三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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13話 異世界道具研究会

「うむ、よき目覚めだ。今後も時折、ジュクーシャ殿に立ち合いと術の教えを請うてみるとしよう」

 

 全力でなかったとはいえ久々に身体を動かしたからか、翌朝の寝覚めはいつもよりもすっきりとしていた。

 術を使えるようになってからはそればかりにかまけ、そもそもからして日常生活はおろか学園とて身体を動かす機会はほぼほぼ無い。これが接近戦主体の武戦科であればまた違ったのだろうが、播凰が所属するのは天戦科。天能術を主体とした中、長距離戦をメインとしたそれであるから、当然のように拳で打ち合うような授業などありはしない。

 

 そんな播凰にとって、最強荘地下一階(場所)ジュクーシャ(相手)の存在は正に渡りに船であった。

 これからも昨日のような場を設けてもらおうと心に決め、それはそれと切り替えて寝具から起き上がる。

 

 手早く朝の支度を済ませて、エレベータで0階のエントランスへ。そのまま、辺莉との待ち合わせである最強荘の門へと足を向けたのだが、しかしそこには誰の姿もなく。

 先に来たのか、と少しばかり首を捻る播凰。するとその時、彼の後方、最強荘の庭に立っている小屋――晩石毅の住居であるそこから、ガチャリと扉が開く音がして。

 

「あっ、ほらほら晩石先輩、播凰にい来てるよっ!」

「…………」

「うぅ、俺の朝ごはん……金欠なのに……」

 

 笑顔でこちらに手を振る辺莉と、その弟でいつもの仏頂面――でありながらも微かに後方を気にした様子の慎次。最後に、その家主である毅が何故かズーンと項垂れて消沈しながら。三人揃って、ぞろぞろと出てきたではないか。

 

「おっはよー、播凰にいっ!」

「うむ、おはよう」

「それじゃ、研究会について歩きながら話そっか! さっ、学園に向けて、しゅっぱーつ!」

 

 タタタッと播凰に駆け寄ると、隣に並びふんふんと鼻歌交じりに機嫌よく歩き出す辺莉。

 明らかに何かあったであろう毅の様子が気にならないでもなかったが、連絡を受けて気になっていた『研究会』の単語に興味が勝り、播凰も彼女に歩を合わせる。

 

「して、研究会といったか。それはどういったものなのだ?」

「んーとね、大雑把にいうと、規模が小さい部活みたいなものかなっ。生徒が自主的に好きなことやテーマで集まって立ち上げて、活動してるんだって! ね、面白そうじゃないっ!?」

「ふむ……それは結局、先日のようにクラスを理由に断られるだけな気がするが。――ああ、それとも、私達で新たに作るという話か?」

 

 朝から元気一杯で興奮気味に語る辺莉に対し、播凰の反応は芳しくない。

 辺莉と共に部活巡りをした際、播凰の所属クラスを聞くや露骨に態度を変えてきた生徒達の対応。それらが脳裏を過り、播凰は顎に手をやるが。彼女の言葉を聞いてふと思いついたことを、口に出す。

 既存の輪に入るのではなく、新しく作る。成る程、それならば断わられるもなにもない、と播凰は納得しかけたのだが。

 

「おぉーっ、それも楽しそうかもっ! でもねでもね、多分研究会はあそこまで酷い反応にはならないと思うんだー」

 

 当の辺莉は、全く考えていなかったと言わんばかりに目と眉を大きく動かした。

 好意的な反応を見せつつ、けれどもそうではないと、研究会ならば部活の時のようなことにならないのではとする理由がその口から語られる。

 

「まず部活っていうのは、学園側が公式に活動を認めている団体でね? そこでの活躍だったり成績だったりが評価されることがあるから、単純に好きとか楽しいって気持ちだけでやってるんじゃなくて、そういうの(・・・・・)を気にして入ってる人や活動してる人っていうのも結構いるらしいんだ」

「……成る程な、そのような者達にとっては、私のような天能術の拙い弱卒などむしろ不要ということか。くだらぬと思いはしたが、正当性はあったらしい」

 

 例えば、隊の中に一人、或いは一部の弱卒があるとする。そうした場合、一糸乱れぬ練度の高い行軍が要求される場面において、まず間違いなく彼等は脱落するか遅れるであろうことは自明の理。

 隊からすればただ脱落者は捨て置けばよいとはなるものの、客観的に見れば無様であり。仮に何らかの評価対象だとすれば、それら脱落した弱卒達だけではなく、ひいては隊全体の評価に関わる。

 ならばそのような存在など邪魔でしかなく、最初から隊にいない方がよい。何ら不自然ではない発想だ。

 弱卒を育て上げればよいと考える者もいるだろうが、皆が皆そう面倒見のよい性分ではないだろう。

 少なくとも(・・・・・)天能術(・・・)という分野(・・・・・)に関しては周囲より劣っている自覚のある播凰はその思考に理解を示す。

 

「あはは、随分あっさりと受け入れちゃうんだね……」

 

 貶められたにも関わらずそれをすんなり認めた播凰に、辺莉は苦笑する他なく。

 とはいえ本題はそれではないと、コホンと咳払いを一つ入れて。

 

「でね、部活と違って学園が公式には認めてないグループっていうのが研究会なんだって。その中には、評価とかは二の次で単に好きや興味だけで集まって活動してるところもあるらしいから、そういう研究会なら、所属クラスとかはあんまり気にせず受け入れてくれるんじゃないかって、部長さんから聞いたんだー」

「部長? というと――」

「うん、ウチの部活(青龍)の部長さん。高等部の三年生の人だよ」

 

 辺莉が所属しているという、一般の部活とは異なる位置づけらしい集団、青龍。

 部の長であり、最高学年である高等部の三年生。当然、播凰よりも学園ことについては詳しいはずだ。そんな人物が言うのならばその可能性は高いのだろうとは思いつつ、真実は実際に確かめれば分かると頷き。

 

「ふむ、何となくではあるが理解した。それで、面白そうなところを見つけたとあったが、どのような研究会なのだ?」

「むっふっふ、気になる? 気になっちゃうよねっ!? ――じゃじゃーん、ほらここっ! 『異世界道具研究会』だって!!」

 

 播凰の問いに、それを待っていたとばかりに含み笑いをして。勿体ぶりながら辺莉は、ずい、と端末を手に突き出してきた。

 その単語に少しだけ片眉を上げつつも、播凰は目の前に出されたそれを覗き込む。

 映されていたのは、部活探しの時にも活用した部活紹介、に似たページ。

 

『異世界好きの同好の士よ、ここに集え!

 武器や防具に便利アイテム、異世界の可能性は無限大!

 来たれ、浪漫を求めし探究者達!! 天孕具にその夢をかけるべし!!

 造戦科以外でも、所属学科及びクラス問わず大歓迎! ――異世界道具研究会』

 

 端末の文字を上から下になぞり、目線を辺莉にやれば。

 どう? どう? と彼の反応を心待ちにするような彼女がそこにおり。

 しかし残念ながら、播凰が返したのは彼女の期待するようなそれではなく。

 

「――管理人殿に聞いたところによると、私達のような異なる世界からの存在は秘密らしいが」

「ほぇっ? ……そうみたいだけど、それがどうかした?」

「にも関わらず、こうも当たり前のように異なる世界が認知されているのは、一体どういうことなのか?」

 

 きょとんとする辺莉だが、播凰にとっては不思議でしかない。

 この世界にやってくるまでは、住む世界と別の世界が存在するなど夢にも思わなかった。目の前に広がる、目に映る世界が彼にとっての全て。それ以上でも以下でもなかった。

 こういう世界であったらと考えたことはあるものの、それは完全に異なる別の世界ではなく。所詮は目の前の世界の空想上の改変で、現実の世界に引きずられていたにすぎず。

 また他の誰かがそれに類する考えや意見を発していたのも聞いたことが無い。

 つまるところ、三狭間播凰となる以前の彼にとっては、あくまで世界というものはただの一つだったのだ。

 

 それなのに、この異世界道具研究会とやらは当然のように異世界について言及しているし、先日プレイしたゲームも全くの架空の世界を題材に――しかもジュクーシャによると彼女のいた世界に類似する点すらあった――ときている。

 播凰達のように異なる世界から訪れた存在は秘匿されており、つまり存在を知られていないというのに。

 

 そんな疑問を呈すれば、辺莉は不思議そうな面持ちのまま首を横に傾げ。

 そのまま播凰を真っすぐ見つめ、少しだけ考えるようにした後、ポンッと手を打った。

 

「ああ、播凰にいのいた世界はそういう考えがあんまりなかったのかな? でも私のいた世界でも、異世界に行ったり、異世界に生まれ変わったり、あくまでお話上ではあるけどそういうのは別に珍しくなかったよ。ただ流石に、実際に異世界に行ったって言う人はいなかったけどね」

「そういうものか」

「そうそう、つまり実在を確信してるんじゃなくて、ただの想像ってこと! ……まぁ私の場合、異世界というか異界に行ったことはあったわけだけど」

「む?」

「ううん、何でもない! つまり、実際に異世界があるって知らなくっても、考えるだけなら自由ってことだね!」

 

 彼女がボソリと漏らした言葉は気になりはしたが、最終的には歯を見せて笑う辺莉の言葉に、ほぅと播凰は感心の息を零す。

 

「考えるだけなら自由、か。……中々良いことを言うな、辺莉」

「えへへ、それでどうする? 私は見た時に凄い気になったんだけど――あまりピンと来ない感じ?」

 

 脱線をしかけていたが、本題は研究会。

 はにかみながらも様子を伺う用に顔を覗き込ませてきた辺莉に対し、改めて播凰は端末へと目を走らせてみる。

 端的に言えば、播凰が部活に求めていたのは面白さ、興味が抱けるかどうかだ。部活見学の際にそういった直感で探せば、必然的に戦闘だったり天能術でどうこうすることを目的とした活動に絞られた。まあそうなるかと彼自身も思った。

 それを鑑みれば、この異世界研究会とやらは、それらとは外れたものであると言える。

 だが――。

 

「――武器に防具にアイテムを、天孕具で。……異世界の道具、か」

 

 惹かれるものは、あった。

 単純な道具ではなく、異世界の道具。

 この世界の道具、天孕具と聞けば記憶に新しいのは――天孕具という単語自体をその時に知ったというのもあるだろうが――覇の術を見せた際に紫藤が出した人型の的を出すそれだ。身近であれば、天能武装も天孕具の一部に分類されるというので、捧手厳蔵に造ってもらった銀の杖か。

 それら天孕具に限らず、普段の生活において使っているもの――家電等もそう。今でこそ便利に使えているが、この世界に来てしばしは慣れるのに時間がかかったものである。

 播凰からすれば、そもそもそれら自体が彼にとって異世界の道具。更にそこからの異世界というのだから、如何なるものか想像もつかない。

 考えるだけなら自由、と辺莉は言った。だが、考えても考えても想像できないこの胸中は、何と形容すればよいのか。

 

「武器――特に異世界の武器というのは、うむ、興味が湧いた」

「っ! じゃあっ!?」

「行ってみるとしよう」

 

 やったっ、と播凰の前向きな返事を聞いた辺莉が快哉の声を上げる。

 両者が合意したのだから、そこから話はすぐに纏まり。放課後に辺莉が播凰を迎えに来ることにトントン拍子で決まった。

 そうして話が一段落したところで、播凰はふと後ろを振り向く。

 そこには、今までの彼等の会話を聞いていたのかいないのか。会話に入って来るような素振りは欠片もなく、我関せずとした様子で少し離れて後ろに続いている、辺莉の弟の慎次と。

 

「――ところで気になってはいたのだが、毅は一体どうしたのだ?」

 

 その更に後方にて肩を落とし、顔すらも伏せ。トボトボと歩いている、播凰のクラスメートにして友、最強荘0階――もとい庭に住む晩石毅の姿があった。

 最強荘を出てからずっとあの調子だ。播凰と同じく、天能術のことで苦戦しているのは知っているが、どうにもそれが原因とは違う気がする。

 

「あー、あれね。……まぁアタシのせいといえば、せいなんだけど」

 

 するとそれを聞いた辺莉は苦笑し。タタッと播凰の隣を離れ、毅の元へと駆けていく。

 

「ほーら、晩石先輩、いつまでしょげてるの! 朝ごはんを一回食べなかった位で!」

「それを食べちゃった人が何言ってるっすか!? それにあれ、ただの朝ごはんじゃないんすよ! 金欠節約生活の中で奮発して買った、ちょっとお高いやつなんすよ!」

「はいはい、分かった分かった。じゃ、それよりもいいやつを今度買ってきたげるから、それでどう?」

「……うー、で、でも、後輩の女の子に買ってもらうっていうのも恰好が――」

「あーもう、面倒臭い先輩だなぁ……」

「め、面倒ってなんすかっ!?」

 

 どうやらそういうことらしい。

 ギャーギャーと聞こえてきた会話は、播凰だけでなく周囲にも聞こえており。

 道行く人は、微笑ましく見る者もあれば、五月蠅そうに見る者もあり。当然、全く気に掛けることなく歩き去っていく者もいる。

 早い話、当人にとってははさておき、至極どうでもいい内容だったということだ。

 

 とはいえ、確かに食事は大事であると、真剣に受け止め毅の怒りにも大きく頷いて理解を示す播凰であったが。

 

「――おい」

 

 そんな彼の傍らから、短く、しかし明らかに友好的とは言い難い呼びかけ。

 視線を合わせようとせず、顔すら向けようともせず、けれども明らかに播凰を意識して二津慎次がそこに立っていた。

 

「別に、辺莉と話すなとは言わない。だけど、あまり深入りはするな」

「ほぅ?」

 

 その声は、後方の辺莉と毅の騒がしいやり取りに呆気なく掻き消されそうなほどに細く。けれど確かに播凰の耳に届いた。

 しかし、それ以上の言葉はない。播凰が聞き逃したのではなく、慎次が紡がなかったのだ。

 むすっとしたその口元は、再度開かれる兆しがなく、明確な意思を以て閉ざされている。理由は不要ということか、或いは聞くなということなのか。

 

 とはいえ播凰は、如何なることでも唯々諾々と従うような人間ではない。

 価値が無いとみれば相手にしないだけだが。基本的に誰であろうと、納得すれば受け入れ、そうでなければ問う。

 だから、こちらから投げかけてやった。

 

「それは――この世界に来たばかりの辺莉の態度やらと何か関係があるのか?」

「っ、お前、何でそれを知ってっ! ……ちっ、いやいい。兎に角、僕が言ったことを忘れるな。嫌な予感がする」

 

 心当たりがあるとすれば、ジュクーシャから聞いた辺莉の様子。

 その言葉を聞いた慎次は、ほんの一瞬だけ思わずといったように動揺を露わにして播凰の顔を見たものの。

 やはり徹頭徹尾、顔を合わせようとしない態度は変わらずか、すぐに視線を逸らし。言うべきことは言ったと、播凰の反応を待つことなく離れていった。

 その姿を、顎に手をあてて考えるように見ていた播凰であったが。

 

「よーし、解決っ! さっ、行こ行こっ、放課後が楽しみだね、播凰にいっ!!」

 

 毅との朝食問題に決着がついたのか、播凰の隣に戻って来た辺莉が顔を輝かせて笑顔を振りまく。

 そんな彼女の横顔を、無言のまま険しい面持ちで二津慎次が見ていた。

 

 

 

 ――東方第一学園、旧校舎エリア。

 播凰が普段の学生生活で主に利用している、比較的新しさを感じさせる明るめの校舎群とは違い。中々の年月の経過具合を、見る者全てに印象付けるその木造の建築物の数々。

 その内の一つの前に、播凰と辺莉は立っていた。

 

「いやー、これは確かに旧校舎って感じだねー。非公式の活動にはうってつけの雰囲気って感じ?」

「うむ、中々に趣のある場所だな」

 

 人気がほとんどなく、本当に放課後でも活気ある学園の一部なのか疑わしいほどの静けさ。景色だけはまるでここだけ切り離されているかのような錯覚を覚えるが、遠くから生徒の声が聞こえるものだから、紛れもなくここも学園の敷地内なのだと思わされる。

 

「これは増々期待が持てちゃうかもっ? じゃあ入ろっか!」

 

 ワクワクとした声色を隠さず、古めかしい木造の両扉を押し開ける辺莉。

 ギギィ、と軋む音を響かせて姿を現したのは、外見から想起できるような木の廊下。だが、荒れ果てたり朽ちているということはなく、確かに人による手入れがされていることを伺わせた。

 辺莉曰く、建て替えの折に大抵の建物は今の校舎だったり施設だったりに置き換わったようだが、いくつかは取り壊されることなく旧校舎として残存したという。それがここ、東方第一旧校舎エリア。

 無論、普段の学生生活で訪れる機会も理由もなく、播凰が初めて訪れた場所である。

 

「あった、ここだねっ」

 

 さて、では何故二人がそんな場所にいるかというと。件の異世界道具研究会の活動場所がここだと記載されていたからに他ならない。

 横スライド式のドアに吊り下げられた『異世界道具研究会』の文字を見て、辺莉が小さく声を上げた。

 そのまま彼女は確認するようにチラリと播凰を見て。播凰がそれに頷き返すと。

 

 ――コンコンッ。

 

 小気味の良い、軽い音が静寂とした空間に響く。

 すぐに反応があるとは思っていなかったが、それでも数秒、数十秒を超えて尚、扉は動きを見せなかった。

 ノックした辺莉と顔を見合わせ、今度は播凰が扉を叩こうと手を持ち上げた時。

 

「……何の用?」

 

 ガラッ、と人間の顔一人分だけ扉が横に開いた。

 剣呑な色を瞳に宿しているのは、そばかすが特徴的な茶髪の女子生徒。

 彼女は、辺莉と播凰の顔をそれぞれじろりと見て、警戒するような声を上げた。

 

「ええっと……アタシ達、ここの研究会に興味があるので活動を見学させてもらいに来たんですけど――」

 

 思ってもみなかった応対に、辺莉が少しだけ狼狽しながら目的を告げる。

 無理もないだろう。なにせ部活の時ですら、播凰の所属クラスを知るまでは相手は割と友好的だった。

 それが今に至っては、まだ何も言っていないのに冷たい態度をとられているのだから。

 

「ハイハイ、どうせそんなことだろうと思ってたわよ。どうせ冷やかし以外、好き好んでこんなとこに来るわけ……」

 

 そして辺莉の言葉を聞いた彼女は、分かっていたとでも言うように、ハァと息を吐いた。

 が、次の瞬間にパチクリと目を瞬かせ。

 

「……ん? 今、何て?」

「えっと、なので活動を見学させてもらいたいなって」

「見学……見学って、あの見学よね? もしかして、ウチの研究会を見学に来てくれたの?」

 

 突如様子の変わった彼女に、一応は頷き返しながらも辺莉が困ったように播凰を見た。

 まあ、こんなに見学を連呼されれば不安になるというもの。実際に播凰も一瞬、自身の知る見学が、実は違う意味だったのではないかと思ってしまったほどなのだから。

 

「うむ、お主の言う見学が、活動を見させてもらうことを指しているならばその通りだ」

「……っていうことは、つまり冷やかしじゃない?」

「無論、そのようなつまらぬ真似などする意味などない」

 

 辺莉に代わり、播凰が受け答えを代わる。

 するとその返事を聞いた彼女は、暫くは呆けたように播凰の顔を見ていたが。

 じわじわと、その頬に緩みが伝播していき。

 

「ホントっ!? ちょっと、キモオタ先輩――んんっ、絹持(きぬもち)先輩、見学者ですってっ!!」

 

 彼女が嬉しそうに背後――室内を振り返って、声をかけた、刹那。

 返って来たのは声ではなく、旧校舎の静寂に似合わない、爆発音であった。




ちょっと前回の投稿から時間が空いちゃいましたが、またぼちぼち投稿していきますのでよろしくお願いします。
ちなみに、最後に出てきたキモオタ先輩の呼びは愛称的なものだったり。
次回登場しますが、本名は『絹持《きぬもち》織高(おりたか)
ええ、()()()()か、ということです。
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