「おし、揃ったな!」
妙に響く声が、周辺に届く。
公園に設置された古びた時計が。
小さく物寂しい、掠れた童謡を鳴らした。
時間は、丁度六時。
誰そ彼時に入り始める、そんな時間帯。
「えー、先ずは急な誘いに乗ってくれてサンキュな! 西女の方も有難う!」
「此方こそ、休み前のイベントは歓迎だし!」
石段を一つ上り、全員を見回せるような立場から主催者……声を掛けてきたクラスメイトが叫んでいる。
その隣には茶髪の、スカート丈が少しだけ短く見える女子生徒が並んで受け答えを返している。
どういう流れで行くのかは分からないが、あの二人はペアという考えで良いのだろうか。
「それじゃあこれからルールとかの説明させてくれ! えーっと……。」
上のやつがポケットを探している間に、周辺の……集まった人数を数えてみた。
石段周りに集まったのは、俺達含めて男女それぞれ十名程度。
見る限り、大真面目なタイプとかは見当たらず。
程々に勉強し、程々に遊ぶタイプとでも言うのか。
こういったイベントに参加するタイプばかりが集まったように思える。
「あったあった。 まず、今回入る場所はこの石段を登り切った先、神社の本殿前を目標にする!」
…………封鎖されている廃神社の、更に中?
「えー、其処入れるの?」
当然のように、誰かからの問い掛けが飛ぶ。
そちらを向いて見ようとして――――。
隣の少女の、視界に入った『無』の表情……口元に。
「――――。」
何かを呟くような、微かな口元の変化に。
背筋に、冷たいものが走った。
「一度下見はしてある! 正面から見て反対側、裏側に人が入れるくらいの穴が開いてたんだ。」
そうだ、そもそも。
彼女は、一体何故此処に来たのか。
「其処から回って正面側、賽銭箱の奥……本殿の扉前に俺達以外のペア分の”証”を置いてくる。 それを取ってくるってだけだな!」
「えー、もう一組は決まってるのかよ。」
そんな分かっている上での愚痴のような言葉が聞こえる。
本気での悪感情ではなく、
そんな、視界の先と隣との空気差を感じているのは俺だけか。
「そりゃそうだろ。 彼女放置できると思うか?」
「放置されたら怒っちゃうからね!」
ヒューヒュー!
囃し立てる声から外れる俺達。
立ち尽くしているだけ……ではなくて。
感じる寒気に、幾度となく身震いが巻き起こる。
先程までの、別の場所。
感じた、重い空気。
それらを感じない彼等に。
それらを感じてしまった、俺自身に。
「まだ明るいし……30分くらい自由時間! 其処で相方が決まらなかったら籤ってことで宜しく!」
そんな言葉を切っ掛けに、三々五々と男女同士での話し合い……誘い合いが始まって。
けれど、俺達の周りには他に誰も近寄らない。
遠巻きにされている――――というよりは。
何方も、
(いや、事実そうなんだろうけど……。)
ちらり、と横目で見る彼女からは何も得る情報はない。
とは言え、先程一緒に歩いてきたのだからこの集まりに参加しているのは間違いなさそうで。
恐る恐るに、声を掛ける。
「あの……。」
「……何か?」
その声は冷え切っている。
ただ、目線が俺に向いたのは分かった。
前髪で見えないけれど、白い髪の奥から見つめているのだけは分かってしまう。
「何で、参加を?」
他にも聞くべきことはあるはずで。
それでも、『この場所』について聞くことは自然と憚られていて。
当たり前のことを問い掛けるしか、今の俺は切っ掛けにできなかった。
人付き合いが得意というわけでも無いのだから。
「頭数合わせ。」
言葉は端的に。
「後は……
上手く言葉を紡ぐのが苦手なのか。
跡切れ跡切れに。
「貴方も、経験したでしょう。」
しかし、本質だけは忘れずに。
「…………ああ。」
良く分からない、場所。
ねっとりと、張り付くような声色。
最後に聞こえたような気がする、獲物を取り逃したような口惜しい言葉。
それらが、背中に未だに張り付いているような錯覚。
「だから。」
それだけを言葉に、目線を外すのが分かった。
けれど、他の誰かの所には動こうとしないことからして。
一番危険なのは、恐らく――――。
「…………。」
動かずに、動けずに。
その場に石のように立って並ぶ、俺達の姿があった。