おかしい。ここは冒険者の街きっての高級レストランのはずである。
しかし、その場の空気はこの世のものとは思えない。控えめに言って地獄である。
楽しい合コンの席が一転、奈落の淵に様変わり。
遅れてやってきた二人は奢りと思ってグビグビと呑んでは再び酒瓶を開け、料理を喰らい、更に獲物を逃すまいと目をギラギラと光らせている。
「実はアタシたちー、運命の王子様に逃げられちゃってー傷心中なのーん☆」
「そーそー、酷くなーい♡?」
ヒラヒラした服に身を包んだオーク(一応人間)二匹がそんなことをほざく。
でっぷりとした腹毛に包まれたわがままボディがこれでもかと主張している。
普段のアルトならばサービスだとしても受け取りを拒否するレベルである。
ヒドイのはテメェらのツラと腹だろ!!
アルトとラッドはそう叫びたいのを我慢する。
かと言ってこの場から逃げ出さないのはまかり間違っても男気などという格好の良い物では無く、せっかく高い金を出してもらってこの場を用意してくれたクリスと、「だから言ったのに」と言いたそうな彼の義姉への申し訳なさと言うか負い目というだけである。
情けないことこの上ない。
幸い、目の前のモンスター二匹はまだアルトとラッドがその王子様ということには気付いていない様子。
それもあって大丈夫と踏んだのか、少しでも場の空気を良くしようと恐る恐るではあるがラッドが発言する。
よくよく考えたら王子様とやらは別の客のことかもしれないし。自分たちのことはもう踏ん切りがついてくれている。或いはもしかしたら人違いかも……などと言う淡い期待もあった。
「そっ、それで二人はリナさんとはどう言うお友達なの?」
少しでも話題を逸らそうと思いついたことを聞く。
「あぁ、それは二人ともウチの道場の門下なのよ。昔は結構スジもいいって父さんに褒められたこともあったんだって」
リナがそう返答すると野郎二人は「へっへぇ〜」と苦笑いを浮かべるしかできない。
すると、目の前の席に座るオークの目が光る。
分厚い唇がニィっと持ち上がるのはちょっとしたホラーである。
歯並びは意外と整っているのが何とも憎らしい。
「ねぇー、アタシたちどっかで会ったことなぁい☆」
「あぁ〜それアタシも思ったぁ〜♡」
ギョロリとした目がアルトとラッドを射抜く。どうやら確信犯だったようだ。
背筋に悪寒が両者はラスターに助けを求めて視線をそちらに向けるも、ラスターは我関せず。と言った風に黙々と来た料理を頬張っている。まあ判断としては賢明か。
立場が逆なら二人だってそうしていたろう。憤りこそすれ、わからないでもない反応。それに加えて普段の安酒場とは違う空間故か、大声で仲間を非難することもままならない。
なお、アイーシャは奢りということでいつも以上に酒をかっくらっているため話にならない。本当に育ちがいいのか疑いたくなるレベルである。
「誰がお前をこの後宿屋まで連れて行くと思ってるんだ」と恨めしげにアルトは見るが気づいた様子は無い。
「ちょっとぉーんコッチを向いてんお・う・じ・さ・ま〜ん☆」
ラッドはガシッとアゴを掴まれグルリとオークの方を向かされる。
途端にアルトはビクッとなる。暑くないのにたらりと汗が流れるのを感じる。
ラッドは軽く吹き出していた。
「き、気のせいじゃないすかね?」
アルトは震える声でそう言う。
「そうそう、オレら王子様なんてガラでもねぇし」
「むしろ素寒貧だしなぁ!!」
今度は別の意味でボロが出そうである。
「いやぁん☆ホントに素寒貧ならこーんなお店とれないでっしょ〜?」
「それに大丈夫よ〜、仮にそうだったとしてもアタシが飼ってア・ゲ・ル♡」
その瞬間アルト達は自分がロックオンされた音が聞こえた気がする。
舌なめずりしていたのは錯覚だと思いたい。
(流石に後輩に全部奢って貰ってるなんて言えない……。)
「い、いやぁーそれは流石に遠慮したいかなぁなんて…」
「そっそうそう。オレらそう言うの不慣れだし、却って迷惑…」
「大丈夫よん☆」
「そーよん、痛いのはハ・ジ・メ・だ・け♡」
いつの間にかガシッと腕を掴まれる二人。
「いっ、いやぁそもそもホントに女子か怪しい人に着いてくってのも…」
「やーねん☆この格好が見えないの〜?」
「ココロは乙女だから問題ないのよん♡心配しないで、優しくシテあげるからん♡」
「「いいいいいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
二人の絶叫が木霊する高級レストラン。
ラスターはせめてもの慈悲だと言わんばかりに祈りを捧げていた。
安らかな眠りをとか何とか言っていたような気がするが、多分死にはしないだろう。
肉体的には。
二人はどうなってしまったんでしょうねぇ。(すっとぼけ)