街中を駆ける敵は、オールマイトを見るなりその速度を上げた。
『オールマイトだと?チッ』
すると路地裏へと駆け込んでいく。
あそこは確か、行き止まりだったはずだ。
「万事休すだな!HAHA!!」
ポーズを取りながら、確信をもって行き止まりへと参上すると、そこには誰もいなかった。
「ワッツ!?」
見ればマンホールの小さな穴から、緑の液体が垂れていた。
おそらくあの穴に入って逃げたのだろう。
マンホールをガバッと開けると、そのまま中に降りる。
周囲に目を向ければ、地面に液体が伝った跡が残っていた。
「あっちか・・・!!」
後を全力疾走で追いかけながら、視界に入る道のりを静岡の地図と重ね合わせながら頭に叩き込んでいく。
どこを通ればどこに出るのか。
今は丁度どこら辺にいるのか。
思考を休めることなく下水道を走っていると、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
「急がなくては・・・!」
マンホールの蓋を拳で押しのけると、縮れた髪の少年が件の
「もう大丈夫だ少年!!
私が来たッ!!!!」
しかし少年の眼はぐるりと白目を剥いており、マトモな意識が宿っているようには見えなかった。
(おっと、決め台詞なんか決めてる場合じゃないな!)
拳を引き絞り、少々強めに力を籠める。
拳は
捕縛されていた少年は身体を支えていた柱が消え、そのまま仰向けになるように倒れた。
「気絶してしまったか。もっと早く来るべきだった」
反省をしつつ、取り敢えずビニール袋からコカコ・オレを二本取り出すと、それを唐突に飲み始める。
炭酸が喉に直撃し、思った以上の刺激が走るが、構わずそのまま両方とも飲み干した。
「
空になったペットボトルを器用に使って
サインを書き終えノートを閉じると、ふとそのノートに疑問を抱いた。
(随分と汚れているが・・・ヒーロー分析?なるほど、この少年はヒーローを目指しているのか!)
若くていいじゃないか!と思う反面、今この気絶している姿を見て少々残念にも思ってしまう。
「おっと、いけないいけない」
気絶している少年をそのまま傍観してしまっていたことに気付き、
「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」
しかしまだ目覚めない。
「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」
すると白く染まっていた目が数回瞬きを繰り返し、瞳孔が映り始めた。
「ヘイ!ヘッ・・・あ!良かったァーー!」
少年の眼がオールマイトの顔面を凝視する。
その直後、
「トぁあああァァ!?!?!?」
悲鳴なのか驚嘆なのかよく分からない叫び声を発する。
そのまま後ろにバックしながらも、しかしその眼には羨望の眼差しが込められていた。
「元気そうで何よりだ!」
「オ、オオオールル・・・」
「HAHA!いやぁ悪かった!!
本当は誠心誠意キッチリと謝った方がいいのだろうが、彼の様子を見るに
「しかし、君のおかげでこの通り!!無事詰められた!!!ありがとう少年!!」
ペットボトルをBAAAAという効果音と共に見せつける。
中の
「じゃあ私は
「え!?そんなもう!?まだ・・・」
ヴィランが意識を戻して、ペットボトルから逃げる可能性もあるので、速めに届けた方がいいだろうし、それに今日はあくまで非番。
早めに家に帰って、明日に備えた方がいいだろう。
「ヒーローは常に敵か時間との戦いさ。それでは今後とも・・・」
足に力を籠め、しかし地面を割らないように加減をしつつ──。
空へ跳──。
「あばばばばばばばばばばば!?!?!?」
「ってコラコラーー!!」
足には少年がしがみついていた。
風圧で顔がとんでもないことになっているが、しかししがみつく腕力だけはいっちょ前だった。
なぜそこまで必死になるのだろうか。
「だって、今放すと、し、し、死んじゃう!!!」
「確かに!!」
「僕・・・あなたに直接っ!色々聞きたいこ・・・とがァあ!?」
「オーケーオーケー!分かったから口を閉じな!」
振り落とそうとしていた足を止めて、両足で少年の腕を挟む。
近くのビルに目星を付けると、空中で方向転換した。
そのまま
「階下の人に話せば下ろしてもらえるだろう」
「こ、怖っかっった・・・」
「それで?話というのはなんだい?」
フェンスに背もたれを乗せながら、少年の瞳を見つめる。
そもそも今日は休みのつもりだったし、マッスルフォームをこのまま維持しても解けることはなさそうなので、この少年の話を聞いてあげようと思ったのからだ。
(・・・・・・アレ?今頃だけど、なんでマッスルフォームがまだ維持できるんだ?)
思えば、それは今日より以前からの話だった。
一日目は三時間程。
二日目は三時間二十分。
三日目は三時間五十分。
そして四日目は四時間三十分。
コレはマッスルフォームを維持した時間だ。
通常であれば、一日目の時点ですでに限界に近付いているはずなのだが。
(流石に昨日は吐血した・・・いやよく考えれば、なんで昨日までずっと吐血することがなかったんだ?)
普通の人からしてみれば吐血する方が珍しいのだが。
しかしオールマイトはむしろ、吐血しない自分に恐怖していた。
この姿にとって、吐血とは切っても切れないものだったはず。
なのにあの日から急に吐血をしなくなり、したと思ったらオーバーワークをしたときに吐いた、そのたった一回だけ。
これまでは身体の調子がいい、としか考えていなかったのに、段々と不安な気持ちでいっぱいになってくる。
これが例えば、『奇跡が起きて内臓や後遺症が全て完治した』とかなら、まだそこまで怖がることはないだろう。
しかしこれがもし、『寿命が近づいて来たから』や、『
そうであれば、自分はこれからどうすればいいのだろうか。
その不安と恐怖が自分の身に絡みついてくるのだ。
(・・・久しぶりに
懐かしい顔を思い出し、ふと思い出に耽っていると、少年から怪訝な眼で見られた。
「あの、どうかしたんですか?」
「ム!?どうやらボーっとしてしまっていたようだ。それで何の話だったか・・・そう!君が話したかったことだったね!!」
わざとらしく咳をしつつ、今考えていたことを思考の隅に寄せておく。
少年は最初の内はもじもじして言葉を紡ぐことが出来ていなかったようだが、しかし意を決したのか口を開いた。
「個性が・・・ないのか。君は」
少年は恥ずかしがるように、つらつらと言葉を紡ぎ始める。
「僕は、個性がないせいで・・・そのせいだけじゃないかもしれないですけど、ずっと馬鹿にされてきて・・だからかわからないけど、人を助けるって滅茶苦茶カッコいいって思うんです」
「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる!あなたみたいな最高のヒーローに、僕もなれますか!!」
少年はまるで、オールマイトが自分を明るい未来に導いてくれると、そう信じているかのような
一点の曇りもないところは少年相応のモノだが、しかしだからこそ、少年に真実を告げるのが怖くなる。
だが、人が誤った道に行かないように補正するのもヒーローの仕事。
理想から現実に叩きつけるという非情な行為をいつか誰かがしなければ、いつか本当のことに気付き、それまで辿って来た道を振り返り、その時になってようやく深い絶望と挫折に苛まれてしまう。
その衝撃は人の人生観をも揺るがすほど。
ならばいっそ、ここで砕いておいた方が彼のためだ。
いと若き少年の夢を砕くのには少々気が引けるが、しかしここで折らなければ、ここで
「・・・はっきり言おう、少年。『
「・・・え?」
まさか否定的な言葉を言われるとは思っていなかったのだろう。
少年の顔が絶望色に染まっていく。
「個性もそうだが、それだけじゃない。悪に屈せぬ強き心や、正義の名を背負う重圧、またあらゆる状況場面に適応し、柔軟に対処する頭脳も必要なんだ」
つい最近の、ブルーマン二号のことを思い出す。
彼はお世辞にも強い個性とは言えない。が、その使い方や状況の判断能力、また悪に屈せぬその強き心こそが、彼がヒーローたる所以でもある。
この少年には『ヒーローになりたい』という熱い心はあるだろう。
しかしそれ以外がまるで足りていないように、オールマイトの瞳にはそう少年が映っていた。
「プロはいつだって命懸けだ。
オールマイトの鋭く真面目な瞳を見て、少年の顔がより暗く活気のないものへと変化していく。
「・・・決してヒーローを目指すな、とは言わないさ。ただ、夢を見るならそれ相応の現実も見ないと・・・ね」
少年の眼から光が失せた。
それを見てオールマイトの心を罪悪感が抉ると同時に、心の奥底でほっと安堵する。
これが正しかったのかは分からない。これが彼にとって本当に良かったことなのかも分からない。
(
しかしどちらにしろソレは、無個性である彼に残酷な世界を見せるだけでしかない。
「人を助ける事に憧れるなら警察官って手もある。「
励ましにはならないだろうが、せめて将来の筋道ぐらいは示してあげてもいいだろう。
オールマイトは足を曲げ、地面に視線を向ける少年から天へと向けた。
「では、さらばだ」
その場から逃げるように、オールマイトは空へ跳んだ。
デクのノート
オールマイトが読んだパターン。しかし特に原作で改変されるポイントは無し。
オールマイトからしてみれば「この少年はヒーローになりたんだな!」ぐらいしか思っていない。
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