最近個性が芽生えました。   作:限界社畜あんたーく 

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異変


名古屋市の一角。

周りがビルや住宅街で彩られる何気ない日常に、突如発砲音が響いた。

刹那に響く、一つの甲高い悲鳴。

その発砲音と悲鳴の元は、全国に展開されている三大銀行の一つ、食友銀行の中からだった。

 

 

食友銀行の中には、武装した男たちが居た。

片手に拳銃を携え、白面のピエロマスクを被り、隙間から見える鋭い眼光は床へ──中心に男が伏す血の池へ向けている。

 

 

「ク、クソォ・・・」

 

「ハン、ヒーロー様がたかが拳銃の一発でダウンとはな?」

 

 

撃たれたのは全身を青色のタイツスーツで包んだ若い男だった。

彼は『ブルーマン2号』。この銀行を警備するために派遣されたヒーローである。

個性は『スライド』。自分を任意の位置に一定の速度で移動させることが可能。

速度は原付程の速度まで調整することができ、またこの個性の使用中は移動を除いた動作──殴ったり蹴ったり等──であれば行うことも出来る。

 

愛媛では有名なヒーローで、CMやニュースにも多く出演している。

その実績を認められた結果、つい先日名古屋への拠点移動が決定したのだが・・・。

 

(その矢先にこれじゃ、故郷のみんなに顔向けできないな・・・)

 

拠点を変えたばかりのヒーローは、大抵は銀行の警備や町のパトロールに勤しむことが多い。

何故ならどちらも前衛的に戦うことはなく、あっても別のヒーローに連絡を取るだけで戦闘に積極的に絡む必要が無く済むからだ。

つまり、危険が全く無い仕事のはず()()()

 

 

「オマエ、たしか地方で有名な『ブルーマン』だよな?」

 

「二号だ!」

 

「あーハイハイ、『ブルーマン二号』ね」

 

 

男が拳銃を二号の顎に突きつけると、その引き金に指を掛けた。

振り払おうとするも、撃たれた腹に激痛が走るため動けない。

そんな自分にも苛立ち、それが舌打ちとなって表現される。

 

 

「でよ?なんでオマエ()()()()ヤツがヒーローやってんだ?」

 

「ッ!ォ、俺は人を守るために!」

 

「人を守るために?それがこの様かよ!」

 

 

グッと、喉仏から血が流れる程に強く、拳銃を突きつける。

呼吸が難しくなり、ブルーマンは鼻息を荒げる。

 

 

「なにがヒーローだ!うわべだけじゃねえか!人も守れねえならヒーローなんて辞めちまえ!」

 

 

そう言うと男は拳銃を握った状態で、頭部に拳を打ち下ろす。

鈍い音が響くと同時に、ヒーローの頭部から鮮血が迸った。

 

 

「ぅぐ!」

 

「これがヒーローかよ。弱ェなあ」

 

 

興味を無くした男は、そのまま踵を返し仲間の元へと向かう。

仲間は既にカバン一杯の札束を詰め込んでおり、そのチャックを締めるところだった。

 

 

「大量だぜ!大量!!」

「これだけありゃ一生遊んで暮らせるな!」

「最初はやっぱ飯にするか?それともパチンコ!?」

 

「うるせえ、さっさと出るぞ!」

 

 

男達は手分けしてカバンを持つと、その場から逃げようとした。

 

 

「ま、だだ・・・」

 

「あ?」

 

 

男の足が止まった。

否、()()()()()

 

 

「なんだよ。今更ヒーロー気取りか?」

 

「・・・」

 

 

二号の手は男のズボンの裾を握っており、絶対に離さないという確固たる意志がその眼から漏れていた。

しかし男はそれが気に食わないようで、掴まれている足を使って二号の顔面を蹴り上げた。

 

 

「あのな?オマエがいくら頑張ったところで、俺達を止められるなんてできないわけ。分かる?」

 

「・・・」

 

「金を守れねえ、人も守れねえ、自分のプライドも守れねえ。それでヒーロー?笑わせるなよ」

 

「・・・」

 

「ッチ、だんまりかよ」

 

 

苛立った表情で、男は足の蹴る力をさらに強くした。

そして何度も何度も何度も。

 

ヒーローの顔面を蹴り飛ばした。

 

 

「・・・」

 

 

しかし、どれだけ顔の肉が裂かれようと、どれだけ血が溢れようと、決して手を放そうとしなかった。

いよいよ男の怒り度が限界を迎えたようで、腰に下げていた拳銃を取り出した。

 

 

()()()()()だっけか?オマエ人をおちょくるのもいい加減にしろよ?」

 

「・・・に、ごう・・・だ」

 

「あ?なんだって?」

 

 

 

 

「お、れは・・・()()だ・・・!」

 

 

 

その時、ブルーマンの体がスライドし、力の籠った右拳が男の鳩尾にクリーンヒットした。

 

「ガフッ?!」

 

男は狼狽え、口からゲロを吐きながらそのまま後ろへ倒れ込んだ。

しかしそこまで力が籠っていなかったのか、男は青い顔でゆっくりと立ち上がる。

そして顔を不愉快気に歪ませると、拳銃をブルーマンに向け引き金に指を掛けた。

 

 

 

 

 

「クソ野郎が。さっさと死ね!!」

 

 

 

 

 

そして響く発砲音。

鉛玉が銃口から発射され、軌跡を描いてブルーマンの額へと向か──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SMASH(スマッシュッ)!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁が木っ端微塵に砕けると共に、弾丸がその風圧で彼方へ吹き飛ぶ。

開いた穴から光が差し込み男の影を作り出した。

 

 

 

 

「よく耐えたね、ブルーマン()()くん!」

 

 

 

マントを風に靡かせ、ブルーマンを庇う様に正面へと立つ。

その巨漢の男はあまりにも神々しく、あまりにも雄々しかった。

その場にいた強盗団を除く全員の頬に、一筋の涙が伝った。

その涙は感動か、奇跡か、幻か。

はたまたその全てか。

 

 

「だが、もう安心だ!!なぜなら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がッ!!来たァッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

強盗団を取り押さえると、あとから駆け付けた警察たちが彼らを連行した。

顔馴染の警部に一礼すると、その場を去ろうとする。

が、そこを担架で運ばれていた英雄(ヒーロー)が呼び止めた。

 

 

「オール・・・マイトさん・・・」

 

「あまりしゃべらない方がいい。傷が悪化するぞ」

 

「いや・・・お礼が、言いたくて・・・」

 

「・・・いや、私は当然のことをしたまでさ」

 

「僕は・・・昔からあなたに、憧れて・・・いて・・・」

 

 

今活動している若手のヒーロー達にとって、オールマイトは青春であり憧れでもある。

実際、若手ヒーローのコスチュームの多くは、どこかしらのポイントにオールマイトっぽい部分を取り込んでいる。

 

 

「僕の、個性は・・・あまりヒーロー向きでは、ありません・・・」

 

 

血を吐くように、万年筆で綴る様に、息も絶え絶えで説明を始める。

もはや止める勇気はオールマイトには無く、大人しく相槌を打つことにした。

 

 

「でも、あなたに憧れて・・・僕はヒーローを目指しました」

 

「・・・」

 

「悔いはありません。こんな個性に生まれたことも、後悔はありません。運が無かったなら、努力するまで。それは、あなたが教えてくれたことです・・・」

 

 

心にズキズキと、刺さるような痛みが走る。

その言葉の先を言わせたくない。

その言葉の先を聞きたくない。

でも、聞かなければきっと、私も彼も後悔する。

唇が裂けるほどに強く、激しく噛みながら、なんとか耐える。

 

 

「オールマイトさん・・・」

 

 

 

 

 

「こんな僕に夢を見せてくれて・・・ありがとう・・・ござ・・・」

 

 

 

その時、二号の持ち上げていた腕がダラリと垂れた。

一瞬ガチ目に焦ったが、どうやら息はしているようなのでほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「運が無かったら努力するまで、か・・・」

 

 

ふと何かに思い耽るような、悲しみに満ちた顔を浮かべ──だが、駄目だと頬を両手でパチンと叩く。

踵を返すと、近くの救急隊員の肩を掴み真面目な顔で告げる。

 

「民間人を守った英雄だ。丁重に運んであげてくれ」

 

隊員の力強い相槌を見ると、オールマイトはニッコリと、明るい笑顔に戻す。

ヒーローたるもの、どんな時でも笑顔でなくてはいけない。

 

「私は次の事件へと向かわねばならない!それでは!!」

 

光の速度とは、音を置き去りにするとはまさにこのことなのだろう。

残像だけを残し、目にも止まらぬ速度でオールマイトは跳び去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

それから幾度の事件を解決させ、気付けば日が暮れていた。

NO.1ヒーロー(オールマイト)のバックに赤い夕焼け。それが似合わないはずがない。

事件を傍観していた民間人がカメラを用意し、サムズアップを決めるオールマイトを写真に収める。

 

 

「HAHA!では諸君!!さらばだ!!!」

 

 

フラッシュが途切れ始めたところで、オールマイトは空の彼方へ跳んだ。

その場に残ったのは白と黄色の残像のみ。

しかし、その残像でさえも尊敬と畏怖の念を途絶えさせる者はいなかった。

 

 

 

 

暫くして、近くの建物の物陰から、一人の痩せこけた男が現れた。

否、痩せこけた──というのは表現としては不適切か。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言った方が正しいだろうか。

 

 

「ガフッ!」

 

 

尋常ではない量の血を吐き、口元を拭いながらよろよろと倒れる。

しかし男は悲鳴を上げない。

周りに助けを求めない。

 

「トップヒーローが助けを求めるなんて、そんなのヒーロー失格だからね」

 

その見た目よりも枯れた笑いを口から吐き出すと、男は立ち上がりそのまま歩き出した。

 

 

 

男の名は八木俊典(やぎとしのり)

 

 

オールマイトの、真の姿(トゥルーフォーム)である。

 

 

 

 

 

何度も血を吐き、何度も倒れ込み、そしてやっとの思いで帰った自宅の玄関前には、見覚えのある男がいた。

 

 

「塚内君!?来るなら来るで連絡してよ!」

 

 

塚内直正。

オールマイトの秘密を知る数少ない人物の内の一人。

敵連合絡みの事件を担当する警察官で、信頼が出来る友人でもある。

 

 

「連絡はしたんだけど」

 

「本当?」

 

 

スマホを見れば、確かに塚内から連絡が来ていた。

だがその頃はマナーモードにしていたし、丁度敵と戦っていたであろう時間なので、どっちにしろ気付くことは無かっただろう。

 

 

「それで、用件は何だい?」

 

「明日から静岡の方に行くんだろ?暫く会えなくなると思ってな」

 

「いや、東京には時々戻るけど・・・」

 

「でも会う機会は暫くは無くなるだろ」

 

「それはまあ・・・そうだけど」

 

「だから来たんだ」

 

 

何故"だから"なのかは置いといて、確かに唯一の友人との一時の別れなので挨拶ぐらいはしておきたいと思っていたところだった。

 

 

「でも、何にもないよ?」

 

「だろうと思って、買ってきたさ」

 

 

塚内の右手には、赤ん坊が丸々一人はいるぐらいの膨らみがあるビニール袋が握られていた。

しかしその膨らみ的に、恐らく大半を缶ビールが占めていることが推測できる。

 

 

「ビールは飲まないけど」

 

「そりゃそうだ。だって見せびらかすために買ったんだから」

 

「正直すぎる!」

 

 

近所迷惑になるので声を控えめにツッコミをした。

その衝撃(ツッコミ)で吐血するが、いつもの事なので塚内には無視された。

 

 

家の中は特にこれといった珍しいものはない。

強いて言えばコスチュームと私服が地面に散乱しているぐらいだ。

そんな散らかった地面を飛び越えながら、リビングの床に塚内は座り込んだ。

 

 

「静岡か。名物グルメって何があるんだ?」

 

「いや、観光しに行くつもりは無いんだけど」

 

「でも食べるだろ?」

 

「そりゃ食べるけど」

 

 

お茶や割り箸を出しながら、向かい側に座った。

 

 

「静岡・・・静岡・・・お茶とか?」

 

「お茶は食べれないでしょ。というか、一番に浮かぶべきはウナギでしょ」

 

「ウナギか、なるほど」

 

「あとは、例えばシラスとかイチゴとか・・・」

 

「シラスもイチゴも名産品なのか」

 

「私も最近知ったよ」

 

「・・・実は結構楽しみだったり?」

 

「相当楽しみ」

 

 

子供のような笑みを浮かべる。

 

 

「楽しみだな~ウナギ。お土産は頼むよ」

 

「いや、()()()()()買わないけど」

 

「・・・てことは・・・」

 

「君、確か来週誕生日だよね?」

 

「流石オールマイトだ」

 

 

そんなこんなで他愛ない話や世間話をブラブラを巡っていると、丁度日付が変わった。

既に塚内は酔っており、顔を赤らめ床で崩れた胡坐をかいていた。

一方のオールマイトはアルコールを摂取していないので酔ってはいないが、しかしかなりの睡魔に襲われている。現に首がコクリコクリと曲がっているのが何よりの証拠だ。

 

 

「塚内君。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

 

「それもそうだな」

 

 

ふらりと立ち上がり、ゴミをまとめたビニール袋を持って玄関へと向かう。

酔っている割にここら辺はしっかりしているところを見るに、性格の良さが出ているのだろう。

 

「あ、そうそう」

 

玄関前でクルッと振り返り、帽子を深々と被りながら扉を開く。

外の自然み溢れる風が流れ込み、塚内とオールマイトの髪を揺らした。

 

 

「君が助けたブルーマン二号。リカバリーガールの助けもあって、二週間以内には無事に復帰できるらしいよ」

 

「そうか。それは良かった」

 

「・・・それともう一つ」

 

「うん?」

 

 

 

「彼、個性が原因で昔虐められてたんだってさ」

 

 

 

空気が吸いづらく、重くなった。

まるでオールマイトの心情を感知したかのように。

まるで空気に鉛が含まれたかのように。

 

 

「中学生の頃に君の活躍を見て、将来はヒーローを夢見てたらしいんだけど、周りからは「貧弱な個性だ」なんて言われていたそうだ」

 

「・・・それで?」

 

「いやなに、君に()()()()()()って思ってさ」

 

 

塚内はオールマイトを知っている。

それも、()()()()()()()()()()()()までも知っている。

 

だから正直者の彼は時々、オールマイトとしての心を抉るかのような発言をすることがある。

 

勿論、あくまで塚内は感想として言ったということは承知している。

あくまで嫌味や妬みを篭めた言葉でないことも理解している。

 

それでも、それがまるで自分を咎めようとする言葉に聞こえてしまう。

 

 

「・・・ああ、すまない。君にこんなことを言っても返答に困るよな。それじゃあ失礼するよ」

 

 

会釈を済ませると、塚内は玄関から姿を消した。

 

それからしばらくして、八木俊典は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

「・・・私は・・・卑怯者だ」

 

 

幾度となく自分に言い聞かせた言葉。

 

 

この個性は人からの貰い物だ。

決して自分が生み出したモノではない。

ただの運。

ただの巡り。

 

その力を例え私欲のために使っていないにしても、例え人を社会を守るために使っているにしても、自分が人が踏むはずだった階段を何段も蹴飛ばして進んできたという罪悪感は拭いきれない。

 

自分は傲慢だ。

自分は強欲だ。

自分は怠惰だ。

 

七大罪の三つを背負うとは、なんて最低なヒーローなのだろうか。

 

 

「その傲慢さを、強欲さを、怠惰さを行使し続けた結果がこれだ」

 

 

服の上から腹の傷を撫で、そこから走る痛みをしかと食いしばる。

あの時の衝撃は今もなお鮮明に覚えている。

あの時の痛みに比べれば、タンスに小指をぶつける痛みに比べれば、幾万分もマシだ。

 

 

 

 

「・・・これは戒め。私への罰。全てを救う者(オールマイト)が背負う業だ」

 

 

 

 

痛みが若干引いてきたところで、重い溜息を吐いた。

 

 

「・・・風呂に入って、早く寝て、早く起きないと。明日は静岡に行くんだから」

 

 

全身が気怠くなり、鉛が水平移動するかのような足取りで、オールマイトは風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

水玉のパジャマに着替えた八木俊典は、ふかふかのベッドの上で横になった。

三角帽子の先にあるモコモコが後頭部に抉り込み軽く吐血しながらも、体勢を変えると深く息を吸い込む。

そして瞼を閉じると、深い眠りの世界へと誘われた。

 

 

「・・・ZZZ」

 

 

花提灯を膨れ上がらせ、どんどんと深淵に潜り込んでいく。

 

 

「ZZZ・・・ZZ?」

 

 

だが、潜り込もうとすると息が持たず、そのまま海面へと戻ってしまった。

 

 

 

 

「・・・緊張して眠れん!!」

 

 

 

 

ガバっという擬音と共に起き上がると、近くの時計の針を見つめる。

見れば、寝てからまだ一分と経っていなかった。

 

 

「こうなったら・・・これを使うか!」

 

 

某青狸ロボットの効果音が鳴ると共に、丸めた拳から小さなお菓子袋のようなものを取り出した。

 

 

「す~い~み~ん~ど~う~にゅ~ざ~い~!!」

 

 

リカバリーガール公認であり、オールマイトもCMに出演していることで有名な睡眠導入剤、その名も『スッキリマイト』。

その者の個性に直接関与せずに、ノンレム睡眠へと促すことが出来る薬だ。

CMの売り文句は「夜も戦うオールマイトでさえも、(ヴィラン)の前でぐっすり眠っちゃう!!」なのだが・・・。

 

 

「お手~軽に~睡ッ眠ッ!速~やかに~熟ッ睡ッ!スッキ~リ~マ~イトゥッ!HAHAッ!代償製薬ゥッ!!」

 

 

まさかCMの歌まで歌うレベルの依存だとは、誰も思わないだろう。

 

袋の中から白い粒を取り出すと、それを水と一緒に含んだ。

そしてまるごと飲み込むと、布団を被って横になった。

 

 

「しかし、本当にオールマイトも眠rZZZ・・・」

 

ちなみにフラグを立てる前に寝るのは、CM再現である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと気が付くと、辺りは白い空間で構築されていた。

奥行きはどこまでも広く、天井はどこまでも高く、地面はどこまでも深い。

まるで一次元の世界に飛ばされたような未知の光景。

ストレスと幸福感を同時に味わうような、矛盾した心情。

無重力による浮遊感と引き寄せられる引力を同時に感じる矛盾した感覚。

 

その全てに全身を圧迫されてもなお、その思考は冷静を保っていた。

 

 

何故なら()()()()()()()

 

初めての光景を。初めての心情を。初めての感覚を。

 

 

その全てを()()しているからだ。

 

 

「・・・」

 

 

目の前に、黒い靄が立つ。

それが何かは分からないし、しかしこれといった興味も沸かない。

 

 

 

それもそうだ。

 

 

コレは夢の中だ。

夢の中なのだから、いくらでも経験してるし、いくらでも忘れている。

いくらでも答えを知っていれば、いくらでも答えが分からない。

 

自分の中で始動し、自分の中で完結し、自分の中で再発される。

 

変幻自在の形無きソレが、ソレこそが夢なのだ。

 

だからこそ夢には興味は沸かない。

興味があるのは夢が作り出す()であり、夢単体には微塵の興味も沸かないのだから。

 

 

「・・・こんなつまらない夢なんか見せないでくれ。私の理想を、私の願いを、私の不幸を。早く形を変えて見せてくれ」

 

『・・・・・・・・・』

 

 

黒い靄は形を変える。

段々と人型になるソレは顔に当たる部分に逆三角形の空洞を作り出し、そこから空虚な音を作り出した。

 

 

 

 

『・・・ドンナ・・・ユメガミタイ?』

 

 

ふと疑問に思った。

果たしてコレは夢なのかと。

果たしてソレは何なのかと。

 

これまでの()()()()()()()の多くには、共通して既視感というものが存在していた。

どこかで見たことあるような、しかし全く思い出せない状態だった。

 

だが、今は違う。

 

本当に初めての経験だった。

こんな白く広がる空間にも。

こんな流暢し喋る黒い靄にも。

既視感というものは存在しなかった。

 

だからこそなのか、それを既知に変えたいという欲望が、自然と働いてしまう。

 

 

 

 

「なら、私の腹の傷が治った夢。でも見せてもらおうかな」

 

 

 

 

現代医学でも不可能とされる後遺症と内臓の修復。

それを叶えた夢を見せてほしい。

果たして本当に夢を見せてくれるのか。

それとも夢を見せずに暗転するのか。

失せていた興味は期待へと変わり、震えとなって体外に現れる。

 

 

「・・・ワカッタ」

 

 

そう言うと黒い靄は、空気に溶け込むように薄れていった。

一滴の墨汁をバケツの中に落としたかのような余韻と共に、暫くその場から目を離さないように凝視し続ける。

 

 

しかし、何も変わらない。

何も生まれない。

 

 

 

「ホーリーシット・・・夢ってものはここまで融通の利かないものなのか」

 

 

融通の利かない夢など興味はない。

大人しく起きよう。

そう考えた矢先、その瞬間のことだった。

 

 

 

ベチョリィ・・・

 

 

 

右肩に粘り強い何かが乗ったような、気色の悪い感覚が伝った。

 

 

「ワッツ!?」

 

 

違和感のある肩を見れば、そこにはコールタールのように黒光りする、粘液状のナニカが付いていた。

 

 

ベチョリィ・・・ベチョリィ・・・

 

 

そのナニカは次第に面積を広げ、右肩から一気に広がっていく。

 

 

「グゥ!?なんだコレは!?は、離せ!!」

 

 

恐怖というよりも生理的嫌悪感が先に働き、粘液を振り払おうと必死になる。

しかしスピードはむしろ加速するばかりで、粘液はドンドン体を浸食していく。

 

 

ベチョリィ・・・ベチョリィ・・・ベチョリィ・・・

 

 

いくら体を捩ろうと、いくら体を動かしても、粘液は飛ばされることはない。

 

 

 

「こうなったら・・・ハア!!HUN!!!

 

 

 

マッスルフォームへと変身し、全身を力む。

その衝撃波で粘液を飛ばすつもりだったのだが、しかし加速するばかりで、粘液の一滴すら飛ばされることは無かった。

 

 

「クソ!!だが・・・これは夢だ!なら現実に戻りさえすれば・・・!!」

 

 

顔を除く全身を侵され、もはや身動き一つとれない状態でありながらも、しかし思考だけはまだ冷静に動かし続ける。

 

 

「戻れ!戻れ!早く戻れ!!!でないと私は夢の中で最悪を見ることになる!!こんな気色悪い粘液に好き勝手されるのは嫌だ!!」

 

 

もはや最後は自分の願望になっているが、それでも危機感が働いているのは本当の事だった。

いよいよ顔面まで登って来た粘液を避けながら、必死になって叫んだ。

 

 

 

 

「戻れェェエエエエ!!!!早く目が醒めてくれェェ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリンン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドゥワア!?!?」

 

 

 

スマホのアラームが鳴り響くと同時に、ベッドから転げ落ちた。

時刻は六時。

 

 

「朝か・・・良かったァ・・・」

 

 

額と背中に手を添えると、触れた手がグチョグチョになるレベルの汗を流していた。

気色悪いと感じると同時に、夢でよかったという安堵の思いが心中を渦巻く。

 

 

「それよりも・・・早く着替えて静岡に行かないと・・・!」

 

 

気持ちを切り替え、さっさとベッドから降りる。

朝食用の食パンをオーブンで焼きながらスーツに着替えていると、ふとあることに気付いた。

 

 

 

「腹の痛みが・・・ない?」

 

 

 

正確に言えば無くなったわけではないのだが、しかし痛みが控えめになっているように感じた。

いや、それだけではない。

 

(朝起きたらまず、ベッドから降りた衝撃で吐血するはず・・・)

 

更に言えば、睡眠導入剤の副作用でも吐血をするはずなのだが、しかし今日は未だに一回の吐血もしていない。

 

 

「・・・一体なんだ・・・?もしかして・・・」

 

 

あの黒い靄が関係しているのか。

しかしいずれにせよ、今はそんなことを考える時間ではない。

何故ならもうすでに、オールマイトはあるものとの戦いが始まっているのだから。

 

焼き終わった食パンにジャムをひと塗り。

それを口に咥えると、荷物を持って外に出た。

 

 

 

 

「いっけなーい!遅刻遅刻!!」

 

 

 

 

いつものトゥルーフォームであれば絶対に出さない全力疾走。

スピードはあまり出てはいないが、その声からもその足取りからも、本人が喜々としているのが近くを通った民間人にも伝わった。

 

はたしてこれは奇跡か。

はたまたこれは天命か。

 

いずれにせよ、その正体を知るのはもっと先のことになるのだった。

 

 

 

 




ブルーマン二号

愛媛のヒーロー。
父がブルーマンという名前でヒーロー活動を行っていたため、その思いを継ぐためにヒーローとなった。
今後登場予定なし。(予定)


スッキリマイト

代償製薬の睡眠導入剤。
なお売れ筋はイマイチ。

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