ミッションの注意事項 作:場所は伏す
戦場に転送されてほどなく、俺はさっきまでの話し合いが無駄になったことを悟った。
転送された先でひとところに固まった俺たちは、まずは状況確認のためにレーダーで敵の数を確認した。
レーダーを操作できたメンバーは全員、自分の目を疑ったはずだ。
敵の数が少なすぎたのだ。
経験者8人に対して、レーダーに映る敵の数はたったの4体。
この時点で最大でも前回のメンバーから生き残れるのは4人で確定。
ろくに点数にならない相手の場合は全滅もありえた。
安定を取るならそれこそ1体だって譲れない、のっぴきならない状況。
「一体は確実に私のものだ!? そうだろう!?」
最年長メンバーが言葉を発したのを皮切りに、それぞれのメンバーが好き勝手に自己の権利を主張しだした。
「俺に点数をくれ! 妻と娘が家で待っているんだ!」
「あんたは6番目だろ!? 諦めろよ!!」
「待ってくれ、さっきまでの合意だと俺のところにも回ってこない! あんな取り決め無効だよな!?」
前回からのメンバーが、貧乏くじを引くまいと必死に喚き立てる。
……ただ、あの人だけはその輪には混じらなかった。
◇
レーダーに表示される、赤い点がエーリアンの位置
黄色い点が、部屋のメンバーの位置
◇
「減ってる……」
怒号の間隙に、あの人の声が俺の耳に届いた。
……減ってる? 何が? そう思いながらあの人へと視線を移す。
あの人はレーダーを凝視していた。だから俺も同じようにレーダーを覗き込んだ。
そしてあの人が何を言いたいのかがわかった。
レーダーに映る、
俺たちから大分離れた位置で、新人たちが化け物たちに殺されている……?
「……死んでる。今、この瞬間も……助け、なきゃ」
あの人が小さく呟いたその言葉は多分、俺以外の耳には届いていなかった。
「なっ、おまえ! 待てっ!」
他のメンバーを無視して、あの人が駆け出した。
◇
どんな理屈なのかは不明だが、スーツの保護はスーツに覆われていない部分にも及ぶ。
むき出しの頭部を星人の腕力で殴られたとしても、スーツの耐久が抜かれない限りは問題にならない。
これはスーツを中途半端に着ていても同様で、上半分か下半分しか着ていなくても完全に装着した場合の半分程度の耐久が発生する。
◇
ギョーンという音が、周囲にこだました。
俺は何が起きたのか即座には理解できなかった。
すぅ、と、空気を吸う音。
最年長のメンバーが、唾液を撒き散らしながら一際大きく怒気を吐いた。
「やつは裏切り者だ!! 殺せ!!」
その手には引き金を引いた銃が握られていて……銃口が向く先にあるものを理解して、俺は「えっ?」となった。
撃ったのか?
この野郎、
◇
スーツの耐久は、部屋の銃で撃った場合、およそ4、5発分で抜かれてしまう。半身だけだと2発保てば良いほうだ。
どんなに間違えても、仲間にだけは銃口を向けるな。
◇
俺が混乱する間も、あの人は足を止めなかった。
メンバーの反応は様々だった。
悲鳴を上げたやつが1人。
オロオロするだけのやつ……俺。
残りは最年長メンバーに同調して銃を構えた。
「とんだ狐だ! 点数を独り占めして1人だけ生き残るつもりだったのだ! 殺せ!!」
怒鳴って、野郎はまた一発撃った。
少し遅れてあの人の足元の地面が爆発する。足を取られてあの人が少しよろけた。
そこでやっと俺は我に返った。
◇
これも俺の経験から忠告しておく。
ミッション中の判断は、先延ばしにしないで素早く正確に行え。
判断を誤ればおまえの命か、仲間の命が
◇
そこから先の選択を俺は致命的に間違えた。
あの人のつぶやきをたった1人聞いていた俺は、「違う」と説明しようと思った。
あの人はそんな人じゃない。撃つな。撃つなよ。
だけど俺が言葉で止めようとしていれば制止が間に合わず、恐慌状態だったメンバーの誰かがあの人を撃っていただろう。
俺は何とか銃撃を止めようとして、最年長メンバーにタックルをかました。
これが1個目の判断ミス。
「貴様、何のつもりだ!? 貴様も裏切り者か!?」
複数の銃口がこちらに向けられる。
そしてここで俺は、2個目にして最大の判断ミスを犯した。
銃口にビビって、
これが事態の火に油を注いでしまった。
◇
一応書いておく。部屋の装備がある横では喧嘩するなよ。
ときどき、「夫が台所の妻に怒鳴ったら、妻に刺された」「妻は、カッとなったので、手近な包丁に手を伸ばしていた」みたいな話を聞くだろ?
部屋の武器を使えば、
こんなこと書かなくてもいいような気はするんだが、実際、俺たちはやらかしたからな。
◇
もはや、あの人を追うどころの話じゃなかった。
「お、俺たちを全員殺す気だ!!」
違う、そんなつもりは俺には無い。
「殺らなきゃ殺られる!!」
だから、銃口をこっちに向けるな!! 怖いんだよ、怖いんだよそれ!!
そして、狙いがズレた先に居たのが、最年長のメンバーだった。
「貴様もかぁ!!」
もはや、その場にいる誰も冷静な判断を下せる状態じゃなかった。
最年長のメンバーが銃を向け返す。そして引き金を引いてしまった。
そこからどうなったのかを、あまり俺は思い出したくない。
◇
思ったより、「戦うのがうまい」だけじゃ、ミッションを生き残れない。
仲間を作る能力、信頼を得ること、協調性、そういったものが窮地でお前を救うかもしれない。
身を挺して庇う、ということとは違う。
一人であたれば勝てないボスには、二人で挑め、みたいな話だ。
このとき、
面倒くさいよな。ああ、
けど、そういう政治っぽいこともよく解決しとけ。
思ったより、
でも、あまりそれをしてしまったやつをあまり責めてやるな。
そもそも、
俺も