三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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どうもランキングに載せていただいたようで、凄くビックリしました。
評価いただいた方ありがとうございます。コメントいただけた方もとてもありがたかったです。
またお気に入りや感想もありがとうございます。

反応があるとやはり嬉しいもので、次話を書く手も進みました。

引き続き、もしよろしければ感想やお気に入り、評価いただければ嬉しく思います。
では、どうぞ。


7話 最強荘裏コマンド その1

「……何故、とお聞きしても?」

 

 さしものジュクーシャとて、播凰のその唐突な提案には即座に首を縦に振れないようであった。

 虚を突かれた、という感じではない。

 いや、予想はしていなかったのだろうが、はぐらかすのではなく真っ向から言葉を受け止め。播凰の瞳に混じり気の無い真剣味を見出した上で、問い返している。

 

 声色、表情共に柔らかいままではある。しかし今の彼女を見て、何を言っても許されると考える者がいたとしたら、まず間違いなくその眼は節穴だろう。

 凪いだ海のように思えてその実、こちらの真意を見通さんとする眼底には仄かに、そして確かに強い意志の光が宿っていた。

 

「以前から、気にはなっていたのだ。その立ち姿、その身のこなし……そして私に話してくれた内容を踏まえれば、まず間違いなく実力者。或いは、私の失った熱を多少なりとも取り戻させてくれる存在ではないかと」

 

 そしてそんな彼女に、播凰もまた率直な気持ちを伝える。

 

 ――何分、私は今まで剣を振るい、戦うことしかしてきませんでしたから。

 

 先程、ポツリと彼女が漏らした本音。そして、あの夜にリュミリエーラの前で聞いた独白。

 もっとも、播凰はジュクーシャが実際に戦っている姿を見た事はないが――なにもそうでなければ相手の力量を計れないということはない。流石に、異世界の強者ともなれば実力の底までは正確には把握できないものの。分からない、ということが分かるだけでも十分。

 

 元の世界では、実力的に彼に比肩する者はいなくなった。あらゆる生命は、彼に畏怖を覚えた。

 だからこそ、彼は熱を失った。だからこそ、彼は渇きに喘いだ。

 そんな中で、天能術という未知の技術は、そして未知の世界は、確かに気を紛らわせただろう。好奇心が満たされることで日々に生きる意味を、活力を見出し。意識を逸らせてはいた。

 

「だが、最強荘(ここ)のルールもあり、迂闊には動けなんだ。下手なことをして元の世界に戻されでもしたら、どうしようもないからな」

 

 加えて、ルールの存在。

 この世界に訪れた初日、最強荘の幼き管理人に告げられた掟。戦いを禁じられていたことはなかったはずだが、強引な接触がどうこうとは注意されていた気がする。

 一言一句記憶などしていないが、破れば問答無用で元の世界に送り返されるという宣告は、強く播凰の胸にあった。

 

「けれども、やはり惜しいと思ってしまうのだ。ジュクーシャ殿は、勇者として名を馳せたと聞いた。そのような傑物を前にして指を咥えていることが、どうにももどかしくて仕方がない」

 

 だが、あくまで代替は代替。気は散らせたとて、別物でしかない以上その根源まで満たされることはない。

 

 ならば――ならばこそ、異なる世界の実力者に期待して何が悪い。

 

 そんな播凰の焦がれるような思いに静かに耳を傾けていたジュクーシャは、その艶やかな唇を微かに震わせ大きく深呼吸をした。そうして、ゆっくりと両の瞼を閉じ。

 

「――私が剣を執ったのは、無辜の民を守り、魔を討たんとしたがため。無論、世の中善人ばかりではありませんので、時には人を相手にしたこともありはしますが……けれども、断じて。断じて、誰かを傷つけるために、また己を誇示するために力を求めたわけではありません。その役目(勇者)を放棄してしまった身ではありますが、それすらも違えるつもりは、ない」

 

 言葉と行動を重ねれば、それは明確な拒絶であった。

 あくまでも、守り、救う力であると。己のためにではなく、他の誰かのため振るう力であると。

 それが争いを避けるための方便ではないことは、彼女の纏う雰囲気が嫌でも証明している。

 上っ面の口だけではこうはいくまい。聞く者の身に沁みさせる気迫は正真正銘、芯の、心の強さ。

 

 謂わば、それが彼女の流儀なのだろう。或いは彼女という個ではなく勇者としての、だろうか。

 自身とは異なれど、それもまた力ある者の形の一つとして播凰は理解を示す。

 

「……その心意気は見事也。お主は以前、勇気のない臆病者と自嘲したが、私がそれを否定しよう。ジュクーシャ殿はまず間違いなく、勇者に相応しき御仁である!!」

 

 勇者の意味だの役割だのは関係ない。当人の思いもまた関係ない。

 自分のためでなく他者のために立ち上がり、それを貫く。誰にでもできることではなく、勇あるからこそできること。

 だから、彼女の世界どうこうではなく、他ならぬ己が。三狭間播凰がそうであると認めた。勇ある者と認めた。

 そう播凰が宣言すれば、ジュクーシャは驚いたように目を見開いて。

 

「その上で、うむ! あまり此方を見縊(みくび)ってもらっては困るな!」

 

 ――だが、侮るな。

 ――だが、見縊るな。

 未知の世界の強者よ。

 魔を討つ使命を帯びた異界の勇者よ。

 

「傷つけるための力ではない、大いに結構。しかしそれ即ち、傷つかなければ問題ないということ。然らば――この()に、そう易々と手傷を負わせられると思わないことだッ!!」

 

 何を以て、己が優位と過信するか。何を以て、その刃がこの身に届くと断じるか。

 

 大抵の人間であれば引き下がったであろうに、しかし。

 誰かを傷つけるための力ではないと語る相手に対し、ならば己が傷つかなければいいと。

 清廉さに暴論で真っ向から食い下がり、大真面目に。犬歯を剥き出しにし、獰猛に、けれど無邪気に三狭間播凰は笑う。

 

「……っ」

 

 息を呑んだ彼女の瞳が、確かに揺らいだように見えた。

 

「いや、この際ごちゃごちゃとしたのは無しだ! うむ、隠さずに言おう、ゲームだ!」

「……ゲー、ム?」

「あのゲームをしたせいで、体が疼いて仕方ないのだっ!!」

 

 そもそも、何故そのような話となったのか。以前から気になっていたのなら、何故今なのか。何が彼を刺激したのか。

 

 その答えは、ビシィッと播凰が勢いよく指で示した先にあった。つまりは先刻までプレイしていたゲーム『勇者救世録』。その内容が問題だったのである。

 

 戦闘システムとしては、一対多。味方もいるにはいるが、基本的には一人で戦陣を切り開いていく、所謂無双物。

 それに播凰は感化されたのだ。実に単純で、実に馬鹿げた理由であった。裏のない理由であった。

 

「…………」

 

 まさかすぎる真実に、ジュクーシャも呆気にとられたようで。

 だからだろうか、ややあって、プッと吹き出すようにして彼女は笑い。

 

「ヒドイ人だ、貴方は。私を知った上で尚、それを告げるとは」

 

 詰るような言葉とは裏腹に、温かい笑顔。

 

「けれど、ふふふっ、そうですか。身体が疼いてしまいましたか。……それならば――それならば、仕方ないですね。それに、私が勧めたゲームでもあります」

 

 困ったものを見るかのようで、しかしどこか慣れているかのように自然だった。

 まるで似たような人間を幾度も相手にしたことがあるような、そんな風に。

 

「分かりました。全力ではない、軽い手合わせ程度でしたら、お付き合いしましょう」

「おお、有難い!」

 

 苦笑ながらも応じた彼女に、播凰は喜びの声を上げる。

 できれば全力での死闘が望ましかったが、流石にそこまでは望めまい。軽くとはいえ、手合わせの言質をとっただけまだいい。

 では早速、と興奮気味に部屋を出ようとして、はたと足を止めた。

 

「……場所を考えていなかったが、どこかあるだろうか? 性質を調べてもらった時のように、学園の施設を借りるか?」

「それは大いに興味がありますが、今回はもっといい場所がありますよ。まずは管理人さんのところに行きましょう」

 

 軽い手合わせとはいえ、そのための場所が必要。

 播凰の性質を調べてもらうため、休日の学園に教師の紫藤が部外者の小貫を呼んで施設を利用したことを思い出し、同じようにできないかと考える播凰であったが。

 ジュクーシャには何やら心当たりがあるようで、最強荘エントランスの管理人室に向かうこととなった。

 共にエレベーターに乗り込み、共用部分である0階へ。

 

「――フハハハハッ、今日も管理人たんは最高だなっ!」

 

 エレベーターの扉が開いた瞬間、耳に届いた声と目に入った光景に、ジュクーシャの顔があからさまに苦々しいものとなる。

 

「おお、大魔王ではないか」

 

 対照的に、播凰は高笑いする人影――大魔王こと一裏万音に、軽く手を上げる。

 すると、管理人室の中にいる管理人を窓の外から眺めていた万音は、こちらを振り返り鼻を鳴らした。

 

「客将か、丁度よいところで会った。貴様、流石にゲームの起動くらいはできるようになっただろうな?」

「ええ、何処ぞの不親切な輩が教えてくださらなかったようですから。無事に、始めていただけていますよ――『勇者救世録』を!」

 

 播凰が口を開くよりも前に、進み出たのはジュクーシャ。

 苦々しさはどこへやら、得意気に胸を張っている。

 

「そうか、ならばよい。客将、貴様には二つ報せがある。もっとも詳細は次の配信で伝えるが、一つは決定事項、もう一つは貴様に選ばせてやる」

「うむ? よく分からぬが、分かった」

 

 だが、万音はさらりと流すと、端的にそれだけを告げ。

 鼻白む形となったジュクーシャに、ニヤリと。

 

「せいぜい、勇者でズタボロになって学んでおけ。次の配信で貴様がやるのは、『魔王征服伝』だ。いくら仮初とはいえ、この大魔王の前で魔王が無様を晒すなどあってはならんからな、ハーッハッハッハッ!!」

「――っ、まさか、そのためにわざとっ!?」

 

 ジュクーシャに頼るであろうことを見越して、そして頼られた彼女が『勇者救世録』を勧めるのを見越した上での行動。

 自身が掌の上で踊らされていたことを悟ったジュクーシャは、歯軋りをして万音を睨みつける。

 

「クククッ、ジュクジュクよ。貴様、余への対抗心でゲームに詳しくなったのだろう? ならば、このくらい役に立って当然であろう。ハーッハッハッハッハッ!」

 

 言いたい事だけを言って、万音は最強荘を出て行った。珍しいことに、あの様子だと丁度出かけようとしていたのだろう。

 しかし対抗心とはどういうことだろうか、と播凰がジュクーシャに目を向ければ。

 顔を真っ赤にしつつもはや誰の姿もない景色を睨んでいた彼女は、視線に気付くとコホンと誤魔化すように咳払いをして。

 

「か、管理人さんっ、あの場所――地下一階への許可をくださいっ! 播凰くんと一緒ですっ!!」

 

 播凰を置いてきぼりに、パタパタと管理人室の小窓へと駆け寄って行き。

 それに反応するようにガチャリ、とドアを開けて、最強荘の管理人がその幼い全身を見せる。

 

「こんにちはー、三狭間さんー、四柳さんー」

 

 のほほんとした語尾と立ち姿で、管理人は小首を傾げ。

 

「地下一階をご所望とのことですがー、四柳さんはともかくー、三狭間さんはまだご利用が無かったはずですねー?」

「うむ、その地下一階というのはなんだ? 私達は、手合わせをする場が欲しいのだが」

「はいー、まさにその目的のための階層が地下一階となりますー。本来ならば両者の合意を確認した上で、こちらが利用許可を出すのですがー」

 

 そう言って、管理人はすすすっと播凰に近づき、見上げるように彼を見た。

 

「まあよろしいでしょうー。それではお二方、こちらへー」

 

 そうして何を確認したのか、彼女は一つ頷くと。

 エレベーターに乗り込み、二人を手招きする。

 言われるがまま乗り込んだ播凰と、多少は平静を取り戻したようなジュクーシャ。

 

「それではー。最強荘裏コマンドー、その1へとご案内ー」

 

 階層を指定するボタン、0階を示す『0』の更にその下に。

 ピョコン、と回転するように『B1』と刻まれたボタンが出現。管理人の指先で、ボタンに光が灯る。

 

 そのボタンによって辿り着いた先は、完全な屋内であった。

 まあ地下なので当然といえば当然なのだが、点々と続く明るい電灯が先を照らしているので暗くはない。

 それより気になるのは、この先で何か物音というか、物々しい気配が漂ってきていること。

 

「ちなみに、本日は既に使用されている住人の方々がおりましてー」

 

 開けた先、播凰の眼下に飛び込んできたのは。

 黒一色の外套で全身をすっぽり包んだ巨体と。逆にまともに服として定義してよいのか困るほどに肌を大幅に露出したキメ細かい濃い黒肌の女性。

 互いに無手の、両者が対峙する光景であった。

 

 漆黒の外套が翻り、突如消えたかと思えば。現れるは、女の背後。

 と同時に、巨体から繰り出される横薙ぎの一撃。威力、速度共に十分。後ろからの奇襲ともあり、女の意識を一瞬で刈り取るかに思えたが、しかし。

 

 女は逆立ちの要領で身をくねらせてその一撃をすんでのところで躱すと。そのまま足を振りぬき、巨体の脇腹に叩き込んだ。

 まともに入ったかのように思えたが、しかし呻き声は一つもあがらず、巨体は崩れ落ちない。

 女は女で追撃をかけることなくバネのように腕を使い、距離をとる。

 その姿ときたら、戦いの中にあるというのにどこか妖艶で。しかもあれだけ激しい動きをしたにも関わらず服装が乱れていないのは、身体運びの妙か。

 

「……どうやら、無遠慮にも妾達を見下ろす不届き者が現れたようじゃ。――のぅ、暗殺者の君よ」

 

 そんな彼女がゆっくりとこちらを見上げ、その美貌に冷笑を湛える。

 それに釣られるように、巨体も――女に暗殺者と呼びかけられた存在もまた、播凰達を見上げた。

 全身漆黒の外套に身を包み、しかし唯一外気に晒された部分――緑色の皮膚と赤く光る眼をこちらに向けて。

 

「あれは……先程、ゲームの中で見たような。なんといったか……」

 

 そんな存在を、目を丸くして播凰は凝視する。

 緑色の皮膚、人型。その存在の名を何と言ったか、咄嗟には出てこない。

 代わりにその先を、ジュクーシャが茫然としたように口にした。

 

「馬鹿な、何故オークが……?」




次のサブタイトルを予定しているので、二人の種族をぶっちゃけてしまいます。
次話『オークとアマゾネス(仮)』。よろしくお願いします。
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