三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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18話 火種

「いただくぞっ!」

「いっただっきまーす、すっ!」

 

 無事、といえば無事に食券を購入して引き換えた二人は、並んだ席を確保し、両手を合わせた後、揃って箸を口の中へと運ぶ。

 

「んー……っ!」

 

 涙こそ流していないが、味わうように一口一口よく噛み締めて喉を鳴らす毅が頼んだのは、ハンバーグ定食。

 些か過剰とも思えるその反応であるが、しかし金欠である彼は食費を抑えるため肉を食べる頻度はそう多くないらしい。

 つけあわせも色とりどりで、メインとなるハンバーグを切れば溢れ出す肉汁。ご飯に味噌汁もついており、次はそちらを頼んでみようか、と思えるほどには美味しそうな見た目である。

 そして播凰が頼んだのは、この世界に来てお気に入りとなった、あんかけ焼きそば。

 野菜たっぷりに細切れ肉も入った餡は、程よい熱を帯びていて箸が進む。

 

「うむ、美味いな!」

「美味いっす! いやー本当、東方第一(ここ)に入学できてよかったぁ……!」

 

 播凰もまた、料理を楽しむように一口ずつ、破顔。

 と、それぞれ注文した料理に舌鼓を打ってから暫くしてのことであった。

 

「――そういえばよ、実は俺、あの星像院麗火と入学試験の実技で同じグループだったんだぜ?」

 

 同じテーブルの、二つ席を空けた隣。

 二人ずつが向かい合って座る、四人組の男子生徒のグループから、そんな会話が聞こえてきた。

 それぞれの前にある食器は空。食後の歓談といったところだろう。

 

「へぇー、マジかよ!? どうだったんだ、あの星像院家の、新入生総代は?」

「流石は星像院って感じだったな。ただ……」

「お、なんだなんだ?」

「ふん、まあ同じクラスなんだ。今後の授業で見れるだろうよ」

「ちぇっ、もったいぶりやがって」

 

 星像院麗火と同じ実技試験のグループ。それはつまり、播凰と毅とも同じグループであったことを指すのだが――残念ながら播凰と毅の意識は、食事に向いている。毅はどうなのかさておき、播凰の耳に届いてはいたものの、あんかけ焼きそばを味わうのに夢中であった。

 

「実技試験っていえば、外部組を見るのは面白かったね。合格して入学してきたのもいるけど、よくもまあその程度で受験できたなってほど低レベルな奴もいてさ。もっとも、内部組の落ちこぼれも、高等部に上がれなかったみたいだけど」

 

 眼鏡をかけた男子生徒が嘲るように鼻を鳴らせば、残りの三人は咎めるどころか同意するように笑い出す。

 その嘲笑が冷めぬ中、その内の一人が思い出したように声を上げた。

 

「そうだ、聞いてくれよ! 低レベルっていやぁ、外部組で馬鹿みたいな奴がいたんだよ」

 

 くつくつと、滑稽でたまらないといったように身体を震わせるのは、先程食券機のところで播凰と毅の後ろに並んでいた茶髪の男子生徒だった。

 

「なんだ、そんなに酷かったのか?」

「酷いの酷くないのって、そんな次元じゃねえぜ!? そいつ、低すぎて計測できないゴミみたいな天能力でよぉ!」

「武戦科ならまだしも、天戦科でか? なるほど、そりゃ馬鹿だ!」

 

 一斉に吹き出し、ゲラゲラと。

 そのことに気をよくしたのか、ニヤリとして畳みかけるように。

 

「しかも、それだけじゃねぇぜ。なんとそいつは――」

 

 他三人が多少なりとも落ち着いて、続きに耳を傾けるのを待ち。

 

「――天能を使えないから、それを学ぶために入学試験を受けにきたんだと!」

「ははっ、なんだそりゃ。絶対嘘だろ」

 

 溜めに溜めた言葉は、しかし彼が思っていたよりも爆発力はなく。先程よりも小さい笑いが生じるに留まった。

 話を盛っていると思われたのだろう。相槌こそあったものの、軽く流される。

 だからだろうか、茶髪の男子生徒は依然にやにやとした表情は保ちつつも、若干ムキになったように、その声には力が籠り。

 

「嘘じゃねえって! 確かに俺も、その場にいなかったら嘘みてえな話だと思うけどよ、本当に――」

「うむ、誠に美味であった! ご馳走様だっ!!」

「――そう、丁度あんな感じでよ! 馬鹿みたいに、大袈裟、な奴、で……」

 

 最後の一口を啜り、満足気に箸を置いた播凰の賛辞。

 それを聞き、釣られたように。同時に、我が意を得たりと振り返り。そしてその顔を見て、驚いたように言葉が勢いを失くしていく。

 

「…………」

 

 遂には、完全に無言となって播凰を凝視する男子生徒。

 聞き手に回っていた残りの面々も、何事かとその視線の先にいる播凰と男子生徒を交互に辿るが、困惑を隠せていない。

 

「テ、テメエ、まさか……実技試験、の時、の?」

 

 彼の腕が持ち上がり、人差し指が播凰に向けられる。

 言葉が途切れ途切れとなっているのは、己の目に映る現実が信じられないからか。

 

 だが、指をさされたことで、料理を食べ終えた播凰はようやくその存在を視界の中央で認識する。

 星像院麗火ほど鮮烈ではなかったが、絡んできた者がいたことは覚えていた。そしてその者が雷の天能を披露していたことも。そして、実技試験という言葉で、記憶と顔が繋がる。

 

「おぉ、お主は先程の。そうか、そういえば、うむ。お主とは入学試験の時に会っているな、雷使いよ」

「……いやいや、おかしいだろっ!? 何でここにいるっ! 何でその制服を着てやがる!?」

 

 怒号、にも等しい声であった。

 先程から騒がしくはあったものの、食堂全体としては彼らと同じように会話しながら席に着いていた生徒はむしろ多かったため、まだ許容の範囲ではあった。

 が、流石にその声量には周囲はもちろん、少し離れている生徒達まで、様子を見るようこちらを窺っている。

 播凰達が教室を出たのが遅かったのもあり、途中寄り道したこともあり。更に言えば、一口一口ゆっくりと時間をかけて食べていたので時間帯的にはピークは過ぎ、食堂内には空席もそこそこ見受けられる。

 だが、まだある程度の生徒は残っており。皆が皆ではないが、この騒ぎは注目を集めていた。

 

「ふむ? 何故もなにも、ここに入学したからに決まっておろう」

「だから、それが有り得ねえって言ってんだよ! あんなの合否以前の問題だろうが!」

 

 不思議そうな表情で冷静に播凰が返せば、ダンッと勢いよく男子生徒が立ち上がり。その全身を戦慄かせ、声を荒げる。

 

「うむ、確かに。なんなら、筆記試験もぶっちぎりの最下位と言われたしな! だが、合格通知が届いたのだ」

 

 それも意に介さず、はっはっは、と能天気に笑う播凰。

 実際、その指摘は正論であった。あれはもはや試験を受けていないにも等しい。

 とはいえ、播凰とて疑問に思っていなかったわけではない。実技試験は言うに及ばず、管理人の言によれば筆記試験も最下位。しかもぶっちぎりと表現されるほど。

 しかし、合格通知が届いたので深くは考えていなかった。もっとも、考えたところで分かるものではなかったが。

 

 あまりにもその姿が呑気であったからか。或いは、その姿を見て感情を昂らせている己が本能的に馬鹿らしく感じたのか。

 

「……最下位と言われた?」

 

 それは定かではないが、彼は突如平静さを取り戻すと、不審そうに播凰の言葉の一部を拾い。

 しばし、何かを考えるように打って変わって黙り込んでいたが。

 

「……いいぜ、だったら俺がテメエに教えてやるよ。ここは、テメエなんぞには相応しくない場所だってことをな」

 

 口の端を吊り上げ、意地の悪い顔をして告げる。

 だが、理解していないように首を傾げる播凰を見て、チッと舌打ちすると。

 端末を取り出し、何かを調べるように手を動かし。

 

「いいね、おあつらえ向きの場所が空いてるじぇねぇか。……おい、今日の放課後、顔貸せや。相手してやっから」

「ほぅ、一騎討ちか!?」

 

 剣呑な雰囲気であるにも関わらず、むしろ期待の眼差しで播凰が問いかける。

 荒事を示唆する言葉から連想したのは、戦い。つまりは、一対一の勝負だ。

 

 怯んだり、躊躇するとでも思っていたのだろうか。それとは正反対の、むしろ気乗りしたような調子の播凰に、一瞬鼻白んだものの。

 しかしすぐさま、はんっ、と鼻を鳴らした相手は。

 

「一騎討ちだ? のぼせあがるんじゃねえ、身の程を思い知らせてやるって言ってんだよ」

 

 食器の乗ったお盆を持ち、連れの三人に目配せ。

 彼は最後に播凰を一瞥すると。

 

「16時に、第三グラウンドだ。まぁ、尻尾巻いて逃げても構わねぇけどな」

 

 煽るように、吐き捨てるように。食堂を去っていくのだった。

 

「……は、播凰さん」

 

 すぐ隣に座っていたものの、ほとんど空気であった毅が、恐る恐る声をかける。

 腕を組み、難しい顔をしている播凰。こんなことになったのだ、それも仕方ないと毅は納得する。

 だが、その播凰は振り返って一言。

 

「――放課後、また呼び出しを受けていたのを忘れておった」

 

 ううむ、と困ったように唸る播凰を前に、毅は無言にならざるをえなかった。

 

 

 

 食堂にて男子生徒に指定された16時というのは、放課後すぐというわけでもない。

 ここ東方天能第一学園では、学生同士、或いは個人の自主的な研鑽も教育の一環としているようで、放課後もある程度の活動ができるように時間が確保されている。

 それを補助するため、放課後も施設は基本的に解放されており。図書室等の予約が不要な施設もあれば、昨日利用した天能計測室やグラウンド等の端末からの事前の予約が必要な施設もある。

 

 試しに第三グラウンドの予約状況を見てみれば、放課後すぐの時間は埋まっていた。そのため、あちらは放課後すぐを指定できなかったのだろう。

 そしてその状況は、播凰にとって都合がよかった。

 

 本日紫藤から届いた連絡の内容は、今度は教員室への呼び出しではなく、天能計測室に放課後すぐ来るようにとのこと。

 戦いの方の約束の時間まである程度の余裕はあるが、長くなるようなら事情を話して切り上げてもらわなければならない、と考えつつ天能計測室に到着する。

 なお、戦いの方の約束に行かない、という選択肢は播凰の中にはなかった。

 

「……来ましたね」

「うむ、今日もよろしく頼むぞ」

 

 天能計測室の入り口横、壁にもたれたりすることなく背筋を伸ばして立っていた紫藤は、やってきた播凰にチラリと視線を寄越すと言葉短く扉を開けて入っていく。

 播凰が続けば、目に入るのは当然昨日と同じ光景。だが、明確に異なることが一点。

 

「あら、教師の方がいらっしゃるとは珍しい」

 

 入室した二人を、カウンター越しに出迎えたのは中年の女性職員。

 

「ええ、まあ新入生の付き添いですが」

「新入生ですか? まあ休み明けですから、この時期は結構利用する子達は多いですけども」

 

 会話しながら設置された機械に紫藤が端末をかざし、職員の方は対応しながらも興味深そうに連れられた播凰を見ている。

 

「はい、では2番の部屋で」

 

 確認が終わったのか、紫藤が行きますよと播凰を促す。

 そして昨日は1であったが、今日は2と書かれた紙の貼られた小部屋へ。

 

「して、此度もここに訪れた理由は何であろうか?」

 

 開口一番、播凰が紫藤に問うたのはそれだった。

 見たところ、同じ機械が鎮座しているのも変わらず、他には何もない。

 計測が終わっていて、なお同じ施設に来る意味とは。

 

「そうですね。まず、念のためにもう一度計測しておいたほうがよい、というのが一つ。もっとも、結果が変わることはないとは思いますが」

 

 その質問に、紫藤は特に気分を害した様子はなく。

 彼女は播凰に向き合うと、腕を組む。

 

「そしてもう一つは、ここであれば人目につかず、他の誰かに聞かれる心配がないことですね。なので、こちらで押さえてしまいました。学園が再開するこのような時期は、一時的に利用者が増える傾向にあるので」

「ふむ、なるほど?」

「ということで、もう一度計測してみてください。やり方は覚えていますね?」

 

 うむと自信満々に頷き、パネルを操作した後、機械の中へ。

 単純だったというのもあるが、一度やったのもあり、記憶が新しいこともあり、そこまで手間取ることなく計測を終える。

 

 出力された結果は、やはり同じであった。

 性質には相変わらず、不明の二字がはっきりと表示されている。見れば気が滅入るのは変わりないが、二度目ともなれば衝撃は少ない。

 そして、昨日はそればかりに気を取られていたのだが。よくよく――いや、よく見なくとも画面には他の項目も存在していたことに今更ながら播凰は気付いた。

 が、それに目を走らせる前にモニタの表示が消えてしまう。

 

「性質の他に項目があったな。あれはなんだろうか?」

「……説明があったと記憶していますが、個人の情報は端末から確認することができます。それはここで計測した結果も同様です」

「おお、そうだった、そうだった!」

 

 言われてみれば、端末を受け取って諸々確認していた際に、目にした記憶があった気がする。

 他にも各教科の成績だったりとかそんなものも見れるのだとか。そしてその情報は、本人は勿論、他は権限がある人にしか見れない。故に、例えば毅の情報を播凰が見ることはできないわけだ。

 

 紫藤の返事を受け、いそいそと端末を取り出して操作しようとする播凰であったが、しかし。それを咎めるように、こほん、という咳払い。

 

「ですが、今日はそのような話をしに来たのではありません。それは後で一人で確認してください」

「うむ、了解だ。そういえば、私もこの後用事があるのでな!」

「そうですか。でしたら、猶更手短に。君の天能の性質について、そして今後の授業についてです」

 

 静かに聞く態勢に入れば、紫藤は播凰の目を見る。

 

「まず、性質が不明ということについて。俄かには信じ難いですが、これは、この機械では判断できなかったということ。要するに、こちらに登録されていない程に希少な性質である可能性が高いということです。例えば、特定の一族のみに継承される特別な性質等は、その存在自体は認知されていてもこちらに登録されていないことがあります。そのため、仮にその一族の人間が計測を行えば、同じように不明と結果が出るでしょう」

「なるほど、この機械も万能ではないということだな」

「……まあ、その認識で概ね問題ありません。そしてここからは提案ですが、私の知己に探知の性質を持つ者がいます。その者であれば、恐らく君の性質を探り当てることができます。その方法でもよければ、頼んでみることも可能です」

 

 その提案は、渡りに船であった。

 ジュクーシャに聞いていた、手段の一つ。それがあるなら選ばない手はない。

 

「誠か! であれば、是非お願いしたい!」

「分かりました。ただし、近くにいるわけではなく、あちらも忙しいでしょうからすぐには叶わないかもしれません。それは理解しておいてください」

 

 喜び勇んで播凰が同意すれば、紫藤は一つ頷いたものの、補足を添える。

 とはいえ、すぐにでも己の性質について知りたい播凰である。

 

「ふむぅ、こちらから出向いても難しいのだろうか?」

「そもそも、何処にいるか、というのが分かりません。あちらの仕事上、守秘義務があるので……日本なのか、下手したら海外にいることもあり得ます。私が今できるのは、彼女の所属する組織に本人宛の文を送ることぐらいです。……では次に、今後の授業に関して」

 

 残念そうな播凰であるが、構わず話題は次に移る。

 

「本来であれば、授業までに天能術を使えるようになっているのが望ましかったのですが、状況が状況です。幸い、私は天戦科の一年生の実技系の授業を担当する一人ですので、それを踏まえて動くこともできます。他の先生方にも、一応の納得(・・・・・)を得られる程度にはなんとか伝えておきますので、そこはフォローはできます。とはいえ、天能が使えないことにはまともに授業が受けられないことに変わりありませんが」

「まあ、そうなってしまうか」

「そして君は、その事実(性質不明)を信用できる人間以外には誰彼構わず喋らないように。いいですね?」

「……む? よく分からんが、承知した」

 

 だが、こちらの話はすぐに終わった。

 最後に、何か質問はあるかと言われた播凰は、暫し考え。

 

「質問ではないが……第三グラウンド、とやらまで案内してもらえないだろうか? この後、戦いの約束をしていてな」

 

 眉を顰め、何を考えているんだと頭に手を当てる紫藤の深い溜息が、室内に響いた。

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