ミッションの注意事項 作:場所は伏す
作中で描写しろって話ですよね、はい。
忘れられるわけもないのだけれど。『彼』との、最後の会話をよく覚えている。
「いや、クリアーした次の回でこの難易度は鬼っしょ」
「あー……最悪だな。あれ、『おっぱい星人
「あれ、言ってなかったっけ? 星人名称がつかないミッションボスは、
「いや、おっぱい星人ってのは……ふざけてないって。いや、マジでそういう言葉があるんだよ」
「あー、もういいや。うん、じゃあ、今からはマジでマジ話だから。よく聞いて」
「俺があのボスに仕掛けたら、もうヨユーが無いから。いい?」
「俺のバッグの中にノートあるから。必要なことは全部それに書いてあるからさ」
「無くさないでね。『えのっちゃん』も、
「そんで、できたらさ……ううん、ごめん、何でもない」
「えのっちゃん、自分のときは……2番も3番も選んじゃだめだよ」
「俺、けっこう、えのっちゃんのこと好きだったよ。ぶっちゃけ下心あった」
「
◇
一見ふざけているようで……実際に、『彼』は、ふざけた人ではあったのだけれど。
「俺を殺すなら、おっぱいで、殺せ、ね」
「男の胸で、悪いな」
勇敢で、高潔な人でした。
彼は
「じゃあね、えのっちゃ―――
彼の最期の言葉を遮って、ズドン、という音が周囲に響きました。
2番の武器を使っての、ゼロ距離射撃。
彼はボスを自らの体で抑え、そのまま自らが巻き込まれることも厭わずにボスにとどめを刺したのでした。
エーリアンとの殺し合いの中でも飄々としてしていて、勇敢で、ときどきスケベで、人を惹きつけて、皆を支えて、よく冗談を言って、弱みを見せることなく、ときどき的はずれな事を言って皆を呆れさせて、けれども高潔な人でした。
だから。
『俺が死んでも、泣いたりしなくていいよ。馬鹿やったなって、笑い飛ばしてくれていい』
部屋に帰ったあと、そんな彼の言葉を私は裏切りました。
大声で泣いて、彼を返してと、黒い玉に向かって叫び続けました。
◇
それから数回のミッションを経て、『彼』のことを知る仲間は、死ぬか、1番を選んで。
「……ごめんね。私は先にあがらせてもらう」
謝りながら、仲間の最後の一人が『1番』を選んで解放されます。
とうとう、彼のことを知るのは私一人になってしまいました。
一人になったあと私は真剣に考えなければいけませんでした。
どうやって、部屋に来る新たなメンバーに「ミッションのことを信じさせればいいのか」を。
◇
私がミッションに参加した初めての回は、『彼』がリーダーとしてまとめたチームが機能していました。チーム全体が話を信じようとしない新人たちをカバーすることで、何とか新人たちは生き残ることができていたのでした。
私自身、『エーリアンとの殺し合い』なんて馬鹿げた説明を信じたわけではなく、目の前でそれを見せつけられて、人が死ぬところを見て、やっと自分が巻き込まれた状況を理解したのでした。
そして、彼がいなくなった後、新人たちが部屋に根付くことはありませんでした。
部屋の皆が、「結局は、彼に頼りっきりだったんだな」と思い知らされました。
◇
答えが出なくても、ミッションは待ってくれません。
ミッションに参加する経験者が私だけになった、最初の回。
私は、新しいメンバーたちに力づくでも言うことをきかせる必要がありました。
「スーツは着たほうがいい。死にたくなければ」
でも、まずは言葉を選んで。最低限知る必要のあることを。
新人の一人が、私の言葉を鼻で笑いました。
本当のことだから信じて、と叫びたいのをグッと堪えます。
だって、『彼』なら、そんなことしなかったから。
努めて冷静に。どうにか言葉を組み立てて行く必要があって。
「いいか、今から私たちが向かう先を自分が知っている佐賀だと思うな」
私の脅し文句に対し、新人たちが鼻白んだのがわかりました。
何のドッキリ? と誰かが発したのを皮切りに、好き勝手に文句を垂れ始める彼ら。
それに構わず、黒い球体が歌い始めます。
ミッション開始の転送まで、もう時間がなくて……。
そこでやっと私は肚をくくりました。
かれらを生き残りさせたければ、
「ああ。信用を得るつもりは無い。どうせ信用するからだ。でも今は時間がない」
信用を得る前後で、あなたたち、全員死んでしまっていてもおかしくないから。
それよりは、ずっとマシなはずだから。だから、お願い、許して。
「だから、
そう言いながら、私は最も近くにいた新人―――最初に私の言葉を笑った彼―――の腕を掴んで。そのまま、
……本当は、そこまでやるつもりはありませんでした。
でも、焦っていたんだと思います。パニックになって、力の込め方を間違えて。
軽く、叫ばせる程度のつもりだったのに。
勢い余って、私は彼の腕を握りつぶしてしまいました。
グローブを隔てての、骨を砕いたパキュッという軽い感触。
人を傷つけてしまったという嫌悪感。
二度と経験したくはありません。
私が自分がしでかしたことに呆然としている横で、やっと新人たちが黒い球体の中のアタッシュケースに手を付け始めました。
◇
それから、また、新人を死なせました。
私の言葉を笑った彼は、打って変わって私によくついてきてくれたと思います。
ステルスを使うのが上手な子がメンバーに加わって……どことなく、『彼』に似ているところがあって……こんな私をよく気にかけてくれて、だから、その子が死んでしまった回で、私の中で何かが折れたのだと思います。
私なりに、よく頑張ったほうだと思います。でも正直、少し疲れてしまいました。
「榎本さん、口下手なのに口調きついし、いろいろと誤解されやすいじゃないっすか」
「だから、せめて榎本さんの
「先輩、俺になんかあったときは榎本さんのことマジお願いしますね?」