Episode DECADE×FOOLS GAME 桜花ルート5034 作:ホシボシ
ゴミはゴミ箱に捨てます。
みんなに意地悪しません。人の嫌がることを率先してやります。
神様。わたしは良い子です。
・これは今、昔、そして未来。
それは自分だけ、初めてのお祭りに参加するような気分だった。
周りの人は楽しそうで、私も楽しそうにしなきゃいけないって、焦る。
実際それは楽しいかもしれないけど、少しばかりの疎外感。
でもそれは不思議なことじゃないんだ。
だって、それは、いつか――
静寂の地に稲妻が迸った。
するとどうしたことか。まるで街に溶け込むように、先ほどまでは存在していなかった『学校』があった。
正確には校舎の一部なのだが、周りの人間にそれを不思議がる様子はない。
誰もその存在を感じていないのだ。
これは特別クラスや、その関係者だけに見える、世界を移動する『船』なのだから。
「ここが次の世界ってわけか」
聖司は気だるそうに伸びを行っていた。
相変わらず世界転移の際は体に負担がかかる。
それなりに眠ったのに、まったく疲れが取れない。それを見てゼノンは呆れたように笑っていた。
「世界タイプはノーマル。キミたちの世界と同じ感じかな」
ノーマルというのは『日本』を基準とした町並みのことである。異世界でありながらも分かりやすいタイプの世界形態だった。
「ここに大ショッカーの存在を感じたわ! あなたたちの役目は、それを見つけて潰すこと!」
フルーラはシャドーボクシングを始める。
いや待て! 違う。そのまま前に移動してポカポカとモモタロスを殴りはじめた。
「あでででで! いてぇな! やめろクソガキ!」
「きゃあこわい。ゼノンっ、赤鬼さんがイジめてくるの!」
「なんだってフルーラ! かわいそうに、ボクがよしよししてあげるよ!」
「いやぁ! よしよしじゃなくて、よちよちがいいー!」
「んむぉうフルーラってば、甘えんぼさん」
「きゃ! うふふふ」「あはははは」「「おほほほほ」」
「……もう勘弁してくれ。傷に響く」
ゲッソリとした司の顔を見て、ゼノンたちは意地悪そうに笑う。
「世界の陣取りゲームの開始だ。取るか、取られるか」
戦いにはルールが設定されている。
大ショッカーは世界に送り込んだ隊のなかで、『ブレイクエネミー』を設定。それが世界から離れるか倒されると、世界は免疫力を高めて崩壊作戦は失敗に終わる。
リーダーアサルトを決めれば他にどれだけ敵がいてもその場は勝利となるわけだが、もちろん敵もそれを阻止してくるわけで。
「気をつけてねディケイド。この前みたく、運がいいとは限らないわ」
「キミはCOBRAに負けたんだ。向こうが萎えて撤退してくれたからよかったものの、もしもあの時のブレイクエネミーが彼だったら世界は終わってた。多くの人間が死んでいたんだ」
「……わかってる。わかってるよ、そんなことは」
「なら結構。終わらせてくれ。世界が終わる、その前に」
ゼノンとフルーラはそれを言い残し、学校を去っていった。
司は深く、ため息をつく。確かに完敗だった。
あの雨の街を思い出すと亘に言われた通り、焦りの文字がチラついてくる。
「みんな。今日は、どうしようか」
気を遣ってか翼が口を開いた。
いつまでもモヤモヤしたものを引きずっていても仕方ない。司は立ち上がって窓の外を見た。
「いつもみたいに散って、聞き込みして、ある程度したら情報を交換しよう!」
「大丈夫? お兄様。シオリは……、心配」
妹に覗きまれて司はギョッとしたように笑みを浮かべる。
予言の力を持つ彼女は、曖昧ではあるが未来を予知することができる。
今のは純粋に兄を心配しての発言のようだったが、心まで見透かされたような瞳に怯んでしまった。
「あ、ああ。大丈夫だよ。ほらほら、栞は真由ちゃんと一緒に留守番しててくれ。大ショッカーなんて俺たちがぱぱっと倒すから。あははは……」
妹をなだめ、司はヒラヒラと手を振って教室を出て行った。
「なんか元気ないなぁ」
「仕方ねぇだろ。COBRAにボロ負けしたって聞いたぜ。今はそっとしておいてやれ」
ユウスケは司を励まそうと思ったが、真志に肩を掴まれた。
司と
仮面ライダーが好きで、そして成功したものと、失敗したもの。
司たちにとってCOBRAとSNAKEは同じ立場であるが故に倒すこと。
つまり、殺すことに激しい抵抗がある。
「それに……、まあ、なんていうか。いろいろ、あるだろ? いろいろな」
真志はその『いろいろ』がなんなのかを口にしなかった。
ユウスケとしては当然、意味がわからなかったが、視線の先に栞がいたからニュアンスだけは理解できた。
司と亘は兄弟だ。ちゃんと血が繋がっている。
栞と司たちは兄妹だ。血は繋がっているが、繋がってもいない。
栞と血が繋がっていたのは『栞の世界』にいた司と亘だった。詳しいことは省くが、孤独な彼女を救うために聖兄弟が選んだのは『統一化』だった。
その瞬間、聖兄弟は生死を超越し、常識の外にいる存在となったのだ。
そして大ショッカーはもう一つ、栞を"ある存在"に仕立てようとしていた。
最強怪人『メアリー・スー』。詳細はわからないが、一端だけは知っている。
ありとあらゆる世界に適合できる存在。つまり世界とは、いとも簡単に形を変えられるものなのだと、誰もが知った。
「オレたちは馬鹿な学生だった。適当に笑って、くだらないことをして時間を潰す」
少なくとも禁忌に触れるような賢い奴らではなかった。
今はだいぶ落ち着いたが、みんな旅が始まって今に至るまで、アイデンティティを確立するのにそれなりの努力が必要だった。
歪でも、間違っていたとしても、それでも自分なりの答えを出してここにいる。
「司はもうすぐまた一つ、答えを出さなきゃならないらしい。それが何なのかは、オレには理解できないけどな」
「……でも司が負けるなんて。前も、その前も勝ってたのに」
そこで栞が悲しげな表情を浮かべた。
最近までショッカーにいた彼女は、その内部事情にも詳しい。
「COBRA――、秋人に強化アイテムを与えようという計画がありました。それがたぶん、完成したんだと思います。お兄ちゃんも戦ったでしょ?」
栞は司をお兄様。亘をお兄ちゃんと呼んでいる。
彼女の言葉を受けて、亘は頷いた。司とCOBRAが戦っている時に、彼もBATと一戦を交えていたらしい。
「ボクも……、BATに負けたんだよ」
ナイトローグという形態だった。
見たことないボトルみたいなもので変身していたが、それがCOBRA隊の新しい力なのだ。
「でもお兄ちゃんよく無事だったね。秋人はともかく、BATが見逃すなんて不思議」
「いやぁ、ボクもまだよく分からないんだけど……」
亘は、その時のことを話し始めた。
ナイトローグに負けて、変身解除に追い込まれたときは絶対絶命だったが、そこで『ある人』に助けられたのだという。
亘はその時のことを思い出す。
「グアァッ!」
雨に打たれながら、ナイトローグは後退していく。
一方、へたり込む亘の前には、白いコートを来た男が立っていた。
「ッ? あなたは……!?」
「
長い白髪を後ろで結んだ青年だった。
雨龍は右手に白い剣を持っており、どうやらそれでナイトローグを斬りつけたらしい。
「ぅうッ、何者かは知りませんが、大ショッカーの計画を邪魔するものは全て敵! ここで消えてもらいましょう!」
ナイトローグは銃を乱射するが、それらは全て雨龍に届く前に地面に落ちていく。
雨だ。雨粒の一つ一つが光の針に変わり、銃弾を撃墜したのである。
「――フッ!」
雨龍が剣を振るうと、白い刃が発光し、斬撃が発射された。
それは一瞬でナイトローグへ命中すると、変身を解除してみせる。
「うぐァアッ! ば、馬鹿な!」
想定外の一撃。想定外の存在。
BATは危険と判断したのか、すぐにマントを広げて空に消えていった。
それが全てである。雨龍も敵の撤退を確認すると、亘には見向きもせずに消えていった。
「不思議な人だったな。たぶん、仮面ライダーとは関係ないと思うんだけどさ……」
前例がない訳じゃない。その世界に住む戦士に会ったことは何度かある。
フォボスもそういう類の存在なのだろう。
今は世界を移動してしまったため、再会することもないだろうから話す必要はないと判断していたらしい。
「つ・か・さ・くーん!」
司が町の中をトボトボと歩いていると、従姉妹である夏美がついてきた。
帽子をかぶるのが本人のこだわりらしく、今日はキャスケット帽のようだ。
「一緒に見回りましょ!」
「あ、ああ。そうだな……」
ともあれ、歩けども歩けども異常はない。
ここ最近おかしなことがないかと聞いてみても、返ってくるのは身の上話ばかりで、大ショッカーの気配は欠片も感じられなかった。
「うーん。収穫なしか」
「ですねぇ」
ならばと司はケータッチを取り出す。頼れる仲間がいるのだ。
適当に見つけた名前をタッチし、コールを行う。
なにせとびきり優秀な仲間たちだ、既に敵の尻尾をつかんでいるに違いない!
『うひゃあああああああああ!!』
「ッ! 拓真! どうした! 既に交戦中か!?」
『あははは! 拓真! もっと声出して! ほらほれ!』
「友里! どうした! 何が起こってる!」
『は、速いよ友里ちゃん――ッ! うぎぃぃ!』
『あっは! ビビリすぎだって! ほら両手挙げて! ふぅうう!!』
コースターだな。
ジェットのコースターキメてやがるなコイツら。司の額に青筋が次々と浮かび上がってくる。
いかん。司は無言で通話を切ると、大きく深呼吸を行う。
いや、いや、何かの間違いだ。そうだ。少し早計だった。
いくらなんでもジェットコースターを乗りながら電話はないよな。司は反省を胸に、次の仲間に連絡を入れる。
「真志か? そっちはどうだ?」
『司か。ダメだな。参ったな……』
「どうした! 必要なら俺がそっちに行く!」
『いやぁ、参った。まさか炙りマヨがこんなに美味いとは……』
「よく味わえよ! テメェの最後の晩餐になるからな!!」
司は『握り』をキメていた友人の返事を聞かずに通話を切った。
なんとなく予想はしていたが、まさかコイツ等――ッ!
いや、待て。いかん。焦っている。イライラしている。いつもの調子じゃない。
きっとあれは何かの聞き間違いだ。龍騎の炎で敵を炙るのがうまい……、つまりアドバンテージを取れるということなのかもしれないじゃないか。
マヨはあれだ、マヨえる、子羊……。わからん! とにかく、なんか、こう、聞き間違えたんだろう!
司は心を落ち着かせながら次の仲間に連絡を入れる。
「椿ッ!」
『なんだよ。声色がイラついてんな。分かるぜ、アイツらどうせまともに調べてねぇんだろ。流石底辺高校の連中だ。でも安心してくれよ司、俺はしっかりと大ショッカーの動きを把握しようと調査をだな――』ドンドンドンカッドンカッドンカッ
「おいなんだ? なんかっ、なんかドンドン聴こえるぞ」
『え?』ゴジュッコンボー
「おい、なんだ今の。50コンボってなんだ?」
『え? え……? え?』
「嘘つけ! 聞こえてるだろ!」
『――違う。分かる分かる分かる。分かるよ。分かるけど。ちがこれ――ッ、だからあの、屁。俺の屁!』ドンドンカッカッドドドドドドドドド
そこで切れた。司はケータッチを握り潰さんとの勢いで力を込める。
「お、落ち着いてください司くん! みんなアレですよ! ほら! わたしたちみたいにすることがなくなっちゃったから――!」
そこで双護から電話が掛かってくる。
「……双護からか」
「ほら! もしかして敵の情報を掴んだのかもっ!」
「出たくない」
「なんでですか! 出てくださいよ! 可哀想じゃないですか!」
仕方なく、出る。
『司か? 悪いな、今からマグロの解体師になれる試験が始まるんだ。緊張しているからまた後で』
「黙れ! お前は何しにこの世界に来たんだよ! ってかお前から連絡してきたんだろうが! お前らはいつもそうだ! いつも頭が悪い!」
「あははっ! お兄さんどうしたの? すっごく怒ってるね」
「へ?」
声が聞こえて振り返ると、そこには桃色の髪の毛をした少女が立っていた。
「はじめまして、私は
「え? ああ、桜花……、ちゃん? えーっと、はじめまして。俺は聖司」
「はい、はじめまして! お姉さんは?」
「わたしは光夏美です。はじめまして!」
「うん! はじめまして!」
随分と元気のいい子ではないか。聞けば、小学六年生だという。
「私ね、今ね、面白いことを探してるの」
「面白いこと?」
「そうだよ。フフ、街中を散歩してね、何か面白そうなことを探すの」
桜花は親指を立てて人差し指を伸ばし、指でカメラの形を作った。
「へぇ。変わった趣味だね」
「ちょっと司くん! 失礼ですよ!」
「フフフ! いいよいいよ、自分でもわかってるから。でもね、人生、面白いことが沢山あったほうが素敵じゃない? そういうのって外を歩かないと見つからないよ。右足を前に出して、次に左足を出す。ほら、ね? 簡単でしょ?」
喋りながら歩いていく桜花を追って、司たちも歩き出した。
「それは確かに。なんだか桜花ちゃんから大切なことを教えてもらった気がするよ」
「でしょ? 刺激のない人生なんて、つまんないもん」
橋が見えた。桜花はピョンと手すりの上に跳びのると、両手を広げて歩き出す。
「あ、危ないですよ桜花ちゃん!」
細い手すりの上を歩く行為は確かに危険だ。少しでも足を踏み外せば橋の下に落ちてしまう。
水はあるものの、それほど深いようにも見えないし、打ち所が悪ければ死んでしまう可能性だってある。
しかしそれでも桜花は恐れることなく、スタスタと歩いていった。
「大丈夫。こうしてるとね、実感できるから、好きなんだよ」
「実感? なんの?」
桜花は答えない。無言で歩いていた。
しかし、オロオロと戸惑う夏美が間抜けに見えたのか、小さく唇を吊り上げる。
「生きてること」
「え?」
その時だった。遠くの方で悲鳴が聞こえたのは。
「ッ、司くん!」「ああ!」
ただならぬ声色だった。司と夏美は頷き、走り出す。
呆気に取られている桜花を振り切り、二人は悲鳴が聞こえた場所にやって来た。
周りを見るが人影はない。
すると工事中のビルからヨロヨロと誰かが歩いてくるのが見えた。
「た、たずけ……で」
「どうしたんですか? 大丈夫で――」
そこで夏美が悲鳴をあげた。歩いてきたのは女性だったが、『半分』しかなかった。
体の『前面』しか存在しておらず、真正面から見れば無傷に見えるが、後ろからみれば骨や臓器がむき出しになっている。
女性は血の涙を流しながら倒れた。内蔵が零れ、おびただしい量の血液が広がっていく。
夏美はその凄惨な光景に怯み、青い顔で地面にへたり込んだ。
そこで気づく。女性の後ろから小さなシルエットが歩いてきた。
ペタペタペタと足音を立てて近づいてくるのは裸の子供に見えるが、それは肉体が全て肌色のツルツルしたもので覆われているだけだ。
頭部は菱形で、そこには無数のフジツボのようなものがビッシリと張り付いていた。
「あ……、カ…らだ……、ちょウダ……い」
一瞬だった。化け物は一瞬で司の背後に回り、背中に手を当てる。
死。脳裏をよぎる文字。しかしそれよりも早く耳を貫く電子音。
『カメンライド――』
化け物の体が吹っ飛ぶ。
そして同時に収束していくホログラフのシルエットたち。
間一髪のところでディケイドライバーに搭載されている自動変身機能が働いてくれて、ディケイドになることができた。
すぐにライドブッカーを撃つが、化け物の体に弾丸が命中すると、そのままめり込むように吸い込まれてしまった。
「なんだコイツは……ッ!」
「あ……、カ、らだ……ほし…ぃ」
またも一瞬だった。
化け物はディケイドの前にワープしてくると、掌を腿に押し当てる。
すると凄まじい斬撃がディケイドの全身に走った。
鎧がなければ体がバラバラになっていただろう。
これがどうやら化け物の能力らしい。触れられてはならない。近づかせてはいけない。ワープされるというなら対抗できるスピードが必要だ。
「クソッ!」『カメンライド』『カブト!』
足を振るい、化け物の頭部を蹴る。
しかし硬い。というよりも手ごたえがない。ゴムの塊を蹴っているような鈍い感覚だった。
ディケイドはすぐにクロックアップで化け物のスピードに対抗しようと駆け回る。だが、化け物に攻撃を仕掛けようとした瞬間、右腕に凄まじい衝撃が走った。
痛みで持っていたライドブッカーが地面に落ちる。
(なんだ!?)
辺りを確認するが、なにも無い。
目の前の化け物が何かしたのか? ディケイドは危険を感じて後ろに跳んだ。
「がぁあッ!」
だがそこでまた肩に凄まじい衝撃。
クロックアップが解除され、ディケイドは地面に膝をつく。
だがそこで確認できた。銃弾だ。ディケイドは肩を撃たれていたのだ。
目の前の化け物が銃を持っている様子はない。ならばおそらく、もう一体どこかに敵がいる。ディケイドが周りを見てみるがそれらしき姿はない。
であれば、周りが壁になっているところを見つけて滑り込んだ。
「……フン」
遥か遠くのビルの上。
黒いコートに黒いハットの男は鼻を鳴らした。
特徴的なのはその顔だ。仮面を被っており、ダブルのように色が左右で白と黒に分かれている。
そこに赤い唇が三日月のようにつりあがっているデザインだった。
彼の名前は『リッパーK』。
そしてディケイドが戦っているフジツボ頭は、『キルゾーン』という。
少なくとも司の脳裏にある怪人のデータとは一致しない。
「兄さん!」
夏美からのSOSを聞きつけたのか。近くにいた亘がマシンキバーで滑りこんできた。
乗り捨てるようにしてバイクから降りると、すぐにキバットを呼んでキャッチする。夏美もそこでキバーラを呼んで腕を差し出した。
が――、しかし。
「あ、あれ?」
ふたりともキバットたちに手の甲を噛ませても何も変化が起きなかった。
キバットたちも驚いているようで、アワアワとしながら体を横に振っている。変身妨害でもされているのだろうかと、辺りを探るが、それらしい装置は見当たらない。
そうしていると空に突如として巨大な穴が現れ、そこから闇のエネルギーが発射された。
それは亘たちのすぐ近くで爆発を起こすと、二人を大きく吹き飛ばしてみせる。
「きゃあぁああ!」「うわぁあぁあ!」
夏美と亘はビルの壁に激突し、地面に倒れた。
一方で空間の穴からは黒いローブを纏った女が降りてくる。
いや、それは女と呼ぶにはあまりにも歪で禍々しい姿だった。
肉体のフォルムは人型ではあるものの、その頭部は三日月のような形をしていた。
弧を描くフォルム、唇ようなもの、目のようなものは確認できるが、それは果たして仮面なのか、あるいは本物の『顔』なのか、理解ができない。
「魔女の名を、讃えるのだ。我が名は、そう、ネクロデザイア」
そして、その左右にも別の異形が立っていた。
左にはコートを着た長い黒髪の女、『キリサキさん』。
右には人の皮で作ったマスクを被った男、『レイスマン』が立っている。
「異物が、見える。この世のものではないと、しても」
ネクロデザイアの人差し指が光ったその瞬間、再び凄まじい爆発が起きた。
「ぐあぁあああああ!!」
爆炎が巻き起こり、ディケイドは成すすべなく、空へ打ち上げられる。
そのまま地面に激突すると、熱風にもまれながら地面を転がっていった。
「司く――ッ!」
駆け寄ろうとした夏美だが、変身できない状態では危険だ。
一方でディケイドはすぐに立ち上がり、カードをドライバーへ装填する。
『ファイナルアタックライド!』『ディディディディケイド!』
強化された光弾を放つが――
「世界を……、超えても、私は超えられない」
ネクロデザイアが掌を前に翳すと、弾丸が停止してしまう。
そして指を鳴らせば弾丸が反射されてディケイドへ直撃した。
「グアァア!」
「それは私が、魔女だからだ。フフフフ、フハハハハハ……!」
張り付くような魔女の笑い声。
そしてまたも黒い爆発が巻き起こり、闇に包まれたディケイドは地面を滑りながら変身が解除された。
「おー、すごいねー」
その時、声が聞こえた。
桜花だ。彼女がいつのまにか司の傍に立っていた。
「おうがぢゃんだぁああぁぁぁぁああ!!」
レイスマンがどこからともなくチェーンソーを起動させて走ってくる。
「危ないッ!」
司は反射的に桜花の前に立つが、見えない力で吹き飛ばされた。
サイコキネシス。ネクロデザイアが真っ赤な唇を歪に吊り上げている。
「オホホ……フフフ。人間では……、我らには勝てない」
司は表情を歪め、そして見た。
「桜花ちゃんッッ!!」
夏美も見た。走ったが間に合わない。
回転する刃が、桜花に深く深く侵入していく。
皮膚を吹き飛ばし、肉や血をまき散らしながら鎖骨を切断する音が聞こえた。
レイスマンはさらにナイフを取り出すと、それを桜花のお腹に突き入れた。
笑いながら刃を横へ振るうと、桜花の腹が割かれて臓物が散っていく。
刹那、桜花の体がザクロの様に弾けて大量の血が辺りに飛び散った。
ネクロデザイアも力を加えたのだろう。サイコキネシスによって桜花の体は粉々に四散する。肋骨がむき出しになり、臓器がペーストとなって飛び散った。
「死亡する少女……。うぅむ、非常に、芸術的だ」
言葉を失う司たち。しかし、それは時間してみればあまりにも短い出来事だった。
誰もが状況を理解する暇も無く、ただ現実だけを目にしていく。
「あーあ、また死んじゃった」
「えッッ!?」
桜花はけだるそうに立ち上がると、唇の横についた血を舐め取り、面倒臭そうに頭をかいた。
つい先ほど肉片になったとは思えないほど、その姿は整っている。
むしろ傷一つないようだ。ただ、元通りになった洋服にはベットリと血の痕があった。
『ルナ! マキシマムドライブ!!』
激しいフラッシュが巻き起こり、ネクロデザイアたちは手で顔を覆う。
光が晴れたとき、司たちの姿がまるまま消えていた。
彼らを乗せたリボルギャリーは、二車線をまるまま埋めているわけだが、周囲の車はそれを気にする様子は無い。
観測者権限やEpisode DECADEの力によって世界に適応がなされているのだ。
「ゼノン! いったい何がどうなっている!!」
リボルギャリー内部。司は痛みが残る部分を押さえながら叫ぶ。
ゼノンはハッチを開き、上半身だけを外に出していた。手にはデンデンセンサー、そこから未だビル内部にいる敵をサーチしていた。
「うーん、あいつら大ショッカーじゃないなぁ」
その時、銃声。リッパーKが放つ弾丸がゼノンの額に迫る。
だがそこで竜の咆哮が聞こえ、銃弾が弾かれた。
ゼノンの肩に着地したのはファングメモリ。そのままハッチを通ってフルーラの手に収まる。
「アイツ今ゼノンを攻撃した? は? え? いや……、は?」
フルーラの目が据わっている。姿勢を低くしながら、素早くファングメモリを展開する。
「殺してやる!!」『ファング!』
「いやぁ、愛されてるねぇ、ボクって」『ジョーカァ!』
ゼノンもジャケットの内ポケットからメモリを抜き取ると、起動する。
既に二人の腰にはダブルドライバーが巻かれていた。
「変身ッ!」「変身!」『ファング・ジョーカー!』
二人の体が光球になり、リボルギャリーの上で一つに交わって人型のシルエットを形成した。
仮面ライダーダブル・ファングジョーカー。
すぐにショルダーファングを発動して刃を投げつける。
「死ねッ!」
ドスの効いたフルーラの声が聞こえる。
だが刃のスピードは速いものの、ビルの屋上まではとにかく距離がある。
リッパーKが逃げるには、あまりにも十分な時間だった。
だが動かない。あえて不動。リッパーKは眼前に迫った刃を人差し指と中指で挟んで止めてみせた。
「アァ!?」
ダブルはその様子をデンデンセンサーを通して確認する。
リッパーKは指を開いて刃を地面に落とすと、笑いながら消えていった。
「やっぱりお兄さんたち、面白いね」
リボルギャリーの内部、桜花は笑い、そして"消えた"。
「えッ! 桜花ちゃん!?」
夏美はすぐに立ち上がると辺りを探す。
走行中の車内から逃げだすにはハッチを通るくらいしか思いつかないが、その近くにはダブルも立っていたわけで。
なによりも桜花は確かに一度、死んだ。
にも関わらず桜花は、生きていた。これほど不可解な話はない。
「とにかく学校に戻ろう。話したいこともあるしね」
「でも、桜花ちゃんは……!」
「キバーラ、あの子は普通ではないわ。とにかく、ほら、もうすぐ着くのだし」
返す言葉が見つからず、夏美は黙った。
その後、ゼノンたちは会議室となった特別クラスを借りてメンバーを集める。
葵が出してくれたコーヒーを飲みながら、机の上にダブルドライバーを乗せた。
「確認したよ。変身ができない」
「……? してただろ、さっき」
「ボディサイド・ジョーカーは、いついかなる場合でも、その変身を妨害されることはない。だからこそファングジョーカーになれただけで、ボクらは基本的にスタートフォームはヒートトリガーから始めている。それが不可能だった」
「学校は干渉されない空間だからいいとして、その敷地を出ればワタシたちはジョーカー以外のフォームには変身できなくなってるってわけ。それは貴方たちも同じよ、破壊の力を持つディケイドだけは変身できたみたいだけれど……」
「観測者の眼であるボクたちが協力するのは、大きなイレギュラーがあったときだ。つまりそういうことなんだよ。大ショッカーも意図していない力が発生している可能性が高い。とにかく、もう少しコチラで調査したいから、その間キミたちは待機してて」
「でもッ、桜花ちゃんはどうするんですか!?」
「キバーラ、改めて言うが、人間は普通、死んだら終わりだ」
その点に関しても調べてみると言い残して、ゼノンたちは学校を後にした。
「桜花ちゃん大丈夫でしょうか……? ううん、でもなんで……?」
夏美は先ほどからずっとオロオロと教室内を歩き回っている。
司も目を細めて掌を見つめていた。守れなかったのは事実だ。このままではダメだ。最近はどうにも悪いイメージがずっと張り付いて頭から離れない。
COBRAに負けたのが響いているのだろうか? もっと強く、もっとディケイドにならなければ。
「まあまあ。焦ってても仕方なくない? ここは待ってよーよ!」
友里はスマホゲームに興じている。
確かに桜花のことは心配ではあるが、死んだと思っていたら生きていた。しかも本人はそれほど焦る様子がなかったというじゃないか。
「桜花ちゃんのほうが、よっぽど真実に近い位置にいるみたいだし」
「でも、死んで、生き返るか……」
クラスにいる人間の顔がみるみる青くなっていく。
ムネモシュネ。エピソードフルブラストと名づけられた事件は記憶に新しい。
マトリョーシカのような世界に閉じ込められた彼らは、記憶さえも失い、世界の歯車に組み込まれてしまった。
「そう言えばおれたちも……、いっぱい死んだよな」
「げぇー、ちょっとやめてよ。思い出すだけでトラウマなんだけど……!」
ブルブルと震え始めるクラスメイトを見て、椿は鼻を鳴らした。
「おーおー、なんだテメェら。なさけねぇ。人間なんて生きてりゃ一回や二回は死ぬんだよ」
そういって彼はブルブル震える手でペットボトルの飲み口を額に押し当てて、サイダーでびちゃびちゃになっていた。
しかし誰もその奇行に言葉を挟まないのは、それだけ大きな恐怖とトラウマを残したからだろう。
ゼノンたちが用意してくれた治療カプセルがなければ、精神を病んで再起不能になっていたはずだ。
とはいえ若干、達観ぎみな性格になったのは否めない。
考えてみれば、そもそも一番初めの世界を出てからはそれなりに時間が経っている。文字通り、大人になっているのだ。
「でも、でも、ですね! うぅぅぅ……」
様子を見に行きたいのだろう。ソワソワしている夏美を落ち着けていると、ゼノンたちが戻ってきた。
「なんだ。早いな」
「キミたちにとってはね。コッチは体感で一週間くらい経ってるよ」
しかし『緊急事態の可能性あり』とのことで、ありとあらゆる手段を使って調べた。
「今回は特例だ。感謝してくれよ」
そう言ってゼノンたちは写真を並べていく。そこには先ほど戦った異形の姿が見えた。
「フジツボ頭の化け物はキルゾーン。怨念の塊で、目が合った相手に高速で近づき、肉体を奪う」
「リッパーKは地獄の殺し屋よ。驚異的な長距離射撃で相手を即死させるわ」
「レイスマンは連続殺人鬼が一度死んで蘇ったモンスターだ。ありとあらゆる武器を使い、人を殺すことに興奮を覚える変態野郎ってところかな」
「キリサキさんは、そのままよ! 切り刻んで殺す女の子! 怖いわね!」
「そして――」
リーダーを指差すゼノ
「ネクロデザイア。多くの人間を殺した魔女がギロチンで処刑されたが、既に肉体を捨てており本体は思念体になって逃走していたようだ。それがキミが見たあの三日月頭の状態だったってこと」
「な、なんだよ……。まるでホラー映画だな」
椿の言葉に、ゼノンは指を鳴らした。
「おしい」
「え?」
フルーラは次に写真の上にテレビゲームをを置いた。
キルゾーンの上には『キルゾーン』、リッパーKの上には『ゾウオンケイジ』、レイスマンの上には『フィアーナイト2』と、それぞれハードが違うソフトが置いてある。
キリサキさんの上には『キリサキさん』と書かれたUSBが置かれた。フリーゲームのようだ。
そしてネクロデザイアの上には『ブラックフォレスト』と書かれたパッケージが置かれる。
「アイツらは、ホラーゲームのキャラクターだ」
「ゲーム?」
「ええそうよ。そしてこれが、桜町で僕と一緒にダンスを」
「え?」
最後に一つ、違ったテイストのパッケージが置かれる。
それは所謂『エロゲ』と呼ばれるジャンルのものだった。
表紙には可愛らしい女の子が沢山写っている。問題はその裏だ。
「女の子は見ないほうがいいわよ~、えっちなんだからーッ!」
真っ赤になって頬を押さえるフルーラに釣られ、女性陣は赤くなって後ろに下がる。
一方でばつが悪そうにしながらも司は裏側を確認してみた。
そこに小さく桜花の姿があった。
「これは……!?」
「見たままだよ。ゲームだ。大ショッカーにはありとあらゆる組織が集結して、その中には単純な組織だけではなく、それが齎す技術も含まれている」
「大ショッカーは常にそれを発展させようと血眼よ。今回もきっとそう。新しい技術を形にしようと暗躍しているに違いないわ」
それならば司たちだけで何とかしてほしいところだが、全く別の組織――、あるいは『存在』かもしれない。
そこにライダーの力を注ぐことはゼノンたちからしても、良いことではない。
そういうケースがないように
少なくともネクロデザイアたちはファンガイアやオルフェノクには見えなかった。
「ただでさえスーパーショッカーだかウルトラショッカーだか忘れたけど、大ショッカーから派生した組織まで出てきた。怪獣だのが出てきたら面倒だろ?」
だからゼノンたちは『特例』とみなしたのだ。今回は協力してくれるらしい。
「また怪獣や星人が絡んでいないとも限らない」
「おいおい、勘弁してくれよ。もうあんなのはたくさんだ」
「とにかく!」
まずゼノンたちはデンデンセンサーを使って敵と世界をサーチした。捉えたのはリッパーKだ。
「ヤツの体の中、そしてこの世界に存在する微粒子を解析した。近いものがデータベースに一つある。"バグスターウイルス"っていうんだけどね」
「それが、この世界で悪さをしてるってことか?」
「ああ。ただ、まだキミたちにとっては未知の相手だ。攻略法も少し変わってくる」
ゼノンとフルーラは指を鳴らす。どうやら知り合いの中に知識を持ったものがいるようだ。
灰色のオーロラが出現すると一人の男の子が姿を現す。中学生くらいだろうか? フードつきのパーカーに、大きなヘッドホンを首にかけていた。
至る所に企業名のロゴが入ったグッズやバッジを身につけている。
「はじめまし……、あぁ、いや。おれは石神エム。エグゼイドだ」
「エグ、ゼイド……?」
「ああ。プロゲーマーなんだ。普段は実況とかして、金貰ってんだぜ」
椿や友里はプロゲーマーに食いついていたが、司はやはり『エグゼイド』という単語のほうが引っかかった。
ゼノンたちが連れてくる人間が放つ単語は間違いなくライダーに関するものだ。
察しの悪い男ではない。なんとなくどういう存在かは想像がついた。
「新世代はいつの間にか10を超えた。それを時の流れとみるか、はたまた足踏みしているとみるか」
ゼノンはポツリと呟いた。
「ま、いいや。話の続きだディケイド。ボクらが今回キミたちをこの世界に留まらせるのは、バグスターウイルスが仮面ライダーのカテゴリに属しているからに他ならない。裏にいるのが誰であれ、ライダーの技術が使われている以上、キミたちはそれを止めなければならない」
「……ああ。あんな化け物が暴れまわるっていうなら、止めないとな」
「エグゼイド、残りの説明を頼んだよ」
エムは椅子に座ると、机の上にあるゲームを睨んだ。
「まず、はじめに、この世界はゲームの中の世界であるということを理解してほしい」
「え?」
「つまり、仮想現実に属してるってことだよ」
なぜディケイド以外が変身できなかったのか?
それはゲームの世界の常識、ルールとシステムに適応できていなかったからだ。
「この世界には明確なレベル制度があるようだ」
個々の人が持つ『レベル』という概念。
レベルが低ければ変身もできないし、たとえ変身できたとしても、自分よりもレベルが高い敵にはダメージを与えることはできない。
「バグスターウイルスとは、簡単に言えば電子機器――、主にゲームに影響を与えるウイルスのことさ。そしてそれは歪に、その存在を拡張していく」
レジェンドがどうかは知らないけどと、誰にも聞こえない音量で付け加える。
「今回はこれらのゲームがウイルスに感染し、歪な仮想世界が生まれて広がった」
世界が生身の肉体とするならば、バグスターウイルスが生み出した仮想世界は腫瘍のようなものだ。その腫瘍の中に司たちがいる学校が転送されたというわけである。
「敵連中はその腫瘍をゲームケイジと呼んでいるらしい」
以前もあったマトリョーシカのような世界構造。
Aという世界の中にゲームケイジというB世界がある。
「下見の段階じゃ、ゲームの中の世界だなんて思わなかった。その点に関してはボクのミスだ。すまない」
珍しく、ゼノンは真面目な表情で謝罪する。いつもならニヤニヤと謝る気のない態度なのに。
そういえばエピソードフルブラストの時もそうだったか。あの時もムネモシュネが作り上げた仮想世界だと気づかずに着陸してとんでもないことになったので、その時のことがあるのだろう。
「べつに、いいさ。それだけバグスターウイルスが生み出した『偽りの世界』が、本物に近かったということだろ」
机にあるゲームと同じ種類のものが感染源となり世界を構成。混じりあい、一つの世界になった。
そしてホラーゲームのモンスターたちは結託、殺戮と支配を繰り返しているわけだ。
しかし所詮は仮想の空間。化け物の一人、キルゾーンが女性を殺害したが、あれはNPC。死に様はリアルだったが、存在は虚構だ。
「まあ、そもそもホラーゲームのキャラクターも人を殺すのが仕事のようなものなのだから、一見すればおかしなことではないんだけど……」
少しエムは、苦笑した。
「もちろんそれで終わる話じゃないんだ。バグスターウイルスの最も恐ろしいところは『ゲームのキャラクターを現実世界に具現させることができる』という点なんだ」
つまり一つのゲームのキャラクターでしかないネクロデザイアたちが、ゲームワールドから脱し、肉体を持ったうえで呪いの力を現実世界で振るうことが可能となるのである。
「そうすれば実際に死人が出る。何人も。アイツらはそれを狙ってるようだ」
「ちょ、ちょっと待ってください、だったら桜花ちゃんは……?」
夏美は言いにくそうに机の上にあるアダルトゲームを指差した。
要するに、桜花もバグスターで、実体化を狙っているということなのだろうか?
「たとえば特定の動物にしか感染しないウイルスや、特定の生き物にのみ毒になるものがあるように。バグスターウイルスも種類は細分化されてるんだ」
なぜバグスターウイルスが生み出したゲームケイジがゼノンたちを騙すほど精密な仮想世界になりえたのか?
たとえば、亀の甲羅を腐らせる病気は人間にはかからない。
それと同じで、バグスターウイルスが感染したゲームが、現実世界と似ていれば似ているほど生まれるゲームエリアの造りは細かくなる。
「それが桜花のゲームだったって訳だ。彼女のゲームは魔法もないし、モンスターもいない。キャラクターの髪の色が奇抜なくらいで、外の世界と限りなく同じってわけ」
エムの言葉にゼノンも同意を示した。
「バグスターウイルス感染源の持ち主くんがホラーゲームだけ集めてたらこんなことにはなってなかったろうね」
「簡単に言えば、桜花のゲームが『核』になってる」
桜花のゲームは舞台は現代日本だ。それは外の現実世界と限りなく近い。
それがバグスターウイルスを活性化させる条件に当てはまったようだ。
「無数のバグスターウイルスは、感染したゲームの中でエネルギーの高いキャラクターの中に進入して肉体を獲得する。それが、バグスター」
ネクロデザイア、リッパーK、キルゾーン、レイスマン、キリサキさん。
そして桜花。バグスターたちはまだ偽りの存在なのだ。自分が所詮、ゲームのキャラクターにしか過ぎないことを理解している。
だから彼らは欲するのだ。本物であることを。
「ゲームキャラクターであることを拒み、確固たる現実になろうとする。だから外に出たがるのさ」
「どうすれば、そうなる?」
「核となったゲームをクリアすること。それでヤツらは完全体となり、リアルに具現する」
もちろんそれはただのクリアではない。
感染源のゲームに属する条件が設定されている。
「桜花のゲームは……、ヒロインを攻略するってことか」
「ブレイド、それは違うよ。もしも生まれたバグスターがメインヒロインの一人だったら、そうだろうけど桜花は攻略ヒロインではない。主人公の妹だった」
「妹、ですか」
栞が自分の胸をグッと掴んだ。いろいろと思うところがあるのだろう。
それを知ってか知らずか、ゼノンはある情報を付け加える。
「桜花は個別ルートが始まる前。つまり共通ルート、いかなる場合であっても『病で死ぬ』らしい」
「えッ!?」
「感動的なゲームなんだ。その死をきっかけにしてヒロインたちと主人公の距離が縮まる。だからそれは絶対に必要な死なのさ」
なのでクリア条件は『桜花がゲームの歴史通り死ぬこと』だった。
死に方はなんでもいい。どんな存在に殺されてもいい。
とにかく彼女が命を落とせば、それだけ侵食は進む。
「その回数は、彼女が出てくるゲームの売り上げ数である5034」
「じゃあ……」
「そう。彼女が5034回死ぬ前に、なんとしてもネクロデザイアたちを倒す。でなければ奴らは完全体となり、我々の力だけでは抑えきれなくなるだろう」
「い、今ッ! 何回だ! 桜花ちゃんは何回――……!!」
「わからないけど、とにかく時間がない。幸いなのはムネモシュネの時とは違ってボクたちは取り込まれていないという点だ。協力すればなんとかなる」
「なので今からキミたちにはレベルアップをしてもらうぜ」
エムが言う。この世界のルールに従い、ステータスを上昇させて、変身できるようになり、その上で敵を倒すのだ。
そのための用意はできていた。ゼノンとフルーラはいつもの演劇口調で大げさなアクションを織り交ぜて叫んだ。
「目には目を、歯には歯を! そして、ゲームにはゲームを!」
「異なる世界のヒーロー、ヒロインと力を合わせて、アイツらをブッ倒すのよ!」
ゼノンが前に出て、テーブルの上にひとつのゲームソフトを置いた。
「なんだ? FOOLS,GAME?」
「同じ条件で創った。今からこの世界――、いやゲームにダイブしてキミたちはレベルアップを繰り返すんだ!」
そこで司は置かれたゲームのパッケージに龍騎の紋章が描かれているのを見つけた。
しかし関係があるのかを問いかける前にゼノンはパッケージを開いて中からソフトを取り出す。
「これはガシャットだ。ハードは……」
エムは机の上に、お菓子の箱のようなカラフルな塊を乗せた。
「このゲーマドライバーで遊ぶ」
「ま、百聞は一見にしかずだよね」
そう言ってゼノンはガシャットを掴み取ると、接続部をフーフーしてから起動スイッチを入れた。
『フールズゲーム!』
起動音と共に広がるタイトル画面。
15個の紋章が記載され、電脳空間が広がっていく。
『ガシャット!』
ゼノンがガシャットをドライバーに差し込んだ瞬間、みんなの意識が途切れた。
「……!」
司たちが目を覚ますと、そこには辺り一面、真っ白な空間が広がっていた。
そこに四つ、横一列に並べられた長方形の箱が置いてある。
大きさは電話ボックスほどで、司は目を丸くして箱の前に立った。
「これは?」
『ルーレットだよ』
「え?」
脳内に声が響く。すると足に感触を感じた。
下を見ると、白い小動物がいるのが見えた。
「う、ウサギが喋ってる!」
『ウサギじゃないよ、ボクはキュゥべえだよ』
そうだよウサギじゃなくてネコだろ。
かわいい。
嗅ぎたい。
吸いたい。
あれたぶん悪いやつだよ。
撫でたい。
くさそう。
失礼なことをいうな。
キュート。こっちおいで!
などと、いろいろな意見が出てくる中でゼノンが前に出た。
「フールズゲームは騎士と魔法少女が手を組み、戦うというファンタジーRPGさ」
RPGというのは当然パーティを組んで戦うゲームだ。
ゼノンが一つめの箱を蹴ると、モニタが起動する。
「さあ、どうぞ。破壊者様」
「どうぞって、何をどうすれば……?」
「リーダー登録は自動ですぐに終わるわ。立ってて」
レーザーが射出されて司のサーチが行われていく。
やがて『OK』の文字が表示されると、次の瞬間モニタの中でルーレットが始まった。
目を凝らす司。高速でスクロールしているため、一体何が描かれているのかサッパリわからない。
「ほら、ボタンを押して!」
司はゼノンに言われるがまま、箱についていた赤いボタンを押す。
するとルーレットがビタリと止まった。
刹那、箱から光が溢れてひとつのシルエットを形成していく。
迸る桃色の光。次の瞬間、司の前に一人の少女が現れた。
「う……ッ! キミは?」
「わたしは――」
少女は緊張気味にニコリと微笑むと、大きく頭を下げてお辞儀を行った。
桃色のツインテールがふにゃっと垂れる。
「はじめまして! きゃなめまどかです!」
「………」「………」「「………」」
ティヒヒ、噛んじゃった。
白倉Pが言ってたと思うんですけど、ディケイドはライダーを続けるために作って、ジオウは終わらせるために作った。みたいな。
なんとなくわかるんですけど、ディケイドって個人的にエヴァの旧劇の香りがして。
まあこれ聞いた話なんで、ちょっと本当かどうかはわからないんですけど、当時『まごころを君に』の後にってエヴァ二次創作ブームみたいなものがはじまったらしくて。
本当に、あの終わり方だったからこそ。
みんなの中に怒りとか、焦燥とか、喪失とか、もうなんか『いてもたってもいられない』何かが湧き上がったんだろうなって。
それが多分、ディケイドにも僕はあったと思うんですよね。
結構ディケイドが終わった後って、ライダー二次創作が増えたような気がしたんですよね。
一方ってジオウって炎を強くするというよりは、消火しにいく感じがして。
それを強調するのが、オリジナルキャストが一切変身しないっていうところだったのかなって個人的には思いました。
まあゴーストブレイドくらいからそれが崩れるんですけどね。
でもなんかそれが悪い意味ではなくて、二つの違いというか。
そういうのは、ちょっと感じましたね(´・ω・)b
だからある意味、あのEpisode DECADEの当時の空気感。
あれも僕の情熱とか、見てくれた人の盛り上がりというか、作品全体を後押ししてくれてたんだと思います。
だからエヴァ二次創作とかも当時の人間だったらこそ、より深く楽しめた面もあると思っていて。
時代が一つのスパイスになってたのかもなって思います。
もちろん、ぜんぜん今ディケイドを中心にした作品を始めてもいいんですけど。
とにかく当時はなんか結構もっと空気感みたいなものがアチアチだったなって記憶はありました。