三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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46話 いざ、ショッピングモール

「ほほう、これが話に聞いた大型の商業施設とやらか! よもや、これほどのものとは……流石に想像の埒外であった!」

 

 圧迫感を露程も感じさせない、複数階に跨った広々とした吹き抜けの開けた空間。

 敷き詰められた汚れの無い白い床は多数の照明の光を反射させ、清潔さと同時に柔らかく明るい雰囲気を見る者に与え。空調による心地よい涼しい空気は、まるで辟易するほどの外の暑さを忘れさせる。

 

「広いな! そして活気もある!」

 

 そして行き来する人の多いこと、多いこと。

 家族連れに少年少女、年配から若年層の夫婦と多様な年代が探さずとも片っ端から目に入り。

 基本的には行き帰りにしか通ることがないであろう施設への入場口は、しかして人の流れが絶えることが殆どない。

 無論、その悉くが無口に徹して険しい顔つきをしている――などということもなく。雑談に笑い声と、いい意味でのざわざわとした喧噪は、活気と人気の高さを表している。

 

「おおっ! ……おおっ!? 見よ、見よ、二人共!! なんとまあ――」

 

 そんな空間、多少の喧しさ程度は目を瞑られるであろうそこで。三狭間播凰の声はよく通り、そして響く。

 きょろきょろと忙しなく動いていたその頭は、やがて一点を注視。まるで珍しいものを前にしたかのようなキラキラとした瞳、その指が示した先にあるは――。

 

「――階段が動いておるぞ、なんだあれはっ!? もしや、天能術かっ!?」

「……えっとぉ、いや、あれはただのエスカレーターっすね。天能とか関係なく、普通にそういう機械っす」

 

 そう、自動階段(エスカレーター)である。特別な造りをしているわけでもなく、長さもごく一般的の、毅が言ったようにただのエスカレーター。しかも一基だけでなく昇り降りで並んでおり、上階にあるもの含め複数ある。

 当然というべきか、それを見て播凰と同じような反応をする者は他に一人としていない。彼より幼い小児ですら、当たり前のように乗って移動している始末だ。

 

「なに、そうなのか? 動く階段などという珍妙なもの、初めて目にするぞ!」

「あはは、まあ俺も実物を見たのは地元から出てきてからっすし、それなりに大きい場所じゃないと無いってのはあるのかと。最強荘みたく、エレベーターだけあれば十分みたいなとこが多いと思うっす」

「エレベーター……ああ、あの乗っているだけで階を移動できるものだな!」

 

 毅が言ったように、最強荘にはエレベーターが設置され、そちらについては播凰は既に何度も経験済みである。

 では、形状こそ異なるものの乗っているだけで階を移動するという点では共通するエスカレーターに、播凰が大きく反応した理由。それはズバリ、その様子が見えるかどうかの違いだ。

 エレベーターというのは、使う際に箱の内側しか――即ち移動している様子というのが見えない。そのため播凰からすれば、移動している実感がないがいつの間にか到着している、という感覚だった。

 対して、エスカレーターは実際に階段が動いているのが一目瞭然。

 視覚的には、前者よりも後者の方がインパクトがあるというもの。

 

「ふむ、それにしても階段を動かすなど考えたこともなかった。なにせ、ただ登ればよいだけだ」

 

 加え、階段というもの自体は見知っていたというのもある。自分の知っているはずのものが、知らない状態で存在している。それは播凰に驚きと興奮をもたらすには十分だったのだ。

 

 と、そんな風に今なおエスカレーターに目が釘付けとなっている播凰の腕が。

 グイ! と。割かし強めに引かれた。

 

「ん?」

「おわっ!? っとっと……」

 

 播凰は単に注意が逸れてそちらに顔を向けただけだったが、同じことをされた毅は、態勢を思い切り崩し、たたらを踏んでいる。

 そんな二人の腕を掴む手を辿っていけば――そこには顔を真っ赤にさせてこちらを睨むように見ている辺莉の姿が。

 

「ちょっと播凰にい、そんなことで騒がないでよ! 晩石先輩も、なんで止めるどころかそっち側なの! 周り見てよもうっ、恥ずかしいったら!」

 

 顔を寄せ、小声ながら怒鳴るという器用なことをした彼女の言葉に、播凰がぐるりと首を回してみれば。

 

 びっくりしたような顔に、クスクスとした笑い。あからさまではないが、チラチラ見るような顔の動きも。

 それは設置された椅子で休む者から、壁際に寄って立ち話に興じる者から、移動のため追い越し或いはすれ違う者からと――まあ少なくない視線が、播凰達に向けられており。

 

「……あーっと、ずっと田舎暮らしだったもんで、そのぅ、こういう栄えてるとこを見ると未だに圧倒されちゃうといいますか。一応、何回かここには来てるんすけどね」

「ははは、許せ。動く階段もそうだが、複数集まっているとはいえただの商家と思えぬほど見事な建物であった故。学び舎である学園にも驚かされたが凄まじい建築技術よな。――ふむ、そう考えると確かにあの商店街とは大違い、人がこちらに流れるという話も頷ける」

 

 遅まきながらそれに気付いた毅は首を竦めて縮こまるが、播凰は播凰で謝意があるのかないのかに加え、真実とはいえ中々失礼なことを口走る。

 

「――ああもうっ! さっさと行くっ!」

 

 堪らず、辺莉は掴んだままの両者の腕を引っ張り、ずんずんと足早にエスカレーターへと向かう。

 まあ、有名人でも無しにただ突飛な発言で目立ったというだけだ。それが続くことなく、移動したとあれば、ほとんどの衆目はたちまちに霧散する。

 

 が、ただのエスカレータでこれだったのだ。ちょっとは驚くかもな、とこれまでの播凰を見てきた辺莉は予想していたものの。

 百歩譲って施設の規模に驚いたのは仕方ないにしても、まさかエスカレーター(動く階段)を見ただけでああなるとは――播凰の感想ではないが正に埒外、予想を大幅に超えていた。辺莉が止めに入ったのが遅れたのも、偏にそれが理由である。

 そのため、ゆりの新店舗に到着するまでは――いや、到着してからも気が抜けない、とそう意気込む辺莉であったが。

 

「おお、これが動く階段か! 馬とはまるで違うな、全く揺れぬ!」

「ちょっと播凰にい、ドタバタしないで静かにしてて!」

「すいません、すいません……」

 

 まず、そのエスカレーターで再び悪い意味での注目を集め、すぐ前に乗っていた年配の老夫婦にも目を丸くして振り返られ。

 

「――むっ、なんだか良い匂いがするぞ! あっちの方だな!」

「違う違う、そっちはただのフードコートーっ!」

「播凰さーん、止まるっすー!」

 

 目的であるゆりの店――ではなく、その形態から視覚的にも嗅覚的にも周囲に広まりやすいフードコートから漂ってくる匂いを嗅いで勝手に駆け出すのを、毅と二人がかりで慌てて連れ戻し。

 

「ここは何だ? なにやら面白そうな雰囲気がするが……」

「あっと、ここはゲーセン――ゲームセンターっていって、家ではできないような特別な大きいゲームが遊べるところっす」

「ほう、ゲーム! それも、特別に大きいとな!」

「俺もお金に余裕ができたら、やってみたいと思ってるのがあるんすよねー……ううん、でもちょっとだけなら……」

「はいはい、やるとしてもまた後でねー」

 

 フロアの一角を占めるゲームセンター。そこから発せられる光やら音やら子供の愉しそうな声に、まるで紫外線に導かれる虫のようにふらふらと寄っていく播凰と毅をくるりと反転させてその背中をぐいぐいと押し。

 

「……ここは、まさか」

「ほらほら、播凰にいー。この本屋を通らないと、ゆりさんのお店に行けないよー?」

「むぅ……毅よ、お主は平気なのか?」

「あはは、まあ好きってわけじゃないっすけど。それに、漫画とか見に来ることはありますし」

「漫画? それも書物か?」

「えー、漫画っていうのはっすね――」

 

 棚に収められているのを含め、見渡す限りの本、本。

 即ち本屋を視界に入れて苦い顔をした播凰に、これまでの鬱憤のせめてもの意趣返しと揶揄い交じりにしたり顔で笑い。

 

「ハァ、ハァ……よーし、ゆりさんのお店は、もうすぐそこッ……!」

 

 そんなこんな、振り回された道中。

 ただ移動しただけで、肉体的な負荷はそこまでかかっていない。が、精神的には満身創痍に近いといっても見当違いではない辺莉は、ある種の達成感に包まれていた。

 目的地はすぐ眼前に見えている。ならばあとはもう道を阻むものはないと、辺莉はグッと軽く拳を握り締め、より力強く一歩踏み出し。

 

「――お母さん、早く早くーっ! 急がないと、天対仮面のヒーロー(・・・・)ショーが始まっちゃうよーっ!!」

「はいはい。まだ時間は大丈夫だから、そんなに走らないの」

 

 すれ違った親子の、そんな会話が。二津辺莉の耳に、届き。

 ギュッとその拳が強く握られた。

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