ゆかりさんと行く終末旅行   作:夏野とびうお

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初投稿です。
急に書きたくなったので書きました。
暖かい目で見守っていただけたら幸いです。






1.異変

午前4時。周囲は完全に寝静まり、窓から見える空は星が輝いて見えた。

窓の手前に置かれた机の前に、一人の青年が必死の形相でパソコンを睨めつけていた。

カタカタカタカタと忙しなく手を動かし、ようやく終わったと彼は背伸びをした。

 

「やっとレポート課題終わったーー!」

 

そう言ってポキポキと体中を鳴らして凝り固まった体を動かす。

 

「げっ、もうこんな時間か。やっぱり無茶して動画編集するんじゃなかったな……」

 

今日の朝に出す予定の大学の課題とゲーム実況の動画編集を、何とか日が昇るまでに終わらしたことに喜びつつ、彼の体はゆっくりと眠りにつこうとしていた。

 

 

 

彼は大学生で学業に勤しみつつ、動画サイトにゲーム実況を投稿していた。

もともとゲームとボイスロイドが好きで動画投稿を始めてみたが、思ったよりも反響があったのだ。

おかげでかろうじて一人暮らし出来るほどには、収入を得ていた。

 

「なんとか課題は終わったけど、これ起きれるかな……」

 

空はまだ暗いがしばらくすれば朝日が出てくるだろう。

残り少ない時間を睡眠に充てるため、椅子に根を張った体を起こしてベットに向かおうとするが、睡魔の誘惑に負け、机にうつ伏せたまま眠った。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

翌朝、体が痛くなり、しぶしぶ体を起こして背伸びをした。

まだ寝ていたいと思う体を何とか動かして、窓のカーテンを開ける。

窓から朝日が差し込み、徐々に頭が覚醒していく。

 

 

 

「はぁーーー、良く寝た。…………今何時だ」

 

 

 

朝が弱い彼が想定よりも頭が働くためか、嫌な予感を覚えながら時計を見た。

 

 

 

―― 火曜 10:35 ――

 

 

 

「やっぱり寝坊してるじゃねぇか!でも、授業は2限からだからまだ間に合うか、いや間に合わせる!」

 

出来れば裏切ってほしかった予想に頭を抱える暇もなく、急いで荷物をまとめて家を飛び出した。

 

大学は郊外の外れにあり、あまり交通の便は良くない。

だが、一人暮らしに憧れていたため、わざわざこの大学を選んで両親を説得した。

一人暮らしだと昔からやりたかった動画作成の邪魔も入らないので、都合がよかったのだ。

彼の住むアパートは大学へ徒歩10分以内のため、走ればすぐに到着できる。

 

大通りを通らずに近道を通り、走って大学へと向かう。

最近運動していないためか、すぐに体が根を上げ始める。

ある程度走って時間的に余裕ができたので体を整えつつ、歩いて向かうが……

 

 

 

 

 

 

 

 

何かおかしい。

いつもより人がいない。

ていうか人が全くいない。

確かにこの辺りは朝方、人があまり出歩かないが、今日はやけに人に会わない。

不穏に思いつつも大学を目指した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「大学に着いたけども……これは……」

 

流石に大学内に一人も見当たらないのはおかしすぎる。

一応有名校のはずなのだが、そうとは思えないほどここは静かすぎた。

 

「これ、授業あるの?」

 

非現実的な光景のため、頭が混乱して正常な判断ができなかったが、とりあえず教室へと向かった。

 

 

 

 

 

やはりというべきか。

道中も教室も誰一人見つけることができなかった。

もうこれは自分の頭がおかしくなったと思うしかなく、一緒に講義を受ける友達に片っ端から連絡を入れたが、返事は帰ってこなかった。

返事を待つ間に何か情報を掴むため、SNSを見ていたが月曜日の12時に合わせたかのように、すべての投稿が停止していた。

 

意味が分からない。

なんでどの媒体も投稿がないのだろうか。

一応BOTとか動画の自動投稿らしきものは上がっていたが、それ以外は23時間前の更新で止まっている。

……いや、そもそも昨日はいつも通り夕食前まで、好きなボイロ実況者の動画を見ていたはずなのに、なんで23時間前の投稿になっているんだ?

この人は毎日18時に投稿をしていて見逃すはずがないのに……

 

 

何かがおかしい。

 

 

おもむろにスマホのロック画面を見ると日にちが一日ずれていた。

いや違う……自分の認識が一日ずれていた。

正確に言えば、月曜の4時過ぎに寝たのに起きたのは火曜の10時頃になるということだ。

いくら疲れたと言っても寝すぎだろう。

 

「自分が一日以上寝ていたこともおかしいし、その間に何かあったとしか考えられない……」

 

とりあえずこの場にいても仕方ないので大学内を探索したが結果は変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしてほんとに誰もいないのか……」

 

大学を出て家に帰る途中、人通りの多かった大通りや友達の家に行ったが、やはり人は見つからない。

大通りに出て気づいたが、人が一斉にいなくなったらしく、いたるところで車や自転車が放置されていた。

何なら車は様々な場所で事故の跡があった。

幸いなこと?に月曜日は記録的な大雨だったらしく、火災などの被害も最小限だったことが窺える。

 

「これ詰んでない?流石に」

 

いくら一人暮らししていたとしても物流や電気、水道、ガスが止まれば、生活が今まで通りにできると考える方が難しい。

 

「今まで異世界転生とか憧れがあったけど、流石に自分ひとり置き去りの全人類異世界転生は考えたことなかった。マジでシャレにならん。てかこれからどうしよ……」

 

信じられない現実を前に、彼は一人絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかた絶望してスッキリしたので、状況整理のため家に帰ることにした。

 

「とりあえず帰るか」

 

今は家に帰るまでにするべきことを考えよう。

 

水と食糧、生活するのに必要なものを確保するためにスーパー寄って……

電気を作るために発電機がいるからホームセンター行って……

そもそも今ネットが使えるうちに情報発信と収集をして……

 

「やることは多いな、どこから手を付けるべきか……」

 

今は何よりも情報が足りない。

まずは情報収集から始めるか。

サバイバル技術とか知識とか全くないから、ネットで片っ端から電子書籍をダウンロードしよう。

 

 

 

 

「ダウンロードしたのはいいけど、充電が心もとないな」

 

家には発電機や太陽光パネルみたいな大層なものは無いから、外から調達するしかない。

ホームセンターか家電量販店で発電機を確保するか。

 

 

 

 

 

 

近所のホームセンターで発電機と素人でも使えそうなアウトドアグッズをもって帰路についていた。

帰る道中も人の気配すらなく一人歩く音が道に響いた。

大学へ登校している時は急いでたし、異変に気づいてなかったから気にならなかったけど、自分の歩く音以外は全く聞こえないってのも辛いな。

あそこのホームセンターもかなり大きいから、人が居ないかなって期待してたけど、誰一人、いませんでした状態だったなぁ。

だけど、収穫はあった。

先ほどのホームセンターでボイスロイド展示会があったのだ。

 

 

 

 

 

僅か5年ほど前、技術革新により、もともと声だけの存在であったボイスロイドは、だれが見ても人間にしか見えないアンドロイドとして販売されていた。

尤も未だ生産が難しく、ごく一部の限られた人間しか所有できない代物であり、多くの配信者がボイスロイドを欲した。

自身もそのうちの一人である。

ボイスロイドがアンドロイドとして身体を形作り、販売される前から、大学でロボット工学を専攻して独学で自作しようと試みていた。

 

しかし、現実は甘くなく予算、技術面ともに力不足であり、業界に先を越されていた。

今となってはそれほど自分で作ることにこだわりはなかったが、やはりボイスロイドは手に入れたかった。

ボイスロイドと一緒に過ごしてみたいという小さいころからの夢があったのだ。

その夢の形といえるものが目の前にあった。

 

「これが……ボイスロイドか…………」

 

今展示されているのは結月ゆかりというボイスロイドだった。

実物を見るのはこれが初めてであり、感動して見惚れていた。

今にも動き出しそうな印象を覚えた。

数時間ではあるが、人に出会うことができなかった彼が初めて安心感を覚えた瞬間だった。

今なら、このボイスロイドを起動して連れて帰ることができる。

生産数が極端に少ない彼女らを運良く見つけることができた彼は、彼女を持ち帰るか悩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

悩んだ末、彼は連れ帰らないことを選択した。

一生に一度ほどのチャンスであるが、いつ人が戻るかもわからない今の状況では、理性が持ち帰るのを躊躇した。

何しろボイスロイドは稀少で、試作品レベルのものでも何千万とお金がかかる。

人がいなくなったとはいえ、いつ元に戻るか分からない。

そんな代物を持ち去るのには勇気も必要であった。

 

とりあえず今すぐに必要なものでないと判断して、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

日がゆっくりと傾き始めた頃、

 

「やっぱり今思えばほしいなー。周りから音がしないことがこんなにも苦痛だとは思わなかったわ。」

 

早速彼は後悔しかけていた。

やっぱり戻って連れ帰るか。

でも、日常が元通りになった時にボイスロイドを盗んだって知られたら怖い。

主に社会的に。

 

またしばらく悩んだ末、3日ほど待ってみてこの問題が進展しないようなら、なら彼女を迎えに行こう。

鋼の意思で決意を固め、自宅で情報収集を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝…………

 

「やっぱり無理だわ、連れて帰ろう」

 

鋼の意思は瓦解した。

半日もよく持った方だろう。

朝起きて夢落ちでないことにまた絶望して、現在唯一の希望に縋るべく己の決意を破壊した。

決めたことはすぐ実行するのが自分のいいところ。

行動力の化身とは俺のことなのだ。

手のひらドリルを高速回転させつつ彼は出発の準備をした。

 

鞄にはボイスロイドを整備するための道具を詰め込んだ。

昨日見た感じでは、レプリカではなく、中身のある本体であった。

しかし、あのゆかりさんは展示用だったので、万が一動かないかもしれない。

それを考慮して、最低限自分で整備して起動させられるかを確認したかった。

 

長期戦になるかもしれないので食糧とアウトドアグッズも一緒に持って、昨日訪れたホームセンターへ向かった。

 

 

 

 

 

ホームセンターに着いて早速、展示されていたゆかりさんを丁寧に外へ出して、型番を確認した。

ボイスロイドの型番を見ることで製品版か試作品かを、また制作年数も知ることが出来る。

自分の知っている限りでの話だが。

 

「このゆかりさんは、プロトタイプか」

 

プロトタイプ。つまり試作品であるが、作られた年代によっては少し前の型番の製品版よりも性能がいい場合がある。

ゆかりさんの場合は……

「第8世代……聞いたことがないな」

 

自分が知っているのは第6世代までのプロトタイプだ。

第8世代まで開発されているのは知らなかったが、そもそも一般人の自分が持っている知識としては知らなくても仕方ないことだろう。

そう判断してゆかりさんを起動する為、整備の準備へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

日が真上辺りに来た頃……

 

「……よし。とりあえず不備が無いことは分かった。あとは起動するだけだな。」

 

緊張しながら、ゆっくりとプログラムを起動した。

ここまで整備で観察していたとはいえ、改めて見るとやっぱり見惚れてしまうほど綺麗だ。

自分の手で起動出来る日がこんなにも早く来るとは思わなかった。

 

「起動準備開始。マスターの情報を提示してください。」

 

自身の名前や写真、生年月日、簡単な個人情報を打ち込んで登録した。

しばらく打ち込んだ情報を元にデータを作成しているのを横目に、起動するのを今か今かと待ち望んだ。

 

1時間後……

子供のようにワクワクしながらも、緊張した面持ちで起動するのを待っていると、遂にその瞬間が訪れた。

 

 

 

「起動確認完了。再起動開始します………………………………………………………………再起動完了。」

 

 

 

 

 

 

 

「…………初めまして。私、結月ゆかりと申します。これからよろしくお願いします、マスターさん」

 

 

 

 

 

すごい。目の前でゆかりさんが喋ってる。てか動いてる。

感動して放心しているが、なんとか言葉をひねり出した。

 

「おはよう。動作に問題はない?」

 

「そうですね。特に問題はなさそうです。今から何かすることはありますか?動画撮影でも編集でも何でも出来…ます……よ…………?」

 

どうやら周りの雰囲気の違和感に気づいたようだ。

ゆかりさんを起動するとためにホームセンターの広場みたいなところで、道具や機材を広げまくっているのだ。

その異常性のせいか一一

 

「え?私やばい人に捕まりました?」

 

「いや明らかに状況が普通じゃないけど、やばくないって。誤解だよ」

 

「やばい人はみんなそういうんですよ」

 

 

 

あかん、信用されてないわこれ。

とりあえずこの世界の現状を説明しようとして一一

 

「とりあえず警察に連絡しますね」

 

「ほんとに不審者じゃないんだって。あと警察に通報してもどうせ出ないよ、……人はもういないんだから」

 

「え?人がいないってどういう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は改めて周りを見渡した。

たくさんの家具や工具などが遠くに見えるため、ホームセンターかそれに近いところにいることは想像できる。

だけど、いくら探しても人が全く見当たらない。

体内時計は昼の13時55分を示しているし、上を見上げれば大きな天窓から明るい日差しが差し込んでいる。

ほぼ間違いなく昼間といえるのに人が全くいない。

その矛盾に首を傾げていると――

 

 

 

「落ち着いて聞いてほしい。……今この世界には俺しかいないみたいんだ。」

 

 

 

 

 

「………………ん?」

 

意味が分からない。

この世界には人間は目の前の人しかいない???

うーーーーーん……

 

 

 

 

 

よし、これは聞き間違いですね。

確認した限りでは、収音機能に異常は見られないですが、起動直後なので不具合の一つも出るでしょう。

一応、もう一回聞いてみますか。

 

「すみません。うまく聞き取れませんでした。なんて言いましたか?」

 

「だからこの世界で俺以外に人はいないんだ。」

 

 

 

 

 

…………どうやら聞き間違いではないらしい。

言語処理機構の方に問題が生じたのかもしれないが、受け答えは出来ている。

ならば、彼の言葉に間違いはないということになる。

 

 

 

 

 

 

 

……………………いや、訳わかんないです。

彼の言葉を信じるにしても問題しかない。

人がいない?ナニソレキイテナイヨ。

ボイスロイドでも夢を見るらしいがこれがそうなのかもしれない。

これは私がどうこうできることではなさそうですね。

一旦、寝直しますかね。

 

「すいません、私にはどうしようもなかったみたいなので、シャットダウンしますね……」

 

「ちょ、ちょいまって、え、もうシャットダウン開始してる?またボッチになりたくないって……もう寝てるし………」

 

 

 

彼女は訳もわからず現実逃避した。

 

 

 

 

 

 

 




導入なのでゆかりさん要素は少ないです
次回からは増えていくはず…
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