ゆかりさんと行く終末旅行   作:夏野とびうお

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5.作業

朝ご飯を用意した後、一人で食べたくなかったため、ゆかりさんが起きてくるまで部屋の整理をしていた。

ゆかりさんと一緒に旅すると約束したからには、早めに出発できるよう準備しておくのがいいだろう。

あと2日もすればこの家ともお別れになる。

持っていくものの選別をしつつ、せめて片付けはしておこう。

まずは小物の多いリビングの方から整理を始める。

日持ちする食料や調味料を残して、小物や愛着のあるものも断捨離していく。

断捨離といっても捨てるわけではなく、そのまま家に置いていくだけになる。

持っていけないとしても捨てるのはもったいないしね。

 

 

住み始めてから二年も経ってないが、結構気に入っていたらしく掃除もしっかり行った。

リビングの整理から始めて、次に作業部屋に移ろうとすると――

 

「……お、おはようございます、マスター」

 

「……お、おはよう、ゆかりさん」

 

昨日と今朝の事がある分、ちょっと気まずい。

何から話そうか考えていると――

 

「…………あの、昨日同じベッドに入って、そのまま寝てしまってすみませんでした」

 

「……いや、俺がゆかりさんに寝床を提供するのを忘れて寝てしまったから、ゆかりさんも寝るところが無くて、仕方なく入ってきたんだろ?俺が悪かった。ごめん……。」

 

「えっ?ま、まあそうですかね…………?、……でも本来ボイスロイドは布団に入らなくても風邪をひかないですし、一緒に寝る必要はなかったんです。だからそれも加味すると私の方が悪いです」

 

「それは違う。俺が寝落ちしていたところをわざわざベッドまで運んでくれたんだろ?そのまま疲れて眠ってもおかしくないって」

 

「それと私、勝手にマスターの服を借りて今も着っぱなしですし――」

 

「いやいやそれは俺も昼間にゆかりさんの分の着替えを用意してなかったから、俺の服も着ることになったんだし――」

 

 

 

それからなんやかんやで、十分くらい謝罪の投げ合いをした後――

 

 

「…………もうお互い、自分が悪いと思ったところを言い合ったから、これからはそこを直していこうってことで」

 

「……そうですね。でも、またマスターと一緒に寝たいですね

 

「え?なんか言った?」

 

「な、何でもないです!」

 

「……まー遅くなったけど、まずは朝ご飯を食べよう」

 

「…………すみません、マスターに朝食まで作らせてしまって――」

 

「いやもう謝らなくてもいいから――!」

 

 

リビングの整理、掃除も終わってキリが良かったので、休憩がてら朝食をとった。

朝食を取らずに作業していたから、余計お腹がすいてめちゃくちゃ食べた。

 

ちなみにゆかりさんの普段着(俺の服)verは最高でした。

とにかくラフな格好の破壊力がやばい。

俺が普段着ていたTシャツとズボンにパーカーがあそこまで化けるとか、やっぱり素のポテンシャルが高いと改めて実感した。

もちろん俺の心のカメラで永久保存した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食も食べ終わったことだし、一緒に作業部屋の整理に入ろうと思う。

家の中で一番散らかっているのは、この部屋だ。

以前はここで動画撮影とロボット・ボイスロイド作成を行っていた。

作業自体はそれぞれ同じ部屋の中でも分けて行っていたが、それでもかなり散らかっている。

この部屋からは、動画撮影用の機材とゆかりさんの整備に必要な工具を回収、それ以外は適宜判断してこれからの旅に必要か決める。

 

「マスター、この機材って使いますかー?」

 

「それはまだ使えるからこっちに置いといて」

 

「分かりましたー」

 

この調子なら昼前には終わりそうだな。

やっぱり二人でやる方が圧倒的に速い。

ゆかりさんは仕事が早いから、こっちもテキパキと作業出来ていい感じだ。

 

 

 

 

 

 

ある程度、片付けも進んできた頃――

私はとある箱を見つけた。

中には配線むき出しの機械が大量に収納されており、それぞれが精密なものだと判る。

 

「マスター、この箱に入っている機械は何ですか?」

 

「――あぁ、それは俺の自信作だよ、失敗作でもあるけど」

 

「自信作で失敗作ですか……」

 

ぱっと見では、何ができるのか分からない機械の塊だ。

だが、マスターがそれらを集めて組み立てていくと、徐々に一つの形へと変形していった。

それは良く見覚えのある形、外の枠組みや皮膚は無いが、それは――

 

「えっ、これってマスターが制作したロボットですか!?」

 

そこには人の形をしたボイスロイドらしきものが出来上がっていた。

皮膚はなく、あくまでも人の形をしているのすぎないが、それでもボイスロイドと分かるくらいには完成度が高かった。

 

「大学生の俺が出来たことは、ありあわせの部品で人の形に寄せたロボットを作ることだけだった」

 

「いや、人の形になっているのも十分すごいですよ!?」

 

「あと動く」

 

「動くんですか!?」

 

「ここの電源を入れて、プログラムを実行すればっと――」

 

 

 

……た、立ちましたっ!

しっかりと二足で自立して、それから……

なんとシャドーボクシングしてます!

完璧な動きで敵を翻弄しているのが見えます!

ものすごい鋭いジャブも打っています!

 

 

まさかマスターがここまで天才だったとは……

私を整備して起動できるってことは、それなりの知識は持っているとは思っていましたが……

ボイスロイドを作りたいからと学業に励み、このレベルまで技術を習得するとは、天才を超えてある意味変態なのでは?

流石はマスターですね。

 

「まぁ、動きに耐えられず、自壊していくんだけどね」

 

「うわぁぁぁ!マスターの作品がミシミシ言ってま……あ、反動で腕が落ちました!マスター早く止めてください!」

 

「何をそんなに盛り上がってるんだよ。危ないから止めるけどさ」

 

マスターが停止コードを入力し、最後は粗ぶっていたロボットもようやく動きが止まった。

 

 

 

「ふう……なんとか全壊は避けられましたね。なんであんな激しい動きをさせたんですか?」

 

「あれくらい動けないと耐久的にも外にも出られないでしょ」

 

「いや外で何させようとしてるんですか……。でも外は外的要因でダメージを受けることも多いですもんね。これくらいは出来るようにならないといけないのかな……?」

 

「とにかくこれは失敗作だから持っていかないよ」

 

「えぇー、もったいないですよ。ゆっくりなら動きそうですし――」

 

「……今はゆかりさんがいるから、もう必要ないかなって」

 

「…………そういうことなら仕方ないですねぇ。その代わりしっかり整備してくださいよ?」

 

「分かったよ。……あ、昨日定期点検するの忘れてた」

 

「今更思い出したんですか?じゃあここの掃除が終わったらお願いしますね?」

 

「はいはい分かったよ」

 

それからはまた作業を開始して、1時間後には片付け終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業部屋の整理も終わったし、ゆかりさんに頼まれていた点検をしておこう。

点検といっても簡単に消耗具合を把握して、消耗が激しいなら交換するくらいだ。

 

今日は手足やバッテリー兼コアの消耗具合を確認する。

手足は動作を繊細に行う部分のため、実際に動かして触診し、わずかな違和感でもあればすぐに言ってもらう。

ここは回路も複雑で、少しの異常でもすぐに誤作動を起こしかねないからだ。

この時ばかりは、ゆかりさんとしてではなくボイスロイド、精密機械として触れるため余計な感情は入らない。

まぁ、触っているときにゆかりさんが少し息を荒げることもあるが、あくまで点検しているだけだから気にせず続ける。

 

 

 

………………すみません、やっぱり少し気になりました。

自分を叱るために、誰か殴ってください。

でも誰かというのはゆかりさんしかいない訳だし――

ゆかりさんが息を荒げながら、罵られて殴られることでは……

しかも点検中だから終わるまでは続けないといけないし、それはそれで――

 

 

 

…………いやいやそこまで性癖歪んでないわ!

点検中にこんなこと考えるなんて、まだまだボイスロイド作成者兼整備士としての道のりは長そうだ……

 

 

 

そんな一人ツッコミをしながら、点検を終える。

手足もバッテリー・コアも特に問題はなくてよかった。

ちなみに胴体や頭部などはそこまで傷ついたり、消耗するところはないため、ゆかりさんが異常を感じた時に点検しようと思う。

今日は異常が無いみたいなので見なくても大丈夫だ。

…………決してひよっているわけではない。

 

 

 

バッテリー・コアは鎖骨の少し下に埋め込まれており、表面上は皮膚で覆われているから見えないが、アイ〇ンマンのリアクターのような見た目になっている。

これを取り出すときって、結構ワクワクする。

なんかこう、ウィーンって胸部が開いてブーンって中からコアが出てきて、真ん中のつまみを引くとシューと煙?が出ながら、バッテリーやらエネルギー制御チップなどがコアの側面から出てくる。

そこにあるバッテリーの消耗具合を点検するのだが、語彙力が無くなるくらい動作がかっこいい。

 

とりあえず、今回は異常は無かったので元に戻す。

この時ゆかりさんは、なぜか俺のことを遠い目で見て

『やっぱりマスターもこういうのが好きなんですね。今度すごいのを見せてあげます』

って言ってたけど、正直かなり楽しみだ。

ゆかりさんは無限の可能性を秘めている。

そんな気がしてならないのだ。

 

後はこのゆかりさんに限ったことだが、俺の知らない装置や機構が多く搭載されていた。

どれも製造後に追加された機能なので、何があるか把握するため暇なときに本人に聞いておこう。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ふと思ったのだが、昨日からの行動を見て、ゆかりさんは少しアグレッシブというか積極的というか、少し行動が行き過ぎている気がする。

俺としてはご褒美以外の何物でもないので悪いことではないのだが、この先旅に影響が出てくるかもしれないので、点検のついでに検査しておこう。

点検だけなら起動したまま行うのだが、検査するには一度シャットダウンする必要がある。

ゆかりさんに許可を貰い、横たわってもらってからシャットダウンする。

 

検査するのはボイスロイドで言うところの脳、つまりデータを司る部分だ。

データ――記憶を見ることでゆかりさんがこうなってしまった原因がわかるのではないかと思ったのだ。

ゆかりさんの場合は、頭にある髪飾りのうち大きい方にメモリチップが内蔵されている。

ちなみに小さい方の髪飾りは、この前ショッピングモールで使っていた小型ドローンらしい。

いろいろ弄ってみたいが、今はデータを優先で。

 

メモリチップを取り出し、パソコンで中身を見る。

メモリチップはゆかりさんが今まで見てきたものを映像で見ることができる。

これはすべての記録が見れるわけではなく、重要ではないものや細々とした出来事は見れない。

あくまで重要、大切に思っているものを、優先的に保存するのがこのメモリチップだ。

それ以外は別にある記憶媒体で保存される。

記録はそれぞれ、日にち、時間ごとにファイルが割り振られている。

今回見るのは、俺とゆかりさんが出会う前、つまり展示される前の記録がないかを確認したかった。

本人にも閲覧許可はもらったが、『展示される前の記憶はないので見ても意味はないと思いますが……』とは言っていた。

 

 

 

…………しかし、このパソコンにはその()()()()()()()()が映し出されていた。

『ワンチャンないかなー』と思っていただけに、そのファイルがあって結構驚いた。

そのファイルは他と違い、日時が表記されていない。

また、ファイルの形式が異なっていた。

これならゆかりさんが認識できないのも頷ける。

 

――よし、いつのものか分からないが、さっそくファイルを覗いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

 

 

 

ザァーザザァーーーー

 

 

 

「――ますか」

 

「――聞こえますか」

 

「――――良かった聞こえ………みたいですね」

 

「今は………無くて………………ですが、………に行けば……………なるでしょう」

 

「――あなたを今から…………送り出し……」

 

「………からは…………ようになっているため、何があるか…………………」

 

「――でもあの人の……です、きっと………―――」

 

 

 

「――さぁ、いっ………ザザァーーーーーーーー

 

ザァーザァーーーーーーーーーーー

 

ザザァーーーーーーーーーザァーーーーーーーーーザァーーーーーーーーー

 

ザァーーーーーザァーーー

 

 

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

 

 

 

ここで動画は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なんだ、これ……?」

 

 

 

音も非常に聞き取りずらく、映像もデータが壊れているのかノイズの砂嵐で見ることができなかった。

かろうじて分かるのは、何者かがゆかりさんに対して行くように促していた?ことだけだ。

尤も、ゆかりさんではなく、近くにいた人に対して行った言葉を聞いていただけかもしれないが。

口調的に相手の性別は女性っぽいが、音声が乱れすぎてて声色からは判別がつけられない。

だが、何より内容の意図が読めない。

 

「ゆかりさんが過去に、どこからか逃げ出したかもしれないとか?」

 

なぜそんな記憶を持っているのか分からないし、そもそも情報が足りない。

動画も途中で終わっているし、他のファイルもないので、これ以上調べることはできない。

 

 

 

「とりあえず、ゆかりさんを起こすか……」

 

 

 

予想していた情報とは違って軽く混乱したが、とりあえず検査を終えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




そう言えば前回も今回も終末世界要素がほとんどなく、後半はゆかりさんを弄る回となってしまいましたね。

次回からはちゃんと終末旅行してると思います。



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