Episode DECADE×FOOLS GAME 桜花ルート5034 作:ホシボシ
他世界の戦士たちをまるまま『ゲームキャラとして』利用する。
そういう裏事情を知らない司たちにとってはソーシャルゲームの進化形態ともいえる状況だった。これはまさに究極のVR体験。
「これを今から他の男性陣にやってもらう」
巻き起こるブーイング。あたしにもやらせろ! 男女差別!
様々な怒号が飛んでくるが、ゼノンは耳をふさいで全く聞こうとしない。
「女性陣も参加していいけど、四名には別にやってもらいたいことがあるんだよ」
ゼノンは既にテストプレイを行い、ある程度レベルを上げてあるようだ。
指を鳴らすと、4人の少女が一瞬で現れる。
神那ニコ。エリザ・ツェリスカ。優木沙々。双樹あやせ。
「彼女たちはボクのチームだ。とても優秀な人材だよ」
ゼノンの役目は、外のゲーム世界にて桜花を『保護』することだ。
レベルを上げている間に桜花が殺され続けるのはマズイ。なるべく安全な場所に隔離しておきたいのだが、そうなると戦力が必要になってくる。
しかし一方で魔法少女たちを、桜花のいるゲームケイジへ連れていくことが技術的にできなかった。
「だが一つだけ方法がある。データの固まりを既にゲームケイジに適応している特別クラスのメンバーに纏わせることだ」
魔法少女がイマジンのような存在になるといえばわかりやすいだろうか。
夏美たち肉体を持っている人間に憑依させ、魔法少女として世界に認識させる。
理論上は男性でもいいが、流石にそこはそれぞれ抵抗があるだろうと思っての提案だった。
「私は別にいいけどな男の体でも。ちんこ弄ってみたいし。どんなもんか」
『そういうところだよお前は本当に。ごめんなさいお客様のみなさん。うちの神那がすごくお下品で』
ペコペコと頭を下げるジュゥべえ。するとエムが補足する。
「ゲームケイジも仮想世界。夏美さんたちの肉体は、学校から出ればアバターみたいな存在に切り替わるから、仮にそこで負けても死なないよ」
戻ってくるだけだという。それならばと友里、アキラ、ハナ、夏美にはついて来てもらうことに。
「いいですよ! 桜花ちゃんが守れるなら!」
「じゃあ決まりだ。アギトも一緒に来てくれ。キミのバーニングフォームはいかなる変身妨害も受けないんだろ?」
「わかった。同行するよ」
話は決まった。翼以外の男性陣がリーダーとなりチームを作ることになった。
「………」
みんな次々にルーレットを引いてチームを決めていく中、守輪椿はジッと顎に手をあてて、その様子を観察していた。
今もほら、亘がルーレットを引いているのが見える。
絵柄が回転し、光が迸り、そして仲間が出てくるのだが――
「はじめまして亘くん。私は奏ハルカ、よろしくね」
「あ。ど、どうも……」
優しそうな雰囲気のお姉さん。
「千歳ゆまだよ! 亘おにいちゃん! よろしくね!」
「うん……! よろしくね。えへへへ」
無邪気なロリっ娘。
「先輩もいるんですね。私は詩音チサト、よろしくお願いします亘くん」
「よ、よろしくお願いしゃーす」
「ふふ、緊張しないで。同じ二年生なんですから。ね?」
「は、はぁ。すいやせん」
かっちりしそうだが、なぜか衣装が滅茶苦茶えちえちな女の子。
「メリッサ・ド・ヴィニョルです。何かあれば、なんなりとお申し付けください」
「め、メイドさんみたいっすね……! ど、どうも。へへっ、ははは……!」
赤くなってヘラヘラしている亘を見て、椿は思い切り手を叩いた。
「ええやん! はい、見つけました! おまちどうさまでした!」
ついにきたか俺の時代。最高だ。完璧だ。パーフェクトだ!
あれだよ、あれ! ああ言うのだよ! お姉様系からロリ系までを全て網羅したこのゆるぎないラインナップ――ッ!
「ブレイド、次はキミの番だ」
「来た来た来たァアアア! 待ってたぜゼノンッッ!」
椿は猛ダッシュでルーレットの前に立つと、手を組み合わせて天を仰ぐ。
「来てくれ! 俺のッ、守輪椿様のパーフェクトハーレム!!」
ガチャコン!!
「香川です。オルタナティブゼロになります」
ドンッ!
「高見沢、ベルデだ」
デンッ!!
「シドってんだ。ま、よろしくなボーヤ」
ダンッ!!!
「………」
これが――、地獄か。
「帰るわ」「帰るな」
歩き去ろうとする椿の襟首を、咲夜が掴んだ。
「違う違う違う。わかるわかる。そういうゲームじゃないのはわかるよ。わかるけど……、これ――ッ、や、これなん――ッ、これなんだ? これはなんだ? いやいやいやわかるよ? そろそろウザいよね? いやでも違うんだよこれ。みんなもわかってると思う。わかってるでしょ? そこは理解してくれてると思う絶対に。だって違うもん」
椿はゼノンの前に滑り込むと、地面に両手をついた。
「おねがーいゼノンくぅん。マジでもう一回だけやらして」
「え? いや……、面倒だなぁ」
「一生のお願ぃ。本当にッ、マッジッで、お願い……ッ!!」
「仕方ないなぁ。じゃあもう一回だけだよ」
指を鳴らすと、三人の騎士が消え去る。そして再びルーレットが始まった。
「……まてよ?」
嬉々としてボタンを押そうとした手がピタリと止まる。
「いや――ッ! やッ! いい! やめとこう!」
フラグだと思ったのか、椿は言葉を飲み込むと、スイッチを押した。
「シドってんだ。ま、よろしくなボーヤ」
ドンッッ!
「香川です。オルタナティブゼロになります」
デンッッ!!
「高見沢、ベルデだ」
ダンッッッ!!
「 」
え?
「タイム……リープ?」
時間――、跳…、躍……。
「帰るわ」
「帰るな!」
「帰らせろよッ! こんな奇跡はいらねぇんだ! つうかコピペじゃねぇか!! ふざけんな!!」
「まあ落ち着きなよブレイド、まだ一人残ってるじゃないか」
「ハッ! そ、そうか!」
まだ希望は死んでいなかった。
椿はダンディな人たちとなるべく目を合わせないようにして、ルーレットのスイッチに指を置く。
「………」
まて、落ち着け。流石にないよな? 確率的にはどうなんだ?
待て、待て、待て、落ち着け、マジで。流石にもう『ない』。
悪いイメージを抱くな。現実になる前に、確定させろ。
今だッ、押せ――ッ! 押せ! 押せッッッ!
「いけぇええええええええええ!」
ポチッと音がして停止するのは、少女の絵柄。
「っしゃ! き――ッッ!!」
光が迸り、椿の顎にかかる指。
「このユウリ様を引いたのはアンタか! じゃあまずは跪けよ、豚ァ!」
「―――」
「リーダーはアンタじゃない! このアタシだ! まずは靴を舐めて忠誠を誓え! じゃないと殺す! ほらどうした! 返事が遅いィイ!」
一分後。
そこには回転するルーレットの絵柄を見つめる椿が立っていた。
周りには誰もいない。リセット完了である。
「流石にこれで最後だよ。もうキミでどれだけ尺を取ってるか!」
「本ッ当にごめん! みんなゴメン! もうそろそろしつこいよね! 大丈夫わかってるから! でも本当ゴメンッ! マジでこれで最後にするから! 本当にもう誰が出ても俺は納得するから! あと頼むゼノン。お前が押してくれ! お金あげるから!」
「ダメだよ! ちゃんとリーダーが押さないと認証しないから!」
「ァ、そうなの? わかった。じゃあ、マジでいくよ……?」
震える指が、スイッチに沈んでいく。
「高見沢、ベルデだ」
ベンッッ!
「シドってんだ。ま、よろしくなボーヤ」
バンッッ!!
「香川です。オルタナティブゼロになります」
ボンッッッ!!!
「わかってる。俺マジでッ、呪われてる……!」
椿は涙目になり、上ずった声で唸る。
だがまだ一つ枠は開いてる。あと一つだけ枠はあるのだ。
椿は目を限界まで見開き、所謂『目押し』を決めようと試みた。
全ての想いの人差し指に集中させ、ボタンに叩き込む。
「届けェエエエエエエ! ハァアアアアアアアアアア!」ポチッ!
「メルシー! ワテクシは凰蓮・ピエール・アルフォンゾ! さぁ、始めましょう! 破壊と暴力のパジェントを!!」
バビドンッッッ!!!!
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ムキムキのオネエ様に抱えられ、椿は闇の中に消えていった。
「あー、あー……、まだ引いてない人ー?」
「あ、ごめんッ、僕まだ!」
拓真はボックスの前に立って深呼吸。
「僕のチーム、優しい人だといいなぁ……!」
そしてボタンを押していく。
「アァァ……。なんでもいい。早く戦わせろォ!」
「あぁクソ! うっぜぇなッッ! なんでもいいからぶっ殺せばいいんだろッ!」
「全部ムカつくッ! ユウリ様が全員血みどろにして殺してやるッッ!」
「黙ってろクズ共!」
浅倉、杏子、ユウリ、そしてミッチ。
『悪い、光実の調整ミスった。ま、アレで頑張ってくれや』
(……帰りたい)
拓真は顔を抑え、地面に膝をついたのだった。
リッパーKの朝は早い。
彼は適当な一軒家に目をつけると、鍵を壊して玄関から中に入った。
物音立てずにリビングへ侵入すると、サイレンサー付きの銃を抜いて、父親と母親の後頭部を一発で貫いた。
続けて、反応する時間を与えることのなく兄と妹の眉間を一発で撃ちぬいて殺害する。
リッパーKは父親を椅子から蹴落とすと、代わりに座ってテーブルにあった食事に手をつけながら新聞を広げた。
朝はいつもこれだ。死体に囲まれて啜るコーヒーの美味さといったら言葉にできないものがある。
こうして食事を終えると、その足で隣の高層ビルにやってきた。
警備員を射殺すると、エレベーターを使って屋上にやってくる。
鼻歌を口にしながら組み立てていくスナイパーライフル。マジシャンのようにどこからともなく、銃のパーツが現れていった。
完成。そして覗くスコープ。その先にいたのは桜花だ。
「!」
引き金にかけた指が止まる。スコープの向こうに笑っているゼノンの顔を見つけた。
「やあ、こんにちは」
しかしリッパーKは躊躇なく引き金をひいて弾丸を発射した。
それは一瞬でゼノンの額ど真ん中に到達すると、彼は大きく後ろへ倒れた。
しかしどうしたことか、ゼノンはポケットに手を突っ込んだままケラケラと笑っていた。
眉間には銃弾が突き刺さっているが、皮膚との間には分厚い氷があり、銃弾はそこへ埋まっている。
「これは驚いた。ご苦労様」
「問題ない。弱い一撃です」
ゼノンの背後に立っていたのは双樹ルカ。氷の力を操る魔法少女だ。
「神那ニコ。優木沙々。双樹ルカ。キミたちは桜花の保護を」
「へーい」「はぁい! がんばりますっ! きらっ!」「承知しました」
「こちらゼノン。翼、キミのポイントまで誘導する。リッパーKはココで潰しておきたい」
二発目の弾丸も、ゼノンに届く前に氷の壁によって無効化される。
ゼノンはダブルドライバーを装着するとポケットから青色のメモリを抜いた。
「フルーラ! スタートフォームをルナに!」『トリガァー!』
「了解よ!」『ルゥナ!』
地面が割れ、リボルギャリーが飛び出してくる。
「「変身!」」『ルナトリガー!』
二人の体は光の球体になり、リボルギャリーの中で一つに交わる。
リボルギャリーが開くと、そこからハードタービュラーに乗り込んだダブルが飛び出してきた。
「沙々ッ! ビル内、および周囲の人たちの避難を!」
「わかってまぁす! えーいッ!」(くぅーッ! だりーッ! ここもゲーム世界なんだからモブとか助ける必要なくねーっ?)
沙々の洗脳魔法により、ビルからうじゃうじゃと人が一斉に出てきて逃げ出していく。
それほど大きくないためか、あっという間に避難は完了した。
それだけではなく、ビルの周囲の人たちも操られているのか全速力で離れていく。
上空をハードタービュラーが飛行する。
黄色の弾丸は不規則な動きでリッパーKに向かっていくが、ヤツはそれをスナイパーライフルで撃ち落としていった。
だがダブルの連射が上回り、光弾の一つがリッパーKに迫る。
しかし虫を払うかのように手で払うと、光弾がかき消された。
「ナメやがって。消し飛ばしてやる!」『トリガー! マキシマムドライブ!』
トリガーフルバースト。青と黄色の弾丸が無数に飛来し、ビルに直撃した。
建物が崩壊していくなか、リッパーKは瓦礫に飲まれて消えていく。
しかしこれくらいでは。
デンデンセンサーで瓦礫の中にいるリッパーKを捕捉、スパイダーショックをトリガーマグナムにセットして引き金をひくと強靭な糸が発射されて瓦礫を突き破った。
リッパーKの腕に付着し、銃を持ったままハードタービュラーを発進させると、瓦礫の中から引きずり出されて地面を滑っていく。
「………」
リッパーKはピストルを取り出すと、上空にいるダブルに向かって連射するが、それらはバイクに届く前に雪の結晶を模したバリアに阻まれて無効化される。
ルカの魔法だ。ダブルはそのまま飛行を継続、あっという間にリッパーKを町の外れにある採石場へと運ぶ。
「くたばってろ!」
思い切り銃を振ってリッパーKを投げ飛ばす。
少し離れたところには既に魔法少女が待機していた。
魔法少女エリザ、彼女は大砲に魔力をチャージしており、それを解き放つ。
「デア・ドラッヘ・リンドヴルム!」
巨大な火炎レーザーがリッパーKを飲み込むと、凄まじい轟音と衝撃を発生させた。
「にょわほほほ。直撃ですわ。やりましたわね!」
「チッ!」
エリザは笑っていたが、ダブルは舌打ちを零した。
すぐにエリザも真顔に変わる。爆炎の中からひとつ、シルエットが浮かび上がる。
目を凝らすとわかる。リッパーKだ。確かに立ってハットについた炎を指で押さえて消している。
さらにどこからともなく取り出した禍々しい形状のスナイパーライフル。
「まずいな。レベル差がまだ――」
銃声が聞こえる。誰もそのスピードを捉えられなかった。
魔弾。リッパーKはスナイパーライフルをスコープを覗くことなく撃った。
その銃弾はエリザが反応するよりも早く、眉間を貫いてみせる。
「うびゃゃあ!」「うべぁぁあ!」
死んだのだ。
これにより司たちのいるゲーム空間に、エリザと、媒介にしていた友里が送られる。
「こ、この私が……!」
魔法少女の中でも実力のあるエリザが一撃で殺された。
ゲームケイジでは、ダブルたちがエリザが死んだ意味を察してしまう。
しかしこのまま桜花を見捨てて逃げるわけにもいくまい。
「とりあえずは今は全力で抵抗する! アギト! 出し惜しみはするな!」
「あ、ああ!」
ダブルはファングメタルへ、アギトはバーニングフォームへ変わると、全速力でリッパーKに突っ込んでいく。
しかし敵は飛んできた拳や蹴りを最低必要減の動きで回避していき、ピストルを抜いてカウンターを仕掛けていった。
小さな弾丸ではあるが、それが装甲に命中すると凄まじい勢いでダブルとアギトは後退していく。
「クッ! メタルの装甲をもってしても……!」
ダブルはメタルシャフトを取り出し、そこへ牙を生やすことで大鎌に変えてみせる。
しかし振り上げる間もなく、武器が手から弾き飛んだ。
見ればリッパーKが手していたスナイパーライフルの銃口から煙が上がっている。その一撃が原因だろう。
(エクストリームはまだ呼べな――)
そこで、ダブルの視界がブラックアウトした。
気づけばゼノンとフルーラはフールズゲームの中に帰還していた。
なんてヤツだと笑ってしまう。リッパーKがポケットから取り出したのは一本のナイフだった。ヤツはそれを投げてダブルの眉間を貫いて絶命させたのだ。
なんというスピードなのか。ちなみにそれは今、アギトを苦しめている。
シャイニングカリバーが弾き飛ばされ、地面に落ちた。
徒手空拳で立ち向かっていくアギトだが、殴りかかったとき、足の甲に激しい痛みを感じる。
アギトは見た。それは真っ黒なナイフ。
動きを止めた時、眼前にまでリッパーKが迫っていた。
「ぐあァ!」
切り上げられ、アギトの体が宙に浮きあがった。
リッパーKが手をかざすと足の甲に刺さっていたナイフがひとりでに動き出し、リッパーKの手に戻る。
二本のナイフを構えたまま敵はゆっくりと歩いてくる。
立ち上がったアギトは殴りかかっていくが、すぐにその鎧から火花が上がる。
リッパーKはアギトの攻撃を受け流しながら的確なカウンターを刻んでいく。
「くッッ!」
アギトは地面を転がると、落ちていたシャイニングカリバーを拾い上げて走る。
右手にもった剣を斜めに振るうが、リッパーKの腕で防御されると、ナイフの一撃を受ける。
怯んだところにもう一撃。リッパーKはナイフを持ち変えると、そのまま連続でアギトを斬りつける。
バーニングフォームには特殊能力があり、変身妨害を受けないし、自らに降りかかる状態変化を跳ね除けることができる。
つまりこれはレベル差なのではなく、純粋な実力の差だということだ。
翼も場数は踏んできたと思っていたが、ただの人間と地獄の殺し屋ではやはり戦闘センスは歴然だったのか。
「うぐッ!」
アギトの胴に足裏が直撃し、強制的に後退させられる。
その隙にリッパーKはナイフをスナイパーライフルに装着した。
銃剣になった武器をアギトへ向ける。収束していく闇の奔流。もはやリッパーKは何も語らない。これもまたただのルーティーン。
標準をアギトに合わせて、ひとさし指を少しだけ動かすだけでいい。
このままでは殺される。アギトはシャイニングフォームへの変身を――
「否」
え?
「今はまだ」
止まる。なにもかも。見えたのは暗闇の中で鈍く光る、赤い文字。
「その時ではない」
見れば見るほど、それは禍々しい赤。
ラと、イと……
「ぐ――! ァ!」
気づけば、魔弾がアギトの心臓を撃ち抜いていた。
翼は学校の中、フールズゲームの中だった。
「やられたね。意外と強いもんだ」
ゼノンが肩を竦めている。
隣には転がっている沙々や、不満げに頬を膨らませている双樹あやせが見える。
(あれは、いったい……)
しかし翼は、あの時の景色を思い出すことができなかった。
何かが起こったことは覚えているが、その詳細を忘れてしまっている。
戸惑いがちに言葉を詰まらせていると、次第に周りのほうにも視線がいく。
「つ、翼先生ごめんなさい。桜花ちゃんが……」
青ざめている夏美が全てだった。
少し時間を戻そう。
彼女の体にはニコが憑依していた。
見た目も夏美ではなく、ニコのものに変わっており、彼女は目の前で笑っている桜花をジッと見ていた。
「なに? お姉さん。どうしたの?」
「や、なんていうか、恐くないの?」
「どうして?」
「お嬢ちゃん何回も死んでるんだろ?」
「うん。でもね、恐くないよ。慣れちゃった。あんなの少し痛いだけ」
ならばニコには何も言えなかった。
まだ出会って間もない夏美のために気持ちを汲んで桜花に話しかけるということは面倒なのでやめておく。
広場ではニコと桜花の他に、近くではルカと沙々が座っていた。
「………」「………」「………」「………」
桜花はニコニコとしているだけで、自分からは何も喋らなかった。
普通、目の前に魔法が使えるという変な女がたくさん現れれば、はしゃいだり、魔法を見せてなんて言うものだと思っていたが、無言である。
ニコも喋らないし、ルカは目を閉じて沈黙している。
(なんだ? おい、きまじぃな……)
沙々は額に汗を滲ませて、作り笑いを浮かべてみる。
「ぽへぇ。ダブルさん遅いですね。ちゃんと怪物、倒せてるといいんですけど! ぴゅるーん☆」
「………」「………」「………」
(や、なんか返せよ。投げただろうが。キャッチしろよ。投げ返せよ……! 糞が! イライラすんなマジで! それともアレか? ぽへぇがざァとらしかったか? おぁん? いやそれでもせめて最後のぴゅるーんはつっこめよ!)
クソイライラしたが、沙々は笑みを浮かべて会話を続ける。
「暇ですねぇ。何かお喋りでもしません?」
「んにゃ。やめとくわ」
「黙ってろ優木沙々。刻みますよ」
「………」
携帯を見つめているニコ。睨んでくるルカ。無言で笑っている桜花。
(うぜぇえええコミュ障どもめ! おかしいだろ。普通、会話しましょうって言ったら会話するだろ。キャッチボールしようって言ってんですから、ボールを返しなさいよ。そもそも双樹に関しては理不尽だろ。なんで刻まれなきゃいけないんだっての! マジでイッてんじゃねーのかコイツ。あぁ、クソ。イライラする。そもそもなんで私がこんなこと――ッ! やべぇ、出ちゃうわコレ。もうちょっとで汚い言葉たくさん出ちゃいますわ)
沙々は心の中でブツブツ言いながら空を見上げた。
(だるいなぁ。帰りたいなぁ。ミチきゅん何やってんだろ。後で吸ってイケメン成分を補給しておこうかなぁ)
などと適当なことを考えていると破裂音が聞こえた。沙々はビクッと肩を震わせる。
「な、なんですかぁ?」
そこで気づく。腹に風穴が開いていた。
「あぁ!?」
破裂音。そこで沙々の頭が弾け飛んだ。
「べへーッ!」
沙々はゲームオーバーとなり、フールズゲームの中に強制的に送られる。
肉体を借りていたアキラは真っ青になって首を押さえた。
痛みすら感じないほど一瞬で『死んだ』。その死というのものは何度も経験済みとはいえ、全身が冷え切るような感覚は慣れない。
一方ゲームケイジの中では、残されたニコたちが動いていた。
「神那ニコ!」
「分かってる!」『ユニオン』『クリアーベント』
ニコは桜花と共に透明になり、桜花を横抱きにすると一気に走り出す。
一方でルカに切りかかっていくキリサキさん。ロングコートをはためかせ、手にもった鉈を振り回す。
「分かりやすい太刀筋だ!」
サーベルと鉈がぶつかり合うと、ルカは氷の魔法を発動。
刃を通して一気に冷気が駆け巡り、キリサキさんが氷に覆われた。しかしそれは一瞬。すぐに氷が砕け散ると、キリサキさんの腕が伸びてルカの首を掴む。
「ッ!」
凄まじい力だ。普通の人間ならば骨を砕かれていただろう。
「ねえ、貴女、お名前は?」
「はい?」
「お名前は?」
無機質な目でルカを見つめながら、キリサキさんは腕の力を強める。
「お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は? お名前は?」
「耳障りな!」
無数の氷の剣がキリサキさんの周囲して浮遊する。
全ての剣先がキリサキさんのほうに向き、そして発射された。
「私の名は双樹ルカ。お前を地獄に送る女の名です。覚えておくがいい!」
ルカはニヤリと笑い――、そこで気づく。
全身に、斬痕があった。キリサキさんの刃が、ルカをズタズタにしていたのだ。
しかも氷の剣で串刺しにした筈なのにキリサキさんには傷一つない。
「な、なに――ッ!」
そこで、ルカの首が跳ね飛ばされた。
気が付けば、ルカと肉体を借りていたハナはフールズゲームの中に送り返されていた。
「まじすかい」
ニコとしては、ルカがやられるとは予想もしていなかったことだ。
ルカは魔法少女の中でもトップクラスに強い。仮にレベルシステムによって『本気モード』になれなかったとしても、ルカがあんなにも簡単に負けるとは。
「クソ、しっかり掴まってるんだぞお嬢ちゃん」
とは言ってみたものの、もはやニコ自身、わかりきっていた展開であった。
ネクロデザイアが指を鳴らすと、透明化が解除されてニコと桜花の姿がさらけ出される。
さらにもう一度ネクロデザイアが指を鳴らすと、強力なサイコキネシスが発生して桜花が大量の血を吐き出した。
「あらら……」
桜花が血まみれになり、頭がぐしゃぐしゃに凹んで、直後爆発した。
ニコの頭がはじけ飛んだのも、その後すぐ事だった。
リイマジってシステムは本当に革命的だったと思いますね。
なんか最初は、本人じゃねーのかよって、ちょっと『否』寄りの感想だったんですけど、凄い可能性が広がるし、妄想できるし。
仮面ライダーというものの本質にもあってる気がして凄い良いと思います(´・ω・)b