ゆかりさんと行く終末旅行   作:夏野とびうお

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最近忙しいので、投稿遅くなりました
これからも少し更新頻度が遅くなりそうです



7.情緒

 

 

 

 

テンションを上げて出発してから、約1時間……

キャンピングカーの性能の確認を行いつつ、とりあえず東に向かっていた。

ここから東に向かえば、山を越えた向こう側に大きな都市がある。

二人でそこを観光しに行きたいと話し合っていた。

多分このまま何事もなく進めば、2,3日で着くことができるだろう。

幸い天気もいいし、絶好の旅日和だ。

これから順調にドライブしていきたいけど――

 

そう、目の前の異質な光景に目を向けなければ、普通のドライブと変わらないだろう。

目の前の光景さえなければ――

 

 

 

 

 

「……やっぱりさ、シュールだよなこれ」

 

「…………提案したのはマスターですよ。こうでもしないと道路を進むことすらできないんですから、絵面は諦めてください」

 

 

 

二人で運転席、助手席に座って話しながら、フロントガラスの向こうに見える光景に目を向ける。

 

そこにはキャンピングカーを避けるように移動する、車の行列があった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

出発日前日……

 

 

 

「マスター、言いづらくていつ言おうかと思っていたんですが……」

 

「………大丈夫分かってる」

 

 

今、結構深刻な問題があった。

今後に関わる面倒くさいことだ。

 

あの日、人類が消えた日……

実際に見たわけではないが、消えたのは人類だけ……

つまり、消える直前まで乗っていた車などはそのまま道路に残るのだ。

それがどういうことを指すかというと――

 

「これ、道路に放置された車が邪魔で、キャンピングカーが道路進めないよね……」

 

「ついに現実と向き合いましたか」

 

「いや、逃げてたわけじゃないよ?ただ、どう対策しようかなーとは考えてたから」

 

「良かったです。キャンピングカーをパクった際に大きめの道路とか通りましたけど、マスターが道路を塞ぐ車を見ないふりして通っていたので、ついに現実逃避を始めてやけになったのかと」

 

「言い方ひどくない?まー現実的に行くなら、車は使わずに歩きかバイクの方が通りやすそうだけども……」

 

歩きやバイク程度の大きさの乗り物なら、車の隙間を縫って移動したり、歩道を走ったりすればいい。

しかし、それだと持っていける荷物に限界がある。

撮影機材とかゆかりさんの整備道具とかも一緒に持っていくとなると、体力的にも容量的にも厳しくなるのだ。

しかも毎回どこか寝床を探すかキャンプ道具を広げることになる。

それはそれでありかもしれないが、毎日するのは流石に疲れると思う。

日に日に体力無くなってきて、旅するのが億劫になるとか、そんなことになるのは嫌だ。

それに一番は……

 

「せっかく旅をするなら、キャンピングカーとかに乗って車中泊とかもしてみたいじゃん!移動式の家とかテンション上がるじゃん!」

 

「分かりますよその気持ち。それじゃあ一体どうするんですか……」

 

「……一応案は考えてある。だが、今はそれをするのにはゆかりさんの力がいる」

 

「わ、私のですか?いいですけど、一体何をするんですか?」

 

「それは――」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「まさか各車に取り付けてある自動運転機能を、私がすべて遠隔操作して道を開けるとかそんなごり押しするとは思わなかったですよ……」

 

「仕方ないだろ……。キャンピングカーが道を通れるようにするには、キャンピングカーを改造して物理的に通るか、周りの車に道を譲ってもらうかしかないんだから」

 

ゆかりさんには今、それぞれの車の自動運転機能をハッキングしてもらい、並列思考で複数台同時に動かしている。

これでキャンピングカーを通れる隙間を作り出して進んでいるのだ。

でも流石にこの演算量は――

 

「分かってますよ。でもいくら私が天才美少女だからといっても、流石にこれは演算による脳への負荷がすごいです……」

 

「ごめん、無理させて……。でも現時点で、ずっと前を凝視してキャンピングカーが通過する前に道路の車を左右に移動させて、道を作りながら運転するなんて芸当、ゆかりさんにしかできないんだ」

 

「まぁ、頼られるのはボイスロイドの本懐なので、全然大丈夫なのですが……」

 

流石にこれから運転を毎回、ゆかりさんに任せるのは厳しいだろう。

ここまではプランAである。

ゆかりさんの性能を知る機会だと思い実行に移したが……

現状かなりしんどそうだし、このプランは放棄せざる負えない。

俺もずっと運転しろなんて、そんな鬼畜じみたことはとても言えない。

なのでプランBを実行に移している。

 

運転している横で、カメラとパソコンを駆使しながらゆかりさんに目を向ける。

 

「あともうちょいっ、今ゆかりさんの動きをディープラーニングさせて、新しい自動運転AIを作ってるから……遅くてもあと1時間後には、形になってると思うからそれまで頑張って!」

 

「あ、ありがとうございます。すごい助かりますけど、マスターも十二分に一般人にはできない芸当してますよね……」

 

AIの操作を見せて新しいAIに学習させる、発想がやべーやつですね。

 

 

 

 

こうして順調?に旅を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

昼間に家を出発し、三時くらいになったところで、一度休憩のために車を停止させた。

ゆかりさんは『少し……休みます』と言い、そのまま運転席でスリープモードに入った。

流石に頑張らせすぎたかな……

今はゆっくり休ませてあげよう。

ゆかりさんに毛布を被せ、こっちも作業に戻る。

 

俺は、ゆかりさんの運転技術を見せて学ばせたAIの最終調整に入り、キャンピングカー内のテーブルでパソコンをカタカタさせていた。

 

「よっし、とりあえず形にはなったな」

 

パソコンを車に接続して、従来の自動運転機能のプログラムを弄る。

今出来上がったAIと互換性を持たせて、それが在った所にこのAIを取り付けた。

これで大丈夫なはずだ。

 

従来の自動運転機能は、カメラとGPSで周辺の確認を行っていたために、今では使えなくなってしまった。

しかし、このAIは新たにキャンピングカー上部に取り付けられた360度カメラ――

それと俺のボイスロイド作成で得たAI技術を用いて運転を行う。

要するにこいつは自ら考えながら運転ルートを導き出す、言わば運転専用ボイスロイドである。

ボイスロイドなので当然喋る。

 

「こんにちは、私は、操縦ボイスロイド、しるべです。よろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしくね」

 

「マスター、どちらに、移動、しますか」

 

「今はまだいいよ。とりあえず停車モードで」

 

「了解、しました」

 

[導]と書いてしるべ、俺たちを安全に導いてくれるようにと名付けた。

しるべは、まだボイスロイドとしての完成度はまだまだでAIとしての自我も完成していない。

簡単な会話がかろうじて成り立っている程度だ。

何しろ作成途中のボイスロイドAIをそのまま、運転用に転用したのだから。

それに移動ルートの構築、前方の車を複数同時操作、キャンピングカーの運転の演算で、スペックの限界が来てしまった。

出来れば、もう少し会話ができるようにしたかったが、しっかり話し合えるようにするには、まだまだ自身の技術が足りないね。

 

ゆかりさんが起きるまでまだ時間がありそうだし、もう少ししるべの調整でもしておくか。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

調整が終わってのんびり昼寝でもしようと思っていたら、ゆかりさんが起きたので出発の準備を整える。

 

「おはよーございます、マスター」

 

「おっ、おはようー」

 

「おはよう、ございます」

 

「あれ、この車喋りましたっけ?」

 

「さっき言ってた自動運転AIだよ。完成したし、折角だから喋らせてみた」

 

「こんにちは、私は操縦ボイスロイド、しるべです。よろしくお願いします」

 

「おぉ……、私は結月ゆかりです。これからよろしくお願いしますね」

 

「はい、お願い、します」

 

さっき作り始めたという割には、普通に性能がいい。

多分、前にマスターが言っていたボイスロイドを基に作ったみたいですね。

作りかけとは言っていましたが、中身はほぼ完成してたみたいですし、やっぱりすごい。

少し発音がたどたどしいですが、問題はないでしょう。

完成度的には、もうボイスロイドと言ってもいいのでは?

 

これは将来、天才ロボット博士とかになっていたかもしれませんね。

 

 

 

「じゃあゆかりさんも起きたし、出発するかー」

 

「どちらに、向かわれますか?」

 

「とりあえず山を越えた東の都市に向かいたい」

 

「了解、しました。しるべ、出発します」

 

 

 

初めての運行だが、無事に安定して走行で来ている。

一応、動作確認済みで安全装置もあるから、大丈夫だとは思っていたが。

最初は時速30㎞で走行してみる。

計算上は今のところ、時速60kmまでなら安全に前方の車を処理して走行できるが、初めてだしゆっくりでもいいよね。

前方の車もスムーズに動いていい感じだ。

横に縦列駐車していく様は、なんだか見ていて気持ちいい。

ガシャガシャと車同士が当たらず、音が鳴らないのもしるべがゆかりさんから上手に学べた証だな。

 

なんだか見てると眠くなってきた……

……よし寝るか!

 

 

 

オヤスミー

 

オヤスミナサイマスター

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

 

 

 

『―――ということで、第一回突発動画を撮ってみようのコーナーです。メンバーは私、結月ゆかりと運転中のしるべちゃんです』

 

『まぁ、しるべちゃんは運転中は殆ど喋らないというか喋れないんですけどね』

 

『ちなみにマスターは今昼寝しています』

 

『この映像は特に目的とかなく、ただ日常の映像を残していきたいと思ったので、適当に撮っています』

 

 

 

『――とりあえず最初なので車内でも映してみましょうか』

 

『今は車内の真ん中に設置されたテーブルと椅子がある所に腰掛けてます。横でマスターが寝てます』

 

『向こう側の扉の向こう側に運転席と助手席があります。今はしるべちゃんが運転しているので、傍から見たら無人で走ってるように見えますね』

 

『今座っている反対側にはキッチンスペースがあり、運転中でも手元が狂わないような、簡単な調理ならできます』

 

『そして、その横にトイレと上のバンクベッドに行くための梯子が収納させてます。上のベッドも予想以上に広かったです。上でも寝ることができますが、今座っている場所も動かしてベッドに出来るし、二人分寝るスペースがあるので、今は使わなくてもいいでしょう』

 

『私が下で寝ると言ったら、下で寝ると言ってたマスターが急に、上で寝ると言い出しましたけど、荷物を置いておくので逃げ場はないです。おとなしくわたしの…………どうしました、しるべちゃん?』

 

『マスターに、指定された時間に、なりました。車を停車、させます』

 

『……っと、もうこんな時間ですか。いい時間ですし、終わりにしておきましょうか。第一回目はここまでということで、では――』

 

 

 

 

――――――――――

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も落ちてあたりが暗くなったころ――

 

しるべにはあらかじめ指定した時間に、キャンピングカーを停車してもらった。

今の場所的には山が近くなっているため、木々が多くなっている。

だが、ここはまだ町中で、近くにコンビニなどもある。

コンビニの周りはいい感じに開けているので、ここを今日のキャンプ地とする。

 

キャンピングカーを出て、アウトドアグッズの中から組み立て式の椅子とテーブル、焚き火台を持ってきて設置した。

焚き火台に付近から集めてきた枝を入れ、情緒もないがライターで着火する。

ファイヤースターターもあったが、いくらやっても着火できなかったので諦めた。

 

これでキャンプの準備が整った。

初めてやってみたのだが、案外スムーズに組み立てれた。

多分ゆかりさんと二人で作業したし、手際が良かったのだろう。

 

椅子に腰掛けながら、今日の夕食の準備をする。

――焚き火でケトルに居れた水を沸騰させて、カップラーメンに注ぐ。

 

「……こうして外で道具を広げて、誰もいない町を眺めながら焚き火で暖を取るって不思議な感じだな」

 

「そうですね……。それにゆらゆら揺れる火を見ていると、なんだか安心します……」

 

街中の道路の真ん中で火をくべて暖を取る……なんだかすごい非日常感がして不思議だが、同時に楽しくもある。

普段ではできないことができるっていうのは、この世界になってよかった点の一つかもな……

空気は澄んでいるし、空を見上げれば満点の星空が見えてとても綺麗だ。

人がいなくなったことで、今までよりも星々が鮮明に見えるようになったのだろう。

この瞬間、人にも、ルールにも縛られず、自由に過ごしている感じが、何とも言えない幸福感をもたらしている。

 

 

 

 

 

――三分経ったので、カップラーメンを食べてみる。

……やはり、外で、キャンプで、食べるカップラーメンは美味しかったんだ。

キャンプ動画で見ていた時よりも美味しそうに見えたし、実際美味しかった。

冷たい外気で冷えた体を、焚き火とカップラーメンで温められていく。

隣に座るゆかりさんを見ると、何とも言えない表情でカップラーメンを啜っている。

 

見ていたらゆかりさんもこっちに気づいて、幸せそうな顔でほほ笑む。

 

そうだ、この瞬間を残すために――

 

「……折角だから、記念に写真を撮ろう!」

 

「……いいですね!ならキャンピングカーと満点の星空を背に、二人で写真を撮りましょう」

 

カップラーメンを片手に焚き火を囲んで座り、反対側にカメラを置いてタイマーをセットする。

すぐに椅子に戻り、二人合わせてカメラに顔を向けて――

 

 

 

3……2……1……パシャッ

 

 

 

 

 

 

周りが静寂と星空に包まれた中で、バチバチと焚き火が辺りを照らし、カメラのシャッター音が静かに響いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 







しるべちゃんは、キャンピングカーの運転役なのであんまり出てこないかも
運転が出来る高性能カーナビみたいな、実体のないボイスロイドって感じです。


ゆかりさんの読み上げ機能を使った文章を作ってみたいけど、難易度高すぎてムリ



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