ミッションの注意事項   作:場所は伏す

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 ミッションが終わって家に帰るつもりだろうが、3つ気をつけなくちゃいけない事がある。

 

 1つ、誰にもこの部屋で体験したことを話してはいけない。

 2つ、黒いスーツはできれば持ち帰るな。

 3つ、合計で100点取るまでは、繰り返しこの部屋に呼ばれるぞ。

 

 以上だ。忘れるなよ、死ぬぞ。

 

 詳しくは、ノートの書き込みを参照してくれ。

 

 ◇

 

 俺が知る限り、あの人はスーツの()()()()()()()()()()()()

 

「はじめて参加したミッションの中で、無くしたんです」

 

 尋ねた俺に、あの人は淡々と答えた。

 

「銃の類は毎回ミッション開始前に補充されますが、スーツだけは違います」

 

 俺の腕を指差す。

 

「例えば、あなたの腕のようにボロボロに壊されても修理された状態で転送してくれますが」

 

 自分の上半身を指差す。

 

「完全に逸失した場合、スーツだけは代替品が用意されることはありません」

 

 自分の下半身を指差した。

 

「私はかれこれ、初回からのミッションを全て黒いスーツに関しては下半分だけで戦うことを強いられているわけです」

 

 そして、軽くこめかみをグリグリしながら、呆れ顔で俺に告げる。

 

「……だから1回くらい、スーツを忘れても生き残れるんじゃないですか?」

 

 3回目のミッション、俺は家にスーツを忘れて参加する羽目になった。

 訓練のために黒いスーツを持ち帰って、そのまま置いてきたのだ。

 

 やる気の完全な空回り。3回目のミッション中、俺はフィールドの隅でうずくまって震えていることしかできなかった。

 

 3回目までの俺の取得得点は、合計0点。

 黒い球体からミッション終了後の採点で3回連続罵倒されることになった。

 黒い球体を怒りにまかせて殴りつけた俺は……今思い返しても、無様だと思う。

 黒い球体はビクともしなかったが。

 

「叩くだけ無駄です。黒い球体、及びこの部屋の調度品には破壊行為で干渉することはできません」

 

 背後からあの人が語りかけてきた。

 

「悔しければ、次はスーツを忘れてこないことです。それだけの話ですよね?」

 

 あの人の正論がグサリと心に刺さったことを憶えている。

 

 その回では新人がまた生き残り、1人に至っては初回で7点取るという大戦果を挙げていた。

 

 だから、俺は余計にみじめだった。

 

 ◇

 

 解放される条件は100点を取ること。それだけだ。

 

 100点と引き換えられる内容、どれか1つ

 1 部屋に関わる記憶を消されてのミッションからの解放

 2 強力な新装備、範囲武器

 3 死んだメンバーの再生 復活のこと? 1回に1人だけ?どうして1人だけ?

 

 100点を取った際に、上の通りの選択肢が3つ提示される。

 悪いことは言わない。1番の解放を選んどけ。

 

 カタス待ちでも無い限り、2番を選ぶ意味はない。

 敵が初見殺しだらけなのに攻撃力あげてどうすんだよ。アホか。

 スーツの2着目寄越せ、2着目を。

 

 2番は論外だが、3番はどうあがいても地獄だぞ。

 繰り返すが、悪いことは言わない。1番選んどけ。死ぬぞ。

 

 ◇

 

 5回目のミッションの終了後、あの人は生き残りのメンバーを黒い球体の画面の前に集めて、()()を俺達に示した。

 

「100点メニューです」

 

 ことあるごとに、100点取れば自由になれると聞いてはいたが、それ以外にも選択肢があったことに驚愕した。

 

「結論から言えば、2番で手に入る武器は……とても使えるものではありませんでした」

 

 そのときに少しだけ、あの人は“過去のメンバー”について触れた。

 

「確かに、2番で手に入る武器は強力でした。でも」

 

 ―――絶対に、命と天秤にかけるほどのものではない。

 

「2番を選択したこの部屋の元住人は、武器を入手した次の回のミッションであっさり死にました」

 

「彼はこの部屋の住人たちのリーダーで、2番を選択した理由は、『仲間を見捨ててこの部屋から逃げたくないから』でした」

 

「勇敢で、高潔な人でした。ですが……馬鹿な人でした」

 

 いつも淡々と喋るあの人だが、そのときだけは少し言葉に感情が透けていたような気がする。それが、どんな感情なのかまではわからなかったが。

 

 もしかしたら、俺があの人に対して抱いているものと同じものだったかもしれない。

 

 ◇

 

 ここからは、発展的な内容だ。

 ぶっちゃけあまり役に立たないが、目を通しておけ。

 なめたら死ぬぞ。

 

 ◇

 

 6回目のミッション、俺は星人のボスと戦って死にかけた。

 

 その回のボスは人間に比べて少し大柄な程度で、膂力も人間離れしていたもののスーツのアシストがあれば十分に肉弾戦の土俵で戦える相手だった。

 

 だから、俺はそのボスと殴り合った。

 ただ夢中で殴った。そして殴られた。

 

 ボスの一撃は、周囲の建造物の壁を豆腐を抉るかのように破壊していた。

 だけど、スーツのシールド機構に守られた俺は、よろめきはしても意には介さなかった。

 

 ボスの岩のような体表が何箇所も弾け飛び、赤い肉が内側に見えていた。

 

 勝てる、このまま、勝って、帰れる。

 そう思った。

 

 ―――――キューーーンという音が、俺のクビの下辺りで鳴った。

 

 ◇

 

 黒いスーツのシールド機構には、耐久の上限が存在する。

 ダメージの蓄積次第で、身体能力の強化とともに失われるから注意しろ。

 ぶっちゃけ、ミッション中に一撃も喰らわないくらいで丁度いい。

 スーツを過信すると死ぬぞ。

 

 ◇

 

 黒いスーツと俺達が呼んでいる代物。ミッションにおける生命線とも言えるこの装備は、ラバーのような外見と触感からはわかりづらいが、高度な機械仕掛けだ。

 

 解体して仕組みを見ようとは夢にも思わなかったが、おそらくこれの中にはオーバーテクな極小機械がいたるところに埋め込まれているのだろう。

 

 ある程度想像に依るが、その内部ではモーターで液状の物質を循環・移動させて、装着者の闘志に応じて、必要な箇所に必要なだけの強化を施している。

 

 貧弱な俺をスーパーマンに変えてくれるこれには、しかし明確な弱点が存在した。

 早い話、消耗品なのだ。

 

 ◇

 

 もし、モーター音みたいな甲高い音がスーツから鳴ったら、すぐに目の前の敵から逃げろ。スーツの耐久が限界を迎えた合図だ。

 スーツの接続部分のメーターからドロっとしたやつが流れ出てきて、バフが全部消える。

 

 ああ、動きにくいからってスーツを脱ぐなよ。スーツは補充されないぞ。

 

 ◇

 

 一気に血の気が引いた。

 でも、動きは止めなかった。

 スーツが機能を停止する直前、最後のアクションで、俺はボスを投げ飛ばした。

 

 なんとしてでも距離を作って、ボスから逃げなければならなかった。

 

 投げるモーションの最中に、メーターから液体が流れ出てきた。

 イタチの最後っ屁で作り出した“猶予”は10mもあっただろうか?

 

 地面に転がされたボスが立ち上がって、こちらを睨んできた。

 俺は踵を返し、駆け出そうとして……足元の瓦礫につまずいて、思いっきり転んだ。

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