あと今回短いです。
朝五時の海浜公園にて。
この場所は数年前までは朝の日出が美しい場所として、静岡の名所の一つとして数えられていたのだが、今ではその面影も無く、不法投棄と漂流物の山で形成されていた。
そんな海浜公園に、一人のマッチョがやって来た。
「・・・こりゃあ・・・思った以上だね」
腰に巻いた小さなバッグからスマホを取り出し、この海浜公園を調べる。
すると出てきた画像には、こんなゴミの山からは想像もできないような、美しい朝日に彩られた写真が。
その写真の中心には二人の男女が手を組んでおり、朝日とは別に、顔にほのかな赤みが差している。
対して目の前に広がるのは、足の置き場も無いほどに埋め尽くされたゴミの山。
人の気配は勿論、他に生き物がいる様子もない。
「・・・早めに来てしまったし、それに緑谷少年にコレを全て任せるとなると、とてもじゃないが十か月以内には無理だろうし!」
膝を曲げ、手をワキワキと動かし、眼前のゴミの山に鋭い目を向けた。
「ちょっとだけ頑張っちゃうぞ!」
◇■◇■◇
昨日買ったばかりのジャージに着替え、海浜公園に来た緑谷は、上がりたての太陽に向け目を細めた。
いや、もしかしたらその朝日の横で仁王立ちをするマッチョな男の後光に目を細めたのかもしれないが。
そのマッチョ──オールマイトは緑谷の姿に気付くなり、HAHAと笑った。
「時間ピッタシ、いや予定よりも五分早くに来たね!」
スマホを取り出し時間を確認しながら、偉いぞと褒めてくれる。
「いや・・・そんなこと・・・ないでしゅ」
緑谷にとってそれはあまりに過剰だったのか、顔が極限まで赤く染まり、ボッと煙を吐いた。
しかしそれよりも聞きたいことがあるのか、赤らめつつもそれまで地面に向いていた目線をオールマイトに向ける。
「それで、何をするんですか?」
「ム?事前に言っておいた通りトレーニングだが?」
「いや、トレーニングをするのは聞いていたんですけど・・・そもそもどうしてトレーニングをするのかがよく分からなくて・・・」
「と、言うと?」
「僕が言うのも
するとオールマイトはきょとんとした様子で、アレ?と素で呟いた。
「言ってなかったっけ?OFAはいわば、何人もの極まりし身体能力が一つに収束されたモノ!それを生半可な肉体で受け取ると・・・」
「受け取ると・・・?」
「四肢がもげ爆散してしまう」
「四肢が!?!?」
あまりに衝撃的過ぎて、ビビり散らかす緑谷。
その様子を笑いながら写メで撮っているオールマイト。
「だからまずは壊れないための
「なるほど!!・・・それでどうして海浜公園で?」
「・・・そういえば、メールではトレーニングについて具体的な説明をしていなかったね。こりゃ失礼!」
オールマイトは笑いながら、近くの冷蔵庫に体重を掛けた。
しかし想定以上の負荷がかかったのか、冷蔵庫はメコリという悲鳴を立てながら、オールマイトの体に沿って凹んだ。
「簡潔に言うと大掃除をするのさ!」
「大掃除?」
「そうだ!調べたところ、この沿岸は数年前からこの状況なんだって?」
「ハイ。たしか海流的なアレで漂流物が多くて、そこにつけ込んで不法投棄もまかり通ってて・・・。地元の人もあまり寄り付かないです」
「そうなの?初めて知った!」
すると冷蔵庫から一旦離れ、その上に手を置く。
「
しかしヒーローってのは本来奉仕活動!!そこがブレちゃあいけないのさ!!
そこで君に、ヒーローとしての基本を学んでもらおう!!」
メリメリと悲鳴を立てながら、縦に縮んでいく冷蔵庫。
オールマイトと同じ背丈だったはずが、既に首より下まで圧縮されていた。
「君の力で!!君の努力で!!
この区画一帯の水平線を蘇らせるッ!!!!!」
オールマイトが腰を落とすと共に、冷蔵庫の姿が消えた。
その風圧と共に、オールマイトの背後に眩しい地平線が広がる。
「それが君のヒーローへの、第一歩だ」
ゴクリと唾を飲み込み、緑谷は辺りに広がるゴミに目を向ける。
「第一歩・・・コレを全て・・・僕が全部!?」
「そうだ!この量なら十か月もあれば簡単さ!」
「簡単って・・・それはオールマイト基準だから言えることじゃ・・・」
「私ならこの区域一帯なんて、四時間もかからずに片づけることが出来るぜ!現に今君が立っている場所も、一時間前まではゴミの山が出来ていたんだ!」
「えぇ!?」
冗談に聞こえるが、しかしそれをいとも容易く行うところが、NO.1ヒーローたる所以でもある。
すご・・・と感嘆の息を漏らしていると、黒い影の奥に潜む鋭い眼が、緑谷に向いた。
「緑谷少年は雄英志望だろ?」
「はい!!雄英はオールマイトの出身校ですから・・・行くなら絶っっ対雄英だって思ってます!!」
「行動派オタクめ!くー!!」
オールマイトは腰のバッグに手を入れて、中からファイルを取り出す。
「しかし雄英はヒーロー科最難関!ましてや君のように"無個性"な君が願うだけで行けるような場所じゃない。つま「つまり入試当日まで残り十か月で、身体を完成させないといけない!!そういうことですね!!」・・・あ、うん。つまりそういうことだ!!」
そしてファイルからA4紙の束を取り出すと、それを緑谷に投げた。
クリップで止められているため空中で四散することはなく、そのままスッポリと緑谷の両手に収まった。
「これは・・・!」
「そこでソイツ!!・・・えーっと・・・
ペラペラとその紙を捲る。
その瞬間目に飛び込んできた、あまりのハードスケジュールに、思わずゲエと鳴いてしまう。
「寝る時間まで決められてる・・・凄いなんか・・・その、凄いですね」
「うん。私もそれ見た時顔を顰めちゃったもん」
「ですよね。・・・え?今なんて?」
「ナニモイッテナイヨ」
ゴッホンとわざとらしく咳をして、無理矢理話を戻す。
「見て分かる通り、超ハードねコレ。ついてこれるかな?」
すると、緑谷の両手がプルプルと震えだす。
もしや恐怖したのか、と顔色を窺うと、確かに強ばっていた。
「そりゃあ・・・もう・・・」
しかしその目には強い意志が宿っていた。
「他の人より何倍も頑張らないと僕はダメなんだ・・・!!」
覚悟の決まったその目を見て、オールマイトはウムと頷く。
「カッコいい横顔じゃないか。痺れるね!!」
すると早速、バッグから縄を取り出すと、それを近くのタンスに括り付けた。
「それじゃ!このタンスを運んで貰おうかな!?」
「あ・・・分かりました・・・」
早速そのカッコいい横顔は崩れ、絶望色に染まり上がった。
こうして地獄の十か月は、幕を開けた──!!
──しかしそれはオールマイトにとってもまた、地獄の十か月だった。
◇■◇■◇
休日が明け平日、つまり学校が始まった。
「お疲れ様でした~・・・ぁぁ」
朝の
「お疲れ!ちゃんと前見て歩きな!」
「ぁい~・・・」
緑谷を見送りながら、時計の針を見てみればもう七時。
「・・・フム。二日目にしては、まあまずまずじゃないかな?」
昨日とはなんら変わったようには見えないゴミの山。
しかし
「・・・さて!私も私で頑張らないとね!!」
バッグからコスチュームを取り出すと、それに着替えようとする。
するとその時。
『お手~軽に~睡ッ眠ッ!速~やかに~熟ッ睡ッ!スッキ~リ~マ~イトゥッ!HAHAッ!代償製薬ゥッ!!』
「ンン?」
バッグから電話の着信音が鳴る。
メロディーは勿論というべきか、スッキリマイトのCMの歌である。
スマホを取り出し、その画面を見た。
そしてオールマイトは──絶望した。
「オー・・・マイ・・・ガッ」
画面中央に映し出されたネズミのアイコン。
そしてそのネズミの上に掲げられた、雄英高校校章のマーク。
こんな自己主張の激しいアイコンを使う人間?など、この世に一
「根津さんからの電話かぁ・・・マジかぁ・・・」
この電話が意味するのはつまり、オールマイトの多忙な日々が始まったという意味でもあった。
ちなみに現時点でのオールマイトの変身持続時間は八時間です。
誤字報告ありがとうございます。一日で10件くらい来ました。なんだこの誤字数!?