色々(ウマ娘、APEX、ホロウナイト、プリコネ、エルデンリング、別作品、その他仕事絡み等々)により四か月近く待たせました。
目を覚ますと、眩しい光がカーテンの隙間から見えていた。
清々しい朝を迎えられ心地いい気分になる。
元々早起きするタイプでは無かった。
というよりも、若い頃はヒーロー活動を最優先にしていたために、睡眠を自ら取ろうとすること自体が少なかったからだ。
その結果ナイトアイに諭されたり、ヴィランとの戦闘中にうたた寝してしまったりしたわけだが。
「この年齢になって、早寝早起きの大切さに気付くなんてね。もっと若い頃に学んでおくべきだったよ」
まるで別の誰かにも諭すように。
大きい独り言を八木はぼやいた。
さて、現実逃避もそれまでにしようか。
それまで見ようとしていなかった部屋の中の
「・・・ヴェノム。私が寝ている間に、一体どれだけのチョコを食べたんだ?」
テーブルに積まれた銀紙の山。
床に落ちたチョコの破片。
そして今もなおベッドの上で繰り広げられる、板チョコの殺戮ショー。
『あるだけ全部ダ。現在進行形でナ』
「全部って・・・まさか冷蔵庫のヤツも食べたのか?」
『YES。オマエが食ってもイイって言ったからヨ』
「あくまで限度ってものがあるんじゃないのかな・・・」
『オマエが言ったんダロ?
それを言われると、どうにも反論できなくなる。
というか、
とはいえ、言ったものは仕方ない。
「・・・あとで歯を磨きなよ?」
それだけ言うと、ため息交じりに床の掃除を始めた。
ヴェノム。又の名をシンビオート。
彼が一体いつから体の中に潜んでいるのか。
彼がどうして体の中にいるのか。
そして───彼は一体何の目的でオールマイトの体に住み続けているのか。
曰く知らない。
曰く分からない。
曰く今は教えない。
分からないことだらけだが、それでもこの一ヵ月間同じ屋根の下───というより同じ体で過ごして、たった一つだけ分かったことがある。
それは、ヴェノムは思ったよりも良い奴だということだ
◇■◇■◇
いつもの海浜公園に集まったオールマイトと緑谷。
どちらも似たような柄のジャージを着ている。
「おはようございます、オールマイト!」
「おはよう緑谷少年!」
『相変わラズ暑苦しイナこいツハ』
「・・・・・・」
「?どうかしたんですか?」
「ああ、いや?ただぼーっとしていただけだ。気にすることはない」
ヴェノムの言葉は脳内に直接話しているかのように、周りの者に聞こえることはない。
しかし逆にオールマイトの心の声をヴェノムは聞くことが出来ないため、傍から見るとイマジナリーフレンドと会話する可哀そうな人にしか見えなくなる。
故にヴェノムの言葉には反応しない方がいいのだが、如何せんその感覚に慣れることが出来ない。
コメンテーターとしての癖なのだろうか。
「そうですか・・・?」
『俺ノ言葉はこのガキには伝わらネエって何度言えば分かる』
「そりゃ慣れないからさ・・・」
「??」
(ヴェノムのことを緑谷少年に話すわけにもいかないしなあ・・・)
話してもヴェノムのことを言いふらすようなことはしないとは思うが。
しかし念には念を入れるべきだ。
もしヴェノムのことが世間にバレたらどうなるか。
(『悲報!NO.1ヒーローはヴィランだった!!』みたいなニュースが流れるのかも・・・)
思わず身が震えてしまう。
まさしく考えただけでも末恐ろしい光景だ。
(それだけは絶対避けたい・・・おっと)
目の前で?を浮かべている緑谷をすっぽかしていることを思い出し、わざとらしい咳を交えつつ話を戻す。
「さて、今日のトレーニングだが・・・そろそろ夏休みも終わりだしね。今日明日ぐらいで海は止めにしようか!」
「分かりました。・・・時々本当に死にかけるので海はこれで最後にしたいですね」
「その度に私が助けたじゃないか!」
「だ、だからなんというか・・・オールマイトのお手を煩わせているような気がして・・・」
「いやいや!弟子の面倒を見るのも師匠の務めだよ!」
「オールマイトが師匠・・・」
顔を茹でだこのように赤らめる緑谷。
もはや見慣れた光景なのだが。いい加減緑谷も慣れたらどうなのだろうか。
(それに来年には師匠から先生に代わるんだけど)
このまま行くと入学時に幸福度の限界突破で死ぬ気がするのだが。
「話を戻すとして。それより緑谷少年。最近調子はどうだい?」
「調子、ですか?」
「ああ。夏休み明けはすぐテストなんだろう?」
「・・・多分、大丈夫です」
すると何故か、ソッポを向いて頬を掻き出した。
どことなくいつもの緑谷とは異なる感じがするのだが、それよりも訳を聞くのが優先だろう。
「多分?」
「もちろん復習はしてますし、模擬用のテストプリントでは96点は取れたんですけど・・・」
「え?かなりの高得点じゃないか」
『どこゾのヒーローとは違うナ』
ヴェノムの言葉が心を抉ってくるが、なんとか致命傷で持ちこたえる。
(というか反応なんてしたらどう説明すればいいのやら・・・)
さっき反応してた時点で随分アウトな気もするが。
「・・・やっぱり気にしなくていいです。・・・それよりも!特訓を始めてもいいですか!」
「え?・・・うん!始めちゃってもいいよ!」
一瞬戸惑いと疑惑の念が浮かびはしたものの、本人がやりたいと言う以上は本人の意思を優先させたほうがいいだろう。
「・・・あ!その前に緑谷少年に伝えておきたいことが・・・」
「へ?なんですか?」
「今日もその・・・一時間後に・・・ね?雄英にね?」
「・・・あ、分かりました!」
なんとなく悟った顔になる緑谷と、なんとなく気まずくなるオールマイト。
しかし、本日限りは単にテストを受けに行くわけでは無い。
(彼のことも話さなくてはならない・・・正直根津さんはもうどことなく勘付いてそうだけど)
あれから一ヵ月間会っていないとはいえ、根津であればなんらかの情報網を辿って勘付きそうな予感はする。というか少なくともオールマイトに何かしらがあったかは確実に知っているだろう。
(・・・とりあえず今は勉強だな。話すならせめて受かってから話したいし)
しかし受かる気が全くしないオールマイトであった。
◇
「やあ!一ヵ月ぶりかな?」
「そうですね。丁度・・・ではないですけど」
『正確にハ二十八日振リ。一ヵ月はまだ経ってねえナ』
一ヵ月近く経っているというのに、相変わらずこの待合室の中は座り心地が悪い。
それもこれもすべて、テストが悪いのだ。
勉強なんざ滅んじまえ。とヒーローらしからぬことを考えた後に、すぐさまその意識を一蹴する。
「勉強はちゃんとしてきたかい?」
「それなりには」
「それなりって・・・せめて胸張って言える程度には勉強しなよ」
「そもそもココのテスト、問題的に勉強しても無意味なレベルだもん」
ちなみにテスト自体の難易度を一般の方にも分かりやすく伝えると、最初の方は教科書とかに乗っている程度の難易度だが、最後の方に向かうにつれて応用やらを効かせなければならなくなり、最終的には自動車学校のテストを二十倍に詰めてそこにクイズ王を三人程混ぜ、三回ぐらい再翻訳したものが100問並んでいる感じのテスト内容である。
解ける解けない以前に、まずそもそも文章を理解する方がムズいのだ。
「・・・一応ちゃんと教科書を丸暗記するレベルで勉強すれば400点は取れると思うんだけどね」
「それでも400点!?」
「まあまあ、それは人に誤差があるし」
「誤差の範疇で済ませられるレベルじゃない気が・・・」
談笑は暫く続き。
会話がひと区切りついたところで、じゃあそろそろと根津が切り出してきた。
「さっさと始めちゃおっか」
「あ、分かりました・・・」
「・・・というか今の会話で大分忘れたでしょ」
「・・・・・・」
「図星だね。・・・まあダメだったらまた受ければいいし。はいはいスタートスタート!」
「ええ・・・」
なんとも唐突にテストが始まった。
『いいカ?俺は
「正直乗り気じゃなかったけど・・・やるしかないか・・・」
根津には聞こえないように。感じ取られないように。
八木は深い罪悪感を纏った溜息を吐いた。
「・・・?」
五十問ほど進んだ頃、根津はカメラ越しに違和感を覚える。
それは他の者には絶対に気づけないような、いや機械ですら気付けないほどの小さな違和感。
「・・・何かをカンニングしている様子はない。顔の表情や手の脈からして、あらかじめ答えを知っていたというわけでもないらしい。・・・だがなんだ?この違和感は・・・」
それは違和感というには、あまりに感覚的すぎる領域。
機械には当然気付けないし、他の者にはまず違いすらも理解できない域の話である。
そもそもだが、根津は十日程前から八木の動きになんとなくの違和感は抱いていた。
ヒーロー活動を傍らから見たときや、テレビでの出演をちらりと見た時。
そのすべてに、まるでこれまでのオールマイトとは少々異なる謎の違和感を持っていた。
「まるで
時々目線が泳いだり、時々体が揺らいだり。
それ自体にはなんら不思議な点はないのに、それなのに燻る様に違和感を感じてしまう。
「・・・まあ、あとで聞けばいいかな。それに答えを
最後の問題を解いた後、八木の額にはべっちょりと滴るような汗が噴き出ていた。
「緊張した?」
「そりゃあしましたよ・・・はあ・・・」
持ってきたタオルで額を拭いながら、銀紙に包まれた板チョコを頬張る。
バリバリと口の中で砕けていく感覚がどことなく気持ちいい。
『俺にも食わせロ』
「後でね。今は根津さんがいるから・・・」
『ッチ!』
強い舌打ちが脳内に響く中、口の中ではチョコを嚙み砕く音が響く。
心なしかヴェノムに知性・・・というより記憶力で負けた分のプライドが若干修復された気がする。
それからしばらくして、根津の声がまた待合室内に響いた。
「・・・採点終わったけど・・・凄いね、500点満点中500点なんて」
「そう・・・ですか」
思いっきり背もたれに全体重を乗せながら、天井に視線を動かす。
やり遂げたという達成感と、やはり自分の力ではどうにもできなかったのだという無力感に苛まれながら見る天井は、あまりにも遠く感じた。
「・・・さて、合格したから諸々の手続きとか・・・って言っても八木くんはやる前から合格決まってたようなものだしぶっちゃけやることは少ないんだけどさ。その前に聞いておきたいことがあるんだ」
やはりきたか。
八木は拳を握りしめ、フウと深呼吸をする。
先程とは違う緊張感を味わいながら、真剣な面持ちで真正面に目線を向けた。
どんなことを聞かれても動じず、ありのままを伝えようと───。
「・・・君、もしかして体の中に何か他の生き物でも住んでる?」
「・・・そこまで気づいてたんだ・・・」
『スゲエなコイツ』
身構えていたからか驚きこそ少なかったものの、やはり根津の洞察力?知識力?は凄まじい。
直接会ったのは今日だけだというのに、ここまでの推理を進めることができるとは、八木であれば気づくことはおろか違和感さえ抱かないだろうというのに。
「なんとなくね。テストの最中の素振り的にそう感じただけで」
「そうですか・・・じゃあもう、ここからは何も包み隠さず答えます」
それから根津に、ヴェノムに関することをすべて話した。
当然自分だけでは説明できない範囲もあるので、そこらへんはヴェノムが外に出て説明をした。
最初は根津もヴィランかと警戒していたものの、途中からは警戒心も薄れたようでフランクに話を進めていた。
「───なるほど。今現状は、ヴェノムにもわからないことが多いのか」
『ソウだ。・・・その中には俺ガ話したくナイことも紛れてルがナ』
「うん、それはなんとなく分かってるけど。・・・うーん、これからヴェノムのことどうしようか」
「それは・・・一体どういう?」
「恩人・・・人?なんでしょ八木くんにとってヴェノムはさ。でも、これから先のヒーロー活動とかで絶対支障でるよそれ。それならどこかで隔離するなりした方がさ」
『それハ俺が断ル』
「君の拒否権を尊重したいところではあるけど、生憎これは個人の意見が押し通られるほど簡単な問題じゃないんだよ。平和の象徴たるオールマイトの、日本のヒーロー社会を左右する問題なんだ。もし君の存在がメディアに知られれば、民衆に知られれば、そして敵に知られれば。間違いなく日本の秩序は崩壊する」
ヴェノムの性格上悪事は率先して起こすような柄ではないとこの場の二人は分かってこそいるものの、見た目の凶悪さはそこらの
そんなヴェノムがもしオールマイトの体に寄生しているとバレればどうなるか。
まずメディア・民衆はオールマイトに対する信頼を失う。
そして次に、ヒーロー全体の印象を悪くさせる。
そして更に、一部の
そしてその大徒党の中心に居座るのは当然AFO。
全盛期の力を取り戻しつつあるオールマイトの力を使えばワンチャンどうにかなりそうなラインナップではあるものの、しかしこれでは誰も望まない凄惨な結果が待っている。
それだけは絶対に防がなけばならない。
「八木くん。これは君一人に背負える話ではないと重々承知している。でも、それでも判断しなけばならない」
「君は。オールマイトは、どちらを選ぶんだい?」
尚、脳内設計図ではあと一・二話でオールマイトサイドから緑谷&雄英サイドに移ろうと思ってます。