんだかテンションが上がってきたわね! 楽しいね!
とにかく愛してるわゼノン。大好きよ。ワタシには貴方だけなんだから!
「そうだね。ボクも……」
ゼノンは、愛しくて、笑った。
「でも、フルーラ。キミは、違うんだろう?」
フルーラは笑みを消した。
口は笑っていたが、目は笑っていなかった
「……ごめんね。ゼノン」
「いやぁ、いいんだ。キミが成長してくれよ嬉しいよ」
「でもっ、一つだけ誤解しないで? ワタシは貴方のことが好き。大好き。愛してる。それだけは本当なの。魔女のルールに従って赤字で宣言してもいいわ」
ゼノンは続きを聞きたくなかったが、フルーラの声が少しでも聞こえるのは幸せだったから、言葉を止めようとは思わなかった。
それに憂いの表情も素敵なので。
「でもねゼノン。ワタシは特別クラスのみんなも好きになってしまったの」
「……うん」
「ううん。本当は、秋人たちの時だって、そうできた」
ゼノンが恐れたのは仮面ライダーではない自分だ。
フルーラを愛する機械のようになりたかった。
彼女を愛したのはゼノンだからだ。
逆に言えば、フルーラを愛さないことが、自由人の証明になるのは恐ろしい。
それとは別に、在る、掟。
仮面ライダーの主人公は少なくとも善人であれ。
絶対なる円環『ゴールデンサークル』をゼノンは恐れた。
「だってボクは、キミを奪おうとするものなら、たとえそれが赤子であったとしても殺してしまうから。だからそういうのは、なんていうか、よくないよね」
「……ええ、そうね」
フルーラは、ゼノンを慰めなかった。
「司たちはキャラクターだけど、ボクたちはさらにそれよりももっと幻想に近い、劇中劇のキャラクターだ。だからそこにある意思は何よりも弱いし、存在だって脆い……」
でも逆に言えば、ボクらにはより強い設定がある。
ヒートの慈悲を得たボクらは愛し合い、でなければ塵になって死ぬ。
焼かれたくはないだろフルーラ。だから愛してねっていう、それがボクらを繋ぐ絆だった。
「ボクが、どんな人間になっていこうとも」
「卑下することはないわ。貴方は素敵よ」
「劇中のままでいればね」
「そうじゃないのに。もう、不器用なんだから」
「変わり、老いていくものなんだ生きている人間は。無限に続く情熱は幻想でない限りはありえない」
人はやがて続きを書いた。
望む世界、幸せな未来を夢見て。
ボクらは二次創作を続けてる。
創作の中でしか生きられない。
でもだからこそ、いろいろな世界が見れたよね。
空を飛ぶ鯨。紅葉と桜が海の中に咲いていた
飛行船の中で機械の塔を見ながら笑いあった。
「生きていれば、きっとまた紡げるわ」
「……いろいろ、変わってしまったね」
「初期設定。改造人間。怪人。悲壮感。変わらなければよかったかしら?」
「まさか」
「いつかまた会える?」
「ああ。フルーラ。キミを愛してよかったよ」
ゼノンの前にフルーラはいなかった。
はじめからだ。
だからゼノンの仮面を外すべきなんだ。
「新世代、9番目はボクら……、いや違う! このボクなんだ!」
そこにいた青年の名は、劇作家・"ゼフル"。
雰囲気はゼノンに似ているが、紫色の髪に、金色の目をしていた。
自分と。若くして死んだ想い人を投影したキャラクターを主人公とヒロインにして、さびれた町の見世物にした。
ゼフルは、ビルドドライバーのレバーを回す。
戦車が好きだった。彼女は、ウサギが好きだった。
なので――
『鋼のッ! ムーンサルト!!』
『ラビットタンク!』『
仮面ライダービルドがそこにいた。
「降りたか」
フェザリーヌの左右に、ナインとディエスが立っている。
「眼は二つだ」
四人いたのは、二人消えることがわかっていたからだ。
「はじめから、決まっていたのだ」
『
ラビラビタンタンフォーム。
ラビットタンクとそう変わらないが、その片方がラビットラビットフォームに。もう片方がタンクタンクフォームのものとなっている。
彼は今、街にいる。
「なんなのよォ……ッ!」
ダウンしていたSNAKEが立ち上がり、地面を蹴る。
体を捻り、高速回転での飛び蹴りを仕掛けてくるが――
『フルフルマッチデース!』
フルボトルバスターから巨大な紫色のエネルギーが発射されてSNAKEに直撃した。
「あぐぁぅうッ……ぅ!」
撃墜されたSNAKEはしばらくもがき苦しんでいたが、やがては沈黙する。
隠れていた秋人が駆け寄ると、気絶はしていただけで息はあった。
「フルボトルに入っていた大量のナノマシンが脳の再手術を行った。それだけじゃなくEpisode DECADEの力の一端を入れてある」
「――ッ」
「目覚めた時、彼女はあの時の美夜だよ」
それは、あまりにもあっけない終わりだった。
COBRAの苦悩は、終わったのだ。
「でも、はじめからやってくれ、なんて言わないでくれよ? こっちも大切な人を失ったんだ。その引き換えなんだ」
「それは……、でもっ、どうして」
複雑な想いがあった。
秋人もゼノンとフルーラはよく覚えている。
「友達だろ。ボクらは」
ビルドは、そう答えた。秋人は怯んだ。
『
『
『
そこでディケイドが夏美と栞のパワーを最大にまで上げていた。
レバーを回す中で、ビルドドライバーが耐え切れずに火花をあげて弾かれる。
ディケイドは少しだけ残念そうにしていたが、小さく笑うだけで、ドライバーを拾おうとはしなかった。
もう十分に成分は体の中に入れることができた。
だから、もう終わったのだ。
「じゃあな秋人。一足早く、ライダーは卒業するよ」
「……僕はかつて、美夜のために全てを捨てた。でもそれはっ、相手が彼女だったからだ。なのにお前は、お前たちは……、それを、出会って間もない……桜花のためにする。できる。意味が……、分からないッ! だから僕はっ、なれなかったのか……?」
秋人の問い掛けに、司はかつて見たライダーを告げる。
誰しもに人生がある。たった一人、たった一つの声だ。
だから、それが助けを求めるなら、応えてくれるヒーローが必要なんだ。
「それが俺の、仮面ライダーだ」
「っ」
「いや、もうライダーじゃない。ライダーじゃなくてもいい。なんだっていい。英雄は絶対に死なない。風のように現れて嵐のように戦って、朝日と共に帰ってくるんだ」
ディケイドの鎧が溶けていく。
「やってみなくちゃ、わからないだろ?」
「……嫌いな言葉だ」
「前にも言っただろ。俺も嫌いだよ。だから俺は、いけると思った事しかやらないんだ」
姿を忘れた。
禁忌、故に、人間では手に負えない。
自分が自分であるということを忘れ、すべての情報は嘘になる。
だから体が保てない。腕は腕だから腕なのであって、腕ではない腕だと記載すればそれはやはり腕ではない。
そうすると腕を創るのが一番なのだが、司は腕を忘れているので、腕はない。
それだけならばまだいい。腕を他のものと間違えた場合は悲惨だ。
でも大丈夫。司は分かっていた。
みんなが、俺を、助けてくれる。
そうだ。そうさ。そうです。溶け合う想いと存在であったとしても、保たれるアイデンティティ。
ユウスケたちが腕の形を思い出させてくれた。
翼先生たちが脚の形を思い出させてくれた。
真志たちが指の形を思い出させてくれた。
拓真たちが臓器の形を思い出さえてくれた。
椿たちが骨の形を思い出させてくれた。
我夢たちが肉の形を思い出させてくれた。
双護たちが皮膚の形を思い出させてくれた。
良太郎たちがスーツの形を思い出させてくれた。
亘たちが仮面の形を思い出させてくれた。
そして、夏美たちが心の形を思い出させてくれた。
『司くん。私じゃうまく桜花ちゃんを助けてあげることができませんでした……』
『なんだかずっと困って、怒ってたな』
『ひどい!』
『ごめんごめん。でも大丈夫、大丈夫だ。一緒に助けよう。こういうのは、ごちゃごちゃ考えるより、無理矢理にでも引っ張ってあげりゃあいいのさ』
『……はい! 一緒に!』
白いライダースーツに、白いヘルメット。
黒いマスクとあって、顔の中央には大きな赤い十字架。
「俺たちは、仮面ライダーを超えていく!」
それは仮面ライダーではない。
「クロスファイヤー! これが、桜花ちゃんを救う存在の名前だ!」
「どうなっている!」
ショッカー怪人・トカゲロンは困惑していた。
報告が入った時よりも、現在、さらに物凄い勢いで怪人の数が減っている。
そして爆発音。トカゲロンの前にクロスファイヤーが着地する。
「貴様が我々の邪魔をするものか。誰であれ、ショッカーに歯向かうものは全て処刑する!」
トカゲロンはボールを取り出すと、踏み込み――
「バーリア破壊ボールッ!」
「フッ! ハァアア!」
音速で飛んできた弾丸を、十字状の炎で受け止める。
思わず身を乗り出すトカゲロン。ありとあらゆるバリアを破壊してきた一撃が、今、確かに受け止められている。
そして一閃。燃える手刀がボールを真っ二つにして破壊した。
「おのれ――ッ!」『ベロクロン!』
怪獣の――、正しくは超獣の記憶が封印されたガイアメモリを起動し、体に押し付ける。
トカゲロンの全身に赤い突起物が装備され、そこから次々とミサイルが発射されていった。
クロスファイヤーはその中を走った。走り抜けていく。
次々と爆発が起こるが、その爆風の中を、ただひたすらに走った。
クロスファイヤーは止まらない。
そしてミサイルも、次第に内部にあるレーダーが狂っていき、クロスファイヤーを避けて着弾していった。
『ブラックキング!』
トカゲロンの頭に生える大きな角。
さらに身体能力が強化され、彼は真正面からクロスファイヤーを殴ろうと――
「ごッッ!」
だが、それよりも早く、クロスファイヤーの燃え滾る拳が胸に届いた。
熱が、トカゲロンの心臓に届く。
把握する。物語における退場。
それは敗北である。
「ここまで育ったか……!」
爆発が起こる。トカゲロンは吹き飛び、地に伏せた。
一方のクロスファイヤーは両手を広げ、エネルギーを解放。
そして左手を上に、右手を下に伸ばし、そのまま左手を下に、右手を上に移動させてエネルギーを集中させる。
立ち上がったトカゲロンは吠え、そして地面を蹴って走り出した。
「フッ!」
両足で地面を蹴る。
「ハァアアアアアアアア!」
クロスファイヤーは右足を突き出して、飛び蹴りを仕掛けた。
足裏に燃え輝く十字の炎。
トカゲロンはそれを殴ろうとして――
「グォオオオオオオオオオオ!」
蹴りはトカゲロンの拳を焼き焦がし、足裏が胸に直撃する。
手足をバタつかせながら後方へ吹き飛んだあとは、すぐに立ち上がった。
「進化――ッ! なるほど、これは、今の私では――ッッ!」
両手を広げた。
「次なる……! 時代がッ、生み出した怪人でッッ、なければ! ならない! その時までッ!」
暴走するエネルギー。
「大ショッカー軍団! バンッ! ザァアアアアアアアイッッ!」
大爆発が巻き起こる。
トカゲロンは粉々に砕け散り、その体から立ち上る十字状の火柱は天へと伸びていく。
それを多くの怪人が確認した。
「ハッ! ようやく面白そうなヤツが出てきてくれたか!」
魔獣アグゼルもその一人だ。
嬉々としてそこへ向かおうとして――、足を止める。
少女が一人、歩いてきた。
光る。その姿がドレスに変わった。
衣装はコックをイメージしているだろう。
「どうも。胡桃まなかです」
「魔法少女か」
アグゼルは訝し気な表情を浮かべた。
はて、こんな魔法少女はいただろうか?
それにしてもレストラン『ウォールナッツω』のマークは、彼女の口をイメージしているところはあるのだが、これにはもう一つ、大きな意味があった。
それは彼女の帽子にある。『Ω』のマークと同じ意味だ。
襟には、紋章が刻まれている。
「!」
まなかの後ろから青年が歩いてきた。彼もコックの格好をしている。
青年は右腕を左の腰へと伸ばし、腕を交差させる。
そのまま右腕を前に突き出して、一瞬で引き戻して肘をまげた状態になる。
すると光がほとばしり、腰にベルトが出現した。
そのまま、ゆっくりと右手を前に持っていく。
「変身!」
両手で、ベルトの左右にあるボタンを押した。
カチッと音がしてヴゥォオオオオンと唸るような音が鳴ると、光が溢れて『
「お前は……!」
「騎士です!」
まなかが答えた。
「騎士、アギトです!」
アギトは少し腰を落として構えをとった。
アグゼルはニヤリと笑うと歩行スピードを速める。
「面白い。何が違う? 見せてくれ」
踏み込み、走る。
一瞬でアギトの前に来ると足をふるった。
「!」
アギトの腕がアグゼルの足を受け止めている。
そしてアギトが回ったかと思うと、アグゼルは頬に衝撃を感じた。
彼はそこでアギトの裏拳を食らったのだと理解する。
その威力に思わずよろけ、踏みとどまる。
「ほぉ」
アグゼルは踏み込み、殴りかかった。
右の拳が飛んでいくが、それをアギトは左手で受け止めた。
同じくしてアグゼルが腹を抑えて後退してく。アギトは彼が殴りかかるモーションを見て、すでに右腕を伸ばしていた。
攻撃を受け止め、掌底でアグゼルを打つ。
アグゼルは笑った。
そして加速する。体を丸めてステップで移動、そして一気に加速してジャブを繰り出した。
「!」
アギトが腕を払ったとき、アグゼルの拳が弾かれた。
そしてアギトは背中を前に出して、タックルでアグゼルを打つと、彼が反撃に出るよりも早く右ストレートで吹き飛ばす。
「ぐあぁ!」
アグゼルは倒れ、地面に背中を打った。
すぐに跳ね起きてワイルドボーダーに変身すると、後退しながらキャノン砲を連射。
上方向に火炎弾を発射し、それらは次々とアギトの周囲に落下していく。
「………」
アギトはステップでそれを回避するが、それだけだった。
ワイルドボーダーはアギトの身体能力高さを把握した。
ならば次は、遠距離攻撃の対処法を知りたい。
見たところ武器を持っているようには見えないが、さてどうするか――?
「フッ!」
アギトは腰の右サイドにあるボタンを押した。
すると変身ベルト、オルタリングの中央右側が赤く光り、右腕が炎に包まれて胸部アーマーと共に赤色に染まる。
さらに右肩のアーマーも強化された。
フレイムフォーム。
炎を操る形態であり、『超越感覚の赤』と称される通り、"視覚"や"聴覚"が強化される。
「津上シェフ!」
「料理長! 助かります!」
アギトの後ろにいた、まなかが、ひょっこりと顔を出し、武器であるフライパンを投げた。
アギトがそれをキャッチして、両手でフライパンをクルクルと回しながら、腰を落とす。
この構え、ワイルドボーダーには見覚えがあったが、まさかと思う。
その、まさかだった。
アギトはテニスプレイヤーの構えの通り、飛んできた火炎弾をフライパンの底で思い切り叩く。
パコーン! と、わざとらしい音がして、火炎弾が反射されたではないか。
「ぐぅぉおお!」
次々にアグゼルの放ったか炎弾が返ってきて着弾していく。
さらにフレイムフォームの炎が上乗せされているのか、明らかに威力が上昇していた。
アグゼルはキャノン砲の向きを変え、上から落とすのではなく、直接アギトを狙う。
「消し飛べ!」
二つの砲口から巨大なレーザーが螺旋状に交わり、一直線にアギトを狙う。
しかしそこで、スパパパパパパパ! と音が聴こえてきた。
見ると、アギトにレーザーが届く前に『スライス』されていくではないか!
「包丁裁きは料理人の基本です! マグロ用でもなんのその!」
まなかだ。
彼女がアギトの前に立ち、長剣・フレイムセイバーでレーザーをスライスしていく。
スライスされたレーザーは一瞬で蒸発し、こうしてアギトはノーダメージに終わる。
もちろんレーザーというのはあんなに簡単に切れないものだ。
つまりこれには、まなかの魔法が絡んでいるというわけである。
「チィッ!」
それなりに威力を込めた筈だったが……。
そう思っていると、アギトはフレイムフォームから、通常形態であるグランドフォームに戻る。
そしてその時、まなかを中心にして、巨大なアギトの紋章が一瞬だけ浮かび上がった。
「ユニオンです!」
まなかがアギトの前に立ち、返却されたフライパンを掲げる。
するとフライパンが巨大化。それを両手に持って前に出す。
まなかの頭上を、アギトが前宙で飛び越した。
彼が着地したのは、なんとフライパンの上である。
アギトは左掌を下に、右掌を上にして両手を前に突き出した。
そのまま腕を伸ばしたまま左右に開くと、シィァン! と音がして角が展開する。
「腕が鳴ります!」
まなかを中心に炎があふれた。
ジュウっと音がして、彼女は巨大なフライパンをあおる。
乗っていたアギトが跳ねた。バク宙で一回転した後に着地すると、ジュウとまた音が鳴った。
それを三回ほど繰り返す。
熱々のフライパンに乗っていたとしてもアギトにダメージはないようだ。
むしろ着地するごとに足裏に炎のエネルギーが宿っていき、展開した六つの角・クロスホーンの先に火が灯る。。
そして五回目の着地の際、アギトの足を中心に紋章が広がった。
右足を前に、左足を後ろにして腰を落とす。
右肘を軽く曲げて前に出し、左手は腰のほうに添える。
まるで居合でもするかのような構えだった。
さらにフライパンから発生する陽炎がアギトの姿を揺らめかせる。
そして紋章が渦を巻き、足にエネルギーを供給させていった。
角の先の炎は勢いを増し、右足は熱エネルギーで真っ赤に染まる。
ワイルドボーダーはそれを見て、鼻を鳴らし、全速力で走りだした。
「あッつあつをどうぞ!」
同じくして、まなかがフライパンを思い切り振るい上げた。
その勢いでアギトが飛び上がり、一度の前宙の後に、思い切り右足を突き出した。
「タァーッッ!」
足に炎の球体が宿ったまま、アギトは飛んでいく。
スピードは速いが――、しかしワイルドボーダーは確信した。
拳で、叩き落せる! と。
「!?」
だがそこでアギトから熱波が拡散した。
激しい熱を孕んだ風がワイルドボーダーの動きを止めた。
だからこそ、アギトの足裏が胸部に直撃する。
「ゥォオオオ! ズゥウウウウウウウ!」
倒れぬように堪えたものの、勢いは強く。
ワイルドボーダーは踏みとどまったまま地面を滑って、後方にスライドしていく。
途中で体が燃える。しかし、そこで勢いが弱まり、ブレーキをかけることができた。
「フッ! どうだ! 耐え切――ッ!」
気づく。体に纏わりついた炎が、頭上に移動していく。
炎が集中し、円を作った。
遠めに見ればワイルドボーダーの頭上に天使の輪が浮かんでいるように見える。
着地したアギトは右腕を前に出し、腰を落とした構えを維持したまま、ゆっくりと左のほうへ回転して、真横を向いた。
なぜ隙をさらすのか?
ワイルドボーダーは攻撃を仕掛けようとしが、足が前に出ない。
頭上に浮かぶ円が回転を始めた。
徐々に、速く。速度を上げて回り続ける。
もはや高速になっていた。その勢いが熱を生み出すのか。
赤い円が、やがて青に染まる。
「うッ! うぉッ! おぉぉッッ!」
アギトが再び体を回し、完全にワイルドボーダーに背中を向けた。
「オォッォォオオオオオオオオオ!!」
そこで円から炎があふれ、大爆発。
ワイルドボーダーは、溢れた火炎の中に消えていった。
「ちょ! は!? なにっ!?」
イバリが飛んできた。
炎の中をフラフラと出てくきたアグゼルを抱きとめる。
「あ、アグゼル様!? ちょ、は!? お前ら! アタシのアグゼル様に、いッ、一体何を!」
「いい。イバリ、引くぞ。これは計算外だ」
「は、はい! すぐに!」
イバリが腕をかざすと、ジッパーが出現して空間が割れた。
二人はそこへ飛び込み、消えていった。
「上出来ですね! 津上シェフ!」
「ええ。料理長のおかげですよ!」
「さあ。まだ町に悪いやつらはたくさんいるようです! ぱぱっと片付けてしまいましょう!」
二人は頷くと、踵を返して走っていった。
そして、ビルの屋上では、その様子をどでかい双眼鏡で確認している女性がいた。
長く美しい黒髪の上にはベレー帽をかぶっており、軍人のような格好だった。
「ま、まったく、とんでもない力ね。噂に聞いていた魔獣をあんなに簡単に退けるだなんて……!」
「それが津上翔一と、胡桃まなかの力というものよ」
「うぅむ。むむむぅ……ッ!」
「ところで貴女、いつまで双眼鏡を独占してるの。私にも見せなさい」
「ちょっと! ひっぱらないでよ! これはワタシのなの! ちょ、やめて! 触らないで! そもそも! あなた今は裁判官でしょ! 関係ないじゃない!」
「うるさい女ね。腹が立つわ」
「アンタだけには言われたく――って、きゃあああ!」
「うるさい女だわね。今度は何? 何だというの」
「あ、あ、あり! アリがそこに! なんで!? 屋上なのに!」
「そりゃアリだって屋上に登りたくなる時くらいあるでしょう」
「む、無理! 無理無理! アリは本当に苦手なの!」
「天中! フンッッ!」
茶色の髪をポニーテールにした女性が一撃をアリを踏みつぶし、天へ召していく。
「ぎゃあ! あ、あなた! なんてことを!」
「貴女がうるさくて会話にならないからでしょ。貴女のためにやってあげたんだから、感謝してほしいわね」
「ののの呪われるわよ!」
「呪いなんてないわ。ただの思い込みよ。あなた意外とスピリチュアルなものを信じるのね。アリンコ風情が人間様に逆らった罰よ。そういう傲慢さも時には必要なのよ。まあ生き物を無暗に殺めるのはいけないけれど。そこだけは反省しておくわ」
ポニーテールの女性は双眼鏡を奪い取ると、周囲を確認する。
「あら、なんてことかしら。バリバリ殺めてるわね。あなたの作った騎士が」
「ほほほ! 当然よ! この私の最高傑作なんだから!」
「何が最高傑作よ。私のをパクっただけでしょ」
「お黙り! マウリッツエンジンを搭載したのは私のアイディアよ! さあ! やぁーっておしまいなさいっ!」
「三流の悪役の台詞みたいね。よく口にできるものだわ」
「きぃいい! なんですってぇー!」
「それよそれ」
ポニーテールの
「だいぶ、落ち着いてきたね」
上条はビルの屋上から下の様子を確認した。
あれから二回は移動をしたが、魔法少女や騎士の活躍もあってか、だいぶ敵の戦力も削れてきた。
「ですが、桜花ちゃんを止めない限り、また新たに敵は補充されます」
「うん。そう、だね……」
「………」
殺したほうがいいと、織莉子は思う。
「!」
そこで三人の前に少年が降り立った。
蝉堂。彼は一瞬でミラーモンスター・ソノラブーマに変身する。
「お前……! 魔獣だったのか!」
「今頃気づいたのか? まあ、いい。お前らはココで死ね!」
怪人の姿であるというのに、下卑た笑みを浮かべているのがわかった。
直後、羽が震える。音が轟いた。
それは聞いたものの鼓膜を破壊し、脳を震わせてグシャグシャにしてしまう。それはどこに逃げても無駄だった。音からは逃れられない。
そう思ったが、防がれた。
織莉子のオラクルが三つ、巨大化して中に人が入れるようになったのだ。
これで織莉子は上条たちを入れ、自分も入ることで音から逃れた。
しかし純粋な衝撃波がオラクルを破壊し、三人は再び外に出た。
「フッ、防いでいる間に魔力が底をつきそうだ」
「……ッ」
「しかし、どうだ。今こそ逆に耳を澄ましたまえ」
いくら敵が減ってきたとはいえ、未だに爆発音や悲鳴は聞こえてくる。
「今までいろんな音楽を聴いてきたが、これに勝るものはない」
「……本気か?」
上条の答えが、これだった。
本心でそう聞いた。上条もまた、いろんな音楽を聴いてきた。
さやかがいろいろ、持ってきてくれたからだ。
「お前は本気で言ってるのか」
「上条くん、魔獣になった時点で価値観は変更されています。この会話は無駄です」
「まあ待て。確かに俺は魔獣になったことで、ありとあらゆる負が快楽となった。しかし別にそれは以前も変わらない」
「どういう、意味だ?」
「上に立てるから音楽をやってきた。ヴァイオリンは下手くそばっかりだったから楽だったよ」
たまたまそれが音楽だっただけだ。
「才能がない連中がもがき苦しんでいる姿は見苦しく、笑える」
マホは苦しげに表情を青くして俯いた。
当然、それをソノラブーマは見逃さない。
「そこの女は絵描きだろ? 報告を受けたが下手くそな絵だった」
「!」
「あげく、未知なるウイルスに所有物が感染してこの事態を引き起こした。まさにバカ、愚かなやつだ」
「取り消せ! お前に何がわかる!」
「わかるとも! 見てきたんだ! その女も、お前も、織莉子も! そして桜花! あいつも同じだ。バカが永遠に利用され続ける。そして俺たちがそれを楽しむ。そうやって巡るのさ」
「努力を、怠ることッ、なかれ――ッ」
「……なに?」
「さやかが持ってきてくれた音楽の雑誌で見た言葉だ。一日でも奏でることをやめれば、腕はほんの少し落ちる」
「フッ、才能のない連中はな」
「才能がある人間もっ、練習をすれば少しだけ上手くなれる筈だ。そうすれば聞きに来てくれる人を、より楽しませることができる」
受け売りではある。
そのついでに、もう一人、上条は演奏家の名前を出した。
彼と、彼の仲間は、豪華客船にて演奏をする仕事をしていた。
しかしその船が事故にあい、沈んでしまうことがわかった。
なかなか進まない避難に、乗客が苛立っている中で、彼らは客を落ち着けるために甲板で演奏を続けた。
やがて避難ボートには女と子供だけを乗せることがわかった。
それでも彼らは演奏を続けた。
少しでも乗客たちの恐怖が消えるように。そして自分たちにできることがあったからだ。
彼らは音楽と共に沈み、死んだ。
これも入院中に雑誌から得た情報だった。
「音楽は時代を超えてきた! その演奏家たちの信念も引き連れて!」
司たちはどうやら桜花を救うようだと。
その理由は、上条からしてみるとあまりにも愚直に感じた。
要するに、きっと、彼女がかわいそうだから助けてあげたいという単純なものだと思っている。
しかしどうやら司が言うには、それが仮面ライダーというもののようだ。
上条にはよくわからない。
オーディンもきっとそうなのだろうが、そうなれるといいだろうが……
それでも、やっぱり単純すぎて、逆に難しい。
よく、わからない。
けれども一つだけわかることがあるとすれば。
司はそのほうがいいと思ったから、その道を歩もうとしている。
そしてそれはきっと彼が幼い時から変わっていないのだろう。
だって単純な理由なんだから、難しいことを考える大人じゃなくても抱けるものなのだろうし。
上条はそれを聞いて、昔を思い出した。
昔から弾いていた。その時の気持ちは、変える必要があるのだろうか?
そして、今、この蝉堂。魔獣という男を見てどう思った?
傷つかないように。悟られないように。誤魔化すように。
そうやって、上条はいろいろな言葉や例えを使っているが、実をいうとその想いは単純で。
上条は久しぶりにムカついているだけだ。
「それは音楽にだけに留まらない。ありとあらゆる芸術は、そうやって価値を示し続けた! それを愚弄するお前を! 僕は許さないッ!」
「ははは! 面白い! なら見滝原に戻ったらその雑誌に携わった連中や、今のありがたい名言を残した人間を一人残らず殺してやる! 一族全員だ! それが人間を、芸術を超えた魔獣の力なんだ!」
蝉堂は演奏家以外に、一つ、魔獣という力を手に入れた。
しかし考えてみれば、それは自分も同じであると。
ヤツが魔獣ならば、自分は、騎士。
「蝉堂! お前が可能性を否定するなら、僕は可能性を肯定するために戦う! 多くの演奏家がそうやって才能を開花させていき、人々を感動させていったように!」
織莉子も、少し、感じるところがあった。
「音楽は無限だ! 未来を変える! それが可能性!」
未来を変える。努力し続ける。
なんだかそれはとても当たり前のことで。
でも、一番最初に忘れたことだったのかもしれない。
努力は報われる。
いつだろう? いつ、忘れてしまったのだろう。
でもきっとそれは、一番最初に思い出さなければならない言葉なのだと思った。
まなかと、このみちゃんは、もっと話題になってもいいパワーを秘めてると思うてます(´・ω・)b