沈丁花の影へ、枯れ落ちて。   作:氷桜

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Act01:待雪草、手を伸ばし。
Act01-01


 

 

「なあ、肝試し行かないか?」

 

 

 

そんな言葉を投げてきたのは。

夏休みに入る少し前、時期には少し早い暑苦しい日。

高校に入学以来殆ど話した覚えもない、唯のクラスメイトだった。

 

「……肝試し?」

 

ぱたん、と読んでいた本を閉じ。

立ったままの彼へ、目線を向けて問い掛けた。

 

「そう。西の女子校とウチから同じだけ人数出してさ、行かないかって話になってて。」

「何で俺を?」

「何でって、そりゃ。」

 

持っている本、読んでいた本へと目が向けられて。

『都市伝説百選』なんて書かれた題名で、視線が止まったのが分かった。

 

「そういうの、好きそうだから。」

「……嫌いじゃないのは、確かだけどね。」

「じゃ、今日の六時。南の廃神社な!」

 

行くとも行かないとも答える前に去ってしまって。

 

(…………南の、って()()か。)

 

……確かに、()()()()()興味だけはあったから。

女子校とかは関係なく、足を運ぶいい機会だと思ってしまった。

 

好きでも、嫌いでもなく。

ただ興味がある。

 

それだけ――――だった、筈だ。

その時までは。

その経験を、するまでは。

 

観客側としての立ち位置を超え。

一枚の幕を突き破り、自身の体験とするまでは。

 

彼女と、出会うまでは。

 

 

『沈丁花の影へ、枯れ落ちて』

Act01:待雪草、手を伸ばし。

 

 

俺の住む街は、ずっと古くから存在している。

遡れば平安時代付近には存在していたとされ、それに対応する記録さえも残っているらしい。

ただ、その記録が災いしてしまい。

大きな開発が難しい、許可が降りない。

そんな、制限が掛けられてしまっている街。

 

伝統だけが残る男女共立校、女子校。 そして再開発、というお題目で作られた幾つかの電車の無人駅。

残るものがそんなものしかないからこそ、近隣のもっと発展した街や都会に若い人を吸い上げられて。

抜け出せない学生や老人を遺した、古びた建物や昔ながらの商店街なんかのベッドタウン。

いや、その役割さえも失われつつある――――そんな、終わり始めている街だった。

 

かつん。

 

蹴飛ばした小石がころころと転がって跳ねていく。

幾度か電信柱に当たり、そのまま下水道の中へと転がり落ちていくのを傍目に見ながら。

なし崩しに納得してしまった、クラスメイトの言う「南の廃神社」に関して覚えていることを脳裏に浮かべていた。

 

(確か……人がいなくなってから、十何年とかだっけ。)

 

近隣、敷地内に公園や小さな花畑が設置されていることから。

この街に生まれ育った人間なら、訪れたことはなくても一度は聞いたことがある場所。

ただ、何で「廃」と化しているのかまでは俺の知る限り誰も知らない――――或いは、口を塞いでいる。

公園で遊び、遠巻きにその場所を眺め。

近くまで行けば、誰かしらに止められる。

或いはそれを掻い潜ったとしても、厳重な柵で阻まれる。

()()()()()()()に、誰も踏み入れることを望まれない場所。

 

(単純に怪談みたいな知識だけで言うなら、()()()()()()()()()()()()()()……ってやつだよな。)

 

聖域、封印、或いは踏み入るだけで悪影響を及ぼす事象。

精神的に作用するのが原因なのか、或いはオカルト的に噛み砕いて「呪われる」事が原因なのか。

知る人ぞ知る、知ってしまう人数を可能な限り増やさずに安静にする。

『禁后/パンドラ』なんて名前で知られる、都市伝説の一つとして知られる呪いに纏わる話のように。

いつまでも、その場所で眠り続けられるように。

これからも、悪影響が広まらないように眠らせ続ける。

 

(……もし、本当に――――。)

 

空想は空想、想像は想像。

そう割り切ってはいても、実体験として経験した人々の話は跡を絶たない。

俺自身の考えは否定も肯定もしない、どっち付かずの立ち位置。

面白そうだから、とただ浪費するでもなく。

本当にあったら、とただ忌避するでもなく。

もし本当にあったら、と考えつつも日常を過ごすだけ。

知識だけは蓄えてはいたけれど、実際に見ることもなく十六年間を過ごし。

……実際に体験することを期待していなかった、といえば嘘になる。

 

「まあ、所詮。」

 

女子校と一緒に、という時点で遊びがメインで。

それにかこつけて気になっていた場所を調べてみよう、くらいなんだろうな。

気付けば口に出ていた、そんな考えの元に自分を笑う。

クラスメイトと俺、何が違うのか分からなかったから。

 

かつん。

 

腹立ち紛れに蹴り飛ばした小石は。

今度は跳ね返り、俺自身の足へと戻ってきて。

苦笑を浮かべながら。

目前へと見えた、自宅へと足を早めた。

 

 

かつん。

 

そんな物音が、後ろから聞こえる中で。

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