三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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24話 魔王と覇王と勇者の商店街レビュー(リュミリエーラ編 前)

「――まったく、どうして僕まで」

「とかなんとか言っちゃって、シンだって気になってるくせに。お姉ちゃんにはお見通しなんだからね!」

「あはは……」

 

 大魔王の配信における商店街レビュー、その最後の目的地にしてそもそもの発端ともいえる喫茶店、リュミリエーラ。

 大魔王一行がそのレンガ調の建物の中へと入っていくその様子を、建物の影からこそこそと見守る三つの人影があった。

 

 ぶつくさと不満を零す弟の慎次に、その態度を表面上のものと見抜き突っ込む姉の辺莉――最強荘二階の住人の二津姉弟。プラス、慎次と同じく辺莉によって連れ出され苦笑する晩石毅の三人組である。

 

「喫茶店なのに、他のお客さんがいないと寂しいからね! 偶々訪れた自然なお客さんとして盛り上げていくよー、おー!」

 

 彼らが何故ここにいるかというと、だ。

 辺莉の掛け声の通り、偶然居合わせた一般客という体で少しでも盛り上げ、配信に貢献しようという思惑からである。とはいえ、播凰達に話はしておらず、完全な辺莉の独断なのだが。

 つまり、極端な話――。

 

「――それってただのサクラじゃ……」

 

 浮かない顔の毅が指摘した通り、そういうことである。

 だが、辺莉は全く気にした様子もなく、あっけらかんとしていた。

 

「いーのいーの、だってリュミリエーラによく行くのは事実だし、料理が美味しいのも本心なんだから! 心にもないお世辞じゃなくて、私達はただ本心を言うだけ! だったら、嘘じゃないでしょ?」

「うーん、まあそれはそうかもっすが……」

「それに晩石先輩、播凰にいがちゃんと食レポしてるとこ想像できる?」

「…………」

 

 何も言えず、押し黙る毅。

 

 ……無理っすね。

 ……無理でしょ。

 ……無理だろうな。

 

 声に出さずとも、この場にいる三人の頭の中は一致していた。

 脳裏に浮かぶは、ひたすら美味い美味いと箸を進める播凰の姿。この中で一番播凰と付き合いの長い毅をして、とてもではないが流暢に料理について評品する姿など想像できなかった。

 もっともそれは。

 

「って言っても、こっちも食レポなんてちゃんとできると思えないっすが……」

「……と、とにかく、もう少ししたら、私達もお客さんとして行くの! 自然に、自然に」

 

 播凰に限った話ではないのだが。

 毅の独り言に、一瞬だけ動揺した辺莉であったが。気を取り直して、自分に言い聞かせるようにしながらリュミリエーラの方を向く。

 と、そんな時である。

 

「――あら? 貴女は確か、中等部の……」

「へ?」

 

 背後から、声。

 思わず振り向いた三人の内、辺莉と毅は、その声の主を見て目を丸くするのであった。

 

 

 

「――いらっしゃいませ」

 

 カランカラン、と扉のベルが鳴り、店内に流れる落ち着いたBGMが各々の耳に届く。

 リュミリエーラに入った大魔王一行。

 その音を聞きつけて、店主のゆりがしずしずと姿を見せた。

 

「うむ! 今日も美味しい料理をよろしく頼むぞ、ゆ――」

「お、おほんっ、三名でお願いします! ……きゃ、客将くん、今は配信中ですので」

 

 いつものように、挨拶として彼女の名を出しかけた播凰の口を、慌ててジュクーシャが塞ぐ。

 最初の一文字目こそ防げなかったが、正に間一髪。ゆりという名前は別段珍しくない類ではあるが、それでも無闇に言わないに越したことはない。

 一応、配信中に場所や個人を特定できるような発言は避けるよう事前に播凰にも言い含められていたのだが。そこは、先に訪れた二つの店とは違い幾度か訪れたリュミリエーラ。そのためついうっかり、滑らせかけた――止められなければ完全に滑っていたが――のである。

 

「はい、それではこちらへどうぞ」

 

 そしてそれは、播凰達に限らずゆりにとっても同様。

 万音から説明を受けた始めは戸惑いがあったものの、そういうものだと理解すれば、注意こそ必要であれそこまで難しい話ではない。

 名前を漏らしかけた播凰に軽く微笑み、ゆったりとした大人の余裕で、三人を席に案内する。

 

 ・コメント:喫茶店かぁー

 ・コメント:結構よさげな雰囲気

 ・コメント:これぞ喫茶店って感じ

 ・コメント:ちょっと浮いてたけど、外観も中々お洒落だったな

 ・コメント:今日もってことは、客将の行きつけのお店ってこと?

 ・コメント:……ここ、知ってるかも

 

 音楽こそ流れているが、物静かな空間に比較的シックな内装。

 他に客はいないが、今に関してはむしろそちらの方が都合がいいといえばいい。

 

 案内されたのは、四人掛けのソファー席。一方を万音が占拠し、もう一方に播凰とジュクーシャが隣り合って座る。

 播凰が早速メニューを広げ、万音はその内容を端末で映していく。

 レストランのように種類が豊富というわけではないが、だからこそ一品ごとに料理の写真を載せるスペースが確保されているリュミリエーラのメニューは中々好評のようで。

 その見目を褒めたり、空腹を訴えるコメントが次々と流れていく。

 

「余は、ビーフシチュー、それとコーヒーにチーズケーキだ」

 

 人数分のおしぼりと水を持ってきたゆりに、碌に悩むこともせず万音が注文をした。

 その内容は、先日の下見の際におすすめとして提供されたもの。考えることを放棄したのか、それとも存外気に入っていたのか。或いは、店主のおすすめを紹介してやろうという気遣いという可能性も零ではなかったが。ともかく、そんなぞんざいともいえる注文を、ゆりは柔らかく復唱し。

 

「さて、今日はどれにするか……ビーフシチューにナポリタン、サンドイッチ……うむ、迷うな!」

 

 それとは反対に、マイペースに悩みに悩んでいるのは播凰である。

 メインを張る料理はそこまで種類は多くないのだが、彼にとってはその全てが候補。配信ということを気にして、事前に決めておくなどという殊勝な考えが彼にあるわけもなく。食べたいものはその時の気分。

 故に、うんうんと時間をかけてメニューと睨めっこをしていると。

 

「あの……もしよろしければ、料理のシェア、というものをしてみませんか?」

「む? しぇあ、とな?」

「はい。それぞれ別々の料理を注文して、分け合うことです。そうすれば、複数の料理が楽しめますよ」

「ほぉ、そのような方法が! それはいい、うむ、しぇあしようぞ!」

 

 それを見兼ねてか、ジュクーシャが播凰に一つ提案をした。

 今は客として訪れているが、そもそも彼女はこの店の従業員。メニューは見るまでもなく頭に入っており、状況にあわせて料理を選ぶ程度の気配りはできる。

 ジュクーシャの説明を聞いた播凰は目を輝かせ、すぐさま大賛成したのだが。

 

「くだらぬ、余はやらんぞ」

「ぬっ、どうしてだ? 三つも料理が楽しめるというのに」

「決まっていよう。余の物は余の物だ。一度我が手中にしたものを他人にくれてやる気など、更々無い」

「この者がこう言っているのでは仕方ありません、私達だけでシェアしましょう」

「うむぅ、そうか……」

 

 ……こちらとしても助かりました、ただでさえ魔王などと同じ卓を囲んでいるというのに。

 

 シェアの提案を一蹴する万音に、内心ほっとするジュクーシャ。

 単純に残念がる播凰は、しかし引き下がって再度メニューと顔を突き合わせる。

 

「私は、サンドイッチにしましょう。これなら分けやすいですしね。それと、アップルティーとショートケーキをお願いします」

「うむ、ならば私はビーフシチューだっ! 飲み物はコーラ、デザートはチョコレートケーキで頼む!」

 

 シェアのしやすさを考慮してジュクーシャが、ようやくメニューから顔を上げて播凰が、それぞれ注文をする。

 しかし、それに待ったをかける声が一つ。

 

「客将、貴様何故余と同じ料理を頼む? 同じ料理が並ぶなど配信映えしないにも程がある」

「しょうがないではないか、私もビーフシチューが食べたいのだから。お主は一人で食べてしまうのだろう?」

「……フン、好きにしろ」

 

 ・コメント:食べたいならしょうがない

 ・コメント:喫茶店のビーフシチューとか絶対美味そう

 ・コメント:主張できてえらい

 ・コメント:シェアしない魔王様が悪い

 ・コメント:魔王言い負かされてて草

 

 そんなこんなで注文は完了し、後は料理を待つのみ。

 その間、万音がデザート系のメニューを映したり、店内の様子をぐるりと回したり。軽く雑談を交えて時間を繋いでいると。

 

「――こ、ここのお店は美味しくて、凄いおススメなんですよっ!」

「……わ、わぁー、お洒落なお店っすねー」

「…………」

 

 ふと、店の扉が開き、そんな声が聞こえてきた。

 当然ながら、それらは配信にも乗り、リスナー達の耳にも届く。

 

 ・コメント:ん、他のお客さんか?

 ・コメント:まあそりゃ、喫茶店だしねえ

 ・コメント:貸し切りにでもしてなきゃ入ってくるだろうさ

 ・コメント:そういや、あんまお客さんいなさそうだったな

 ・コメント:商店街があの状況だとほとんどいないんじゃないの

 

 聞き慣れた声、それも不自然に張り上げ棒読みに近い。

 思わず播凰がそちらに顔を向けると、ぎこちない歩き方の辺莉を先頭に、同じく挙動不審にキョロキョロする毅、いつも通りの静かな慎次の姿が視界に入って来た。

 パチパチを目を瞬く播凰の横で、ジュクーシャもまたその光景を見て苦笑している。

 

 ……あの者は。

 

 が、彼らに続いて入って来た一人の人物を見て、播凰は目を僅かに丸くした。

 それは、学年と学科こそ同じであれ、組が異なるために本来関わることがあまりないはずの存在。しかして、播凰にとっては毅と矢尾に次いで何気に幾度か顔を合せたことのある高等部の生徒。

 

 播凰と同じく東方第一の天戦科にして新入生総代、星像院(せいしょういん)麗火(れいか)

 どういうわけか、彼女がそこにいた。

 

 騒がしく振舞う二人に、物静かな二人。

 チラ、チラ、チラ、とそれとなくこちらの様子を伺う最強荘組であるが、残る麗火は彼らから聞いているのかいないのか。先を歩く三人に釣られるようにこちらを見やったが、その顔には明らかな困惑がある。

 そんな予期せぬ四人組は、女性店員に誘導され播凰達から少し離れたテーブル席へと座った。

 

「――お待たせ致しました」

 

 そんな一団を観察していると、ゆりがやってきて、それぞれの前に料理を置いていく。

 ごろごろお肉に数種の野菜のビーフシチュー、こんがりバゲットも合わさり、一気に食欲をそそる匂いが場に立ち込める。

 見た目の鮮やかさではサンドイッチも負けておらず、綺麗に整ったパンに挟まる色とりどりの具材の瑞々しさは画面越しにも伝わる事だろう。

 

 ・コメント:こんなん絶対美味いやんけ

 ・コメント:飯テロやめれ

 ・コメント:いいなー、食べたいわ

 ・コメント:喫茶店のメニューって自分でも作れそうなのに、何か違うんだよなー

 ・コメント:よだれ出そう

 ・コメント:俺は出た

 ・コメント:ゴクリッ

 

「うむ、それではいただこう!」

 

 やはりと言うべきか、一番切って動いたのは播凰。

 辺莉達のことは頭の片隅に押しやり、スプーンを手にすぐさまビーフシチューへと突貫していきかけたのだが。

 

「戯け。食す前に、気の利いた褒め言葉の一つや二つ述べてやるがいい。従者、貴様もだ」

 

 平時ならともかく、今は配信。食レポともなれば味は勿論のこと、料理の見栄えや匂いについても言及するのは当然。

 もっとも播凰にそんな自覚はなかったが、飛んできた万音の指摘により一応その手を止め。ジュクーシャと共に、悩むこと数秒。

 

「……と言われても、味は知っているからな。が、うむ! 今日も変わらず美味しそうな見た目と匂いである!」

「……え、ええ、素晴らしい出来栄えです。私も日々精進してはいるのですが、まだこれほど上手くできず――」

 

 それだけ言うと、パクパクと時にスプーンを、時にバゲットを片手にビーフシチューを食べ進めていく。

 一拍遅れて、ジュクーシャもいただきます、とサンドイッチに手を付け始めた。

 

「うむ、美味い! やっぱり美味いな、実に美味い!」

 

 ・コメント:美味いしか言ってないが

 ・コメント:語彙力ゥ!

 ・コメント:草

 ・コメント:一生懸命食べてて可愛い

 

「はい、とても美味しいです。……えー、その……こ、このサンドイッチは、とても絶品ですね!」

 

 ・コメント:こっちも駄目だこりゃw

 ・コメント:言ってること同じな件

 ・コメント:客将と従者は食レポNG、と

 ・コメント:いや、まあ美味しそうに食べてるのは分かるけども

 ・コメント:残る希望は大魔王様

 

 播凰(客将)は配信を意識した様子が欠片もなく、いつもと同じようにただひたすら美味いを連呼。

 ジュクーシャ(従者)はサンドイッチを少し広げて具材を配信に映しながら食べているものの、こちらも感想は一辺倒。

 その悲惨さはリスナーから突っ込まれ、弄られるほどである。

 彼らからは見えていないが、こっそり様子を伺う辺莉達も、あちゃーと額に手を当てている。

 やれやれと肩を竦めるは最後の砦、大魔王ディルニーンこと万音だ。

 

「まったく、揃って品評の一つもできぬとは、嘆かわしい。――まずはこの肉だがな、よく煮込まれ味が染みている。原型を保っていながら、柔らかい口当たりだ。野菜の旨味も損なわれておらず、上手い具合に引き立っているな」

 

 端末片手にまずは肉と野菜をスプーンに乗せてアップで映した後、それぞれ一口味わって感想を述べる。

 次いで、添え付けのバゲットをちぎって口に含み。

 

「シチュー自体はどちらかといえば甘めだが、バゲットと合わせればまた違う味わいとなる。バゲットの焼き加減も悪くない。ありきたりな感想とはなったが、そこは大衆向けの喫茶店の一料理だ。まあ、合格ラインであろう」

 

 ・コメント:おお……

 ・コメント:意外にまともな評価が出てきたな

 ・コメント:流石は大魔王

 ・コメント:超上から目線で草。何様だ

 ・コメント:大大大魔王様や

 ・コメント:店の人に怒られろ

 

「それで、客将に従者よ。もはや貴様達には何も期待しておらんが、料理をシェアするのではなかったか?」

「あ……」

「おぉ、そうだった、そうだった!」

 

 数口を食べた後、万音はその手を止めて、ニマニマとした表情で対面の播凰とジュクーシャの皿を見やった。

 ジュクーシャのサンドイッチはまだ半分以上残っているが、播凰のビーフシチューは早くも残り半分に突入している。

 辺莉達の登場という予想しない光景を見たからか、はたまた料理の感想を考えるので頭がいっぱいいっぱいだったからか。言い出しっぺのジュクーシャすらうっかり忘れていた。

 指摘がなければ、そのままビーフシチューは播凰のお腹に全部消えていたことだろう。

 

「さ、さあ、こちらのサンドイッチをどうぞ」

「うむ! ではビーフシチューとバゲットだ!」

「ありがとうございます」

 

 それぞれの皿を入れ替え、そのまま食べ始める二人であったが。

 

 ・コメント:シェア……?

 ・コメント:まあシェアって言えばシェアだけど

 ・コメント:どちらかといえば、交換?

 ・コメント:はい、マナー違反

 ・コメント:ちゃんとしたお店ならアウト

 ・コメント:普通の喫茶店ならまあいんじゃね、何回か来てるみたいだし

 

 その行為に対しても突っ込みが入る。

 更にそこに、ニマニマと対面に座る万音がぶち込んだ。

 

「で、どうだ、従者よ。――客将と接吻をした感想は?」

「……っ!? んっ、ごほごほっ!」

 

 突如放り込まれたそれに、ジュクーシャは咽せて咳込み。慌てて側にあったコップの水をゴクゴクと飲む。

 そして顔を真っ赤にして、ニヤつきながら自身を見る万音に声を張った。

 

「い、いきなり、訳の分からないことをっ!」

「何だ、気付いておらんのか? サンドイッチはともかく、ビーフシチューを皿ごと交換して食べるなど、如何にスプーンを替えようが疑似的に接吻しているようなものではないか。ああ、間接キッスと言ってやった方がよいか?」

「…………」

「それに、たった今貴様が口にしたコップもよく見てみるがいい」

 

 一瞬フリーズするジュクーシャ。その顔がぎぎぎ、と錆びついた機械のように時間をかけて手元を見下ろす。

 そう、今の彼女の近くに、コップは二つ(・・)あった。彼女から見て、一つはすぐ右に、もう一つはすぐ左に。

 

「――ああっ! も、申し訳ありません、コップを間違えてしまいました……」

 

 つまり、今しがたジュクーシャが口にしたのは、彼女のではなく播凰のコップだったのである。

 

 ・コメント:くそ、俺達は一体何を見せられてるんだ……

 ・コメント:客将と従者は仲いいのね

 ・コメント:まあ仲よくなきゃ皿ごと料理交換しないでしょ

 

「フハハハハッ、自覚無しとは、無様もここに極まれりというわけか!」

「し、仕方ないでしょう! 一皿の食事を分け合うなど、旅の途中ではそこまで珍しくないことだったのですから! ……それにパーティは皆女性だけでしたし」

「ククッ、にしてもたかが接吻の一つだというのに、まるで生娘のような反応よな。貴様のような年増がするには見苦しいにも程がある」

 

 嘲笑する万音に、ジュクーシャは恥ずかしさから顔を真っ赤に、怒りから体を戦慄かせる。

 反論の言葉も、しかし最後の方はごにょごにょと尻すぼみ。

 だが、彼女も一方的にやられているだけではなく、なんとか反撃の光を見つけ口を開いた。

 

「だ、大体、そちらはどうなのです! 幼い少女が好きなどと公言する者に、その……い、異性とのまともな付き合いがあったとは思えませんがっ!」

「フハハハハッ、この大魔王を舐めるなよ! ……全くもって嬉しくないが、配下の女魔族共には常に貞操を狙われておったわ」

「……て、え?」

「貴様如きには分かるまい、好みでもない容姿の女に言い寄られ、隙あらば既成事実を狙われる立場というものが。どうして、魔族の女共というのは揃いも揃ってああも下品な装いで醜く肥えた肉体の上、慎みというものがないのか。数少ない幼女は余を恐れて近づかんというのに!」

「…………」

「故に、大魔王たる余は元の世界を捨て、この世界に来たのだ! まだ見ぬ、理想の幼女を探すためにな!」

 

 堂々たる宣言。

 まさかこのような話の流れとなることは予想していなかったのか、ポカンとジュクーシャはその勢いを失くして硬直している。

 

 ・コメント:この世界(VTuber)か

 ・コメント:まあ確かに元の世界(現実)でそんなこと言ってたらただのヤベー奴だしな

 ・コメント:幼女系VTuberを探そう

 ・コメント:誰がいたっけなー

 ・コメント:人脈を作るべき

 ・コメント:でもコラボはしないんでしょ?

 

「余は、基本的に配下は持てども群れることはせん。例外が無いわけではないがな。……それで客将、貴様はどうなのだ?」

「うん?」

 

 騒がしさの中、万音は呑気にサンドイッチを楽しんでいた播凰へと話を振る。

 一応会話を聞いてはいたらしく、播凰は考え込むようにしながら口の中のものをゴクンと飲み込み。

 

「私の場合は、よく弟妹達と食事を分けていたから余り気にはしないな。……もっとも、食べかけを渡されたり、逆に食べていたものを持っていかれたことが多かったのは未だに解せぬが」

「……貴様もか。その点はお互い苦労していたようだな」

「ぬ? ああ、単純に構ってほしかったのだろう。私が一番年上だったからな」

「……鈍いというのも時には利となることもあるらしい」

 

 思い出してみれば、当時も、そして今も首を傾げざるをえないのだが。

 そう、何故だか彼の弟妹達――特に妹二人だ。

 上の妹は、お腹いっぱいになったからと、食べかけのものをよく彼に渡してきて。

 下の妹は、腹が減ったからと、彼が口にしていたものをよく横からかっさらっていった。

 そんな訳で食事の、それこそ食べかけ云々に関しては播凰は割と無頓着なのである。もっとも、無頓着なのは食事に限る、というわけでもないが。

 

「……か」

 

 と、そんな微妙に噛み合わない会話を繰り広げる二人の耳に、それは聞こえてきた。

 出所は、万音におちょくられてすっかり沈黙していたジュクーシャ。つい数瞬前までは翻弄され、恥ずかしさに顔を赤らめていた彼女であったが。

 もはや先程までの狼狽えた姿はそこにない。

 いや、怒りから身体を震わせているのは一緒だ。一緒だが。

 

「まさか、本当に……」

 

 代わりにあるのは、張りつめんばかりの激情。じゃれあいの範疇を明らかに逸脱した、全身を漲るような。

 それは、自身が虚仮にされたことへの怒りではなく。

 

「――そんな……そんな理由でこの世界へと来たというのですかっ!?」




ちなみに上の妹は束縛系、下の妹は依存系。ヤンでます。ヤンヤンです。弟は……。
プロローグで登場してから、話の流れ的にそこから出てはいませんが、再登場の予定はあります。
とはいえ、当分先の予定ですが……。

さて、2章はもう少しで終わり、3章は学園がメイン。部活を探しますが、最低クラス故にどこからも門前払いされて――という話になる予定です。
読んでいただきありがとうございます、よろしくお願いします。
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