三階の覇王 ~異世界最強の覇王の肉体は、しかし異能力の才能までは宿していなかったようです~   作:鷲野高山

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14話 それぞれの異世界観

 爆発の規模としては、そう大したものではなかったといっていい。

 木造の旧校舎が少しばかり揺れはしたものの、崩壊に至っていなければ、目の前の壁や柱が破損したということもない。

 音にしても、耳を(つんざ)くほどのそれではなく。ただの一回きり、続け様に爆発が起こるというわけもなしに、旧校舎はすぐさま元の静寂を取り戻している。

 

 変化があったとすれば、それは。

 扉の向こう――つまりは異世界道具研究会の部屋の奥から、うっすらと白煙が漂ってきたことくらいか。

 

「……っ、えっ!? な、何っ!?」

 

 さりとて、爆発音は爆発音。日常生活においてまず耳にするものではなく、気にするなという方が難しい。もの知らぬ幼子とて、その異常性を肌で感じて泣き出したとしてもなんら不思議ではないだろう。

 人によって程度の差はあるだろうが、嫌でも危機感を煽り、平静さを乱すというもの。それが近くで発せられたともあれば尚更に。

 事実、驚きに目を丸くさせ。二津辺莉は、素っ頓狂な声を上げていた。

 

 例外があるとするならばそれは、己の強さに裏打ちされた自信を持つ大物か、はたまた己を過信した馬鹿者か。

 前者であれば実力という絶対的な理由を以て泰然とし。後者は自分が巻き込まれる危惧すら抱かず、或いは自分は大丈夫という謎の自信を以てあやふやな野次馬根性のみで楽観する。

 声を上げることなく、部屋向こうと宙に漂う白煙を興味深げに見ている播凰は、さてどちらか。

 とかく、その点で言えば、いずれにせよ反応の薄い播凰の方が一般的にはおかしいというのは明白。

 

 いや、この場にて動じていないのは、もう一人。

 

 はぁ、と額に手を当ててやれやれと首を振っている、恐らくは異世界道具研究会の人間であろう女生徒。

 さほど動じていないという点では播凰と同じだがその顔、浮かべる表情は異にしている。

 諦め、呆れ。そして納得。

 否定の色でありながら、同時に肯定の色も併せ持つ、そんな不思議な反応。強がりでもなしに、根拠の有無を問わない不遜ともまた違う態度。

 ……人はそれを、慣れという。

 

「――んごっ、げほっ、ごほっ!!」

 

 三者三様の反応を見せる彼らの前に、その人影は咳込みながら、ぬっと部屋から現れる。

 癖のある髪をかきあげるヘアバンドに、まん丸で分厚い瓶底眼鏡。ふくよかな顔と体型を揺らし、片腕で口元を覆いながら出てきたのは一人の男子生徒。

 

「まったく、失敗して爆発させるならせめて外でにしてって、あれ程言ってるじゃない」

「むほっえほっ――んん、おほんっ、今回のは違うでありますぞ、同志掛布(かけふ)氏!」

「……一応聞いてあげるけど、何が違うってのよ?」

「同志の見学者なる声を聞き、思わず手元が狂ってしまったで候。断じて、失敗ではないのでござる」

「あのねぇ、爆発させたことに変わりはないでしょうが……」

「ちっちっち、結果としての爆発と過程としての爆発では天と地の差がありますぞ、同志掛布氏。それに、順調に進む物造りほどつまらないものはないでござるよ、むほほほほっ!」

 

 非は無い――というよりは、異議ありと主張する男子生徒に、唇をヒクつかせて額に手を当てたまま少女は両目を瞑る。

 そんな彼女の非難もなんのその、両手を広げて力説する彼は、一頻り特徴的な笑い声をあげた後に、播凰達の方を見て笑みを浮かばせた。

 

「――うぉっほん。さてさて、そちらのご両人が見学者ですかな。よくぞ参られた、さぁさ入られよ、歓迎いたしますぞ」

「うむ、失礼する」

「……し、失礼しまーす?」

 

 手招きする彼に応じて、播凰が堂々と。爆発が尾を引いているのか――或いは男子生徒のキャラにか――辺莉がおっかなびっくりと入室する。

 未だ微かに白煙漂う室内は、その変わった名前(異世界道具研究会)に反して至ってシンプルだった。

 中央に鎮座する長机と、数個の簡素な丸椅子。何やら色々書き込まれている数人で話し合うには丁度いい大きさの脚付きのホワイトボードに、数個の古びたラック。

 奥の方に開いたままの扉が一つあるが、少なくともこの部屋に関しては拍子抜けしてしまう程度には面白味のない場所。

 

 とはいえ、それだけで価値を判断するものでもない。

 男子生徒に促されて着席をすれば、女子生徒も扉を閉めて席に座り。

 播凰と辺莉、そして異世界道具研究会の彼等合わせた四人が、長机を囲った。

 

「さてさて、まずは我等が研究会の活動拠点に足を運んでくれたこと、非常に嬉しく思うでござる。名前の通りこの異世界道具研究会は、異世界の道具を想像、考案、研究し、作製に挑戦する研究会であると同時に、異世界に魅了されし同志が集う場。この研究会に興味を抱いたということは各々理想の異世界像を胸中に抱いているはず。であるからして、早速、異世界の魅力について語り――」

「――はいストップ。あのねぇ、普通こういう時は自己紹介が先でしょうが」

「おっと、これは失敬。同志掛布氏の言う通りでござるな!」

 

 挨拶もそこそこに、息つくこともせず喜々として一気に捲し立てようとした男子生徒であったが、呆れたように女子生徒がそれに待ったをかける。

 今度は変に反論するでもなく、素直に彼女の言を聞き入れて。

 目をパチクリさせる辺莉と、愉快そうに唇の端を持ち上げる播凰を前に、彼は眼鏡の鼻当てをクイと少しばかり持ち上げつつ佇まいを正した。

 

「拙者、この異世界道具研究会にて代表の任を務めさせていただいている、絹持(きぬもち)織高(おりたか)と申す。高等部三年にして造戦科のI組所属でござる」

「……高等部一年、造戦科J組の掛布(かけふ)小春(こはる)よ。……二人しかいないからあれだけど、一応ここの副代表をやらせてもらってるわ」

 

 東方第一の高等部に存在する三つの科。

 播凰も所属する、天能術を主として用いた戦いを教える天戦科。肉体や天能武装を主として用いた戦いを教える武戦科。戦法は違えど戦うということを主眼に据えた両科に対し、物造りという全く別方面での競い合いをする科。それが、たった今この二人が所属していると告げた造戦科。

 クラス数にしても、A~D組ある武戦科、E~H組ある天戦科と4クラスあるそれぞれの科とは異なり、造戦科はIとJの2クラス構成。生徒数は三つの科の中で一番少ないとされている。

 

 ……それにしても、こちらの科の生徒と先に関わることになるとはな。

 

 そもそもからして学園の他生徒との関わりが薄く、今まで他クラスはあれど他科の生徒と会話する機会などなかった播凰であるが。もしも関わりが出てくるとしたらそれは武戦科だと思っており、また興味にしてもそちらの方が上であった。

 正直なところ研究会の名を聞く今日までは、多少意識していた武戦科と異なり、造戦科に関してはほとんど意識していなかったといってよい。

 

 二人の名乗りを聞き、そんなことを思っていた播凰の横で。

 いつもの調子を取り戻したのか、ハイ、と辺莉が元気よく挙手をして。

 

「アタシは二津辺莉、中等部の三年生です! よろしくお願いします!」

「天戦科H組、名を三狭間播凰という。ああ、学年は高等部の一年だな、よろしく頼む」

 

 続くように、播凰も所属と名を告げる。

 さて、部活の際はHの単語を聞いた時点で相手の態度は一変してたものだが、この者達はどうか。

 

 試す、とはまた違うが。

 悠々とした面持ちを変えることなく、播凰は相対する男女の反応を待つ。

 激烈に表情が歪むもよし、声色が変わるもよし、熱が消えるもよし。

 それらについて播凰が咎めるつもりはなく、そうしたからといってすぐに去るつもりもなかった。

 

 そして彼等の言葉を待つのは播凰だけではない。

 部活探訪の時は、何処に行っても駄目だったのは付き添っていた辺莉も目の当たりにしている。

 辺莉はまだしも播凰に関しては話しているのも時間の無駄だと無碍にあしらわれた。

 露骨なそれに、当事者ではない彼女をして胸中穏やかでない気分にさせられたというもの。

 

 隣に座る辺莉もそわそわ視線を行き来させる中で、小太りの男子生徒――絹持が大きな頷きと共に口を開いた。

 

「二津氏と三狭間氏ですな! 改めて、我が異世界道具研究会はご両名を歓迎しますぞ!」

 

 破顔。

 ああ、笑っていたという意味では、播凰と辺莉の存在を認めた時点から、彼はずっとそうしていた。

 早口で研究会について喋りはじめた時も、それを掛布に咎められて己を名乗った時も。

 そしてそれは、播凰の所属する組を聞いても変わらない。陰ることなく、薄くなることもなく。

 表情だけではない。声色も、熱も。空気も何も、絹持織高は変わらなかった。

 

「中等部の二津辺莉……三狭間のことは知らないけど、アナタの名前はちょっと噂で聞いたことがあるわ。確か、青龍に所属してるんじゃなかったかしら?」

 

 反対に、表情も声色も動いたのが、女子生徒――掛布である。

 こちらは片眉を上げ、微かに眉根を寄せて。彼女はちらっと播凰に視線をやった後に、辺莉の顔をじっと見つつ、声のトーンを落として確認の声を上げる。

 

「えっと、それはそうですけど……不味かったですか? 青龍に所属しながら他の部でも活動してる先輩達もいるみたいなので、見学の雰囲気次第ではアタシも掛け持ちで入らせてもらいたいなって――」

「あっ、ゴメンね、駄目ってわけじゃないのよ。ただ、凄い子がウチなんかに来たもんだから、なんというかこう、ビックリしちゃって。それに、中等部で研究会に入ってる子って多分殆どいないはずだし、兼部なんて尚更じゃないかしら。……いやまあ、ウチは部じゃないんだけど」

 

 そのリアクションをマイナスと捉えたのか、辺莉がおずおずと気まずそうに尋ねれば。

 パパッと軽く手を振って、掛布は苦笑と共にその不安を否定した。

 それを聞いた辺莉は、ほっとしたように息を吐き。しかしまだ少しの緊張を表情に湛えて、切り出す。

 

「じゃあじゃあ、アタシと――こっちの播凰にいの見学、大丈夫ですか?」

「勿論、先程から申し上げている通り、ご両名とも大歓迎でござるが? 我等が研究会に興味を持っていただけただけでも、感謝感激雨あられですぞ!」

 

 嫌味は勿論、皮肉もなかった。言葉の内容も、その響きにも。

 代表である絹持は好感触。ではもう一方はと、無意識に辺莉の視線が掛布へと向かう。

 

「ま、気にしてることは何となく分かるわ。けどね、キモオタ先輩――んんっ、代表はこういう人だし。ワタシだってどうこう言うつもりもない。なんならこっちも造戦科じゃ下のクラスなわけで人の組どうたら言えないしね。全然気にしないでいいし、見学も歓迎よ」

 

 何とも言えないような顔ではあったが、掛布は辺莉の不安を指摘した上で受け入れた。

 ただ、その割には何か言いたげだな、と辺莉は感じたのだが。

 その疑念は次の掛布の言葉を聞いて、苦笑と共に氷解することになる。

 

「というか、何でアナタの方がそんなに気にしてるのよ。なんか本人――ええっと、三狭間だっけ? そっちはスゴい堂々としてるし。普通、逆じゃない?」

「ふむ、気をやったところで何が変わるわけでもあるまい。であれば、するだけ無駄というもの。ともあれ見学の機会、感謝しよう」

「――う、うーん……あはは……あの、私からも、ありがとうございますっ!」

 

 ちらりと伺った播凰の顔には、欠片も不安などない。そもそも、そんな顔をした播凰を一度も辺莉は見た事が無いわけだが。

 兎も角、掛布のそれは至極真っ当な指摘であり。辺莉は笑うことしかできなかった。

 

「うぉっほん、それでは本日の活動でござるが。折角見学に来て頂いたのだ、まずは交流を深めるために異世界談義といきましょうぞ!」

 

 微妙な空気になりかけた、その時。

 パチン、と掌を大きく打ち鳴らして、代表の絹持がわくわくとした面持ちで播凰達を見やった。

 

「時に、二津氏に三狭間氏。――貴殿達がより強く思い浮かべる異世界とは、一体如何なる姿をしておりますかな?」

 

 投げられた問い。

 その内容に、播凰は腕を組んで考える。

 より強く思い浮かべる異世界。考えたことはなかったが、いの一番に答えとして出てくるのは、今立っているこの世界だ。彼にとって、この世界こそが、正に異なる世界なのだから。

 

 だが、内心は別として口に出す答えとしてはそれは不適切。それを述べたところで顰蹙を買うとまではいかないかもしれないが、首を捻られることは間違いないだろう。なにせ彼等は、播凰にとっての異世界となるこの世界で生まれ、生活してきたわけだ。

 となれば、逆。この世界を異世界ではない――つまりそれ以外を異世界と置いた時に、最も意識する世界。播凰にとってそれは、元いた世界に他ならない。

 一応、ジュクーシャに聞き、またゲームをしている勇者と魔王のいる世界というのも知識としてはあるにはあるが、他人に語れるほど造詣が深くはなかった。

 

「――アタシは、そこまでかけ離れた世界観ってわけじゃないけど……普通の一般人は特別な力を持たないで生活する中、変身するヒーローがいて、悪の怪人と戦って世界を守ってて……そんな世界、かな」

 

 播凰が口を開くよりも前に、その声は響く。

 いつもより元気は控えめ、笑みこそ浮かべているがその中にどこか物寂しさを含んだ、そんな顔で。そしてそれを発したのは間違いなく辺莉だった。

 

 ……変身? ヒーロー? 悪の怪人?

 

 彼女の様子よりも先に気になったのは、播凰にとっては聞き慣れぬ言葉の数々。

 しかし、それはこの場において彼だけのようで。

 

「ほうほう、変身ヒーロー系の現代風異世界! 変身アイテムというのもまた、我等が研究会の題材にはうってつけでござるな!」

「けどま、意外っちゃ、意外よね。別に否定するわけじゃないけど、そういう系はどっちかっていうと男の口から出そうなものだし」

 

 鼻息を荒くする絹持と、言葉通りに目を少し見開いて感想を述べる掛布。

 播凰にはちんぷんかんぷんだが、二人にはどうやら、辺莉の語った異世界が脳裏に鮮明に描けているらしい。

 

「して、三狭間氏はどうでござるか?」

「……うむ。私の(・・)世界はこの世界のように天能などという不思議な力はなく、そして平和ともいえず、国家間の戦が絶えぬところでな。特に大国は世の覇権をかけて他国を侵攻するなど珍しくもなかった。もっとも、我が国(・・・)が他国を併呑していき――」

「――よ、要するに! え、えーと、そういう世界が播凰にいにとっての異世界像ってことだよねっ!」

 

 疑問はありつつ、しかしそれを声にする前に話を振られた播凰は、咄嗟にかつての己の世界を語ろうとしたが。

 その途中で、慌てた様子の辺莉が遮った。ついでに、机の下の陰で、彼女は播凰の小脇を突いている。

 見れば対面には、感心したように頷く絹持と、微妙そうな顔つきの掛布がいて。

 

「数多の英傑が躍動する戦国の乱世、ですな。随分とその世界に自己を埋没しておられるようで。いやはや、こちらとしてもその姿勢は見習いたいものでござる」

「いや、まぁ悪いとは言わないけど……ここ以外では気を付けた方がいいわね、絶対ヤバイ奴だと思われて引かれるから」

「……うむ、つまりそういうことだ」

 

 主観混じりに語ったことに今更ながらに気付き、話を強引に締める。

 住人以外に、異なる世界から来たことを知られてはならない。それが最強荘のルール。

 幸いにも元がそういう話題であったからか、単に播凰が異世界に入れ込み過ぎていると彼等は捉えてくれたようだった。

 

「では、次は我等が発表する番でござるな!」

「恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけど、アナタ達になら言っても大丈夫そうね」

 

 自信満々に胸を張る絹持と、照れたように椅子に座りなおす掛布。

 そんな対照的な両者から出てきたのは。

 

「ズバリ、勇者! そして、魔王! 異世界系の大王道にして、廃れることなく常に一定の人気を獲得してきた、屈指の人気ジャンル! 勇者こそ、拙者の憧れなのでござる!!」

「騎士様よ、騎士様! 白馬に跨り、甲冑を輝かせ……弱きを助け強きを挫く、イケオジ騎士様の英雄譚の世界よっ!!」




章タイトルでネタバレ入ってますが、半ばにしてようやく正体の片鱗の話を出せました。。
ちなみに、私がハーメルン様のみで投稿している「【助け】悪の組織の人質にならない方法【求む】」という作品が正義のヒーローVS?悪の組織の話なのですが、こちらとは世界観含めて全く関係ないです。あっちはノリと勢いで書いてるので。

実は天能という単語だったりも、私の別作品からの使い回しなのですが、基本他作品同士に関係性はありません。

それでは次話もよろしくお願いします。
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