はぁ。
今日だけで何度そんな溜息を聞いただろう。
自分が吐き出したものもあれば、他のものもある。
ただ、異性の吐き出す……そんな物を聞く機会は今の年齢になってからは殆どなかった。
精々、中学校時代が最後――――その程度で。
「……何処まで聞いてたの?」
だからこそ、こうして怒りの表情を浮かべている彼女に対しては謝る以外の選択肢を持たず。
二度呟いたとは言え、相手の機嫌を取るような言葉を紡げる程に口が回る訳もなく。
「……順番決めした後、それに従って行く。」
「そうね。」
自分が聞いていた範囲の言葉を口に出す。
何故、とは彼女は口にしない。
そう問い掛けて貰える程、仲が良い筈もなく。
恐らくはそれが理由なのだと
「君の名前。」
「口にした。」
淡々と、端的に。
先程までのような控えめの言葉とは違う。
「……それ以降は、何も。」
「でしょうね。」
俺の言葉が分かっているように、彼女は言い放った。
「其処までは、話を聞いているように思えたから。」
いや、常に注意を俺に向けていた……というのが真実、正しい言葉なのだろう。
「後味は悪いけど……
ぞわり、と。
背後に漂う気配が色濃くなる。
舌舐めずりでもするかのように、付かず離れず漂う空気が濁っていくようにすら感じる。
遠ざかっていた声が、一歩また近づいたように感じる中。
「……流石に今のは冗談だけど。 分かった?」
何かを追い払うように手で跳ね除けながら、改めて目と目を合わせて言葉を発した。
目だけで、頷くように上から下へと視線を向けた。
「少なくとも、今日一晩は私の傍から離れないで……ううん、
夕焼けが沈み、夜の闇……月の灯が少しずつ俺達を照らし始める
それは、単なる言葉というよりは制約のよう。
俺がこの場所から無事に帰るために、最低限守らなければいけない約束事だと。
この場所を取り仕切る巫女か、
そのように。
脳内に、存在に染み入るような言葉だった。
「……分かった。」
周囲の声が、遠く聞こえる。
騒がしく、はしゃぐ彼等には感じられないモノなのだろうと。
羨ましいのと、
抱いてはいけない感覚を感じているというのは、自分自身でもはっきり認識していた。
「……それじゃあ。」
「?」
長い髪の毛の一本へと手を伸ばし。
少しだけ目を瞑り。
ぷちん、と引き抜いたそれを前に。
「君の名前は?」
そう、問う。
月の灯が、彼女に降り注いだように見えた。
「
そんな相手に。
名前を告げるのは、自然なようにさえ――――感じたのだ。