三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~ 作:鷲野高山
「【切り抜き】大魔王ディルニーン vs ユーシャJ【大大大魔王軍/ディルニーン】」
『フハハハハハッ!! 勇者如きが、この大魔王ディルニーンに勝てると思うてか!』
・コメント:おっと、この流れは…?
・コメント:ユーシャJが上がってきたああ!
・コメント:大魔王様が1位、ユーシャが2位……以下大大大魔王軍雑兵、か
・コメント:おい、3位以下ちゃんと走れwww
・コメント:ユーシャがんばえー!
画面の中、右横の隅の方で、漆黒の衣装に身を包んだ銀色の髪の男のイラストが高笑いをしている。
中心では、車らしき物と景色が変わっていく映像が映し出され、その上を流れていくのは白い文字。
「確か、げえむ……レースゲームというのだったか、これは?」
最強荘一階の住人、
彼によるとこれは、その内の見所を抜粋した、切り抜きというものらしい。
そして初めて会った時に彼が言っていた配信者――正確にはVtuberというらしいが――という仕事が、これとのこと。
確かに言われてみれば、機械を通しているからか若干声が違う気はするが、高笑いや会話のテンションはまんま万音である。
本日、学園は休日のため休み。
そのため時間を持て余した播凰は現在、最強荘三階の自室にて端末からそれを視聴していた。
ちなみに、よく分からぬまま万音に押し切られたとも言う。
『ヌオッ!? 操作反転か。小賢しい真似をっ!!』
・コメント:あれは、伝説の性質の!?
・コメント:ああ、幻の性質、幻だ!!
・コメント:?????
・コメント:ここで伝説の性質を発動してくるとは、流石ユーシャ
・コメント:でも伝説の割に、効果は短時間相手の操作を反転させるだけというね
・コメント:でも伝説だからか出現率はかなり低いらしいね
・コメント:初心者ならまだしも、慣れちゃうとなぁ……
幻、という文字が画面中央に浮かんだかと思えば、銀髪の男――ディルニーンが高笑いを止め、その顔が少し真剣になる。青年に分類されるその見た目は整っており、一裏万音の現実の姿に似ているような気もするし、似ていないような気もする、という印象を播凰は抱いた。
と、彼が操作しているであろう車が、後方から飛んできた大量の水に吞み込まれ、速度が大幅に鈍る。
その隙に、後ろから1台。「ユーシャJ」という文字が上に表示された車が横を通り抜けていき、画面に表示されている文字が1位から2位に変わった。
「……伝説の性質、幻? なるほど、そういうものもあるのか」
だが播凰が注目したのは、その絵面ではなく、流れるコメントの方。天能の性質に種類が複数存在することは知っているが、どのようなものがあるかまでは詳しく知らない。時間のある時に見てみるのも一興か、とそのコメントを見て考えていた。
別のところに気を取られる播凰であったが、そんなことはおかまいなしに画面は過熱していく。
・コメント:勝ったな
・コメント:いける、勝てるぞユーシャ!!
・コメント:今度こそ大魔王を倒して俺達を解放してくれっ!
・コメント:大魔王なんかに負けないで
・コメント:大魔王(笑)
・コメント:ユーシャがんばえー!
流れる文字は、「ユーシャJ」を応援する声一色。
『クッ、余の配下達よ! 勇者を応援するとは何事かっ!?』
ディルニーンはそれを見咎めて、不満の声を漏らすが。その声は怒っているようであり、同時に楽し気な響きも帯びていた。
画面からは先を行く一台が視認できる程度に両者の位置は近い。
鍵を握るのは、道中に落ちている天能武装。
杖型のオブジェクトに触れば、相手を妨害する天能術が。籠手型のオブジェクトに触れば、自分を強化する天能術がランダムで発動可能になるようだ。
ディルニーンが触れたのは杖型、取得したのは火の天能術。
ゴールはもうすぐそこ、狙いを定めたディルニーンが火の天能術を発動すると、全方位に火の矢が放たれ、前を行く「ユーシャJ」の車に当たった。
『フハハハハッ、余の勝ちである。ゲームであろうと、勇者なんぞにこの大魔王ディルニーンたる余が負けるはずはないのだっ!』
・コメント:ここで勝てないのがユーシャwww
・コメント:勇者じゃなくてユーシャだからね、仕方ないね
・コメント:ユーシャ(笑)
・コメント:大大大魔王軍バンザーイ
・コメント:流石ディルニーン様だ!
・コメント:この流れまでが1セット
結局、火の天能術の妨害が成功し、ディルニーンが1位を取り戻してフィニッシュ。
コメントが一転、掌を返したように勇者を貶め、魔王を讃えるもので溢れかえった。
動画が暗転し、先程とは違うシーンが流れ始める。
画面の構成は一緒だが、今度は何やら四角い面に黒と白の丸く平べったい物体が並べられている。
行われているのは、オセロ、またはリバーシと呼ばれる、盤上のゲームだった。
「ふむ、相手の色を自分の色で挟んでいけばよいのか。……ううむ、頭を使うのか?」
進んでいく映像を見て、その内容を理解する。
播凰は頭を使うのがあまり得意とはいえない。だから仮にやるとなったら、自然と考え無し――というか、勘になるのだろうが。
黒と白、多いのは数えるまでもなく黒。誰がどう見ても迷わぬほどに圧倒的だ。
そして、黒のプレーヤーは、大魔王ディルニーンである。
『フハハハハッ!! 笑いが止まらぬとはこのこと。趨勢は決したも同然、我が軍の力に勇者の命など風前の灯よっ!」
相対するのは、またしても「ユーシャJ」と表示されるプレーヤーであった。
・コメント:まだだ、まだ……っ
・コメント:逆転の芽はきっとある!
・コメント:俺達の力、お前に預けるっ
・コメント:だから頼む、勝つんだユーシャ!
・コメント:がんばえー!
怒涛の勢いで流れる応援。
それに勇気を貰ったかのように、白は息を吹き返し、黒を染め――。
『フハハハハッ!! 弱い、弱すぎるぞ、勇者っ! よくもそれで余に挑んだものだ!!」
・コメント:流石は、古参リスナーにして最弱
・コメント:実はコイツ大魔王様のこと大好きだろ
・コメント:ユーシャwwwジェイwww
・コメント:大大大魔王軍バンザーイ
・コメント:バンザーイバンザーイ
・コメント:この流れまでが1セット
――ることはなく。白は両の手の指で数えられる程度に対し、黒はその何倍か。
ディルニーンの勝利宣言、コメントは勇者を煽る内容。
『だが、寛容な余は許そう! ただし、幼い童女であればの話だがな、フハハハハッ!!』
・コメント:出たよ、ロリコン
・コメント:これが大大大魔王軍のトップってマジ……?
・コメント:お巡りさん、出番ですよ
・コメント:一般人が大魔王に勝てるわけないんだよなぁ
・コメント:リスナーの中に強い天能術を使える人はいらっしゃいませんかー!?
・ユーシャJ:私にお任せくださいっ!
・コメント:ユーシャ、あなたもう敗けたでしょ
「ゲームに、配信者――Vtuberだったか。うむ、天能よりは劣るが、中々こちらも楽しそうではないか」
播凰の目にはそれが楽しそうに映った。いまいちよく分かっていないことはあり、ディルニーンは兎も角としてユーシャJが何者かも当然知りはしないが。取り敢えず興味が湧いたことに違いはない。
――ピンポーン。
だが、続きを視聴しようとしていたところ、播凰の部屋の呼び鈴が鳴る。
はてと動画を一時停止させ、玄関へ。来訪者が誰かも確認せずに扉を開けば、そこにいたのは最強荘の管理人であった。
「お休みのところ、失礼しますねー」
「おお、管理人殿か」
「突然ですが、三狭間さんー。本日、ご用事などはありますかー?」
そして開口一番、そんなことを問われる。
「用事、は特に無いが……」
この世界に来た当初は、与えられた部屋や物の確認をしていたり、毅に連れられて最強荘周辺を歩き地理や店を覚えたり、といったことをしていた。
東方第一への入学が決まってからは、管理人監視の元で勉強の日々。
そう考えると、何もする必要がなく時間のある日というのは久しぶりのことで。
休日に何をすればも分からぬから、当然予定らしい予定もない。一応万音に勧められるまま動画は見ていたが、別にそれは用事ではない。
「……まさか、また勉強とは言うまいな、管理人殿?」
答えている合間に嫌な予感が脳裏を過り、さっと播凰の顔が青褪める。
そんな播凰に、しかし管理人は首を横に振り。
「最低限の知識は叩き込んだつもりですのでー、後はご自身で頑張っていただければよいかとー」
ほっ、と安堵の息を漏らす播凰。
けれどもその様子を見て、管理人の口元が弧を描き。
「もっともー、三狭間さんがお望みであれば考えますがー……?」
「いや! 私は私で頑張るぞ、心配無用だっ!!」
たまったものではない、と播凰は両手を前に突き出してその提案を慌てて一蹴する。
クスクスと笑う管理人は、その慌てぶりに満足したのか、本題に入った。
「おほんー、それでお伺いしたのはですねー。天能武装をお持ちでない三狭間さんに、それを造っていただく職人さんを紹介しようと思いまして―」
「おお、天能武装か」
「はいー。時に三狭間さん、天能武装についてはご存じですか?」
「うむ、調べたぞ! 天能術の行使に役立つ他、色々な効果も付与できる、通常の武器とは異なる特殊な武装のことだな!」
端末から動画を視聴できるようになった通り、播凰も端末の使い方というのにも慣れつつあった。
ということで紫藤のアドバイスを活かし、ジュクーシャには質問せずに調べてみたのだ。
天能武装とは、天能術を扱う者が基本的に持つ特殊武装。天能術の発動を補助したり、性質を纏わせることで武装に対して術を発動をする、といったようなことができるらしい。
天能力を武装に流すことで術者の天能に馴染み、天能術を発動する要領で好きに取り出したりしまったりもできるようだ。今まで播凰が見てきた、何もないところから杖が出てきた現象というのは、つまりそういうことである。
武装の種類は通常の武器と変わらず製造できるようで、天能術をよく使う者は杖型が、接近戦主体の者は剣や槍、籠手などその他個人の好みが適切とされ、普通の武装と変わらず切り合いや打ち合いで使えるのだそう。
後は、職人によっては特殊な効果を付与できる者もいるのだとか。
そう脳内で反芻し、ふと疑問を口に出す。
「……時に、管理人殿。つかぬことを聞くが、昨日学園にいたか?」
「いいえー。この身はただの管理人、関係者でもないのに学園に入れるわけないじゃないですかー」
「うむ、それもそうか」
おかしな人ですねー、と笑う管理人の返しに播凰は納得して頷く。
どうやら昨日、第三グラウンドの観客席にその姿を見た気がしたのは、思い過ごしであったようだ。
「だが、ちと今は……いや、私も欲しいのは山々なのだがな!」
欲しくはない、というわけではない。むしろ、欲しい。性質が分からない現状では、効果が発揮されないにしても、だ。
しかし紫藤の話によれば、天能武装がないため授業に参加していない、という建前。
手に入れてしまうと、紫藤がまたしても頭を抱える――播凰は気付いていないが――事態となる。
「それについてはご心配なくー。量産品であればともかく今回はオーダーメイド、つまり完全に播凰さん専用に造られるわけですー。よって、注文してから日数はかかりますし、受け取っても秘密にしておけばー」
「なるほど……なるほど」
そう言われれば、播凰の欲がぞわぞわと疼いた。明らかに気分が上がり、目を瞑ってうんうんと頷く。
「それに恐らく、頼むにも一筋縄ではいかないでしょうからー」
だが、続いた管理人の言葉に、はてなと播凰の首が横に倒れた。