三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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8話 異なる世界の因縁

 蓋を開けてみれば。

 天能を学ぶにしても、場所に拘らず他に選択肢があったのでは? と播凰が思い至ったのは、全てが終わった後でのことだった。

 

 明らかに天能が使える前提の試験。疑問を抱かない他の受験者達。

 もっとも、播凰は管理人に言われるがまま行動しただけで、そもそも試験があることすら聞いていなかったわけであるが。

 

 そうでなければ、天能を使えないと申告した時にあのような態度をとられるわけはない!

 

 と、そんなことを学園からの帰り道にて、毅に対して播凰は力説していた。

 

「そりゃそうっすよ。あそこは――東方天能第一学園は、全国でも屈指の名門校。しかもその高等部なんすから」

 

 だが、その話を一通り聞いた毅はといえば。

 この人は、何を今更そんなことを言っているのだろうと、いよいよ呆れを隠そうともせず、疲れたように播凰を見る。

 

 あの後、結局播凰は天能を披露することなく――というかできないのだが――実技試験を終えた。いや、終えたという表現が正しいかは微妙だが、とにかく終わったのだ。

 

 そしてそのまま帰ることなく、毅を待ちつつも脇に避けて試験を見ていたわけである。

 さて、何が飛び出すのかとまるでびっくり箱でも見るかのように、ワクワクとしていた播凰。仮にも彼等と同じ試験者という立場が抱く感情ではないが、それはさておき。

 結論から言えば、そのワクワクが裏切られることはなかった。

 

 天から降り注ぎ、的を焦がす電撃。

 的を上空へ勢いよく吹き飛ばす、明らかに自然のものではない突風。

 後は遠目でよく分からなかったが、試験官に何かをかけていたらしき受験者もいた。

 

 どれも播凰にとっては新鮮で見応えがあったのだが、特に興奮したのは、氷の龍が的を噛み砕いた時である。ちなみにそれを披露したのは、播凰に注意をした少女であった。

 詳しく聞いてみたいと播凰は思ったが、件の少女は自分の試験が終わると他の試験者同様にさっさとその場を去ってしまった。その間際、播凰のことを一瞥だけして。

 

 他の試験者が残っていることもあり、その時は毅もまだだったので、播凰は残らざるをえなかったのである。

 

「……ちなみに、天能を使えないっていうのは本当なんすよね?」

「うむ! 天能自体を知ったのが最近だからな」

「はー、播凰さんみたいな人もいるんすねー……」

 

 特に意味もなく自信満々に答える播凰。

 それを見た毅は、今までどういう生活を送ってきたのか、と突っ込みそうになるのを抑え、相槌を打つ。

 

「しかし流石、受験者のレベルが高かったっす。内部進学組(・・・・・)も、外部受験組(・・・・・)も、やっぱりできる人ばっかなんでしょうね。……まぁ覚悟はしていたっすけど」

 

 そして、試験の様子を思い返し、同時に今後のことを憂い、空笑いを浮かべた。

 

「気になっていたが、その内部やら外部とやらはなんなのだ?」

 

 毅の言葉を聞いた播凰は、ふとその中に引っ掛かるものがあり、質問をする。

 それは、絡んできた受験生の男や、縣と名乗った試験官の男が発していた単語だった。

 

「……東方天能第一学園には、中等部と高等部があるっす。で、高等部へ入学するための試験は共通なんすが、中等部からの進学希望組を内部、自分や播凰さんみたいに外からの入学希望組を外部って区別するんす」

 

 もはや播凰が何を知らぬとも一々驚くまい、と毅は簡潔に答えた。

 

「ふむ、そうだったのか。だが、毅の天能も悪くは無かったぞ! まるで投石機のようだったな!」

「いや、投石機って。……いつの時代の人っすか、播凰さんは」

 

 高らかに笑う播凰に、毅の表情が苦笑いに変わる。

 

 晩石毅の天能の性質は岩だ。とはいえ、巨大な岩を自在に操ることはできない。せいぜい頑張っても、少し大きめの石といった程度。

 実技試験では、播凰が投石機という単語を出したように、天放属性の天能として、石を発射。

 一応的には当たったものの、他の受験者ほど的に明確な損傷を与えていない。

 なにせ放ったのは巨大な岩石ではなく、多少大きい石だ。威力はどちらかといえば控えめともいえる。これで見栄えのいいものであればまだ評価の上がる希望は持てるだろうが、当然派手さなんてとんとない。

 

「一先ず、今日は色々な天能を見れて満足だ。私も早く、天能を使ってみたいぞ!」

「あはは……」

 

 最強荘に戻る足取りが軽い播凰と、一方でそんな彼に遅れまいとしつつも、足運びが重い毅。

 両者の今の心境が、如実に表れる形となっていた。

 だが、そんな両極端な二人の足は、同時に止まることとなる。

 

「――だから、その妙な呼び方を止めなさいとっ!!」

 

 それは、帰路について暫く。最強荘が見えてきたあたりでのことだった。

 不意に響く怒鳴り声。誰かと話しているのか、女性のものだ。

 

 播凰と毅は、思わず顔を見合わせる。

 それは、方向的に目的地――つまり最強荘の方から聞こえてきていた。

 

「……は、播凰さん、行くんですか?」

「うむ。ここで立ったままでもいられまいて」

 

 厄介事を予感して及び腰となった毅とは異なり、播凰は何やら思案するように首を傾げた後、その歩みを再開する。

 少し進んでみれば、目に入ってきたのは一組の男女の姿。恐らくは女の方が先の怒声の主で、内容までははっきりとは聞き取れないものの、男と話しているようであった。

 

 その場所はよりにもよって、最強荘の門の前。

 即ち、中へ入るには彼らのすぐ側に行かなければならない。

 

 そして。姿も隠さず不用意に近づけば、当然気付かれるわけで。

 

「――其方(そち)達、見ない顔であるな」

 

 男の方が、播凰達の姿を認めて、声をかけてくる。

 異様に背の高い男であった。人混みの中を歩いていても頭一つ飛び出て目立つであろうほどの身長だ。

 肌は異様に青白く、身長に対してやや痩せぎすな体型をしている。

 

「っ! んんっ、貴方は。どうも、数日ぶりです」

 

 そんな男に釣られてか、こちらを振り返ってくる褐色の肌の女性。

 彼女は、播凰の顔を見ると軽く頭を下げて挨拶をした。

 

「お主は……確か、四階の」

 

 その顔と、そして怒声ではない声を聞いて。播凰はその女性に見覚えがあることに気付く。

 彼女は、播凰がこの世界に来た日に零階の共有エリアで出会った人物――四柳ジュクーシャと名乗った女性であった。

 

「うむ、私がここに来た日以来だな。ところで、何やら大きな声が聞こえたが?」

 

 そうして、軽く挨拶を返した後。遠回しもなにもあったものではなく、ド直球で問う。

 播凰の斜め後ろにて身を縮こませていた毅が、信じられないものを見るような顔をしたが、気にも留めない。

 

「フハハハッ!! そら、言われておるぞ、ジュクジュク(・・・・・・)よ!」

「誰のせいですか! そっちが私をそんな風に呼ぶからでしょうっ!!」

 

 途端、高笑いを上げる男と、顔を真っ赤にしてそれに食って掛かるジュクーシャ。

 

 ――ジュクジュク?

 

 その珍妙とでもいうべき単語に、播凰は大きく首を傾げる。

 はてさて、会話の内容からすると、ジュクーシャを指しているように聞こえるが。

 

 そんな内心を察してか、男が播凰に少し近づいてきて、高笑いを響かせながらジュクーシャの方を向く。

 

「こやつの名は、ジュクーシャであろう? 加えて当人のこの、幼さ(・・)からかけ離れた身長に、容姿、年齢よ。正しく熟して熟した女、即ちジュクジュクと呼ぶに相応しいと余は確信しているが、どうか?」

「どうか、ではありません! それに、私はまだどうこう言われるほどの年齢ではありません!!」

 

 それを聞いた播凰は、男を見た後、ジュクーシャを一瞥し。

 

「……ふむぅ、まあユニークな呼び方とは思――」

 

 躊躇することなく、素直に感想を述べようとする。

 その言葉を聞くや否や、言い切らせてなるものか、と俊敏な動作でジュクーシャが播凰に急接近し、彼の肩を掴み。

 

「――やめてくださいね?」

「……う、うむ」

 

 ニッコリと、しかし威圧を与えるような彼女を前に、播凰は珍しく口を噤まされることとなる。

 そのやり取りに、更に高笑いを続ける男と、ブルブルと震える毅。

 そんな混沌としつつある場に、新たな乱入者が現れた。

 

「皆さんお揃いでー、楽しそうですねー」

 

 最強荘の門から姿を見せたのは、管理人。

 掃除でもしていたのか、或いはこれから始めるのか。手に竹箒を持ちながら、ぽわぽわとした笑顔を浮かべている。

 

「うおおおおおおっ!! 管理人たんっっ!!」

 

 それに態度を急変させたのは、高笑いをしていた男だ。何やら興奮したように、鼻息荒く管理人に突進していき、そしてあわや触れるか触れないかの距離で急停止。

 

 突如の男の大声と奇行にビクリと身を竦ませる毅に、目を丸くする播凰。

 だが、ジュクーシャはといえばその光景を前にしても驚きを露わにすることなく。

 

「……全く。異なる世界とはいえ、あのような者が我が宿敵(・・・・)と同じ存在(・・・・・)だとは」

 

 むしろ、苦虫を噛み潰したような顔でそれを見やっており。呟くように吐き出された言葉は、刺々しさを孕んでいた。

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