ゆかりさんと行く終末旅行   作:夏野とびうお

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3.目標

 

ゆかりさんと昼食をとった後、今後の目標について決めていた。

まずは生存するために、食料、生活用品の確保を行う。

両方ともこのショッピングモール内のスーパーで事足りるから、余計な探索が必要ないのはありがたい。

次に決めるのはこれからの生活拠点だが、これもしばらくはここで拠点を構えてもいいだろう。

物資はたくさんあるし、万が一、自分たち以外の生存者がここに来るかもしれない。

ショッピングモールはゾンビ映画とかの終末世界で言うところのマイホーム的な存在ではあるし。

実際ここにきてから安心感がすごい。

ゆかりさんと出逢えて共に行動していることも十分関係しているだろうけど。

 

 

 

 

「マスター、しばらくはここにいますか?」

 

「そうだね、今必要な物は大体ここにあるし、ここを拠点にするか」

 

「わかりました。じゃあ寝床から探しましょう!」

 

「……なんかゆかりさんテンション高くない?」

 

「そりゃテンションも上がりますよ! 本来、私たちボイスロイドはマスターとなる人の家から出られないんですから」

 

「そうだっけ?そういう制約があったりするの?」

 

「いえ、外に出れない制約はないですけど、私たちの仕事はあくまでも動画撮影のサポートですし。人によっては外出させてくれるかもしれないですが、世間一般で言うと超高級品ですからね」

 

「確かに……、何千万もするしそもそも市場に出回ってないからか」

 

 

 

今更だけど、異変が起こる前の世界に戻ったら、俺の社会的な立場ってかなり危うくなる?

こんな高額なボイスロイドという存在をわざわざ展示ケースから取り出して、持ち去っているし。

 

……いや、こんなこと考えてもしょうがないか。

出しちゃったものは、もう戻しようがないし、さんざん食品とか家具家電を持ち出してるから、後戻りはできない。

まぁ、ゆかりさんと一緒にいれるならなんでもいいか!

 

 

 

「それと私たちボイスロイドは、外出先で人と同じように行動出来ない制約ならあるんですよね……。確か多数の商業施設や公共施設は入れないようにプログラムされているはずです」

 

「…………ん?そんな縛りがあったなんて聞いたことがないぞ」

 

「ボイスロイドを持っていた人が少なかったので、多分情報が出回っていなかったのでしょう。一般販売され始めたのは5年前なので最近ですし」

 

その情報を知らずに正規品を買ってたら、ボイスロイドと一緒に出掛けるという俺の夢の一つがつぶれるところだったな。

家で一緒に居れるだけでも十分だが、どうせならいろんな場所に行ってみたいし。

 

そういえば今の話を聞いた限りでは、ゆかりさんは制約に縛られていないのか?

何でもできますよっていう顔してたけど、実は無理して動いてたとか?

 

 

「また質問なんだけど、今のゆかりさんにその制約とやらは働いていないのか?」

 

「……今のところ働いていないようですね。通常なら、ショッピングモールとかに入った時点で警告がなったりして、強制停止するはずなのですが……。展示用だったから特例でここだけ外されたとかでしょうか」

 

「それならよかったけど、特例か……。ゆかりさんがプロトタイプだからってのは関係ない?」

 

「多分関係ないでしょう。製造工程でボイスロイドには、特有の周波数が出る発信器と受信機を埋め込まれて、それの影響で一般人が使う施設に入ると強制的に制限がかかるんです」

 

「なるほどね。でも今は自由だから何でもやり放題と」

 

「まぁはい、そうですね。だから、外に出て私の目でいろんなものを見て、体験できると思うとテンションも上がりますよ」

 

「……提案があるんだが、俺はゆかりさんを縛ることはしたくないし、この際いろんな場所に連れていきたい。やっぱりここを拠点にするのをやめて、いろんな場所を旅してみないか?」

 

「………………いいんですか?」

 

「全然構わないよ。何なら各地で動画を撮りながら巡ろう。そうすれば目標にも近づけるし」

 

「ありがとうございます、マスター!」

 

「でも準備は必要だから、まだ行けないぞ」

 

「はい!まずは物資集めですね!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅するのに必要な物資はなんだろう。

まず、荷物を入れるカバンでしょ?

保存食、非常食も詰めるだけ――最低限1週間分は欲しい。

調理器具も欲しいし、簡単な応急箱とかもいる。

野宿するかもしれないからテントとか寝袋も欲しい。

 

あとは――

 

 

 

 

よし、キャンプの準備した方が早いな。

そうと決まればアウトドア専門店に行こう。

 

 

 

2人でショッピングモール内にあるアウトドア専門店に向かっていた。

さっき、ゆかりさんに頼んでスーパー以外の電源は落としてもらったが、どのみち旅するならやる意味無かったかな?

―――もしかしたら、またここに戻ってくるかもしれない。

そういうことにしておこう、セーフセーフ。

まぁ、暗くて歩きにくいのはあれだけど。

 

 

 

「この区画だけ一時的に明かりをつけましょうか?遠隔操作出来るようにしたので、ショッピングモール内に居るうちは、どこでも操作出来ますよ」

 

 

 

…………いやーホントすみません、計画性も何も無くて……

マジ助かります。

これからもゆかりさんのスーパーテクノロジーに頼って行きそう……

あぁ……これが沼ってやつか……

せめてマスターとして最低限は仕事しないとまじでひもにでもなりそう。

人間の尊厳だけは守らねば(鋼の意思)

 

 

 

 

 

 

 

これだけ荷物が増えるとは思わなかったな。

今は買い物用のカートに入れて運んでるけど、このまま旅する訳にも行かないし……。

これどこかでバンかキャンピングカーみたいに大きめの車を手に入れないと厳しいぞ。

幸いにも免許は取ってたから運転できるのは助かった。

――万能なゆかりさんなら運転も余裕そうだな。

いやいや自分が出来ることはやっておかないと、ゆかりさんに

『使えないですね、あなたには嫌気がさしました。もうここで別れましょう』

なんて言われたら軽く自害する自信がある。

うん、俺の存在価値を下げないためにも率先して出来ることをしよう。

 

 

 

「マスター、生活するための物資は入手出来ましたが、撮影はどうやってします? 一応私も録画機能はありますが――」

 

うーーーん……

 

「折角なら機材揃えて撮りたいよな……」

 

撮影機材か……

撮影機材置いてそうな店は近場に無いし、それなら実況用で家に置いてたものを使おうかな。

昨日持って帰った中にアウトドア関連のものも混じってたし、1度家に帰ってまとめて持ち出すのが良さげっぽい。

 

 

「じゃあ、一旦俺の家に来るか?実写の実況動画を撮っていた時に使ってた撮影機材とかあるし」

 

「ほんとですか!是非お邪魔したいです!」

 

「そんなにテンション上げなくても」

 

「だってまだマスターの自宅に行ってないんですよ?普通は家で起動してから外に出るものですし。実際どこに住んでるか気になりますよ」

 

「まーいいけどさ。期待してて変に気でも落とさないでよ?」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタガタガタと買い物カートを押しながら、自宅へと歩く。

ショッピングモールから自宅まではそれほど遠くないので、すぐに着くだろう。

ゆかりさんは、夕日に照らされながら目をキラキラさせて街並みを見ていた。

 

こうしているのを見ると普通の女の子なんだよなー。

自分たちと同じ人間にしか見えないし、感情も当然存在する。

これを作った人はどれだけ天才なのか、ボイスロイドを作ろうとしていた俺ならよく分かる。

AIの試作品は完成していたが、こんな完成度の高いものを作ろうとすると、どれだけの努力と時間がかかるか計り知れない。

肉体も人間のものと遜色ないことから、素材も独自で開発しているのが分かる。

最初にゆかりさんを起動する時に整備していたが、内部の構造が美しすぎて『すげぇ』を連呼してたしな。

やっぱり天才はいる。悔しいが。

俺もこの域まで目指してたけど、ここ最近はボイロ作成よりもボイロ実況に力を入れてたし、住む世界が違いすぎたんだな。

 

よし、せっかくだ。

これからゆかりさんを整備するって約束したし、ついでに技術も盗んでしまおう。

構造が解れば、もしもゆかりさんが故障しても修理することくらい出来るようになってるかもしれない。

まぁそのもしもは、ゆかりさんならありえなさそうだけどな。

――この世にはありえないなんて事はありえないって言葉もあるし、備えあれば憂いなしってことで。

 

 

 

 

夕日が落ちて、静かな夜が訪れた頃――

 

「すぐ着くって考えてたけど、カート押しながらだと結構大変だったな。ゆかりさんが居なかったら、もっと時間がかかってたよ。ありがとう」

 

「いえいえ、これもマスターをサポートする私の仕事ですから」

 

流石にカートいっぱいに入った物資を2つ、運ぶほどゆかりさんの筋力はなかったみたいだ。

動画作成サポートAIだし、これが普通だよな?

もしかしてまだ余力残してたりする?

第2形態に変身したりとか、秘められた超パワーを解放したりとか、男の少年心をくすぐるようなのあったりしたら、それはそれでいいな――

うーむ、ロマンがあるな。

 

 

 

くだらなくは無いが、そんなことを考えていたらいつの間にか家に着いていた。

 

 

「着いたよ。ここが今の俺の家だ」

 

「ここがマスターの自宅ですか」

 

俺の一人暮らしの拠点は、ちょっと新しめのマンションだ。

本来の大学生の一人暮らしなら、もう少し安い所へ行くんだろうけど。

ゲーム実況する予定だったし、近所付き合いは良くしておきたかったから、防音の壁があるこのマンションを選んだ。

 

「自宅って言っても、ただの賃貸だけどね。大学生で一人暮らしでゲーム実況者って字面だと生活厳しそうなイメージだけど、他よりはお金はある方だったから。」

 

実際には、ゲーム実況だけでは食べていくのは厳しかった。

最初のうちは食費を削るため、1ヶ月モヤシ生活とかして死にかけたけど。

途中からお金が圧倒的に足りないと気づき、ボイスロイド作成に使っていた技術で、ロボットコンテストやコンペに出たりして少しでも足しにしようと頑張った。

おかげで、想定よりも多く資金を調達出来たし、自身の技術も向上した気がする。

まさに一石二鳥だった。

最近は、実況も伸びて多少余裕ができたからもうしてないけど。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと扉が開かれ、きれいに靴が並べられている玄関から、廊下と手前に三つと奥に一つ扉が見える。

 

「お邪魔します」

 

「そこの部屋で休んでて。今お茶とかいろいろ準備して持ってくるから」

 

そういってマスターは、部屋から出ていった。

そういう仕事も本来なら私がするんですが……

まぁこの家に来たばかりの私よりも、マスターの方が準備するのが早いってのは分かりますけど……

今は素直に命令に従うのもボイスロイドの役目だとして、我慢しておきますか。

 

 

 

マスターに案内された部屋を見渡す。

ここはマスターの作業場だろうか。

広さは12畳くらいと少し広めで、部屋の半分が工具や部品などが入った箱で埋め尽くされている。

そして一部分だけ雰囲気が違う空間があった。

黒い机とゲーミングチェア、机の上には大きなデスクトップパソコンとモニターが別で置かれていた。

 

どうやらここで動画を撮影していたらしい。

私の動画作成サポートAIとしての本能が、うずうずしている。

普通にゲームをしてみたいだけという気もするが、それも本能だろう、たぶん。

けれど、許可も得てないので勝手に触ってはいけない、ボイスロイドとはそういう物だ。

 

今は普通に待ちますか……

マットが敷かれた床に座り、マスターが来るのを待っていた。

……一人残されましたけど、待つだけでも結構緊張しますね。

もし今までのマスターの日常の中に私がいたら、一体どんな生活をしていたのでしょうか。

 

この部屋で一緒に深夜までゲームしたり、動画を撮って投稿したり、たまにはカラオケなんかもしちゃったりして……

 

あとは、マスターが大学の課題をやっているのを見て、

『こんな問題も解けないんですか、仕方ないですね、私も手伝いますよ』

とか言って、結局一緒に寝落ちしたり…………

 

 

 

……いけませんね、なに私妄想にふけってるんですか、私ってこんなにちょろかったですっけ?

確かにマスターとして登録された時点で、一定の好感を持つようにプログラムされていますが、彼の場合、少し違うと言いますか……

 

 

最初に私が起動したときは、何も分かりませんでした。

しかも、この世界には彼しかいないと告げられてからはすごく不安になって――

どんな人か分からなかったので、とりあえず明るく接しましたが、とにかくいい人でしたね。

私、運ゲーのマスターガチャに勝ったんだって。

噂では、正規の運用をせずに乱暴にするところもあるって聞いたので、ひとまず安心しました。

マスターは私のことを気遣って優しくしてくれて、しかも手際が良くてやるべきことを冷静に分析して、先に行動している。

私よりマスターの方がよっぽどサポートしていましたよ。

 

彼ほんとに人間ですか?

今は同業者かと疑ってますね。

一応ばれない程度にスキャンしてみましたが、普通の人間としか分からなかったですけど。

マスターならそれすら偽装してきそうな感じがします。

 

あとこれもマスターの機能の一つかもしれないですが、マスターのそばにいるとなぜかとても落ち着くんですよね。

なんか実家のような安心感?がして私は好きですね。

 

 

 

 

 

物思いにふけり、しばらく待っていると――

 

「おまたせ、準備できたよ」

 

マスターに連れられ、リビングに来た。

そこにはテーブルとその上にオードブル、ローストビーフやビーフシチューなどが盛り付けられていた。

 

「あり合わせだけど、夕飯作ったよ」

 

「……え?夕飯を作ってたんですか?なら言ってください。私も手伝いくらいできるので」

 

「……一応ゆかりさんは客人だし、ずっと複数の機能を使って体内に熱がこもってただろ?なら休ませた方がいいと思って」

 

「……まぁ少し張り切りすぎていましたけども。私にもボイスロイドの性があります。マスターをサポートするのがボイスロイドです。次からは手伝うのでちゃんと言ってください」

 

「ごめん、次からは頼りにさせてもらうよ」

 

「いえ、こちらこそ出過ぎたことを言ってすみませんでした。準備していただき、ありがとうございます」

 

「いや、こっちこそほんとにごめん。――ごはん冷めちゃうし早く食べよう」

 

「そうですね、それではいただきます」

 

「いただきます」

 

やっぱりマスターは優しすぎますね。

こういうところがあるから、私はこの人のことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

あれだけあった料理を二人ですべて食べきってしまった。

だってあれは仕方ない、すごくおいしかったんです。

昼ご飯もそうでしたが、この人の料理はおいしいですね。

マスター曰く、近いうちに出ていくなら食料はなるべく食べきりたいと――

それであんなに豪華になりますかね普通……。

私も料理はできるはずですが、マスターには負けますね。

既に私の、ボイスロイドのアイデンティティを一つ取られましたね。

でもこれからは負けないですよ。

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま」

 

「片づけは私がしておきます」

 

「いや俺が……、……俺も一緒に手伝うよ」

 

「ふふ、じゃあそっちをお願いします。わたしはこっちから――――」

 

 

 

 

 

 

片付けが終わり、マスターは先にお風呂に入っていった。

……これは私が後ろから背中を流した方が良いのでは?

流石にちょっと緊張というか恥ずかしいけど、他のボイスロイドも多分していたはずです。

……よし、そうと決まれば、さっそく――

 

 

 

ガチャー

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

「ドウモマスターサン、ユヅキユカリデス」

 

「アイエエエ!? ユカリサン!? ユカリサンナンデ!?」

 

「お、お背中を流しに来ました……」

 

「え!? いやいや、なんで? 急にどうしたのゆかりさん、どこか異常でもあるのか?」

 

「何言ってるんですか。お疲れのマスターを労わるためにお背中を流すくらい、ボイスロイドの基本ですよ」

 

「んな訳あるかい!流石に背中は流さなくて大丈夫だから!てかもう洗い終わったからやることないって!」

 

「そうですか……じゃあ念のためもう一度洗いますね…………」

 

「イヤワケワカンナイヨ! ほんと大丈夫だって!それにゆかりさんも疲れてるでしょ、うんそうだ、そうに違いない、てことで温めた湯舟は使ってないから入っててーー!」

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

 

 

「逃げられましたか、今日のところは許してあげましょう。でもいつか、必ず成し遂げて見せます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流石にあれは心臓に悪かった……

そこら辺のホラー映画よりは、よっぽど驚いたし。

なんであんな行動してきたんだろう。

ボイスロイドってそういうことする設定とかないよな?

ゆかりさんが特別製だからか?

とりあえずこれからは用心して風呂に入らないと、いつまた来るか分かったもんじゃない。

 

はぁ、とりあえずすごい疲れた。

今日はもう寝よう…………

おやすみ…………

 

 

 





ゆかりさんと温泉とか行ってみたいな



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