ミッションの注意事項 作:場所は伏す
今から1番の『解放』を選択する。
俺はこの部屋を去るから、せめて『このノート』を置いていこうと思う。
本当は、『あの人』の形見のノートを置いていきたくはない。
けど、記憶の残らない俺がこのノートを持っていたところで、とてもノートの内容を真に受けるとは思えない。大切に扱うはずがない。
何も覚えていない俺がこのノートの内容を馬鹿にして、無造作に床に放り投げる……十分にありえることだ。そんなことをする未来の俺を殺してやる手段が、今の俺には無い。
だから、このノートは置いていくしか無いのだ。
真夜中のミッションの運営側によって、このノートが回収されないことを切に祈る。
最後にもう一度と思って、ノートを開く。
そこでハタと気がついた。
あの人は、他人に見せるつもりでこのノートを書いていたわけじゃなかった。走り書きだらけで内容は断片的だし、ところどころそのままでは意味が取れない箇所が存在する。
後から来る住人のために少し書き足してやる必要がありそうだ。
最低でも導入部分を書き足してやらないと、このノートの意義に気が付けないだろう。
……さて、どんな感じで書き出そう?
考えながら、俺は指を噛み切った。
◇
全部が終わったから、俺は今から1番を選んでこの部屋を去ろうと思う。
願わくば、もうこの部屋に次の住人が来ないことを。
……それは土台無理な話か。
来年の2月のカタスのことなら、ちゃんとわかっている。忘れちゃいない。
でも、さらさらそれに混ざろうとは思わない。
たとえ、抵抗するする術を失ったまま無様に死ぬハメになろうともだ。
けして魂が救われることの無いこの部屋の在り方を俺は許容できない。
だから、無責任に全部忘れて、来年の2月までのうのうと暮らそうと思う。
後のヤツのことは知らん。せめて、この記録だけをここに置いていこうと思う。
多分、興味が湧いてこれを手にとって読んでいる今のアンタには時間がない。
凄く重要なことを教えてやる。
アタッシュケースの中の黒いスーツを身に着けろ。急いだほうが良いぜ。
自分の分を他人のやつと間違えるなよ。俺のときは、それで何人か死んだらしい。
◇
「スーツは着たほうが良い。死にたくなければ」
「いいか、今から私たちが向かう先を自分がよく知っている佐賀だと思うな」
最初に部屋に出会ったときのあの人の言葉を俺はよく覚えている。
なぜならば、
「ああ。信用を得るつもりは無い。どうせ信用するからだ。でも今は時間がない」
「だから、
あの人の言葉を鼻でせせら笑った俺の腕をあの人がその場で
「これは命令です。この愚か者と同じようになりたくなければ、ケースをとってスーツを着なさい」
骨を砕かれた痛みに絶叫して転げ回る俺を見て、あの人の言葉に従わないやつはその場には一人もいなかった。
そっから、最初のミッションが始まって……。
実は、俺には最初のミッションの記憶がろくに残っていない。
腕をミンチ寸前にされるという大怪我を負った俺は
俺視点では「腕が折られたと思ったら、繋がっていた」。
間抜けなことに、内容をほとんどこれだけしか記憶できなかったのだ。
だけど。
「ごめんなさい……ごめん、なさい……でもこうするしかなかったの……」
ただ微かに、小さな声で謝る誰かの声と揺れる背中を憶えている。
……よくよく考えたら、俺はどうやって初回のミッションを生き残ったのだろう?
◇
初回のミッションを生還できたか?
できたならおめでとう。
もし、まだミッションが始まる前の時点でここまで読み進めているのなら、馬鹿なことしていないでさっさと装備を身に着けろ。マジで死ぬぞ。
ミッションはどうだった?
ちゃんと記憶が残っているのならだが、価値観がぶっ壊れたことだと思う。
建物に入ったら、死ぬ。曲がり角を曲がったら、死ぬ。
それぐらいの気安さで強制終了のフィールドに放り込まれたんだと思ってくれ。
理不尽だと思ったかもしれないが、
今おまえが経験したものの正体は、侵略エイリアンとの戦争だ。
おまえは運良く、そして運悪くミッションのある夜に死んだから、兵隊に選ばれてしまったんだ。
エリア外に逃走しようとして頭が破裂したやつとかいなかったか?
敵前逃亡は死刑なんだってさ。
◇
俺の初回参加のミッションでは、あの人と俺以外で3人が生き残った。
その次のミッション開始時に、新人が6人追加された。
そして、そのミッション終了時に部屋に帰ってきたのは俺とあの人だけだった。
生き死にのかかる戦場において、はっきり言って俺は足手まといでしかなかった。
◇
重要事項について順番が前後するが、以下の内容は訓練についてだ。
よく読み込んで実践しておくように。
俺はサボった。だから死にかけたし、余計に死なせた。
次のページから、日常生活における注意点について触れてある。
最後まで目を通しておけ。そうしないと死ぬぞ。