三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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五話 播凰、配信に出る

「フハハハハッ、余の配下共よ、会合の時間だ! 余こそは大魔王ディルニーンである。()く、ひれ伏すがよいっ!!」

 

 ・コメント:はっ!

 ・コメント:ははぁ~

 ・コメント:ゲスト期待

 ・コメント:客将が出ると聞いて

 ・コメント:初見です

 ・コメント:例の動画から

 

 お決まりの高笑いを響かせ、VTuber大魔王ディルニーンの配信が始まった。

 画面の中で、漆黒の衣装に身を包んだ銀色の髪の男がふんぞり返っている。

 瞬間、流れる始めるコメント。

 そこには、配信開始時のお約束といっていいコメントもあるが、とある単語に触れているコメントも散見された。

 

「余の軍勢への加入希望の者はよくぞ来た。そして皆、興味津々であるな。今宵は、先日紹介した我が大大大魔王軍に迎えし者と共に、会合を進めてゆくぞ」

 

 ・コメント:おおー

 ・コメント:待ってた!

 ・コメント:一体誰なんだー(棒)

 ・ユーシャJ:ぐぎぎ……っ

 ・コメント:ユーシャJさん??

 ・コメント:ユーシャ、どうしたwww

 

 ディルニーンの発した言葉により、盛り上がる反応。

 否定的な言葉がゼロというわけではないが、概ね今のところは悪印象ではないらしい。

 

「もっとも、声だけではあるが――そら、喋るがよい」

「うむ」

「…………」

 

 とはいえ、いまいち状況を理解していない播凰である。

 問答無用というわけではないが、半ば強制的に連れてこられたのだ。もっとも、それを面白そうという理由で話に乗った播凰の方にも問題はあるのだが。

 これといった説明もされず、ディルニーンもとい万音の近くに座って画面を眺めていたところ、唐突に振られたので取り敢えず返事をした。

 だが、それでは不足であったらしく、ディルニーンが堪らずツッコミを入れてくる。

 

「……うむ、ではないわっ! 名乗るぐらいせぬかっ!」

「なるほど、名乗ればよかったのか。私の名は、()――」

「戯けかっ、貴様! 誰が真の名を名乗れと言った! 貴様は、客将と名乗ればよいのだっ!!」

 

 ・コメント:天然かな?

 ・コメント:ポンコツか

 ・コメント:大魔王様がツッコむなんて……

 ・コメント:客将、恐ろしい子!

 

「客将? ……ふむ、面白い。いいだろう! そのような立場、我が国が滅びでもしなければ、到底有り得なかった故な!」

 

 ・コメント:???

 ・コメント:国が滅ばないとってどういう立場だ

 ・コメント:忠誠心が篤いってことかな

 ・コメント:どういう設定なん

 ・コメント:亡国の王子とか?

 

 客将、という単語に反応した播凰がポツリと零した呟きに、困惑と推察が流れる。

 播凰自身、その自覚というのは余り無かったが。お飾りとはいえ、仮にも一国の王。となれば、客将になるにはそれこそ国が滅ぶなどで王の立場を失うぐらいしかなかっただろう。

 

「フハハハハッ、それでは紹介も終えたことだ。早速、遊戯でも始めようと思うが――その前に。軽く、質問タイムを設けてやろう。誰ぞ、客将に聞きたいことがある者はおるか?」

 

 ディルニーンが問いかけた途端、バーッとコメントが加速する。

 どれどれ、と彼が選別した結果は。

 

 ・コメント:あの動画のドラゴンはどうやって撮影したの?

 

「そら、これに答えるがよい。ああそれと、不用意な発言は控えよ。身バレに繋がる」

「身バレ? それはなんだろうか?」

「身分が露見することだ。それはこちらも困るのでな、まあ怪しい場合は先程のように余が止めてやろう。だが、注意して発言するがよい」

「なるほど……」

 

 説明を聞き、少し考える。その結果。

 

「あのドラゴンはな。私もよく知らぬが、黒い杖から出てきたのだ」

 

 詳細を省いて端的に事実を伝えるだけになった。

 

 ・コメント:本物だってこと?

 ・コメント:はい嘘ー

 ・コメント:嘘乙

 ・コメント:馬鹿、そういうシナリオってことだろ

 

 疑惑、虚偽の指摘、好意的な解釈。

 内容が内容なだけに、若干コメントが荒れ始める。

 中には奇特にも、信じる旨の内容もあったが、どこまで本気なのか。

 

「ふむ、まあ言ったように私もよく分からぬのでな。嘘と思われても仕方ないとも言えるな!」

 

 だが、播凰は全く気にしていなかった。

 むしろ、嘘つき呼ばわりされているのが面白いかのように、笑って肯定している。

 そのあまりにさっぱりとした態度は拍子抜けだったのか、コメントの勢いが少し収まった。

 ただし中にはまだ嘘つき呼ばわりするものもあるが、そう多くはない。

 

「では、次だ。皆の者、再び質問をするがよい」

 

 ディルニーンが仕切り、再びコメントの中から問を拾う。

 

 ・コメント:東方第一の生徒って本当?

 

「ふむぅ……それは秘密だ」

「まあ無難だな」

 

 播凰は少し迷った。

 忠告が無ければ迷わず肯定していただろうが、身分の露見に近づく可能性はある。

 とはいえ、正解はないだろう。否定したとしても疑いは晴れることなく、曖昧にしても疑義は変わらない。つまり肯定以外は似たり寄ったりだ。

 そしてディルニーンはディルニーンで質問を拾った当人であるにも関わらず、さらりと流す。

 

 ・コメント:まあ、身バレする可能性あるもんね

 ・コメント:黙まりと一緒じゃん

 

 擁護とブーイングが入り混じるコメント欄。

 だが、文字だけではあるがあまり良いとは表現できない空気。未だ慣れてもおらずよく分かっていない播凰も、なんとなくそれを直感した。

 だがこの雰囲気は、次の瞬間霧散することとなる。

 

「時間の関係もあるからな、これで最後だ」

 

 最後の質問、それは。

 

 ・コメント:大魔王様とはどんな関係ですか?

 

 播凰は、ディルニーンを――万音をちらと見る。

 どんな関係、難しい質問だ。そもそもが何故このような状況となっているのか。

 それを考えた時、実に的確な答えが脳裏を過った。少なくとも、播凰はそう思った。

 

「同じ場所に住んでいるな」

 

 ・コメント:同じ場所に!?

 ・コメント:一緒に住んでる!?

 ・コメント:kwsk

 ・コメント:同じ部屋で配信して

 ・コメント:同じベッドで、くんずほぐれつ……

 ・ユーシャJ:そんなっ!?

 ・コメント:┌(^o^┐)┐ホモォ

 

 刹那、それは一色に染まった。

 おおよそ、播凰の予期せぬ方向に。理解の少ない、というよりほとんど知識に無い方向に。

 これまで以上の勢いで加速していく。

 

「阿呆か、貴様達っ! 余が興味があるのは、幼き少女だけだ!!」

 

 それに激怒したのは、ディルニーン。

 まず画面に向かって――正確に言えばコメントの、その向こうにいるであろう人々に向かって、怒鳴り立てている。

 

「そして客将、貴様もだ! 紛らわしいことを抜かすでないわっ!!」

 

 かと思えば、播凰に振り返り同じく怒声を浴びせた。

 

「……?」

 

 同じ場所――つまり最強荘という、同じ建物に住んでいる。

 単純に事実を告げただけであるのに、理解していないのは播凰ただ一人であった。

 

 

 

「曲がり切れぬ……おお、また落ちたぞ!」

 

 ・コメント:客将、頑張れ!

 ・コメント:ドリフト、ドリフト使わなきゃ

 ・コメント:天能術を使うタイミングも重要だよ

 

「こう、ピコピコと色々なボタンを押さねばならないというのは大変だな!」

 

 ・コメント:ピコピコって……

 ・コメント:いつの時代の人ですか、あーたは

 

 質問タイムも終わり。

 現在、ディルニーンが遊戯と称した時間――即ちゲームプレイの時間に移行していた。

 ゲームは、以前播凰が切り抜き動画で見たレースゲームだ。

 車を操作し、ゴールを目指す。途中に天能武装のオブジェクトが落ちており、杖型は主に相手を妨害する効果が、籠手型は自分を強化する効果が得られる、というもの。

 

「ふむぅ。実際にやってみると難しいものだな、このゲームとやらは!」

 

 そして結果。

 ゴールに到達することなく、レースの終了を告げるゲーム画面が表示されている。

 つまりは、最下位。ほとんどの人が不機嫌、もしくは残念そうにする結果であることは言うまでもない。

 

「よぅし、次だ、次!!」

 

 だのに、はしゃいでいる。

 コントローラーを強く握りしめ、期待と興奮に目を輝かせ。

 正しく玩具を与えられた子供と体現するに相応しい様相で、播凰ははしゃいでいた。

 

 ・コメント:ここまで全部最下位

 ・コメント:なんか草

 ・コメント:まあ、思いっきり初心者の動きだし

 ・コメント:でもなんかすげー楽しそうだよな

 ・コメント:見ているこっちにも伝わるというか応援したくなるというか

 

 コメント欄も、その内容に合わせるように流れている。

 それに対して。

 画面中央から縦に二分された、もう一方の画面。

 そこには、トップを示す1位という文字が燦然と大きく主張している。

 要するに、二人プレイというやつだ。

 

「フハハハハッ、またしても余が頂点である!」

 

 ・コメント:あれ、大魔王様ってこんなに上手かったっけ?

 ・コメント:いや、上手い下手でいえば上手いんだけど……うん

 ・コメント:隣があれだから、すげー上手く見える

 

 客将――播凰が最下位であるならば、ディルニーンはその真逆で最上位。

 何レースかしたその全てがこの結果だった。

 

 ・コメント:客将は、このゲーム初めてなの?

 

 次のレースへの待機中、ふと一つの質問が播凰の目に止まる。

 

「うむ。このゲームというより、ゲーム自体が初めてだ! なにせゲームという存在自体、ついこの間までは知らなかったからな、持ってもいなければ触ったこともなかったぞ!」

 

 当然、元の世界にそんなものはありはしない。もっとも、遊びという概念がなかったわけではないが。

 

 ・コメント:え……

 ・コメント:何、その闇が深い

 ・コメント:そんなことありえる?

 ・コメント:設定なのかガチなのか

 

 普通に生きていればそうそうない状況のカミングアウト。それにはコメントも、どう反応したものかとなるものだろう。

 噛みつく人間が一定数いたが、それはもはやご愛敬だ。

 と、そんな中で。

 

 ・スパチャ:大魔王様、これで客将に買ってあげて \50000

 

 何やら赤いコメントが播凰の目に映る。

 赤色に限ったことではないが、今までもちょくちょく見かけたものだ。何だろうかと思いつつも、ゲームの方に熱中していたので気にする余裕はなかったが。

 だが、今はレース中ではない。播凰の意識が、ゲーム画面からそちらに移った刹那。

 

 ・スパチャ:ワイからも \10000

 ・スパチャ:初心者を応援するのも意外と楽しかったで! \5000

 ・スパチャ:新たな同士に \2000

 ・スパチャ:大魔王に勝つまで練習しろ \10000

 

 次々と、色が続いた。赤だけではなく、様々な色が流れては消えていく。

 これだけ目につけば、聞かずにはいられない。

 

「大魔王よ、この色のついたものはなんだ?」

「これはスーパーチャット――言ってしまえば、この配信を視聴している者から余への上納金だ」

「ほぅ、上納金か」

 

 ディルニーンの説明を聞き、感心したように播凰が呟けば。

 

 ・コメント:いや、これは客将に向けてだよ!!

 ・コメント:大魔王様、ちゃんと説明してください!

 ・スパチャ:お前が使うんだよぉ! \1000

 

 その声色が、どこか他人事であることを思わせたのか。

 いや、そもそもディルニーンの説明が、説明のようで説明でないからか。

 兎も角、コメントから突っ込みが入る。

 

「言われずとも分かっておるわっ! ……おほん。客将よ、中にはお前宛のものもある。礼の一つぐらい言っておくがよい」

「む、そうなのか? ……うむ、それではありがたくいただこうぞっ!」

 

 と、こんな調子で配信は進んでいき。

 

「それでは、今宵の会合はここまでとしよう。余の配下共よ、次回の会合を待つがよい!」

 

 ディルニーンの終わりの挨拶と共に、配信は終了した。

 

 余談ではあるが。

 ゲームをやるにも、ある程度のセンスや実力というものは必要だ。

 ただし世に存在するゲーム全てが、そのプレイヤーの力量に直結するわけではない。

 

「ほぅ、サイコロの出目を競うゲームか。運試しというやつだな!」

「客将、貴様っ!! 何故そうも高得点の役ばかりが揃うっ!?」

 

 ・コメント:客将の運パネェwww

 ・コメント:初っ端の一投目から五つ全部ゾロ目なんて初めて見たぞ…

 ・コメント:つうか、その後の出目もやべぇ

 ・ユーシャJ:流石です!!

 ・コメント:おっと、不正か?

 

 ゲームの一幕には、ルールをよく理解していないまま快勝する客将(播凰)と、ボコボコにされるディルニーン(万音)の姿があったとか。


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