三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

48 / 117
17話 三狭間播凰の待望の一日(終)

「やるやんか、三狭間。まさかここまでとは思いもせんかったわ」

「ふふん、そうだろう。どうだ、手加減を無しにしても構わぬぞ?」

 

 予め決めていたわけではないが、偶然にも両者一度ずつとなった攻防が終わり。戦いが終わったという意識こそ互いになかったものの、二人は一定の距離を保ちながら会話に興じていた。

 小貫がかけたのは純粋な賞賛。対して、挑戦的な言葉と共に胸を張る播凰。

 それを受けた小貫は苦笑して。

 

「せやなぁ……アンタが術の一つでも使えるようになったら、そん時は考えてもええで。あくまでこの手合わせは、覇の術が発現するかどうかの軽いお試しみたいなもん。発現しなくて元々、すれば御の字っちゅーところやったし」

 

 チラリ、と紫藤と毅の方を――正確には紫藤を見やる。

 

「ま、後のことは本職(教師)の綾ちんに任せるとして。その真似事やないけど、期待の超大型新人のアンタへ、ウチから伝えるのは最後に一つ。そのために、今からウチは術を使うわけやが……ズルいとは言わへんな?」

「うむ、私ができない以上は仕方がない、存分に使うといい! お主の天能術、私にもっと見せてくれ!」

「お、おおっ、そうか? 三狭間、やっぱアンタはノリがええなぁ!!」

 

 小貫の宣言に、不満は呑み込みつつ当然のように賛同する播凰。

 気にしないというのは流石に無理であったが、自身が使えないものは割り切るしかない。代わりに、どんな術が行使されるのかという期待感もある。

 流石にその反応は少し気恥ずかしかったのか、小貫はポリポリと頬を掻きはしたが。それを誤魔化すように咳払いをし、表情は柔らかいままながら彼女の瞳に真剣さが宿る。

 

「覇を意識する。ウチはさっきアンタにそう言ったけども、具体的にどうすればいいかはパッと分からんかったんやないか? ……ウチも、最初はそうやった。『覇』ほど激レアやないけど、『探』の性質も割とレアでな。少なくともウチは、性質が判明した時はすんなり(・・・・)受け入れ(・・・・)られなかった(・・・・・・)し、身近に同じ性質を持つ人間もおらんかった」

「…………」

「細かいことは色々と端折るけどな、つまりウチは――文字通り、探とは何かを探らなあかんかった」

「ふむ」

 

 朗々とした語りに、余計な質問も茶々も挟まずただ播凰は相槌を打って聞き入るのみ。

 

「性質こそ違えど、スタート地点は本来皆一緒なんや。己にとって、その性質とは何か。まずはそれを理解しようとすることから始めなアカン」

 

 もっともアンタみたいに術が全く未発現てのも珍しいけどな、と小貫は少しおどけたようにした後、更に言葉を続ける。

 

「とはいえ、アンタの周り――学生レベルなら、それを意識してる奴の方が少ないかもしれへん。なんなら、そんなこと全く頭にない奴も普通にいるやろうし。よくある性質なら(・・・・・・・・)、最初の内は色々考えんでもそれで通用するんやが……ま、そこは気になるなら綾ちんに教えてもらい」

 

 と、そこまで言うと。小貫は深く、そして長く息を吐き出し。

 

「なにより、ウチもまだ完全には理解しきってない。探とは何か、ウチにとってそれは何なのか。……けど、ウチはウチなりにその命題に向き合い、答えを出しとる。その一つが、これや」

 

 すっと両の眼を閉じて、天能武装を持ったまま彼女は静かに両手を組み合わせる。

 一見すれば、無防備な姿。だが、彼女の漂わせる空気が、迂闊な踏み込みを許そうとせず。

 

「――探溜(たんりゅう)眼識(がんしき)照覧(しょうらん)

 

 紡がれた呪文は、天溜属性。

 術者自身に対して様々な効果を与える系統にして、播凰が初めて対面する属性の術。

 一拍の間を置き、小貫の双眸が開かれる。

 半眼であり、その瞳の奥に湛えるは不思議な光。

 

 播凰が感じられたのは、その程度だった。

 見られている感覚はあるが、さりとて極端な変化が小貫に起きたとは感じない。

 

「……っ!」

 

 だが、同じくそれを眺めていた毅は気付く。

 小貫の顔、特に目を中心に、彼からすれば膨大な天能力が集まっていることを。

 播凰のような鈍感――天能力の感じが鈍い人間では気付けない。もっとも、播凰の場合は天能力がどういうものなのかすら未だに理解していないのもあるのだが。

 

「ほな、行くで」

 

 短くそれだけ言うと、小貫は動き出す。

 といっても、その時点では先程と変わらない。速度が大幅に上昇したとかでもなく、普通に正面から突っ込んでくる。

 

 小回りが利くもののかなりの接近が必要な小貫とは違い、天能武装のリーチの面では播凰の方が勝っている。

 それゆえ今度は受けに回るのではなく、懐に入られてその刃が繰り出される前に、杖を突き出したのだが。

 

「ほぅ」

 

 ギリギリで避けられた。いや、正確に言うなら、余裕を持って紙一重(・・・・・・・・・)で避けられた。

 播凰の攻撃の直前。杖による突きが放たれる正しく寸前に、彼女は半歩だけその身を横にずらしたのである。

 

 突きを躱して左側面に回り込んできた小貫が、そのまま播凰の無防備な脇腹へと腕を伸ばす。

 しかし彼女の動き自体は見失っていなかった播凰は、バックステップでそれから逃れつつ。蹴りで迎え撃とうと身体の向きを入れ替え、右足を振りぬこうとして。

 

「ぬっ?」

 

 その初動、勢いがつく前に、右太腿に手が置かれる。まるで蹴りが放たれるのを阻止するかのように、播凰の足を小貫の手が上から押さえつけていた。

 が、如何に初動を封じられようと、両者のパワーの格付けは済んでいる。故に、それで止められるほど柔ではなく、小貫の行動はせいぜい出だしを僅かに遅らせたにすぎない。

 もっとも、彼女にとってはその僅かで充分だった。播凰の右足は強引に振りぬかれたものの、しかし既にそこには誰の姿もなく。

 

「――ウチの術がどういうもんか分かったか?」

 

 背後から、問いかけ。背中に感じるは掌の感覚。

 播凰の後ろに回り込み、その背に片手を添えているのは、他でもない小貫その人であった。

 

「ふむ。……どうにも私の行動を見てからではなく、見る前から動き出していたように思う。……俄かには信じ難いが、つまり私が何をしようとしていたのかを知っていたのではないか?」

「正解や。正確には視た、やけどな」

 

 杖での攻撃、足での迎撃。双方があっさり無効化された時のことを思い出し、播凰はその結論を導き出す。

 振り向かぬまま視線を合わさずに答えれば、返って来たのは肯定。

 

「……にしても、綾ちんが言うだけあるわ。たったの数回でウチの術の効果を見抜いたのもそうやし、何より妙に戦い慣れとる。ああ、身体能力も少しオカシイな」

 

 戦いが始まる前の紫藤の言葉を思い出したのか、小貫はフッと鼻を鳴らすと。

 

「最初見た時からただの生徒やない気はしとったけど……いやまあ、覇の性質を持つ奴が普通なわけあらへんか」

 

 何を思ったのか、跳び上がって播凰の背に乗り。

 その両肩に手をかけて耳元に口を寄せ、まるで播凰にだけ聞こえるように、聞かせるように。

 

「なァ――三海の覇王様(・・・・・・)?」

 

 彼女は、そう囁いた。

 妖しく耳朶を打った単語に思わず瞠目し。反射的に顔を振り返った播凰の目に、思わせぶりな笑みを浮かべた小貫の顔が映る。

 既に半眼でなく、肩越しにこちらを見るその瞳の奥には意味深な光。

 

 ……っ。

 

 何故、と問うべきであったのだろう。

 それは本来、この世界の住人が知り得ないはずの――知っているわけのない言葉であり。だのに、彼女はそれを口にしたのだから。見も知らぬ誰かではなく、他でもない三狭間播凰へ向けて明確に。

 ここでその異名を認識しているのは、自身と最強荘の管理人だけ。少なくとも、播凰の認識の範囲では。

 

「…………」

 

 けれども、言及して然るべきなのに、しかし播凰はすぐに口に出来なかった。それほどの衝撃を以て、彼に沈黙を強いたのだ。

 その反応を、小貫はどう捉えたのか。

 

「いやー、驚かせてスマンなぁ。ほれ、さっき性質を調べる時に言うたやろ? 変に抵抗されたら必要以上に探ってまうかもって。最初、使える術が分からんかったから抵抗されとるて勘違いしてな。ちょいと深くまで探っちまったんや」

 

 彼女は、パッと播凰の背中から離れると。

 ゴメンなあと謝りを入れつつ、顔の前で両手を合わせて少し頭を下げる。だが、次の瞬間には顔を上げて、ニヒヒッと歯を見せるように笑うと。

 

「けどな、ウチが拾った(・・・)んはそれだけ。それ以外は何にも知らんから、心配せんでもええ。……なあに、カッコエエやんか。分かる、分かるでぇ。あだ名や二つ名に憧れて、自分で色々考えるのも、若い内の特権や!」

 

 言うだけ言ってヒラヒラと手を振り、無言で佇む播凰をその場に残して紫藤達のいる方へと歩いていく。

 どうやら手合わせも、そして伝えたいこととやらも、これで終わりのようだった。

 

「――私が止めに入るような事態にならず、なによりです。……とはいえ夏美、あの術を使う必要性があったのかは少々疑問が残りますが」

「なっはっは、むしろ礼を言ってくれてもいいんやで、綾ちん。どういう術が発現するか予想がつかん以上、こういう術もあることを知っといて損は無い。しかも、それがあの『覇』の性質なら尚更や!」

 

 苦言、までとはいかずとも相変わらずの堅い顔でそれを迎えた紫藤を前に。

 鼻高々と一蹴し、自論を展開する小貫。

 

 紫藤は嘆息をしつつ、けれども一応の理は認めていたのか。

 

「まあいいでしょう。……しかし術を使った貴女に三狭間が対応できなかったことは逆に安心しました。最初、当たり前のように反応していた時にはどうなることかと思いましたが」

 

 それ以上詰問はせず、矛を収める。

 毅にも告げたことだが、天能術無しの状態とはいえ小貫と普通にやり合い始めた播凰の姿に、紫藤は眩暈を覚えたものだ。元々おかしいのを重々承知した上で、である。

 けれど、小貫が天能術を使ってからは播凰は押され、最終的に背後を取られるという致命的な隙すら晒した。

 とはいえ、片や東方第一の卒業生にして現場の第一線で活躍する実力者(夏美)、片や高等部の新入生にして術すら使えない新人(播凰)。一般論からすれば当然であるはずのその光景に、しかし内心ホッとしてしまったのも事実。

 

「そら、そうやろ。流石に、術を使った上で学生相手にいい勝負とあっちゃ、ウチは天対の看板を下ろさなアカンわ」

 

 そんな紫藤の戦評に、一旦は能天気に笑った小貫であったが。

 

「――対応できなかった、か。……そいつはどうやろうな」

 

 しかしボソリと呟くと、未だ動かない播凰へと流し目を向ける。

 誰にも聞こえぬ程に声量を落としたそれは、紫藤の耳には入らなかった。

 

 ……うむ、考えても仕方ないか。

 

 動揺はあったものの、よくよく考えればその異名(三海の覇王)を知られたところで何か不都合が生じるとも思えなかった播凰は、一先ず小貫の言い分を信じることとした。それに彼女の中では、あくまで播凰が考えたあだ名か何かで自称する程度の認識らしい。であればそれ以上ではないのだろう。

 そんなわけで、問題も無いだろうと判断した播凰であったが。

 

「まあともかく、性質もそうやが前途有望っちゅうのは間違いない。どうや三狭間、実はウチは天対に所属していてな。スカウトとは違うけども、よかったら将来、天対に来んか?」

「む?」

 

 遅れて彼らに近づいたはいいものの、唐突にそんな言葉を小貫に投げかけられてきょとんとする。

 

「もしもその気があるんなら、その時はウチが推薦人に名乗りを上げても構わんで。ここの卒業時か、それとももう一つ先に進んだ後でなのか――勿論、時期が来て実力を見させてもらった上でやけどな」

「ふむ、よく分からぬが……しかし、将来か」

「もうやりたいことは決めとるんか?」

「いや、全く浮かばぬ。そもそもその、天対というのは何だ?」

 

 将来。

 つい数日前に考えさせられ、今朝にも管理人と話した、夢とはまた違うが。それでも、似た言葉。

 答えはなく、正直に告げ。ついでに耳にしたことのない単語を逆に質問すれば。

 

「嘘やろっ!? 天対を知らんのかっ!?」

 

 愕然と、小貫が口をあんぐりと開き。

 

「……はぁ」

 

 嫌な予感が現実となったことに、紫藤は額に手を当て。

 

「は、播凰さん。天対というのは、天能術を以て国の治安を維持することを目的とした組織でして。簡単に言うと、凄い人達の集まりなんす」

 

 唯一、播凰がこの世界に疎い事情(異世界から来たこと)を知っている毅が、フォローを入れる。

 

「ほぅ、凄い者達。是非とも見てみたいものだ。それほど有名なのか?」

「そうっすね、俺がまだ田舎にいた時でも存在は知ってましたし、知らない人はそうそういないんじゃないかと。……あ、俺の場合は、天対の人に会ったことがあるってのも大きいんすけども」

 

 すると、毅の説明に播凰が喰いついた。凄いと聞き、好奇心を刺激されたようだ。

 

「……いや、だからウチがその天対の一員やっての。まあ、ウチの場合は天能の性質上、潜入や調査が得意なもんで、ガチガチの戦闘っちゅうよりはそっち系がメインなんやけど」

 

 その間に驚きから復帰した小貫が、ツッコミを入れつつ自分の存在を主張する。

 だが、彼女も彼女で多少毅の言葉に興味を持ったようで。

 

「んで自分、天対の人間に会った言うたな? 何処で誰に会ったんや?」

「え、えっと、俺の住んでた村に来たことがあったんす。名前は――その、名無しのおじさんって呼べと言われてたので、そのまま」

「ほーん。まあ任務中とかなら、偽名や名前を隠すってのはそこまでおかしな話やないけどな」

 

 小貫に対してはまだ苦手意識があるのか、緊張しつつもなんとか毅が返答すれば。

 彼女はそれで納得したのか、追及をすることはなくすぐに興味を失ったらしく。

 

「ま、そういうわけだから選択肢の一つでも考えといてや。……さて、と。ほんなら、ウチもウチでこっちの(・・・・)本題に入らせてもらおか」

 

 何やら改まって、三人の顔を順々に伺った

 播凰と毅は思わず顔を見合わせ、紫藤がその内心を代弁する。

 

「本題、ですか? 私はてっきり、三狭間の性質を調べるために貴女が来てくれたのだとばかり思っていましたが」

「せやな。綾ちんの手紙を見てウチがこっちに――東方第一に来たのは間違いやない。確かにそれも目的の一つやった。けど、ウチとしてはそれが本題でここに来たわけやないんや」

 

 そう言うと、懐から携帯端末を取り出し。

 画面を少し操作した後、一同に見えるように突き出した。

 

「っちゅーわけで、三人共。この動画について、何か知ってることはあらへんか?」

 

 そこに流れ始めた映像は――例のドラゴン騒ぎ。

 それを中継したVTuber、大魔王ディルニーンの配信の切り抜きであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。