三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

114 / 117
47話 ヒーローという概念

「む、なんだあの子供、何が始まると言っていた?」

 

 矢張りと言うべきかその内容に興味を示したのは、播凰であった。

 遠ざかっていく親子を振り返るその顔には、紛れもない興味の色があり。踵こそ返していないものの、その歩みは完全に止まっている。

 

「あ、さっき偶々ポスターを見たんすけど、屋上でヒーローショーをやってるみたいっすよ。いやー、昔よく夢中になってテレビで見てたっすねー、天対仮面! まだシリーズが続いてるのは知ってたっすけど」

 

 対し、懐かしそうな顔をした毅の、呑気にそれに答える声。

 当然と言うべきか、そんな反応を零した毅へ、播凰が顔だけを向ける。

 

「毅よ、なんだそれは?」

「えっと、天対仮面っていうのはそういうキャラクター、つまり創作上の存在っす」

「創作上? この世界に伝わる伝説や御伽噺のようなものか?」

「いやー、そういうのではなく。播凰さんに分かりそうな例で言うなら……まぁVTuber、みたいなのが割と近い感じっすかね?」

「ほう」

 

 再度振り返り、件の親子が角を曲がってその姿を視界から消すのを見届けた播凰が、毅に向き直った。

 その瞳に浮かぶ好奇が、明らかに増す。

 

「して、その天対仮面とやらが何をすると?」

「ヒーローショーっすね。劇というか見世物、お芝居……まあそういう一種の催しっす。天対仮面は、さっきの本屋でもちょっと話に出た漫画化とかアニメ化もされてて、子供に大人気なんすよ」

「ふむ、催し……取り敢えずその天対というのは、天能術とは関係あるのか? 確か、私の性質を調べてくれた者が所属しているところの名もそうだったはずだが」

 

 毅の解説に、曖昧に頷いた播凰は。

 しかしそれよりも天対という単語が、聞き覚えのあるものであることが気にかかったらしい。

 

「勿論、関係大有りっすよ! なんたってシリーズ共通のコンセプトとしては、一般人として生計を立てつつも実は凄腕の天能術の使い手である主人公が、仮面で正体を隠した天対仮面として活躍するヒーローものっすからね!」

 

 少しばかり興奮したような物言いは、幼少に夢中になっていたことを思い出してのことか。

 

「……で、まあこれは見てた当時は知らなかったんすけど、どうも元々は天対のイメージアップとして制作されたらしいとか、なんとか。作中で天対は主人公の味方寄りの組織として出てくることが多いですし、実際に俺もそれで初めて名前を知りましたから」

 

 だがすぐに思い直したように、毅はコホンと気恥ずかしそうに咳払いを一ついれる。

 

「仮面で正体を隠す、とな? 何故態々そのようなことをする? そもそもその、ヒーローというの、は――」

 

 毅の説明を聞いて尚、いや、聞いて詳細を知ったが故。

 疑問しかないといった口振りであった播凰が、ふと何かに引っかかったかのように腕を組む。

 

「――ヒーロー、ヒーロー、か。そういえばその言葉、どこかで聞いたような覚えがある」

 

 反芻するように、数度。ヒーローという単語を繰り返し。

 記憶を辿るように目を瞑り数秒、しかし終ぞ思い出せなかったようで。

 

「いつどこで耳にしたのだったか……ともかく、そのヒーローというのは?」

「そんな気がしてましたけど、やっぱ知らないんすね。うぅん、それにしても、ヒーローとはっすかー」

 

 加え、その単語が指す意味も知らない模様。

 問われた毅は答えるまでにほんの少し時間を置いたものの、されどそこまで深く考えていないといった風に口を開いた。

 

「まぁ色々捉え方はあるっすけど、この場合は……巨大な悪に立ち向ってたくさんの人々を守る正義の戦士、ってとこじゃないっすかねー」

 

 ――刹那、播凰の瞼がピクリと動く。

 同時にこれまで聞いては聞き返し、と矢継ぎ早に疑問を投げていたその声が止まり、僅かな沈黙が流れた。

 何か変なことでも言ってしまったかと、毅は静かに喉を鳴らし。

 

「……播凰さん?」

「いや、なんでもない(・・・・・・)。それより人々を守る戦士といったな、つまりその者は……強大な敵国、或いは賊から国を――民を守る、護国の兵ということか?」

「うーん、敵国に賊っすかー……うぇっ!? て、敵国に、賊っすか!?」

 

 ややあって播凰の口から紡がれた内容に、思わず目を剥いた。

 それがあまりにも普通のトーンだったものだから、一度は己の口でも繰り返し。そこでようやく何を言われたかに頭が追い付き、その顔をまじまじと凝視してしまうも。

 けれどその単語の物騒さ然り、その当人の至極真剣な顔然り。どうにも冗談という風ではなく。

 

「えー……あっ、いや、別に兵士とかってわけじゃなく……例えばそのー、こう、世界中の全ての人間を滅亡させようと企む悪の秘密結社がいてっすね。それを阻止しようとする存在っていうか人っていうか」

「……なに? 全ての人間を滅ぼす?」

 

 なんとか頭を回し、毅が例を挙げることができたものの。

 今度はそれを聞いた播凰が、全く不可解なことを耳にしたかのように目をパチクリとさせ。しかしすぐに眉根を寄せる。

 

「なんだそれは、一体何の意味がある」

「あー、えー……それはっすねー……あれって、どういう設定だったっけ?」

 

 その追求に、毅は目を泳がせて言葉を探した。

 なにせ、あくまで彼が夢中になっていたのは昔だ。物語の内容は漠然としか覚えておらず、細かな設定だったりを忘れるには十分に時間が経っていた。そもそも、子供の時だからそこまでちゃんと理解せずに見ていなかったともいえる。

 

 とはいえ、毅の説明だけが悪いわけではない。無論、完璧な説明であれば状況は変わったかもしれないが――なにより、播凰にその知識の下地がないだけ。

 結果、よく分からないと首を傾げる播凰に、どう言ったものかとしどろもどろとなる毅という光景が展開され。

 

「――要は、自分達の近くに悪い事をしている奴らがいて、その存在や企みを知って」

 

 助け船は、出される。

 

「それを許せず、偶々立ち向かえる力があった――与えられたから、自分が立ち向かわなきゃなんて考えちゃった……兵隊さんとかそういうのじゃない、元々は普通の人。少なくとも、その天対仮面みたいな()のヒーローは、ね」

 

 間違いなく、笑っている声の。間違いなく、笑っている顔の。

 この話題となった発端の子供の口からその単語が出てより、今の今まで黙りこくっていた二津辺莉から。

 

「播凰にいも知ってそうな表現をするのであれば、んー、そうだなぁ……なんだろ?」

 

 ヒーロー、という単語を播凰の前で口にしたことがあるのは、他でもない辺莉である。

 それは二人も所属する研究会、異世界道具研究会へと初めて訪れた際に辺莉が語った――彼女の元の世界の話。

 その時に、辺莉もまた播凰のいたであろう世界の話を聞いている。無論、播凰はそうだと明言はしてはないが。

 

「敵国とか賊とか、いかにもって感じの世界というか時代っぽいし。……あっ、賊、賊かー。それって多分、盗賊とかそういうののことだよね。だったら――」

 

 播凰がポロリと零した単語から、笑顔のままうんうんと悩むようにして。そしてそこからふと連想したように、辺莉はピン、と真っすぐに指を立てた。

 

「――義賊って知ってる? 盗むのは悪いお金持ちや偉い人達からだけで、その上貧しい人達に配るっていう」

 

 義賊。自らのためでなく、貧困に喘ぐ民衆に分け与えるために盗みを働く存在。

 確証はなかったが、賊がいるならば義賊という概念も通じるのでは、という可能性はあり。

 そしてその辺莉の予想は。

 

「……義賊ならば、よく(・・)知っている。成程、それならば顔を隠すというのもおかしなことではない、か」

 

 含むように、それでいて合点がいったと言わんばかりに頷く播凰を見れば一目瞭然であった。

 もっとも毅はその形容に納得していないらしく、微妙そうな面持ちを辺莉に向ける。

 

「うーん、でも辺莉ちゃん。義賊って結局は泥棒だし、扱い的には普通に犯罪者っすよね、多分? そりゃ、全然違うとまでは言わないっすけど……だったらそれより、英雄とかの方がヒーローに近いんじゃ?」

「あはっ、まあそうかもねー。でもね晩石先輩、知ってた?」

 

 その反論を一応肯定しつつも、しかし辺莉は笑みを湛えたまま。

 一本だけ立てた指を顎に当てて、小首を傾げ。そのまま流し目で彼を見やる。

 

「――世の中にはね、それ(・・)をヒーローって呼ぶ人もいるけど、犯罪者呼ばわりする人もいるんだよ? ……それにほら、ヒーロー物でもあるじゃない!」

 

 まるで何でもないことのように。

 しかし有無を言わさずといった静かな圧。

 

「実は悪の組織の黒幕の正体は偉い人でしたぁ、とか。お金持ちが悪いことを支援したり揉み消したりしてましたぁ、とか――」

 

 ――だったらその二つって案外近いと、そう思わない?

 

 絶句し、二の句が継げないといった様子で閉口する毅を一瞥だけして。

 そしてすぐに視線を切ると、辺莉は一歩、播凰に近づいた。

 

「ね、ね。播凰にいは、さ。そんな存在が近しい人……じゃなくてもいいけど。そういう存在がいるって聞いたら、どう?」

 

 朗らかに、まるで気軽に物を尋ねるように。

 

「どう、というのは?」

「だから、義賊がいたらーってことー!」

「……生憎だが、こちらではそのような話はとんと聞いたことがなくてな」

「勿論、想像でいいよー! そ、れ、と、も――」

 

 更に一歩、その足が踏み込まれる。

 

「――もしかして、()にそういうことがあった? だったらその時どうしたのか、どう思ったか、でもいいけど。あ、別に無理に答えなくてもいいけどねー」

 

 目線をその瞳から一切離すことなく、顔を覗き込むようにして。

 そんな彼女の視線に、播凰は暫し思案するように間を置く。ギラギラとした光を放つ辺莉のその眼を、真正面から受け止め。そうしてふと、播凰は硬直する毅をチラと一度だけ見やる。

 ややあって、零れたのは。

 

「……まぁ、構わぬか。そうさな、あの時は――」

 

 苦笑。しかして、嘆息。

 

「――我が麾下にならぬかと。我が元でその力を振るい共に戦わぬかと、そう声をかけた」

「へっ……?」

 

 辺莉の目が、まん丸に見開かれる。

 まるで呆気にとられたと言わんばかりに、その眼から鋭い輝きは徐々に霧散。湛えていた笑みもまた、同時に。

 

 質問にも色々ある。

 それは単に自らの知識不足を補うために始まり、あくまで反応を見るためといった揺さぶりまで、一概にその意図というのは一括りにはできない。

 そしてそれは、その答えを受けたことによる言動も、また。

 

「……そ、それってつまり……一緒に戦おう(・・・・・・)としてくれた(・・・・・・)、ってこと?」

「うむ。本来であれば彼らは守るべき民ではあったが……話では大層腕が立つらしいと聞いており、実際にそうであったからな」

 

 恐る恐るといった様子で尋ねる辺莉に、播凰が確りと大きく頷く。

 その顔に浮かぶのは懐かしさと、そして悔恨。それらが織り交ざったような表情であり、声色で。

 

「え、えっと……もしかして、断られた?」

「いや。確かに否とした者もあったが、しかし応じてくれた者もいた」

「でもその割には、その……あんまり嬉しそうじゃないね? ……ひょっとして、後悔、してる?」

「別にそのようなことは」

 

 声の揺れている辺莉に対して。播凰が静かに、乱れの無い口調で応じる。

 ただ、と頭を振って紡がれる言葉。

 

「だが当時の私の立場や情勢を考えれば、まあ悪手ではあったな。それに気付いたのは随分と後のことだが、むしろ全員に断られるどころかあの場で攻撃されていてもおかしくはなかった。或いは、当時は今よりも幼かったものだからそれもあったのやもしれぬが」

「…………」

「事実、それから幾年と経ってから告げられたものだ。機を伺い、私の寝首を掻く――この身を殺す、それすら覚悟して誘いに応じたのだ、と」

「……殺、す、ため?」

 

 あまりにも衝撃的なそれに、辺莉はゴクリと唾を呑む。

 だが当の本人はさらりと首を縦に振るだけで。

 

「もっとも、如何なる理由でそれを放棄したのか、終ぞ聞くことはできなかったがな。……嗚呼、そういう意味では、後悔はあるか。あの時、己の不甲斐なさを感じておくべきだったのだと」

「……ど、どうしてっ!? 悪者は播凰にいじゃなくて、ちゃんと別にいたんでしょ!? なんで、なんでそんなっ――」

 

 無論、辺莉はその時の状況を知らない。なんなら、播凰が適当な話をしている可能性だって、嘘を吐いている可能性だってあったわけだが。

 けれどそんな可能性は露とも考えず。

 憂いを帯びた播凰の瞳が、明らかな動揺をみせる辺莉を見据える。

 

「素性を伏せていたとて、その動きまでをも伏せ続けることは容易ではない。即ち、実際にそのような存在が動いており、義賊として――つまりは民にそう認知される程度にはその活動が続いているということであろう? そうでなければ、そのような話など広まりもすまい」

「え? あ、う、うん。まあ、それはそうなんだろうけど……」

 

 顔を隠すことはできても、その行いの痕跡までを隠しきるのは難しい。それが目立つ行為であるならば尚更に。もっとも、意図的に表に出しているという可能性もあるにはあるが。

 しかしどちらにせよ、仮に自らを義賊と謳ったとて結局は周囲の評価次第。周りがそうと見たから義賊として存在が広まるのであり、そうでなければあくまで自称の単なる盗人でしかない。

 辺莉もそれについては首肯するが、しかし話の関連性が見えずにぎこちないそれとなる。

 

「先程も言ったが、本来であれば彼らは守られるべき――守るべき、我が国の民であった。であるならばそれは、善良な民一人、または集団であろうとそこに背負わせるものではない。その発端が、反乱の火種なり、国の衰退なり……腑抜けた権力者への抗い、その理由如何に関わらずだが」

「……えっと、つまり?」

「つまりはその悪とやらから国を、無辜の民を守護すべきは誰の役目であったか。真に動いていなければならなかったのは誰であったかという話になる」

 

 混乱気味になりつつある辺莉を前に、播凰は自嘲気味に鼻を鳴らすと。

 

「そも、そのような者を出させないことが最良であるのは言うまでもないが……あろうことか、私は事が大きくなった後でようやく知り。剰えのこのこと出向いては呑気にもその者達に我が麾下とならぬかと誘いをかけたと、そういうわけだ」

 

 最後にそう結び、その口を閉ざした。

 三人の誰もが喋らず、また微動だにせず。だが、完全な静寂とはならない。

 なにせここは人の多いショッピングモール、人々の喧噪というのはどうしても耳に届き。

 更には、タイミングがいいのか悪いのか。ピンポンパンポーン、と館内にチャイムの音が鳴り響く。

 

『本日は、ご来店いただきまして誠にありがとうございます。迷子のお子様のご案内をいたします――』

 

 迷子を知らせる放送。その性別や服装といった詳細がつらつらと続き。その内容が、繰り返しに差し掛かった、そんな中。

 ポツリ、ポツリと。俯く辺莉の口から、それは漏れ出た。

 

「……いい、なぁ」

 

 それは、そうでなかった己への悲嘆か。

 

「……ずるい、なぁ」

 

 はたまた、そうであった顔も名も知らぬ者への嫉妬か。

 

「私達が――私は、ずぅっとそれが欲しかったのに」

 

 或いは、そうなってくれなかった周囲への怨嗟か。

 

 ともすれば、迷子のお知らせの放送に掻き消されそうなほどに、控えめ。

 されど込められし激情に、その肩は大きく震え。

 

 しかし、ポンと。

 彼女の頭に載せられた、彼女のものでない掌がそれを押し止める。

 その感触から、微かに身じろぎした辺莉がおっかなびっくりとその目線を上げれば。彼女に向けて播凰がその腕を伸ばしており。

 

「播凰、にい……?」

「……っ、ああ、すまぬな」

 

 だが、辺莉の呼びかけによって、まるでようやく己がそのような行為をしていたことに気付いたといったように。播凰は辺莉の頭に置いたその手をまじまじと見つめ。そしてすぐに取り払う。

 

 

「少し、我が()を……いや、ともあれどうにも、互いに難儀した身空らしい」

 

 そうして軽く吐き出される息。

 それに辺莉が何かを言う前に、播凰が前方にある、建物を支える大きな柱を見やった。

 

「さて、どうやら立ち話が過ぎたようだ。待たせてしまったか」

 

 一見すれば、そこには誰の姿もなかった。というよりも、遠くにざわめきはあるものの、この周辺には不思議と三人以外の姿はなかったのだが。

 

「……すみません、立ち聞きするつもりはなかったのです。ただ到着が少し遅かったので、もしや道に迷っているのでは、と」

 

 曲がり角、柱の陰から謝罪と共にジュクーシャが現れる。

 言葉通りの申し訳なさ、いたたまれなさを顔に浮かべている、その装いは。これから三人が訪れようとしていた喫茶店、リュミリエーラのもので。

 

「よい、非はこちらにある」

「……うん、ジュク姉は悪くないよ。――って、わぁ、ホントだ! ちょっと早めに着くはずだったのに、もうこんな時間!」

 

 単に首を横に振った播凰に続き、加え時計を見た辺莉は大仰にのけぞると。

 元の調子を取り戻したように明るく振る舞い、彼女は播凰の腕を両手で抱えるように引き。

 

「えへへっ、ほら行くよ――おにいちゃん(・・・・・・)っ!」

 

 半ば引っ張るようにしながら、ぐいぐいと二人して歩いていく。

 残されたのは今しがた合流したジュクーシャと、途中から目を白黒させていただけの毅。

 

「大丈夫ですか、毅くん?」

「……は、はいっす」

 

 気遣うようなジュクーシャの声に、毅はビクリとしながらもなんとか返事を絞り出す。

 

「気持ちは――すみません、完全に分かることはできませんが。……こう言ってはなんですが、平和な世界で生きてこられてきた君にとって、創作ではない彼らの実際の(・・・)話は刺激が強すぎたことでしょう」

「…………」

 

 知ってはいた。

 最強荘の大まかな事情というのを、晩石毅は知らされてはいた。三狭間播凰が異常な強さを持っていることを直接見てもいる。

 けれど、その過去に何があったかまでは詳しく知らない。

 播凰に限らず、辺莉も同じく。そして眼前のジュクーシャについても、また。

 

「ですが、どうか。どうか普通に接してあげてください。例え異なる世界で生きていたとしても、そこで何を経験したとしても――その根底は君とそう変わらない、同じ歳の頃の少年少女なのですから」

「…………」

「そう簡単に受け入れられることではないことは承知しています。無責任なことを言っているのもまた。しかし、強さを持っている君ならできる、きっと」

「……べ、別に播凰さんと違って、俺には強さなんて――」

 

 とはいえ、それは彼らに対しての毅もまた同じ。

 ジュクーシャは知らないのだろう。晩石毅という人間の、その実力の低さを。学園で如何に劣っているかを。

 だからそんなことを言えるのだと、毅は無意識に口を尖らせかけ。

 

「いいえ、君は強い。そのことを私は知っています。私だけではない、播凰くんもきっと認めていることでしょう」

 

 ――何故なら、君は明確に恐れを抱き。それでも尚、友と呼んだのだから。

 

 きっぱりと力強く。それでいて見守るように優しく。ジュクーシャは、微笑んだ。

 あ、と毅の喉から声にならない声が掠れて出る。

 

「――おぉい、毅、それにジュクーシャ殿も、何をやっている? ゆり殿が待っているぞ!」

 

 と、そんな時に。先を行っていた播凰が、奇しくもジュクーシャが出てきた柱の陰から、ひょっこりと顔を出した。

 その顔は、毅もよく見てきた顔だ。学園で、今日ここに来るまでで。

 

「……あ、ありがとうございます、ジュクーシャさん。大丈夫っす、ただ播凰さんがまるで普段とは別人みたいで、驚いただけっす」

 

 ブルブルと頭を強めに振って、パシン、と毅は自身の顔を両手で挟むように叩くと。

 

「すいません、今行くっすー!」

 

 播凰へと向かっていこうと足を踏み出したが。

 その寸でのところで、毅はつんのめるようにして慌てて静止すると、ジュクーシャに振り向いた。

 

「でも、あの時もそうっすけど今回だって、ジュクーシャさんがいたからで俺は大したことないっすよ。さっきまでの話じゃないっすけど、まるで俺にとってヒーローみたいだったっす!」

「……っ!」

 

 毅の言葉に、ジュクーシャが僅かに瞠目し、そして息を呑んだ。

 

「あ、女性だからヒロインっすかね。どっちにしろ勇気(・・)を貰えました、ありがとうございますっす!」

 

 そんな彼女の様子に気付くこともなく。毅は照れくさそうに笑うと、小走りで駆けていく。

 

「……私は」

 

 そんな姿を、どこか眩しいように見つめた後。

 深く息を吐きだし、ジュクーシャもまた歩みを進めるのであった。




主人公の過去の出し方が難しいですね、、
過去話というか前の世界に絡んだ話は後々ある想定なんですが、果たしてそこまでいくのにどれくらいかかるのか。あと単純に需要はあるのか。。

3章終りの流れは頭にあるものの、中々書く速度が遅いですが次話もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。