ミッションの注意事項 作:場所は伏す
真夜中のミッションにおいて、最も重要なことは何か?
ミッションにプレイヤーとして参加している身からすれば、「生き残ること」がそれにあたるだろう。
だが、ミッションを
俺たちにとっては生き死にをかけた闘いであっても、主催者にとっては金のための見世物に過ぎない。
このミッションより後の話だが……「東京部屋のサイト管理人」にネット上でコンタクトを取った俺は、ミッションが人為的なものだということを知った。
真夜中のミッションには“悪趣味なギャンブル”としての面が存在する。
そのことを知っているのと知らないのとでは見えるものが大きく変わってくる。
何回かに一回の割合で、難易度がバカ高い敵にあてられることがあった。
おそらくそれは、「簡単に解放者を出すのは、見ている側がつまらないから」だ。
多分、ルール設定に関してもそうなのだろう。観客を盛り上げるために恣意的なルール設定がされていたのだ。エリア設定も、時間設定も、100点という区切りも全部そういうことの一環。そして、そのルールをわざわざ説明しないことも。
ふざけるなと思うが、
そして……8回目のミッションで、俺たちはそれらの中でも最悪のルールにぶちあたった。
ミッションに失敗した次の回の「15点取得強制のペナルティ」。
このルールのせいで、俺たちの点数の奪い合いは、命の奪い合いへと発展した。
真夜中のミッションのルールは、本来仲間で協力するようには作られていない。
◇
釘を刺しとくぞ。
戦わないで、1時間逃げ回るという選択肢だけは無い。
闘いから逃げるな。最悪はそれで避けられる。
◇
15点ペナについてノートに書いた後になって少し悩んだ。
この内容を馬鹿正直に書いていたら、このノートを手にとったヤツは部屋の情報を独占しようとするんじゃないか?
このルールを知ったせいで、「ミッションで自分が生き残るためには、いざというときに他のやつを踏みつけにする必要がある」と早々に肚をくくるかもしれない。
もしそうなれば、その決心を後押ししたのは……俺ということになる。
俺のこの書き込みは、ミッションに失敗した場合……もしかしたらその次の回は「最悪、自分が生き残るためには
結局、数分考えて俺はヤバい部分の上に血を擦りつけた。
◇
部屋に来ちまった奴らでこのノートをちゃんと情報共有しろ。
下手な隠しごとは不信を生む。命がかかっている場ではなおさらだ。
極限状況下では、殺し合いに発展してもおかしくない。
◇
8回目のミッション、戦場への転送が開始される直前に俺たちはパニックになりかけた。
前回生き残ったメンバーには15点以上取らなければ死のペナルティを課すという旨が、黒い球体の画面に示されたせいだ。
「あんたはこのルールを知っていたのか!?」
前回のミッションを生き残ったメンバーの1人があの人のことを糾弾した。
「知らない、私は……こん、なの」
黒い球体が俺たちに強制しようとする内容を前にして、只々狼狽えていた。
ほぼ間違いなく、あの人は本当にこのルールの存在を知らなかったのだ。
その時の俺はと言えば……焦りと諦めが半々という状態。
俺がそれまでのミッションで取った点数の合計より高い課題を前に、半ば思考がストップしてしまっていて……そのままでは生き残る目はなかったはずだ。
ああ、俺は今回で死ぬんだな。ぼんやりとそう考えていた。
「慌てるな! 冷静さを欠くのが一番不味い! 皆で協力して生き残るんだ!」
パンパンと手を叩く音。力強い声。1人のメンバーがそれで皆の注目を集めた。
3回目から生き残っていた、その時点では最年長のメンバーだった。
「これは……話し合う時間が必要だな」
そいつは皆を黙らせた後、黒い球体を振り返ってその言葉を発した。
「悪いのだが……今回は、
◇
黒い球体は、ミッション開始時に戦場に送り込むメンバーの順番だけはこちらの言うことを聞いてくれるみたいだ。
もしかしたらミッションの進行を阻害しない範囲で、他にも任意操作可能な点が存在するかもしれない。あとのは自分で探せ。
順番の操作だが、初心者に説明する時間が足りない際には
◇
装備のたぐいを一切持たせること無く、新人から転送が開始された。
「あなた、何を……!」
新人を切り捨てるとしか言いようのないその判断に、あの人が反発した。
それを最年長メンバーが切って捨てる。
「そんなことを言える立場かね?
「なっ……」
理不尽な決めつけにあの人が絶句した。
「責任を追求するのは全てが終わってからだが……今回は点数を公平に分配しなければならない。今回の裏切りは、我々の信頼ではなく命を奪いかねん。わかっているのか?」
「ちがっ……、わた、しは……」
あの人は弁が立つ方ではなかった。
加えて、7回目のミッション後の精神的動揺から立ち直れていなかったのだろう。
そこへの完全なる追い打ち。
「最悪、切り捨てなければいけないメンバーが出るときには、まずきみが犠牲になるのだ」
最年長メンバーが有無を言わせぬ口調でそう断じた。
口をパクパクしていたが、結局はうまく反論を言葉にできなかっただろう。あの人は助けを求めて視線を彷徨わせた。
……部屋のメンバーが視線をそらすたびに、あの人は絶望の色を濃くしていった。
最後に俺と目があった。このときの俺はまだ、腕の骨を砕いたあの人に対する苦手意識を引きずっていて……あのときの俺は死ねよ。マジで死ね。
「では、点数を分配する順番を決めるぞ」
項垂れるあの人を尻目に、部屋のメンバーたちが命の順位付けを始めた。