じいっ。
予定されていた、というよりは一方的に告げられた時間よりも30分程早く着いてしまった公園。
時計から目線を外し、周囲を見回す。
眩しいほどの夕日が公園全体を包む中。
自転車置き場には小さい子供用と思われる小さいものの他には
人影は見当たらないのに、何処からか視線を感じた。
きぃ、きぃ。
赤錆びた遊具を横目に、少しだけ高台に位置する神社の入り口……石段を見上げられる位置まで足を動かす。
枯れ草のような、少しだけ乾いた匂いが鼻につく。
周りの木々は青々しいにも関わらず、時代に置いていかれたような奇妙な空間から感じたその匂い。
奇妙なことに、この場所には合っているとすら思ってしまう。
土を踏み締める音と共に見上げる神社は、いつだったか。
ずっと昔にこの公園で遊んでいた頃に見上げた風景と何ら変わらなかった。
石段を利用しての歩数遊びや休憩時に座ったり。
そういった事には事欠かないはずなのに、一番上に昇った後その場に居座ることを誰も望もうとしない。
いや、或いは――――直感的に。
危険な場所だということを理解している為なのだろうか。
『そうだよ。』
(……まさかな。)
親に言われているから。
友達の親も好まないから。
或いは、或いは、或いは。
幾らでも否定するだけの理由が浮かび、それに迎合しそうになって。
けれど心の何処かが、それだけではないのだと否定する。
視線を神社から切り離し。
未だに他の誰もやって来ない、公園側へ目線を向ける。
時折風が吹き、それに揺らされてブランコが軋む中。
『――――こっち。』
ふと何となく、もう一つの隣接する場所――――花畑へと興味を抱いた。
歩いて30秒と掛からない、言ってしまえば近所の町内会で世話をする程度の小さな場所。
けれどその場所は、「花畑」と呼ばれている。
そちらに
足を向けようと、動き出そうと。
「駄目だよ。」
その動きの先を咎めるように。
俺以外、誰もいなかったはずの場所で。
腕を掴む、誰か……女の子の声に、そちらを振り向いた。
「
目線は俺より少し下。
160cm程度だろうか、見上げるように。
時折見かける程度の、西の女子校……『
目の辺り、鼻の当たりまで伸びた前髪の隙間から見えるだけの眼差し。
そんな顔付きより何より、向いた目線を引いたのはその
背中を超え、腰の辺りまで伸ばされた長髪の殆どが銀、或いは白。
脱色でもしたような、失われた一色に染まった少女。
「…………何が?」
『――――邪魔を。』
そんな奇妙な状況に、言葉を紡ぐのが精一杯で。
そもそも誰なのか。
先程まではいなかったはずなのに。
なぜ移動を拒むのか。
「……後で話す。 でも、そっちに行っちゃ駄目。」
何と説明するべきなのか。
悩む様子を見せながら、けれど目を俺自身と合わせようとしない。
いや、少しだけ上を見つめたままに。
言葉を悩みながらも、唇を動かす様子が目に映る。
「だから、何で?」
「いいから。」
ぐい、と引かれた腕にバランスを崩すように。
二歩三歩、と入口側……自転車置き場の方へと足を動かされる。
自分だけで理解しているようで。
一方的に、強引に干渉しようとしてくる行為に
自分でもおかしいと、何処かで感じるような思考回路の中で。
「理由を言わないのなら、これ以上は動かない。」
更に一歩動かそうとしてくるのを、バランスを整えて立ち直り。
引っ張ろうとする力に逆らい、均衡を保つ。
何方も動けないような状況に、彼女自身の口元も角度が上がったのが見えた。
「……言えば、動くの?」
「言ってくれれば。」
納得できれば、というのが正しいだろうに。
自分の考えとは、普段とは明らかに違う言葉が口から漏れ。
一瞬、何方からも引き合う力が抜けたのが分かった。
溜息に紛れるように、或いは周囲に聞こえないように。
囁き程度に呟く声は、それでも確かに俺の耳へと届いた。
届いて、しまった。
「
さぁ、と。
先程までの空気とは何かが違う、重さを持って吹き付けていた。
急に、喉が乾いた気がした。
背筋に、冷たいものが刺さった気がした。
身体の全てが、この場所を否定しているように感じた。
「行こう。」
再度彼女が、俺の腕を引き移動する。
今度は逆らうこともなく。
引かれるままに移動する中で。
『もう少しだったのに。』
そんな、誰かの冷たい言葉が耳に聞こえた――――気がした。
腕を掴む力が強くなり。
引く速度が加速して。
彼女なりの全力で移動するのに、何故か脱力してしまっている自分のことを考えながら。
彼女にも聞こえているんだろうな、と。
そんな当たり前のようで、当たり前でない事を考えていた。