ミッションの注意事項   作:場所は伏す

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多分シリアス度でテストと日記を超えられない件について。
ノートへの追記部分は血文字なので、全部赤文字に修正しました。


3ページ目

 

 結局、その回で俺が死ぬことはなかった。

 

「この借りは、大きいっす。大きいっすよ」

 

 転んで逆さまになった俺の視界に映ったのは、首と胴体が泣き別れになったボス。

 そして。

 

「ま、俺は? 器がでかいんで? 飯一回でチャラにしますけどね」

 

 刀を軽く振って、刀身からボスの血を落とそうとする「あいつ」の姿だった。

 激しい動きで、()()()()が乱れたのだろう。

 バチバチと紫電を身に纏って「あいつ」は立っていた。

 

 部屋における、俺の後輩住人。

 あいつは、俺が情けない姿を晒した3回目のミッションにおいて、スーツを着る暇がなかったにもかかわらず7点を取ってみせた。

 

 そんなあいつに、何故か俺は懐かれていた。

 

 ◇

 

 ケースの中に、スーツ以外にも手に収まるくらいの大きさのモジュールが一緒に入っていたろ?

 それ、レーダーやエリアの範囲確認、ミッションの残り時間の表示とかの機能を持ったマルチツールだから、扱いを覚えとけ。

 いくつか操作方法に関してはこのノートに記述がある。死にたくなきゃ自分で探せ。

 

 最大の特徴として、敵味方から姿を隠す「周波数変動」という機能がそいつには備わっている。俺たちは、その機能を「ステルス」って呼んでた。

 ステルスは近接戦闘において、非常に有効だが、問題もある。

 全員でそいつを使うと、連携が非常に困難になる。

 当たり前の話だよな。お互いに姿が見えなくなるんだから。

 

 過去にはステルスを使って敵に接近している最中、それに気が付かなかった味方に敵とまとめて射たれて犠牲になったメンバーもいたらしい。

 同じ部屋の“仲間”ではあるが、統制の取れた“チーム”ではなかった当時の俺たちは、使うことを推奨していなかった。

 繰り返しになるが、部屋の装備を過信するな。死ぬぞ。

 

 ◇

 

 どこかそのあたりで、新人の誰かが「やった! 帰れる!」と叫んでいた。

 ミッション終了の転送が始まったのだろう。ボスが敵戦力の最後の一体だったらしい。

 

「銃を捨てて、足を止めての殴り合いとか……。先輩、自殺願望でもあるんすか?」

 

 あいつは、俺に手を差し伸べながらダメ出しをしてきた。

 あいつの手をとって立ち上がりながらも、俺は黙ってそっぽを向くことしかできなかった。

 

「感謝の言葉とか無いんすか? 何すか? 点数取られて拗ねてるんすか? 下手しなくても、今の俺は先輩の命の恩人すよ?」

 

 あいつのニヤニヤ顔が癇に障ったことを憶えている。

 俺が、「ありがとう、助かった」と言葉にするのに少しの時間を要した。

 今も昔も何の役にも立たないプライドを、その時は少しだけ理性が勝った。

 

 しかし、あいつはただ単に俺をからかいたかったわけではない。

 あいつは、俺に()()()いたのだ。

 

「先輩が庇った女の子が、先輩がこっちで戦っているって教えてくれたんすよ」

 

 あいつが指差した先、曲がり角の向こうから女の子が顔を出してこちらを覗いていた。

 今回初参加の女の子。俺は彼女がボスに追われているところに遭遇した。

 

 ことの経緯はこうだ。

 そのとき、俺はボスに銃を向けようとして……視界の端に、彼女が転ぶところが見えたのだ。考える余裕はなかった。咄嗟に、俺は銃を投げ捨ててボスに体当たりをかました。

 

 この部屋の銃は、威力は強大だが1つの足取り要素を抱えている。

 引き金を引いてからインパクトするまでのタイムラグが存在するのだ。

 

 そのまま引き金を引けば、ボスの点数は俺のものだったと思う。

 でも、ボスは斃れるまでに彼女の躰を紙のように引き裂いていたはずだ。

 

「ふむ。そういうことっすか。自分の命が一番大事なのに、先輩は馬鹿っすよね」

 

 放り投げられた俺の銃を見かけて、あいつはどういう状況だったのかを察したらしい。

 

()()()()()()震えているだけのくせに。でも、そんな馬鹿な先輩が嫌いじゃないっすよ」

 

 あいつは、そう言ってカラカラと笑った。

 

 ◇

 

 部屋の装備の話とは別に、俺からの忠告だ。

 他のやつを庇っては戦うな。

 

 ◇

 

 7回目のミッションの敵は、それまでの相手が可愛く思えるような難敵だった。

 戦えるメンバーの数は着実に増えていた。それでもダメだった。

 

 あいつはその回で死んだ。

 俺が前回庇った女の子も、ミッションの後に部屋に帰って来ることができなかった。

 

 俺は、ミッションの中盤で右腕の肘から先を吹き飛ばされて、必死に逃げ回っていた()()()

 転送システムのクソッタレな仕様のおかげで、俺は一緒に戦っていたはずのあいつの最期を覚えていてやることができなかった。

 

 採点の後、荒れて黒い球体に噛み付く俺を、あの人はその時は止めなかった。

 

 あの人も、限界だったのだと思う。

 ひどく憔悴した様子で、部屋の隅でうずくまって爪を噛んでいた。

 

 他人を助ける余裕なんかない。助けたとして、容赦なく無駄になる。

 そんな現実を俺は否応なしに理解させられた。

 

 ◇

 

 そして、運命の8回目のミッションが訪れる。

 

 ◇

 

 部屋の採点システムだが、“ドボン”があるから気をつけたほうがいいぞ。

 絶対にミッションを失敗するな。前回までの点数を全部没収されるぞ。

 

 俺も一回だけだが、その経験がある。俺は10点ちょっとだったが、そのとき一番点数を持っていたメンバーは、90点近くを全部持ってかれた。

 

 ミッションの参加回数がかさめば、その分死ぬリスクを負う回数も増える。

 

 そして、失敗した次の回には15点のペナルティがあるぞ。

 

 15点以上点を取った上で必ずクリアーしないと、強制で黒い玉に殺されるぞ。

 俺たちのときは、それで点数の奪い合いになった。

 

 ◇

 

 8回目のミッション、俺たちは、星人とではなく、部屋のメンバーで殺し合いをした。

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