三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~ 作:鷲野高山
グラウンドでの戦いから一夜が明けた。
翌朝、学園への登校のために零階へと播凰が降りれば、そこにはいつものように最強荘の門のところで彼を待っている毅の姿があった。
だが、いつもと違うのは。おっかなびっくりと、様子を伺うような。気まずそうに目を逸らしての、ぎこちない挨拶。
播凰は変わらず、普段の調子で挨拶を返したが。
「「…………」」
そこからは、一切の無言。
普段であれば、とりとめのない雑談を毅が振ってきたり、学園の話を播凰が尋ねたりして会話が進むのだが、それもない。
最強荘を出て数分、人一人が通れるほどの距離を空けて並んで歩くだけの、ずっとこんな調子。
そしてその理由を、当然播凰は理解していた。
――最初に、
昨日の戦いを終えた直後、播凰に向けられた毅の眼。恐怖に彩られたその顔は。
少なくとも、戦場に立つ前。城での訓練の日々では、驚きこそされたことはあったものの、まだその類の視線は無かったように思う。そして、初めて戦場に立った時も、きっと。
だが、首級を上げ、功績が重なっていけば。まずは、敵から。次第に、味方が。
気付けば、一騎討ちを挑まれることもなくなり、好敵手と呼べる強者もいなくなった。
彼の弟妹達だけが、変わらず接していた。
……不可思議な力のあるこの世界ならば、或いはと思ったが。
どうも、そうでもないらしい。万人がそうかはともかく、確実に一人に向けられる程度には、外れているのだ。この身体は。
しかしそれでも、期待は捨てていない。天能に興味を抱くことに変わりはないし、退屈するということもない。もしかすると、あっと驚くような相手もいるかもしれない。
だが、まずはその前に。
「――毅よ」
一種の膠着状態ともいえるそれを破るように、播凰が歩みを止めて声を出した。
ビクリ、と傍目からも分かるほどに大きく身を震わせて、毅もまた足を止める。
横に並びながらも、互いの顔は合わぬまま。播凰は前を、毅は下を向いていた。
「無理をしてまで、私と一緒にいる必要は無い」
余計な気を回さず、率直に切り出せば。
毅が顔を俯かせたまま、息を呑んだ気配がした。
「だが、これだけは伝えておく。お主には、ここに来た時から色々と世話になったな。それに、私には今まで、身内以外で年が近く気軽に話すような者はいなかった故……うむ、新鮮で有意義な時間であったことは間違いない」
こうして歩くこともな、と付け加え、播凰が目を細める。
彼の身内――つまり弟妹達とは、また違う。さて、これは何と言うのだろうか。
そんなことを考え、しかしすぐに打ち消した。
「――今までご苦労であった」
放ったのは、決別の言葉。
同時に、播凰は歩き出す。
「あ……」
ここでようやく、毅が口を開き、顔を上げて播凰を見た。
遠ざかる後ろ姿、だがしかし毅の足は縫い付けられたように地面を離れず。
その背中を追いかけることもなく、黙って見送ることしかできなかった。
「――さて。天戦科の生徒として入学した新入生の諸君等は、本学園の中等部、乃至は各々の通っていた中学の三年間にて、主に天能術の基礎を学び鍛えてきたことと思います」
グラウンドに整列する生徒達の間を、朗々とした紫藤の声が通り抜ける。
その外見からも声色からも厳しさを感じさせる、彼女。前に立ち、瞬き少なく彼らを見るその様は、まるで睥睨しているかのよう。彼女の傍らにも別の男性教師が一人立っているが、威圧感という意味でいえば紫藤が圧倒的に上だ。
それゆえ、そんな教師である紫藤に目をつけられることが分かっていて無駄口を叩く者はなく、皆静かにそれに聞き入っている。
今日は1年H組の天戦科の実技試験、その初日であった。
「ですが我が東方第一の高等部においては、己の行使できる天能術を自在に扱い、制御するのは当たり前。もっとも、使用可能な術を増やしたり、天能力を上げるための努力は、当然ながら各個人で続けていくことでしょうが――」
チラリ、とその視線が整列に加わる播凰の方を向いたような気がしたのは、思い過ごしなのかどうなのか。
「今後授業で取り扱い、成績の判定基準となるのは、その先。つまり、戦闘を想定した技術です。相手に攻撃を当てる技術、相手の攻撃を防ぐ技術。その他、予期せぬ事態にも臨機応変に対応する必要があり。ただ自分のペースで天能術を行使することができたこれまでの環境とは、大いに異なります」
その話の内容は、天能術に疎い播凰でも理解できた。
要するに、ただの鍛錬と実戦はまるっきり違うということだ。
自分一人の時では、誰にも邪魔されずに止まったまま集中ができ、好きなタイミングで動くことができる。
だが、相手がいるともなれば話は別。邪魔されずに集中などはさせてもらえず、相手の動きを捉える必要がある。同時に、相手の攻撃への対応も考えなければならない。
剣で例えるなら、素振りなのか実際に刃を交えるのかということだろう。
「勿論、今までも戦いという形で天能術を行使した経験もあることでしょう。ですが、評価の比重は戦闘よりも基礎が大きかったはずであり、対峙する相手もそこまで戦い慣れはしていなかったのではないでしょうか。入学して緩む気持ちもあるかもしれませんが、ただ実戦に変わるだけと侮れば痛い目を見ます。それを理解して今後の授業を、ひいては学園生活を送ることを望みます」
そこで一旦締め括ると、紫藤はもう一人の教師に対して、何かありますかと尋ねた。
だが、男性教師は苦笑して首を横に振る。言いたいことは全て紫藤が言ったと、そんな感じだった。
紫藤は再び生徒達の方を向き、コホンと一つ咳払いをすると。
「それでは本日は、相手の攻撃の術に対して術を当てて防ぐ、という対処法を実践してもらいます。防御系の術を覚えていない人もいるでしょうから、今回は攻撃系の術に限定します」
告げられるのは、授業の内容。
相手からの攻撃を、こちらも攻撃を以て迎え撃つことで防ぐ。聞くだけであれば簡単そうだが、飛び道具を飛び道具で落とすわけだから、案外難しそうではある。
「まず近くの者同士で二人一組となって攻守を決め、片方は天能術で攻撃、もう片方はそれに対して天能術で防いでください。その後攻守を入れ替え、それぞれが攻守を担当したら別の人とペアを組んで実施と、ローテーションしていくように」
面白そうな内容ではあったが、だからこそ播凰は天能が使えないことが歯痒い。
そして、詰んでいた。攻守側共に天能術を使うのであれば、それができない播凰は木偶の坊にすらなりはしない。
紫藤の言葉を皮切りに、生徒達がペアを作ろうと動き出す、その刹那。
「ですが、その前に――三狭間播凰! 前へ出なさい」
「……む?」
紫藤の鋭い声が、それを停止させた。
突如、名を呼ばれたことに疑問の声を上げつつも、一拍遅れて言われた通り前へ出る。
「今回は、天能術に対して天能術で迎撃する、という形で対処をしてもらいますが。相手の攻撃に対しての回避の手段は色々あります。例えば、防御の術で防ぐのもそうですし、天能武装で弾くのもそうです。しかし状況によっては、天能武装が一時的に手から離れてしまい、それらができないなども戦闘中には有り得ます」
H組の生徒達の視線が、話を続ける紫藤と、首を傾げる播凰に集中する。
「さて、三狭間。君は入学早々にも関わらず天能武装を壊してしまい、現状手元にない状況とか。そうですね?」
「……ん? ああ、そも――」
「ですので! 少し、ええ、軽いデモンストレーションです。授業の内容としては少し先になりますが、攻撃を避けるというのも手段の一つ。彼にはそれを実践してもらいます」
結局、知らぬ知らぬと言いながら、播凰は未だ天能武装が何なのかを知らない。ただの武器ではないのだろうとは思っているが、それだけだ。知らない理由は単純、調べるのを忘れていたからである。
なので、紫藤の言い種に対して馬鹿正直にそう返答しそうになったが、それは言葉を被せられることによって強制的に搔き消された。
「……一先ずはそういう体で授業を見学してもらうので、話を合わせてください」
紫藤が播凰の耳元でそっとそう囁き、しかしすぐに離れる。
「やる事は単純、今から私が軽く攻撃をしますので、それを避けてください。……
「うむ、承知した」
紫藤が簡潔に指示を出し、播凰が頷く。
そうして、両者は充分な距離を取り、紫藤がその手に杖を――天能武装を持った。
「さぁ、行きますよ。――
途端、ふよふよと紫藤の周囲に浮かぶ、複数の塊。その名の通り鋼色のそれらは、未だ放たれず宙に停滞している。
なるほど、制御もそこまでいけばそんなこともできるのか、と播凰が呑気に感心していると。
ビュンッ、とその内の一つが風を切ってこちらに向かってくる。
狙われているのは、左足。播凰が半身をずらせば、地面を掠めて身体のすぐ横を鋼色の物体が勢いよく通り抜けていき、後方で着弾。土煙を巻き上がらせた。
「どんどん行きます」
紫藤の声と共に飛んできたのは、顔面直撃コース。播凰が身を屈めてやり過ごすと、すぐさま再び足元に次弾が。
下、上、下と目まぐるしく変わる狙いは、厭らしくもあり、効果的ともいえる。
その場で跳躍し上へと逃げれば。まるでそれを見計らっていたように、滞空する播凰への一撃。正確無比なその一射は、空中にて逃げ場を失った播凰の胴体を穿たんと猛烈な勢いで迫っている。
「ふふっ、楽しいな!」
だが、播凰には微笑む程には余裕があった。
空中で身を捩って躱し、バランスを崩すことなく両足で軽やかに着地。
ざわつきが、見ていた生徒達から起こった。
「やりますね。では、これでどうでしょう?」
残り、六発。これまでは一つずつであったが、今度はその全てが紫藤の元から発ち、上空へ昇っていく。
その動きに釣られるように播凰が頭上を見上げれば、鋼の六連星が自身目掛けて降ってきていた。
考えること、一瞬。
播凰は身体を前に投げ出すと、地面に片手を着いて一回転。すぐ背後で地面に落下した六撃は、その数も相俟って一際大きな衝撃を放つ。
それを見ていた紫藤は一つ頷き、生徒達の方に向き直り。
「とまあ、このように攻撃を躱して回避することも手です。これには天能力の消費無くやり過ごせるという利点がありますが、その反面、確実性に劣ったり動きによっては大きな隙を晒すことにも繋がります。ですので、やってはいけないとは言いませんが……」
そこまで言いかけ、紫藤はチラリと播凰を見る。
「彼は簡単そうにやってのけましたが、躱す、というのはイメージするよりも格段に難しいものです。そして皆さんは天戦科であり、天能術という手段がありますのでそのことを忘れぬよう。ただし、今回に関しても主目的は天能術による回避ですが、あくまでも授業です。危ない場合は後先考えず全力で避けること」
それでは始めてください、という紫藤の合図で、今度こそ生徒達が動き出す。
まずはペアを決め、お互いに距離を取り、他のペアと重ならないように広がる。
その様を、播凰が羨ましそうに眺めていると。
「やや強引となってしまいましたが、まあこれが一旦の落としどころでしょう。君が天能武装を持っていないのは、ある意味丁度よかったですね。……とはいえ、いつまでも凌げないという点はありますが」
隣に紫藤が並び、顔は正面を見たまま声をかけてくる。
眼前を飛び交う火に水に風、その他性質の天能術。生徒達の間を巡回する男性教師。
それらを見据えながら、播凰もまた言葉を返す。
「ふむぅ、早く性質を知って私も天能術を使えるようになりたいものだ」
そしてふと、思い出したように尋ねる。
「そういえば、天能武装だったか。見たところ皆、杖を持っているようだが……あれは、天能術を使うのに必要なのだろうか?」
「……説明することは勿論可能ですが、君は基礎知識からして知らないことが多すぎます。分からないことは何でも聞くのではなく、端末で調べるなり、図書室で本を読むなりする習慣をつけるといいでしょう。その上での不明点であれば、答えるのも吝かではありません」
「図書室か。……ううむ、あまり書物を読むのは気が進まないのだが」
問いかけには反応したが、その内容には答えてくれなかった紫藤。
本と聞き、悩まし気に唸る播凰を横目に、彼女は天能術を打ち出している生徒達に向け、声を張った。
「各々が強く認識していることでしょうが、クラス分けの仕組み上、この場にいるのは実力の近い者同士です。極端な手加減の必要はありません、いいですね!」
それから暫く、ぼーっと授業の様子を眺めていた播凰であったが。
あることに気付き、ポツリと漏らす。
「昨日戦ったE組の矢尾という者に比べれば、天能術の迫力が無いな」
「それは当然でしょう。あんな言動でもあの者はE組、天戦科の新入生では上位に入ります。言い方は悪いですが、最下位に位置するH組とは実力に開きがある。……もっとも、それに対応してみせた君だからこそ、デモンストレーションという形で、クラス全員の前で
「ふむ、いきなりで少し驚いたぞ。まあ、楽しかったからよいが」
二言三言、会話をしておいて今更であるが。
紫藤の播凰に対する態度は、昨日までと別段変わってはいなかった。今まで通り、気安いというほど近くなく、かといって邪魔者のように遠ざけるでもなく。
むしろ、今の口振りから考えるに、見直した――とでもいえばいいのか、上方修正したかのよう。
「……しかし、君はいいとして――いえ、よくはないのですが、さておき。彼、晩石毅でしたか。あちらもまた、別の意味で問題ですね」
紫藤がとある方向を向き、深い溜息を吐く。
どういう意味か、と播凰もまたそちらに視線を巡らせれば。
「――君さあ、晩石だったっけ? もっとちゃんとやってくれないと、こっちの練習にならないんだけど」
「す、すみませんっす……」
ペアとなったクラスメートの男子に責められるような声を上げられ、ぺこぺこと必死に頭を下げている毅の姿があった。
バフン、と帰宅早々、東方第一の制服から着替えもせぬままに頭からベッドへと飛び込む。
身動ぎ一つせずに、そのまま数秒。
ややあって仰向きに寝転がり、彼――晩石毅は、意味もなく部屋の天井を見上げる。
「覚悟はしてた……つもり、だったっすがね」
入学試験に合格した、と最初に聞いた時は半信半疑であった。何故ならそれを報せたのは、学園の関係者ではなく、最強荘の――ただのアパートの管理人だったからである。
だが、その言葉を裏付けるように、合格通知が届いた。
その時は、飛び上がるくらいには嬉しかった。駄目で元々、そのつもりで家族の反対を押し切り、ここにやってきたのだから。
だが、同時に不安も間違いなくあった。そんな天能術の名門校で、自分はやっていけるのかと。入学試験の段階で既に周囲とのレベル差を痛感させられた己が、である。
そしてその不安は、早くも現実のものとなった。
成績下位者が振られる、
初回の授業となった今日、ペアを組んだ全員でこそなかったが、文句を言われた数は一度や二度ではない。
天能術の制御は、なんとかできる。だがそれも、飛ばしたい方向に飛ばせる程度のもの。
威力は弱く、速さもなく、数もない。十中八九、実力としてはクラスの中でも下から数えた方が早いだろう。
しかし、一番下では確実にない。何故なら、あの人がいる。天能術を使えないという、三狭間播凰が。
だけど、播凰さんは――。
ピンポーン、と。
どろどろとした毅の思考を断ち切るように、訪問者を知らせる呼び鈴が鳴った。
ぼんやりしていると、まるで急かすように、もう一度音が響く。
毅がのそりとベッドから起き上がり、のろのろとした足取りで玄関に向かえば。玄関ドアの覗き穴から辛うじて見えるのは、小さき管理人。
「おっとー、学園からお帰りになられたばかりでしたかー」
「そうっすね……えっと、それで何でしょうか?」
「はいー、実は晩石さんにまた一つお手伝いをお願いできないかとー」
扉を開けた毅の姿を見て、少しおどけたように。
管理人は、ニコニコとした笑顔で、そう言った。
「手伝いっすか……今度はどのような?」
こうして頼み事をされるのは、初めてではない。
例えば清掃の手伝いであったり、それこそここに住み始めたばかりの播凰の手助けだったりと。
お世話になっているからその感謝もあるが、更には手伝えばお小遣いも貰えるので、お金に余裕のない毅の貴重な収入源だったりする。
「三狭間さんに、天能武装を作っていただける方をご紹介しようと思いましてー。そこまでの三狭間さんの道案内と、依頼者への説明ですねー。説明といっても、紹介状は準備するのでそれを渡していただくだけですー」
「播凰さんの……」
随分と、タイムリーともいえる話題であった。
「高齢の方なので、半分隠居のような生活を送っているのですが、腕は確かですよー。なんていったって、あの
「捧手……聞いたことあるっす。確か、昔から何人もの高名な天能武装の鍛冶職人を輩出しているっていう……そんな凄い方が、播凰さんの天能武装を?」
「ですねー。まず普通の人なら門前払いでしょうがー」
飛び出してきたのは、田舎に住んでいた毅でも耳にしたことのある一族の名。
そしてそんな人物が、播凰の天能武装を造るという。
「は、はは……やっぱり、播凰さんは凄いんすね。特別、なんすね」
自分なんかとは違って、という言葉はなんとか吞み込んだ。
だが、ポツリポツリと溢れる。
「ずっと、疑問ではあったんす。何で俺は合格できたんだろうって。何で、播凰さんは合格できたんだろうって。……いや、違うっす。何で、俺
「…………」
管理人は、依然ニコニコと。だが黙ったまま、聞いている。
「最初は、ギリギリでも滑り込めたのかと思ってたっす。でも、そうじゃないんすよね。特別な播凰さんが入学した。だから俺も、入学できたんすよね? ここに来た時のように、播凰さんを補助するために」
嬉しかったのだ。例え成績は下位であっても、実力が認められたのだと、そう思った。思い込んだ。不自然な点があったにも関わらず、都合のよいこと以外からは目を背けて。
だが、違うのだ。
自分は、晩石毅は――つまり、実力が評価されたわけではなく。
「お情けの入学なんでしょう? あくまで俺は、播凰さんのついでで……俺じゃなくても、あの人を補助するなら誰でもよかったんでしょう!?」
毅の涙交じりの叫びが、最強荘の敷地に響く。
はぁはぁ、と肩で息をする毅を前に、管理人は何も言わない。
ただただそのにこやかな笑みをもって、毅の顔を見続けるだけ。
「……すみません、取り乱しましたっす。ちょっと今は、その……ごめんなさい、お手伝いはできそうにないっす」
「そうですかー。ただ、一応その場所は端末の方に送っておきますねー」
漸く彼女が口を開いたのは、毅が断りを述べてからであった。
それではー、とあっさり引き下がり、毅の家の扉を閉めた管理人。
「さてさてー、見込み違いでしたかねー」
彼女のその言葉は、誰の耳にも届かず虚空に消えていった。