三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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2話 着の身着のままご登場

「……な、な、何事っすかーっ!?」

 

 思いもしていなかった事象に、毅は一歩飛退(とびすさ)ると、絶叫する。

 その反応は、正常――とまではいかないが、致し方ないものだろう。

 なにせ、唐突に自分の傍らに、人が現れたのだ。それも、街中であれば通報待ったなしの恰好をした少年が。

 

「おおー、中々にワイルドなご登場ですねー。私はそういうの好きですよー」

 

 ところがどっこい、ここにいる二人の内のもう一人、即ち管理人は全然そんなことはなく。

 悲鳴を上げるどころか、のほほんとしてパチパチ、と拍手なんかしている。

 

「むっ……ここは?」

 

 現れた少年は、眩しそうに目を瞬かせたかと思うと、ゆっくりと周囲を見回した。

 まずは、空を。次いで、地上を。

 そうなれば、そのすぐ近くで飛退ったままの不自然な態勢で硬直した毅に目を止めるのは必然のことで。

 固まった毅と、しげしげと辺りを見ていた少年の視線がぶつかる。

 

 ――ゾクリッ。

 

 刹那、毅の背筋を妙な悪寒が奔り、全身の毛が逆立った。

 何をされたわけでもない。また、彼の瞳に敵意の色を感じたわけでもない。だが、己の中の何かが、確かに警鐘を鳴らしていた。

 

「ようこそ、お待ちしておりましたよー」

 

 毅にとっては生きた心地のしなかった、その数秒。

 その空気は、管理人が少年に向かって声をかけたことにより破られた。

 

 少年の視線が外れ、管理人へと向けられる。

 助かった、と毅は息を吐きだし、そしてすぐさま大きく吸い込んだ。

 

「それでは、貴方の数字を教えていただけますかー?」

「数字? ……ああ、そういえばあれに書かれていたな」

 

 何やら意味ありげな会話をする二人。

 毅は息を整えながら、そんな彼等を邪魔することはなく、そしてこっそりと再び少年の様子を窺った。

 

 年の頃は、恐らく同年代。離れていたとしても、片手の指で数えられる程度だろう。

 髪は黒く、男としては少し長めな方。厳つい顔立ちというわけでもないが、目つきは若干キツイか。

 筋骨隆々とまではいかなくも、締まって鍛えられていそうな身体。そして、夏という季節でもないのにほぼ裸。

 

 それだけ見れば、視線が合っただけで妙な感覚に陥るものでもない。

 いや、不審者や変態と目が合えばそれはそれで恐怖も抱くだろうが……。

 

 ……絶対、さっきのはそんなんじゃないっす!

 

 断じて、彼が変態的な恰好であったからとか、そんなちゃちなものではないと毅は確信していた。

 

「確か、数字は……三、だったか」

「三ですねー、はーい、確認できましたー」

「ふむ、では早速色々と聞きたいのだが……」

「勿論、お答えしますともー。ただ、まずはこちらの案内をしますねー」

 

 その間にも、進んでいく会話。

 ただ、毅は碌にそれを聞いていない。

 

 ……そもそも、何で管理人さんは服を着ていないことを不思議に思わないんすかっ!?

 

 笑顔を崩さずに応対する管理人に、内心で突っ込む。勿論、怖いので声には出さないが。

 そうこうしている内に、二人の会話は終わったようで。

 

「おほん、ではでは改めましてー。ようこそ、最強荘へー。ここでの不明点は、この私、管理人にいつでも聞いてくださいねー」

「うむ。よく分からぬが、よろしく頼む」

「よ、よろしくお願いしまっす!」

 

 毅と少年に向けて、管理人が両手を大きく広げて歓迎の言葉を述べる。

 少年は鷹揚に頷き、毅は一先ず気を取り直して元気よく返事をした。

 それを見た管理人は、それでは着いてきてくださいー、と背中を向けたが。

 ふと思い出したように向き直り。

 

「そうそうー、ちなみにお二方、ここの名前についてどう思いますー?」

 

 そんなことを二人に尋ねた。

 ここの名前、つまり『最強荘(さいきょうそう)』という建物についてだろう。

 アパートの名前としては異色であると思うが、そんなユニークな名前は、二人の中で――。

 

「いいセンスだ!」

「カッコいいっす!」

 

 互いに即答。お世辞ではなく、本当にそう考えていそうな顔に声だった。

 ちょっぴり、毅の中で謎の少年に対する警戒心が下がった。

 

「……ですかー」

 

 しかして管理人は、そんな二人に微妙な表情を一瞬向けて、歩き出す。

 だが、隣に気を取られていた毅が気付くことはなかった。

 

「そこなお主。お主も、どこか別のところから、ここに来たのかっ?」

 

 そしてそれは、半裸の少年も同様。横並びに歩く毅の方に顔を向け、何やらわくわくと弾むような声で問いかける。

 

「っ!? ……そ、そうっすね、はい」

「なるほど、私だけではないということだな」

 

 田舎から出てきた、という意味であれば別のところから来たと言えるであろう。

 少年としてはそういう意味の質問ではなかったのだが、無論そんなことは事情を知らぬ毅に分かるはずがない。

 びびりながらも、刺激しないように恐る恐る返す毅に、少年は満足げに頷き。

 毅もまた、齟齬が生じているとも知らず、その返答から少年も遠くから来たのだろうと理解した。その他の余計なことは一切考えないようにして。

 

 そうして、動き出して。そう間を置かず、管理人が立ち止まったのだが。

 

「はーい、それではまず晩石さんですがー。こちらにお住みくださいー」

「……へ?」

 

 手で示された場所を見て、毅の目が点になる。

 なにせそれは、アパートの一室ではなく、敷地内に建てられたこじんまりとした小屋だったのだから。

 

 掘っ建て小屋というか、物置小屋というか。ぼろぼろではないが、新しくもなく。

 少なくとも、人が住むことを目的として建てられたものとは思えない。

 

「か、管理人さん? こ、ここっすか?」

「中を見れば分かりますよー、ささー、お二人ともこちらへー」

 

 しかし、毅の動揺もなんのその、全く意に介さずに管理人は小屋の扉を開き、二人を中へ誘う。

 

 ……よく考えたら、一万円っすもんね。

 

 ガックリと肩を落としはしたものの、自分に言い聞かせるように首を振り。

 贅沢は言えない、と切り替えた毅であったが。

 

「おおっ! 凄いな、広いぞ!! どうなってるんだっ!?」

 

 まず興奮したような、少年の声。

 

「ほえー……」

 

 遅れて、ぽかんと気の抜けたような、毅の声。

 

「この通り、中は天能術によって広がっておりますのでー」

 

 最後に、若干得意げに胸を張る管理人の声。

 口をだらしなく開けたまま、毅は小屋の中を見回す。

 

 外観より明らかに上に伸びた天井に、入りきるはずのない部屋の広さだった。

 しかも、入り口とは別の扉があることから、複数の部屋があるようだ。

 

「部屋の間取りや何があるかは、ご自分でご確認くださいねー」

 

 そうして管理人は、毅に対して言い残すと。

 あっけらかんと少年を連れ立って、外へと出ていった。

 

 一人残された毅は、しばし呆然として突っ立っていたが。

 ややあって、漸く己を取り戻す。

 

「……空間の拡張? ……それと、あの半裸の人がいきなり現れたのは、まさか人の転移?」

 

 思い返すは、今までの怒涛の展開に、その発端。

 半ば思考放棄していたが、一人となったからこそ、邪魔されることなくようやく頭を整理できた。

 どちらも、話としては微かに聞いたことはあったが、実際目にしたことは無い。

 故に、確信はできなかったが。

 

「……それって確か、どちらも使い手の少ない、超希少な天能って聞いたことがある気がするっすーっ!?」

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