三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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42話 分かりやすい性格

 毅には適当にその辺で待ってくれるよう頼み、播凰と辺莉はラウンジのガラス扉の前にまでやってきていた。

 その扉に手をかけようとした寸前、辺莉が思い出したように播凰を振り返る。

 

「あ、一応擁護しておくんだけど。叶先輩もアタシの面倒色々見てくれたこともあるし、そんなに悪い人じゃないんだよ」

「分かっている、別に私とてあの者にそこまで怒っているわけではない。口喧しいのはやはりうんざりするがな」

「あはは、まあ播凰にいの言う通り、頭が固くて口うるさいと思ったことはアタシもあるけどねー」

「うむ、他所でやってくれる分には構わんのだが」

 

 扉前にいながら、しかし中へは入らず二人がそんなことを話していれば。

 まだ手をかけていないというのに、ラウンジのガラス扉が内側から開いた。

 すぐそこに立っていたのは今まさに話題にしていた叶で。口元こそ笑っているものの、ピクピクと彼の表情筋は痙攣しており。

 

「――待っていたぞ、二津、それに三狭間。中にまで声が聞こえていたが、随分と楽しそうで何よりだ」

「うん? 楽しいと言われれば、そうかもしれぬ。なにせ、ようやっと試験が終わったのだからな!」

 

 彼の皮肉に、ゲッと表情を変える辺莉に対し。播凰は一瞬考えた後、大真面目に頷く。

 

「……んんっ! 取り敢えずよく来た、入って構わないぞ」

 

 最初こそ、両者の反応に目を瞋らせかけた叶であったが。

 意外にもそれ以上何も言うことをせず、踵を返してラウンジの中へと戻っていった。

 

「ありゃ、珍しい。案外気にしてるのかな?」

 

 その後ろ姿を見て、辺莉がぽしょりと零しながら扉を潜り。

 播凰もまた続いて室内へと足を踏み入れる。

 

 ここに入ったのは二回目であるが、今回は以前と比べて少しばかり賑やかさがあった。

 パッと視界に入るだけで少なくとも、両の指を合わせた数よりも多く人がいる。ここからは影となる部分に座ってもいるだろうから、見た以上に生徒はこの部屋の中にいるだろう。

 そして叶が向かっているラウンジの最奥にいたのは。

 

「やあ、三狭間君」

「ごきげんよう、三狭間さん」

 

 気さくに手を挙げる雲生塚と、ふわりと微笑む荒流満美に。

 

「……っ、こ、こんにちは」

 

 そわそわと落ち着かない様子で会釈をする麗火。

 前回の最後が最後であったからだろうか、その表情はどこかぎこちなく。

 

「うむ、久しいな」

「なんだそれは、ちゃんと挨拶をしろ。大体あれは数日前のことで、久し振りでもなんでもないだろう」

 

 彼らの声かけにまとめて鷹揚に返す播凰であったが、それに噛み付いてくるのは叶だ。どうやら、入り口で尚も言い募ろうとしなかったのは偶然だったのか、もう我慢ならなくなったのか。

 とはいえその指摘は正しく、確かにあれからは一月も経っておらず、久し振りというには期間が短すぎるといえる。

 ただ、播凰にも言い分はあり。

 

「何を言うか、勉強と学力試験とやらのせいで、私にとっては十分久方ぶりぞ! あれは実に長かった、まるで一日一日がいつもの何倍とあった気分だ……」

 

 時間の流れが一定であるのは言うまでもないが、嫌な事というのはどうにも遅く感じてしまうものである。

 播凰の場合は試験期間――というよりも勉強がそれにあたり。更に数日に渡って続いたものだから、二倍にも三倍にも長く感じられていたのであった。

 

 そんな播凰の嘆声に、またしても即座に口を開きかけた叶であったが。

 クスクス、と上品で不快さを感じさせない笑い声が、それを遮る。

 

「どうやら、お聞きしていた通りの御方のようですわね」

 

 気付いていなかったわけではないが、播凰に声をかけてきた三人以外に、そこにはもう一人。

 室内にあってこちらを見る視線を除いて、この場には生徒がいた。

 荒流満美の隣に在り、そして彼女に瓜二つな容姿の女生徒が。

 

「先日、お顔は拝見しておりましたが……はじめまして、三狭間播凰さん。わたくしはこの青龍の副部長を務めております、高等部三年、天戦科E組の荒流玲美と申しますわ。妹の満美さんから、貴方のお話は」

「ああ、あの時紫藤先生と共にいた者だな。聞いているようだが、私は三狭間播凰。一年の天戦科H組だ、よろしく頼む」

 

 以後お見知りおきを、と優雅に一礼する玲美。

 それに応じつつ、播凰はじっと彼女の顔に視線を送った後。隣の妹と比べるように、荒流姉妹の二人を見て。

 

「ふむ、あまりに似ていた故、影武者の類とも思ったが……姉妹か、とてもよく似ているな」

 

 至って真顔で、言い放つ。

 人間、姉妹であろうと必ず似ているわけではない。現に、ここにいない彼の弟妹――二人の妹は、別にそっくりというほどでもなかった。

 そのため眼前の彼女達のあまりに瓜二つな様に、何らかの理由で寄せているのではと考え。真っ先に影武者が思い浮かんでいたのである。ただ、影武者にしては本人と揃って公に姿を晒しているというのも違和感があるので、類と言ったわけだが。

 

「か、影武者……?」

「播凰にい、第一声がそれはちょっとないわー」

 

 とはいえ、そんな思考もこの場では少数派。

 いきなりの単語に、流石の叶も噛みつくよりもそれを反芻するのが精一杯のようで。辺莉も呆れを隠さずジト目。

 だが、そんな二人の反応を意にも介さず。

 

「そして初めて見たが故に、その髪型を愉快と思ったが。一人だけなら兎も角、二人してということは、私が知らぬだけで定まったものでもあるのだろう。いや、誠に世界というのは広いな」

 

 立て続けに暴言、というわけでもないが奇言に近いそれを連発。今再び、荒流満美――荒流姉妹の縦ロールを愉快な髪型と評し。二人もそうしているのだから、単に満美が独創的なのではなく、髪型一つさえこうも違いがあるのかと世界の広さに感心する。

 ただ、周囲からすれば、唐突に播凰が髪型一つでそんなことを言い出したわけだ。

 もっとも、一度直接言葉でかけられており、そしてこの会話の主役が自身でないためか。妹である満美は隣の玲美の様子を伺う余裕があり。

 

「……成程、満美さんが言葉を濁されたのはそういうことですの」

 

 その姉は姉で、冷静に播凰の言葉を受け止めたかと思えば。

 

「では、初めてご覧になられたとあればいかがでしょう、三狭間さん。貴方の目から見て、この髪はわたくし達に合っておりますか?」

「ああ、よく映えていると思うぞ。目立つは目立つだろうが、私は勿論のこと、辺莉がしても……うむ、恐らく似合わぬことだろうからな、はっはっは!」

「まあ、ありがとうございます」

 

 それが妹も含めて不自然さがないかを問い。

 笑みと共に返って来た言葉に、彼女もまた柔らかい微笑みを見せた。

 しかし、それに憤懣やるかたないのが、突如として巻き込まれた辺莉である。

 

「ちょっと播凰にい、言い方! そりゃ、アタシが似合わなそうなのは自分でも分かってるけど……ああもう、副部長さん! 愉快なんて言われてるんだから、失礼だってガツンと言ってやっちゃってもいいんですよっ!!」

 

 うがーっ! と気炎を吐く辺莉に、荒流玲美はまあまあと宥めるように。

 

「二津さん、貴女に似合う可愛らしい髪型が、わたくしには似合わないということだってありますのよ。ご興味がおありでしたら、次回のお茶の席にでも話題といたしましょう。青龍所属とはいえ、わたくし達も一人の女性ですから、きっと皆さん快くご協力していただけると思いますわ」

「う、うーん、考えておきまーす……」

 

 玲美のその提案に、辺莉は少し引け腰となり。

 

「それと、確かにこのわたくしの髪を愉快と評してくださった方は今までいらっしゃいませんでしたが――それもあの方にとっての賞賛なのでしょう。単に無礼なだけの方でしたら、ああも堂々とされていないでしょうから」

「……あんまし納得いってないですけど、副部長さんがそれでいいなら」

「流石、お姉様ですわ……」

 

 次いだ玲美のその言葉に、渋々といったように辺莉は引き下がって。

 それを見守っていた満美が、尊敬の念と共に呟いた。

 

「して、雑談も構わぬが、私に謝罪と話があると聞いた。人を待たせているのでな、手短に頼む」

「貴様がそれを言うか……」

 

 ある意味引っ掻き回した元凶だというのに、しれっとそんなことを言い出す播凰に呆れたように叶が突っ込む。

 しかし彼はすぐに仕切り直すように咳払いをして。

 

「……んんっ、僕も時間を置いて考えられたわけだが。疑わしい状況であったとはいえ、どうやら気が逸って色々と(・・・)迷惑をかけたらしい。それについて、僕から謝罪する」

「ははっ、お主らしく随分と持って回った言い回しよな。よい、その謝罪を受けよう」

 

 あの出来事のそもそもの発端は、播凰が辺莉を連れ回していると誤解したことから始まったこと。まあ、それは事実ではあるのだが、肝心なのは辺莉が善意でやったことである。播凰が無理に連れ回したり、邪な考えがあったわけでもない。

 叶の言う通り、戦いに発展したりとその後に色々とあったわけで、結果的に有耶無耶になっている気がしないでもないが、それを含めての謝罪ということなのだろう。

 

 ただ、素直なそれではなく、前置きというか修飾というか。回りくどいそれに、その性格を分かったように播凰が笑いつつも受ければ。

 少しだけイラっとしたように口の端が歪んだ叶であったが、大きく深呼吸をするようにしてそれをリセットし。

 

「そして、その礼……というわけでもないが。――三狭間播凰。僕がお前を特別にここ、青龍へと推薦したいと思う。つまり、勧誘の話だ」

「……ふむ、或いはと考えていた一つが当たったか。その誘い自体は嬉しく思うものの、悪いがその申し出は断らせてもらおう」




次話で一旦の区切り、そこまで連続投稿する予定でしたが、ちょっとだけ投稿が空きます。
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