語るに落ちる 作:徹夜は脳を刺激する
異なる環境に移動した際に必要なのは運であると考える。
転居した時お隣さんが良い人ならラッキー、迷惑な人ならアンラッキー。
そのお隣さんを事前に知れていたならまた新しい場所を探せるだろう。
そこで私の問題だ。私は異世界に転生した、種族は吸血鬼。
超絶ぷりちーな吸血鬼。私の住居を決めたのは上司となった、お偉いさん一家である異世界神群の一柱。
わざわざ異世界にまで来て眷属探しの旅に来て、怠惰と名付けた浮遊霊を連れ帰って、気に入った吸血鬼の女体に俺をシュート。
「いやしかし久しぶりの肉の器は随分と重たいな、これならば赤ん坊から産まれ直した方がまだ学習できた」
「黙りなさいエルジェ。私の好みの体にケチで着飾るのではありません。私の為に美しく有りなさい」
「……ふぅ。畏まりましたわ、ご主人様」
一人で立てないので吸血鬼に付属したコウモリの翼をパタパタとホバリング。そして滞空中に華麗にカーテシー。
何気に百年何年振りかの肉体は重心制御がキツイものがある。これに慣れるまで退屈だとか言ってられないな。
慣れなければ死ぬ、かもしれない。
マトモに立てない所か、翼でのホバリングすらギリギリである。右に左にと寄るのを何とか中心に抑えているのだから。お辞儀の際に一回転してサマーソルトキックでもしてやれば「あら、お転婆」と誤魔化せるのだが。
「それを誤魔化せると思うのはどうかと」
あ、やっぱり? ですよねー。
「口に出して会話をしなさい。怠惰です」
「畏まりましたわ」
◆
俺はスッカリ変わったのだと理解した。
そもそも死んで霊となった時間が長すぎて、死と言うモノに慣れすぎたのだな。
ご主人様曰く、定命の生物にとって死とは気が狂う程におぞましいモノであると教えられた。
俺、ああいや私だ。私。
私にとっては死んでからの時間が長すぎて、死後の寒さすら最早有って当たり前であったのだ。
そして幾ら魂が死に慣れても、肉体の生存本能が死を恐れるとも。ただそれも吸血鬼という太陽と銀、流水、聖なる気を纏った武器以外には圧倒的な不死を持った生物に生存本能が備わっているかどうかの問題だが。
……はぁ、着替えるか。肉体の制御が甘いのはイカンな。
ご主人様の性癖は中々によろしいもので、この吸血鬼の体つきは実に豊満で、出るとこは出ている。そして用意されたメイド服は体のラインが浮き出るクラシカルメイド服? という奴が揃えられていた。
ミニスカも許している所を見ると、どうもそういうシチュエーションが好きなんだろう。ま、私は受け入れるが。
霊となって百年以上も性欲と離れていたんだ、殆ど化石みたいなモノである。男だろうが女だろうが、今の私にとって拘りは無い。
ま、汗臭いのやらムサイのはあれだが。
最近の私の日課は殆どが筋トレ、ではなく日常生活に於ける自然な行動への適応が専らである。
後は痛みへの耐性だろうか。吸血鬼なんだからと再生能力を試す手前、腕をちょん切ってみた。そしたら痛いの何の、体の制御は振り切れて体中から様々なモノが溢れだした。
何と言う醜聞であるか。ご主人様なぞ、私のそんな姿は見たくないとばかりに直接頭を弄くって記憶を消した程だからな。
私はそれどころでは無かったが、まあ仕方ないだろう。私の醜聞を知っているのは私だけで良いのだ。
だがまあそのお陰様で私は吸血鬼の肉体を僅か一ヶ月にして早くも制御下に置くことに成功している。あと吸血鬼式筋トレも。
私は吸血鬼の肉体を暴走させた。
要するに私が暴走する機体に追い付けば良いのだ。脳のリミッターが外れ、動かす度に血管が千切れ、皮膚と筋肉は伸びすぎて弾け飛んだし、骨は力の込めすぎにより圧壊したが全て吸血鬼の再生能力によって再生しながら私がその力に慣れるまで動き続けた。
神様も私が早く理想的に動けた方が嬉しいだろう? と煽れば領域回復というゲームかよと突っ込む魔方陣を床に設置してくれた。
お陰様で私は無限に回復して体の弾ける痛みに慣れ、肉体を十全に動かせる事ができる様になった。
まあ常に100%所か脳のリミッターすらぶっちぎる、体をぶっ壊す1000%の力で動いていたのを何とか100%に抑え込んだだけ。
ぶっちゃけ過剰である。これをさらに自在に制御出来てこそである。
人間の真似をする怪物過ぎて泣けるね。物理的な痛み十割で。
「でもこの訓練法って痛みに慣れすぎたせいで命の価値すら下がるな」
何時でも捨てられるね! 生存本能さんが息をしてないの!
常に死が隣に合ったせいで生存本能さんが麻痺しちゃった。大変!
「ま、良いか」
◆
私は何とか肉体の制御を成し遂げた。一年も掛かるとは思わなかったが、まあ逆にだらだらやってたせいで一年掛かったんだが。
困った時は困った私が何とかしてくれるでしょう精神は大事。今楽するのも、
それに生きる最低限に必要な事はやったんだ。後はもう適当でいいでしょう。めんどくさいし。
それに嫌な予感も的中してしまったからな。わざわざ肉体自然制御を送らせたけど一年が限界だったな。
具体的に何が合ったかと言うと、教われた。と言うより喰われた。
物理的にではない。夜の話だ。下の、ね。ベッドの上でねっとりと。一年我慢したんだかまへんやろ? とエロ漫画のオッサンよろしくねちっこかった。
しかも俺は性的快楽初心者をヒーヒー言わすのが楽しいのか
体は開発されつくしたし、私も屈服した。どんだけこの体の女が好きだったんだとドン引きすらした。
それに恐るべき事がまだあった。
それは幽体離脱した事……ではなく、このエルジェと呼ばれる女吸血鬼の形に霊体が変質していた事だ。
仮死状態にあり、性の悦楽から逃げようとして幽体離脱し、エルジェの形になった私を見たご主人様はさらに興奮した。
反応の無くなった肉人形から、その肉から逃げ出した中身を見てニッコリ笑ったと思えば私を
お陰様で俺はスッカリ消え失せてご主人様でしか興奮しない体になってしまった。それは別にいいが正直千夜は拷問であった。
最後の方なんてマグロだったからな。それでも興奮を治めない姿は戦慄したが。
神なんてロクなもんじゃねーな、と思い知った日であった。
「そう言えばご主人様、私のフルネームは一体何なのでしょうか」
「……ああ、外出様に必要ね。エルジェなんて呼ばせる訳にも行かないし。エルジェの本名はエリザーベト・スキュア・エクサと言うのよ」
「成る程。……そう言えば私って怠惰の名前も貰っていたのですが」
「コードネームとかでいいんじゃない? 私が怠惰であった貴女を選んだのは転生魔際の漂白されかけていた魂であったからだし。一から教育するより、ある程度育っていた方が楽でもあったからね」
何というか改めてこの体への執着が半端無いと改めて知った。
流石に千夜も耐えきれる魂は居ないであろうよ。欲しいのは肉人形ではなく、反応ある
「愛と言うのは恐ろしいものです」
「因みにご主人様のお名前は何なのでしょうか?」
「私は神群の一柱、アヴァロニア・デザイアー。欲望と願望に依って形作られた神よ」
全ては自己満足。