突然だが、冒険者アイーシャの実家はそれなりに裕福だ。
ご両親も魔道士の界隈では高名な人物らしくまた、人柄も良い。
ただ、少しばかり子煩悩なところもあって。それこそ最初の方なんかは一人娘のアイーシャに冒険者稼業を辞めるよう説得するような手紙ばかり送って来た。
その手紙と一緒に実家からお見合いの話が来るたびに断りを入れつつ「アレ、まだイケんじゃね?」と思ってアイーシャはルンルンになっていたものだ。
しかし、最近はその話もメッキリ来なくなった。
別に勘当された訳ではない。
アイーシャというか、魔道士という職種の人間はたまに魔道士学会に招聘されるのだが、前回会った時も対応は普段と別段変わったところはなかった。
「そりゃオメー、誰か男作ったって思われてんじゃねーの?」とはアルトの談である。
実際アイーシャにはこれまで彼氏も何人か居たが、ことごとくフラれた。アイーシャが。
というか、十日も持てばいい方だった。
原因は明白で皆、アイーシャの呑兵衛ぶりと酒癖の悪さに辟易してしまうのだ。
それでも告白して来る勇者は居たが、皆酔っ払ったアイーシャという大魔王を前にトンズラこくしか無かったのである。
「そっかー。よーし、それじゃあ祝い金としていくらか無心しても〜らおっ!!」
「サイッテーなことをサイッコーの笑顔でいうのなお前な」
アルトは呆れながらにそう言う。
「何々?アタシの笑顔に惚れたって?」
「無いわ」
「無い無い」
「お前の胸と同じくらい無いわ」
野郎三人は今日も平常運転である。
「うるせーー!!ぺったんこで何が悪いんじゃぁーーーーー!!!!」
うがーと暴れるアイーシャを周りは一旦宥めすかす。
そして落ち着いた頃合いを見て前々から思っていた疑念を投げかける。
「つーか、デートで飲み比べってなんだよ」
「デート場所で絶対酒場外さない女ってやだよなぁ」
「相手からすればもはや諦めてもらうためにデートの名を借りてお断りの席を用意してるようにしか思えんわな」
そう言われてアイーシャは自身の頭を両手でガシガシしながら弁明する。
「アタシなりの善意だったんだよーー!!みんなお酒大好きだろーーー!?」
「にしても限度があるわ」
「お前は呑む量だけはザルどころかワクだしなぁ」
「多分飲み放題とかやったらその店一日で潰れるな」
ウンウンと頷く一同。
何故だか、頷いている人数は三人より多い気がする。
お陰でアイーシャはここら辺では悪い意味で有名なのだ。
事情を知る者からしても、擁護どころかそりゃそうだとしか言えないレベルで自業自得過ぎるのだ。
「もういっそのことドワーフとくっつけば?」
ドワーフ、というのは鍛治仕事や鉱山で働く小柄で頑丈で筋肉質な連中だ。
大の酒好きでも知られ、戦闘面でも豪快な槌捌きで前線をのしのしと進む様は圧巻の一言だ。
ただ、問題があるとすれば…………
「やだ。アイツらクサイし」
「まぁなぁ」
「だけどお前、選り好みできる立場じゃねえだろ」
「それでもやなのー!!」
そう。ドワーフは頑丈だが、それにかこつけて風呂に入りたがらない。
というか、ドワーフの中には強い臭気を放つ者を褒め称える者までいるとか。
これは先も挙げた鍛治や鉱山の仕事で、文字通り汗水垂らして働いているという自負でもあり、また彼ら自身が頑丈で滅多に病気に罹らないからこその慣習なのだろう。
もちろん中にはきちんと清潔にしているのも探せばいるにはいるだろうが、その絶対数は多くない。
「まぁ、そもそもドワーフ自体ここらでは見かけんがな。そうでなくとも真面目な話、魔道士の家系としては魔力をあまり持たないドワーフを迎え入れるのには抵抗があるだろうしな」
ラスターがそう言うとアイーシャは安堵したようながっかりしたような何とも言えない表情を浮かべていた。
「よーし!!今日も呑んじゃうよーー!!」
気が持ち直したのか、すっかりいつもの調子のアイーシャ。
実家のことは気になるが、それはそれとして今日も今日とて酒をあおるのだった。
意外と伸びてて驚いてます。